タイトル:ある事件と飯田救出マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/11 18:33

●オープニング本文





 ULTの個室っぽい作りになった応接室で、ソファに寄りかかるようにして座る佐藤は、何か、あんまり何を考えてるのか掴めない表情で、プリントアウトされた飯田の写真を眺めていた。
 やがて億劫そうに身を起こすと、テーブルの上にそれを滑らせてくる。
「じゃあ、救出に取りかかって貰おうか」
 とか何か、大して覇気もなくそう言って、岡本の方を見た。
「佐藤君」
「うん」
「何かもっと嬉しそうな顔とかすればいいのに」
 少なくとも、先日、能力者の人達が手に入れてくれた映像からは、監禁されてはいるけれど飯田が生きてその場所に居る事実が分かったわけだし、救出に取りかかれば助かる可能性も高いわけで、曲がりなりにも友人ならば、もう少し安堵感や嬉しさを、前面に出してくれても良いのではないか、という気がした。けれど、もしかしたら、飯田と佐藤の関係は、友人、とくくるには少し違う、強いて言うならば、自分と大森との関係のような、煩わしさはあれど何か何でか知り合い、みたいな、曖昧模糊とした関係なのではないか、という思いもあって、そうなってくると確かに、嬉しい、とか、安堵した、とか、そんな言葉だけでは言い表せない感じなのかも、と、思い直す部分もあった。
 とか思ってたら案の定、すぐに佐藤に「そもそも僕、嬉しいんだって、言ったっけ」とか、言われた。
「うんそうね、ごめん。言ってないよね」
「全然言ってないよ」
「でも、やっぱりこれから救出に取りかかる能力者の人達のためにも、少なくともその前だけでは、何かこー、見つかって嬉しい! 助けて欲しい! 頑張って! 感を出した方がいいんじゃないかって、思うんだよね」
「岡本君」
「うん」
「前から思ってたんだけど君って、人の良さそうな顔して、実は全然全く良い人とかじゃないよね」
「うん、顔は僕のせいじゃないしね」
 って言ったら、何かぼーとか、暫く顔を見つめられた。
 とかいうのを、わりとさらっと流して岡本は、「でね、佐藤君」と、話を変える。
「前回の内偵調査で、とりあえず地下へと続く秘密の通路の存在が判明したわけなんだけども。この通路、どうやらエレベーターのようになっていて、地下へと下っているんじゃないか、ってことみたいなんだよね。見た目は普通の柱なんだけど、能力者の人達が設置してくれた小型カメラの映像で、そこに入っていく人影、これは飯田の従弟なんじゃないかとも目されている新見という男の人なんだけど、これが目撃されてるから。ただ、これが、どうやったら起動するのか、そこがいまいち分からないんだ。小型カメラの映像も、完全にクリアに見えているというわけではないからね。恐らくは、何処かでまず遠隔操作をして、柱の何処かに起動装置のような物を出現させてるんだと思う。その起動装置に何らかのパスワードを入力したら、扉が開き、起動する、という感じなんじゃないかな。そもそも何処で遠隔操作が行われるのかが分かってないから、これを調べなきゃいけない。あと、その遠隔操作にも、何らかのセキュリティが敷かれている可能性は高い。パスワードが必要になってくる、とかね。地下へ入るためにはまず、この辺について調べなきゃいけない」
「で、地下の様子だけど。これは、地図までは入手出来てないんだね」
「そうだね。そもそも地図の存在があるかどうかも、怪しいね。前回の内偵で入手してきて貰ったデータの解析はまだ全部終わってないんだけど、そこにも地図らしきものはなかったから。ただこの、飯田さんを映した、監禁場所の写真はあるから、地下内部に入ったらそれを元に探して貰うしかないんじゃないかな」
「部屋数も不明だしね。効率的に探したいところだね。更には、見張りや敵の数、というか、その存在があるかどうかもそもそも、不明ということなんだよね」
「そうだね。ただ、少なくとも、監視カメラがあるのは確かなんじゃないかと思う。前回の内偵でモニタリングしているような様子が判明してるから。侵入者を発見した場合に強化人間などの敵が動いてくる可能性はある。あと、その敵と戦ってる最中に、カメラで見た援護が駆けつけたりする可能性もあるから、監視カメラは見つけ次第、何らかの方法で無効化する、というのも視野に入れておいた方がいいんじゃないかな」
「例えばさ。強化人間が襲ってきた場合、戦闘になる可能性は高いと思うんだけど。それにそもそも飯田君を救出したりすれば、今回は、これまでのように、痕跡を残さないわけにはいかなくなってくる」
「それでも一応、こちらの素性を出来るだけ隠して、潜入して欲しいところなんじゃないかな、警察は。事件と飯田組の関係について、まだ確固たる証拠は掴んでないし、関係する証拠を隠滅されてしまう恐れだってまだ、あるしね。ただそこを押しても、やっぱり、飯田さんを救出することは大きいと思うよ。彼の証言は今後の事件解決に、絶対重要だと思うもの」
「じゃあ、出来るだけ飯田君が救出されたことに敵が気付かないよう、気付くのを遅らせるような細工もしておきたいところ、という事かな」
「そういうことだね。例えば、監視カメラの映像を細工するとか、かなあ?」
「となると、地上の人間はどうしておくのか、それに関して、決行は昼間にするのか、夜にするのかの辺りも重要になってくるんじゃないかな。そこは相談して決めて貰わないといけないね」
「それから、地下に入る通路について、はっきりとした広さなんかは分かってないけど、建物の構造から考えて、一度に入れるのは二人くらいなんじゃないか、と思う。全員が一気に降りる、というのは難しそうだね。あと、今回の依頼に参加する人達の中で、前回入手したパソコンデータのコピーについて、こんなデータはなかったのか、とか、聞いて貰えば、一応、調べて貰うことも可能だよ」
「前回仕掛けた盗聴器や小型カメラの回収も、余裕があればやっておいた方がいいかな」
「そうだね、余裕があればね」
「救出直後の飯田君からはあんまり話は聞けないと思うけど。むしろ抵抗しない分丁度いいから、誰かあの人の頭とか、間違ったフリして思いっきりしばいてくれたらいいのに」
 佐藤が、ソファから足を下ろし、靴をはきながら呟く。「どうしても聞きたいことがあるとか言って、疲れてるとこ無理矢理押して聞くとかさ」
 そして立ち上がった岡本を見上げる。
 その気持ちは分からないでもないような気もしたけれど、そこには特に触れずに岡本は、「うんじゃあ、ぼちぼち、行こうか」とか何か、答えた。





●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
緋本 せりな(gc5344
17歳・♀・AA
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
若羽 ことみ(gc7148
13歳・♀・SN

●リプレイ本文







 何処かで虫が鳴いていた。
 田舎の夜は、静かだ。そして、ほんの少し、寒い。
 セシリア・D・篠畑(ga0475)は、白いインデースの運転席から降り立つと、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がるその建物を眺めた。
 地球環境協会。
 飯田という一人の能力者、そしてあるいは、一人の仲間と。
 そう呼び変えてしまっても良いのかも知れない男が、監禁されている場所‥‥。
「停車位置はこの辺りで良さそうですわね」
 自らのジーザリオで、同じく駐車場へと乗り付けたロジー・ビィ(ga1031)が、運転席のドアを勢い良く閉めながら、言った。
 艶めく長い銀髪が、動きに合わせて、背中でさわ、と揺れる。それを多少気だるげにかきあげて、彼女もまた、地球環境協会を振り返った。
「やっと手の届く所まで来たんですのね」
「意外と長い付き合いだったよね、彼とも」
 暗闇の中に、細身のすらりとした体躯が見えた。緋本 せりな(gc5344)が薄い笑いを浮かべながら、腕組みをして立っていた。
「まあ今回も少なからずリスクはあるけどね。飯田さんを救出しようじゃないか」
「ええ。絶対に助けてみせますわ」
 細身な体に、けれど一本凛とした筋の通った強さを想わせるロジーは、緑の瞳にその気骨を浮かべ頷いたかと思うと、途端にころ、と快活な笑みを浮かべる。「そしてこれまでに空振ってきた女装をして頂きませんと」
 でも冗談を言ったにしては、わりと、目が本気だ。
「それも含めて、いよいよ、大詰めというやつか」
 國盛(gc4513)の声が、微かな苦笑を孕みながら言った。
 藍色の空間に、彼の吸う煙草の煙が、ゆらゆら、と白く立ち昇っている。「俺は飯田とやらには面識がないし、女装が似合うかどうかは分からんが。まあ、ここまで来たんだ‥‥最後まで見届けさせて貰おう」
「ええ。こんな茶番のような追いかけっこは、これで最後としたいですね」
 声と共に突然、ゆら、と現れ出た夜桜の羽織袴姿の立花 零次(gc6227)は、流れてくる夜風に、その裾をほんの少し揺らしながら、そんな事を言う。
「だから今度こそ」
 と、彼は、穏やかとも、何処か一部、感情が欠落してしまっているのではないか、とも、見える、希薄な顔を伏せた。
「今度こそ、多少強引な力技を使ってでも、飯田さんは救出してみせますよ。臆して救出を成功させる確率を下げてしまう事の方が、俺には、怖い」
 どちらかと言えば、歳の割りには泰然自若とした様子の振舞いや、華奢さや繊細さばかりが目に付きがちな彼の本当の奥底に隠されている、本来ならばあって然るべき激情の揺れ動きや、雄の持つ鋭さが、その黒い瞳の奥にちらついているのを、國盛は、見た気がした。
 その若さ故の感性で、微かにではあっても確実に、敏感に感じ取ってしまう恐怖を、乱暴という盾の裏に隠して。
 なるほど、若い。そしてそれは、何とも羨ましい程の、眩しさでもある。
 けれど次に顔を上げた時にはもう、彼の顔には日本人特有の繊細でふんわりとした優しげな笑みが浮かんでいた。「そういえば。俺のファミラーゼの方は、もう少し離れた場所に停車してきました。後々、どのような展開になるか分からないですしね」
「そうですね。本当にどうなるかは、分からないんですよね」
 こちらは、その初々しさを隠す術すらまだ知らない若羽 ことみ(gc7148)が、緊張した面持ちで、呟く。
「いよいよなんですね‥‥でも、私も、一生懸命頑張ります」
 たどたどしく、言った。
「これで、揃いましたね」
 闇の中に立つ仲間の姿を目で追っていき、そこに佐藤(gz0425)の姿もあることを確認すると、セシリアが呟くように、けれどしっかりとした発音で宣言する。
「‥‥飯田さんを。救出します」




 セシリアと國盛はまず、新見の車の有無を確認することから始めた。
 だだっ広い駐車場内を気配を殺した二つの影が、物陰を拠点に素早い移動を重ねて行く。
「‥‥こちらには‥‥新見の車らしき車は見当たりません」
 セシリアが、無線機を掴み、言うと、平行するように走る、國盛の影が「こちらにも、ないな」と、言葉を返す。
「佐藤さん‥‥発信器の受信を開始して下さい」
 駐車場に漂う、乾いた土の匂いなのか、あるいは、濡れた草の匂いなのか、時折鼻腔を突いてくるそんな酷く普遍的な匂いを感じながら、セシリアはまた、無線機に向かい、言った。
「了解」
 無線機からの命を受け、車の助手席内に残る佐藤は、受信機の電源を入れる。
「受信を開始しましたが。発信器に反応はありません。現在位置は不明ですね」
「では、遠いということだろう。受信機内に新見の車が現れたら、すぐに報告してくれ」
「分かりました」
「作戦の実行を狙うなら、新見の車がなるべくこの場所から遠い時、すなわち、今‥‥だな」
 國盛は建物の裏口の方へと目を凝らす。「ことみからの連絡は、まだか」



 その頃、隠密潜行を発動したことみは、表へと漏れ出す灯りを頼りに裏口へと近づき、警備員の視界に入らないよう小さな体を更に小さく縮め、匍匐前進するようにして、素早く警備室を通り過ぎた。
 目指すは、出入り口の監視カメラだ。
 警備員室の前を通り過ぎたところで、体を起こし、壁に寄り添うようにして、内部を確認する。
「確認出来る警備員は二人程です。これから、カメラの無効化に向かいます」
 報告をしておいて、出入り口に向かい、暗い通路を急ぐ。
 そして仄かなオレンジ色の灯りの下に、監視カメラの姿を確認し。
 ことみはそこで、ハッ、とした。
 無効化すると言って、どうやって無効化するんだったっけ。
 緊張のあまり、不意に頭が真っ白になる。思わず、懐に差し込む小銃「S−01」に手を伸ばしていた。
 とはいえまさか、こんな物をこんな所で発砲するわけにもいかない。
 どうしよう‥‥。どうするんだったっけ。
 しゅんと俯いたことみを叱咤するように、「どうしたんだ」と、潜めた声が、無線機から、聞こえた。
 顔を上げれば出入り口の方で、細身の影が蠢いているのが、見える。せりなだ。
「いえ‥‥あの、カメラを無効化するというのを、どうしようかと」
 そこへ、「カメラのコードなどを切ってしまって頂けると‥‥早いのですが」と、無機質なセシリアの声が、聞こえた。
 カメラのコード‥‥。
 ことみは頭上を見上げ、くるんとした黒目がちの瞳を細め、凝らす。なるほど、あれだ。
 カメラをつりさげる銀色のブラケットからはみ出た、黒い配線のコードを見つける。そうだった、そうだった。
「あれを切る」
 そうだ。私は、あれを切る。
 ことみは、拳銃の他に腰に下げた荷物へと仕舞い込んでいたクリスダガーを取り出すと、少し下がり、きっと表情を引き締めると、助走をつけ、飛び跳ねた。
 狙いを定めた配線コードへと、ダガーの刃を喰い込ませる。ぶち、という硬い手ごたえと共に、地面へと着地した。
「よし、やった」



 そんなせりなの声が、無線機を通し侵入待ちしている他の仲間達へと届くのと同じくらいのタイミングで、カメラの映像が突然消えたことに気付いたらしい警備員が、不審げな様子で、警備室のドアを開き姿を現した。
 恐らくは監視カメラの様子でも見に行こうとしているのだろう。その瞬間を逃さず、ゆらり、と背後に零次が忍び寄った。
 素早く利き手を振り上げ、出来うる限り力を押さえた手刀を。
 その際、民間の警備会社の人間だというからまさかあるまい、とは思ったけれど、一応、瞬間的な寸止めで、フォースフィールドの有無を確認した。出ないことを確認すると、ほんの柔らかいものを揺らすくらいの気持ちで、とん、と、手刀をその頸動脈へと正確に繰り出した。
 すとん、と糸の切れた人形のように警備員の体から力が抜ける。
 それを、おっと、と抱き抱え、ゆっくりと床に寝かせた。
 その間にもロジーが、警備員室へと入り込み、どうやら奥の部屋で眠っていたらしい、交代要員の男を同じように気絶させ、連れだしてくる。
「暫く、眠って頂きますわね」
 こんな時でも、ライトな口調のロジーは、軽く明るくそんな事を言うと、黙々と警備員の「梱包作業」に取りかかり始めた國盛を、手伝い始める。
 というか黙々と、そして着実に警備員の体を縛り上げていく國盛は、何ていうか「その手の人が」「その手の仕事」をしているようにしか見えず、零次は一瞬、任務中であることを忘れそうになったっていうか、ちょっと、あれ、ここ何処でしたっけ? まさか、タコ部屋とかではなかったですよね? と、思わず周りを見渡しかけたくらいだった。
 しかも。
 普通のタコ部屋ならまだいい。
「この縛り方は‥‥」
 零次は縛り上げられた青年の体をじっと見下ろす。
「さあ、國盛。お口にはこの布を突っ込んでしまいましょう!」
「いや、ロジーさん何か、言い方が‥‥」
 もっと卑猥なある種の嗜好を持った人達がいっぱいるようなタコ部屋だったらどうしよう‥‥。
 ってそもそもタコ部屋の前提が違うんだ、しっかりしろ。
 それなりには重いはずの大の男子の体を、その逞しい腕で荷物よろしくひょい、ひょい、と二つ持ち上げて運んで行った國盛の背中を、茫然と見送りながら、零次は呟く。
「でもあの縛り方は‥‥」



「佐藤。見張りを‥‥頼んだ」
 どさ、と車の影に男の体を横たえた國盛が、ぶっきら棒に言う。
 はーとか頷いた佐藤は、その警備員の物らしき体を見下ろし、それから、國盛を見上げた。
「あのー。何でもいいんですけど、何で、亀甲縛りなんですか。趣味ですか」
 とか言ったら、
「そうだ」
 とか、凄い鋭い双眸に睨まれた。じろ。
「と言ったら、お前は、どう責任を取るんだ」
「いえ、責任は取れませんので謝ります、すいませんでした」
「本来は、重い荷物を運ぶための縛り方だからな。こうして網目のように縛っておけば、運ぶにも、転がすにも、楽だ」
「ですよねはい。ええ、はい、良く分かります」
 すっかりビビって、むしろ関わっては駄目だ、という気がしたので、佐藤はとても良い返事をした。
「では、見張りを頼む」
「はい。新見の車もまだ、現れていません。後の事は、宜しくお願いします」






「こちら、サーバー室前」
 一足先に、その場所への潜入を完了させていたらしいせりなの声が、言った。「今のところ、こちらには人影はない」
「前回の時も、三階には余り人の姿はありませんでしたわ」
 ロジーが、潜めた声でも、ライトさを損なわない、軽快な口調で答える。
「順調ですわね」
 三階の踊り場で、セシリア、ロジー、國盛、零次の四人は顔を見合わせる。
「ええ。今のところは」
 薄っすらとした笑みを浮かべたまま、零次が言う。
「私と‥‥國盛さんはこのまま、四階‥‥前回の調査で仕掛けたカメラで発見した、新見の不審な行動の内容を突き止めます」
 セシリアの言葉に、
「もしかしたらそこに、地下へと続くエレベーターを遠隔操作する、何らかの物があるかもしれないからな」
 そう頷いた國盛は、そこで覚醒状態に入った。探査の眼を発動する。
「この作戦に、少しでも、幸運を」
 続けて、GooDLuckを。
 二つの背中は、階段をそのまま駆けあがって行く。残った二人も、三階の通路へと出た。
 そこに人の姿がないことを確かめ、エレベーターが稼働していないことも確認すると、二人は建物の東に位置するサーバー室へと足早に歩を進める。
「やあ、遅かったじゃないか」
 サーバー室の前で、覚醒状態で待つせりなが、二人の姿を見つけて手を上げた。
「まるでそれでは、遊びの待ち合わせじゃないですか」
 零次は苦笑する。
「そう? これは失礼。これから、楽しいことが始まるんじゃないかと思うと、ついね」
 クールな彼女らしく、肩を竦めてみせた。「楽しい遊びの待ち合わせのように、わくわくしてるよ、私は」
「ええ、そうですわね。これは、楽しくて、少し危険な、命をかけた本気の遊戯ですわ」
「ことみは今、二階の踊り場で、人の姿を監視してくれている。二階のオフィスには、灯りがついていたし、人の姿がありそうだったんでね。やはり、この建物内にまだ、人は居るとみて、間違いない」
「まずいですね、さっさとまずはこの場所を押さえてしまわないと」
「それよりも、この場所の鍵は、どうしましょう」
 ふと、ロジーが、のんびり過ぎるくらいのんびりと、呟いた。「暗証番号と、ICカード、それに指紋認証が必要でしたわね、確か」
「え」
 二人の口から、声が漏れる。
「えっと‥‥セシリアさんは‥‥」
 零次が呟いておいて、自分で「國盛さんと四階ですね」と、答えた。
「呼び戻すのか?」
「けれどエレベーターの遠隔操作装置の発見も急がないといけませんし」
 その時だった。
「ことみです!」
 潜めた口から搾り出したような、悲鳴にも似たひそひそ声が、無線機から漏れ出してくる。「今二階を監視してたら、オフィスから出て来た人がエレベーターに人が向かってて。ボタンを押しました。上の階です」
 三人はまた、顔を見合わせる。




 その頃、四階では、セシリアと國盛が、新見がこそこそと何かをしていたと思しき場所を、探っていた。
 埃っぽい匂いが、空間にたまり漂っている。建物内のくせに、暗い。真っ暗だ。灯りが入っていない。他の場所には灯りが点いていた事を考えると、あるいはそれは、その場所に人の気配がまだない事を示しているのかも知れなかった。
 けれど慎重さだけは失わず、二人は暗視スコープを装着すると、映像にあったと思しき場所へ、急いだ。
 荷物と荷物の隙間に身を通し。
 新見は、細身な男だったのかも知れない。どちらかといえば小柄なセシリアは、その隙間に身を通すのに苦はなかったけれど、國盛は大層窮屈そうだ。
 静まり返った倉庫内に、二人分のゴソゴソが、驚く程大きい音として聞こえ、否応なく鼓膜を刺激した。
 目だっているのではないか、という不安を、辺りが静かだから、と言い聞かせ。
 セシリアは、荷物で仕切られた行き止まりで足を止め、そのポツンと開いた空間に身を屈めた。
「二人でごそごそするには、狭いな」
 國盛の戸惑ったような声が聞こえる。大柄な彼が、ここで同じく身を屈めてしまったら、良くて頭がごっちん。悪くて、圧し掛かられているような格好になってしまうのでは――。
 セシリアは、無表情な顔を上げ、國盛を見上げる。
「何だ」
「いえ‥‥大丈夫です」
「何がだ」
 セシリアはもう一度、無表情に俯く。
 ふと見た地面に、鍵穴のような物を見つけた。
「良かったです」
「だから、何がだ」
「鍵穴を見つけました」
「よし。中には、遠隔操作のパネルがあるかもしれない。どれ。これは簡単な鍵穴だな」
 國盛はそう言うと、ポケットから針金のような物を取り出した。「実は、家庭用工具セットの中身を持って来てたんでね」
 これで。と、その鍵穴に針金を差し込む。中をかき回していると、かち、とした手ごたえが、指先に、伝わった。
 解除され緩んだその部分をぐっと押し込むと、反動で浮き出してきた部分を引っ張り、床面を開く。
 中に現れたのは、エレベーターを遠隔操作すると思しき、装置で。
 けれど、それは。
「これは‥‥」
 セシリアが呟く。
 佐藤が推測していたような、パスワードを入力する類の物ではなく、もっと実にシンプルな造りの物に見えたけれど、単純であっても、事が簡単に運ぶとは、限らない。
「恐らくは、ここにICカードと、ここに、バーのような‥‥まあ、鍵ですね。それを差し込み、起動させるタイプかとは思うのですが‥‥。もしかしたらこれは、鍵を抜いてしまうと、起動が解除されてしまうタイプの物ではないかと。つまり」
「つまり、鍵を差し込んだままにしておかないと、エレベーターの起動装置もまた消えてしまう、ということか?」
「その‥‥可能性があります」
「くそ。面倒臭いことをしやがって」
 思わずといった様子で呻いた國盛は、顎を乱暴にこすりながら、「ちなみに」と続けた。「ちなみに、電子魔術師の効力が及ぶ距離は?」
「最大で、5メートル程‥‥でしょうか」
「地下へのエレベーターは二階だったな。‥‥届かないぞ」
 二人は、顔を見合わせた。
 その時だ。「エレベーターの方はどうなっていますの」と、ロジーからの焦れたような声が、無線機を通し聞こえて来た。




 その、少し前。
 果たして、國盛のGooDLuckの幸運の祝福があったのか、なかったのか。
 二階からエレベーターに乗ったと思しき人物は、四階へ、とは向かわず、三階の方へやって来ていた。
 ロジー、せりな、零次の三人は、人が来てしまってもいいように、一旦階段の踊り場に身を隠していた。そこへ、その人物が現れたのだ。
「どうですか」
 心配のためか、階段を上りその人物の行き先をチェックしていたと思しきことみが駆けつけ、声を潜め、聞く。
「し。エレベーターが到着した」
 せりなが人差し指を口の所に立て、ことみを制した。
 ちん、という軽やかな音と共に、箱から姿を現した職員らしき男は、サーバー室へ、向かって歩いて行く。
 三人は顔を見合わせ、小さく頷き合った。「ことみも、注意して、後をついてきてくれ」
 せりなの声に、ことみも、頷く。
 男の姿が角を曲がり見えなくなったところで、じりじり、と壁を添い、四人は動き出す。
 もしも今発見されてしまったら。それでもし、地下へでも報告されてしまったら。
 緊張が、不安が、恐怖が、地面から心臓を捕まえようとするかのように、せり上がってくる。
 先頭を行くロジーが、そろ、と角から目を出した。サーバー室のセキュリティを解除している男の姿を確認する。
 何らかの時間が定められていて、今はもしかしたらその、巡回の時間だったのかも知れない。
 男が解除を終え、ドアノブを掴み、ドアを開き――。

 走り込め!

 ロジーは、覚醒するや否や、全速力で今にも閉まらんかとするドアに向かい飛び込んだ。
 本能のままに。何も考えず。ただ、体が動くままに。
 すかさず、目を見開いた職員の男の腕を掴み、外へと引っ張り出すと、ドアが大きく開いた隙を見計らい、ことみが飛び込んできた。
「フォースフィールド! 強化人間だ!」
 せりなの声が叫ぶ。
 と、同時に、彼女は両断剣を発動した。
 それを見た零次は、すかさずサポートに周り、まるで舞いでも舞うかのように、超機械「扇嵐」をちらつかせ、強化人間の気を引く。
「こちらですよ」
 その間にも炎剣「ガーネット」を振りかぶるせりなの、美しい一閃が。
 すかさずその背中を、一刀両断!
 ばた、と倒れ込んだ強化人間をクールに見下ろし、彼女は、「援軍を呼ぶ類の装置は」と、長い茶色の髪をかきあげる。
「何も、ないみたいだな」



 一方中では、以前に出した録画映像を見つけようと、ロジーがパソコンを操作していた。
 それをことみが、じっと見ている。
 彼女が地下に降りた後、操作し補助しなければならないのは、私なのだ。
「あの録画画面は、確か」
 操作するロジーの手が、ふと、止まる。
「ああ、これが、佐藤さんの言ってらした、履歴書を読みこんだ物ですわね」
「確かに、◎の印が新見を入れて、四つ。‥‥あれ、この男って」
 ことみの台詞に、ロジーが頷く。「ええ、今の男ですわ。この印‥‥もしかしたら強化人間を表した物ではないかしら」
 思案するように呟きながらも、ロジーはまた、マウスを操作する。
 画面はすぐに、開いた。やはり、飯田の姿が映っている。そして、その近くには、あの時はなかった人の姿が。
「見張り?」
 それにこの男の顔は、先程の履歴書の、印のついた写真の内の一人とまたも同じ。
「何かを喋っているようですね」
「まさか、拷問の最中、というのではありませんわよね」
 口調こそ冗談めかしていたけれど、その緑の瞳には闘志のような鋭い光が、きら、と光った気がした。
 彼女は無線機をひっつかみ、セシリアへと繋げる。
「エレベーターの方は、どうなっていますの」




「問題が発生しました」と、セシリアは、事務的に、述べた。
 経緯を説明すると、「まあ」と呟いたきり、ロジーは言葉を失った。
 けれどそこに、零次の声が飛び込んできた。
「それなら。今、倒した強化人間が、恐らくはその場所の鍵と思われる物を持っていましたよ」と、それは、実に穏やかな、秋の木漏れ日のような声だった。



 サーバー室内にことみ、そして見張りにせりなが残り、セシリアと國盛、そしてロジーは、二階の階段の踊り場で落ち合った。
「二階にはまだ、人が居るかもしれません」
 サーバー室のことみが、言う。
「先程見た履歴書の印の数が強化人間の数だと仮定するならば、合計四人。新見の居ない今、倒した一人と地下の見張りのあの男。あと一人残っている計算になりますわ。今この場に全員が居るかどうかは、分かりませんけれど、オフィスに残る一人が、強化人間でも、全く不自然ではありませんわね」
「逆に、強化人間ばかりを残しているのは、不自然じゃないか?」
 ロジーの言葉に、國盛が、答える。
「あるいは、夜にこそ、何らかの飯田さんに対する拷問を行っているのか。だからそれを知る強化人間ばかりを残しているのかも知れません」
 電子魔術師発動の準備体制で、覚醒状態に入ったセシリアが、言う。
「直に、その長である新見も姿を現す可能性は高い、と」
「ええ」
「けれど佐藤さんから報告はありませんし、まだ、大丈夫でしょう」
「サーバー室付近でも今のところ、問題はないよ」
 せりなの声が言う。
「ええ、見張りの男も気づいている様子はないです」と、ことみの声が便乗する。
 そして、「俺もこれが終わったら、すぐそちらに向かいます」と、四階で操作する零次の声が。
「よし。完了しました。エレベーターの操作パネルは、出現しましたか?」



 さあ。と三人は顔を見合わせる。
 地下へ。
 けれど、エレベーターはオフィスに程近い場所にあった。飛び出すには、タイミングが重要だ。
 もしも万が一ここでしくじれば、オフィスで作業をしていると思しき「誰か」に、どんな邪魔をされるか分からない。
「お待たせしました」
 機会を窺う三人の元へ、零次が到着する。
「まずは、操作パネルのロックを解除します」
 セシリアが、覚醒の影響で赤く変化した瞳を細めながら、冷たくけれど、冷酷なまでの確かさを持って宣言する。
 次の瞬間、その瞳が、ばっと見開き、掌から肘の辺りにまで、そして、目の周りに赤く浮かび上がった血管のような模様が、どくどくと赤さを増して行く。
 じっと、エレベーターの操作パネルを睨みつけ――。
 やがて。
「解‥‥除」
「よし」
 頷いた國盛は、微かにぶうん、と何かが、そう、エレベーターが起動するような音を聞いた。静まりかえった建物内に、その音は、良く、響く。
 そこで、オフィスに居た人間が、仲間のお帰りかと思ったのか、エレベーターの近くへと姿を現した。
「これぞ、幸運」
 とん、と零次が國盛の肩をたたき、飛び出して行く。
 その腕に現れた覚醒紋章が消える時。その黒い瞳の虹彩は、更に深く色を変え、最早、暗黒と。
「後のことは任せましたわ!」
 後を追うように飛び出し、開いた柱の中へと身を滑り込ませたロジーが声を張り上げる。
「ええ相手になりますよ。まだ、見つかるわけにはいきませんのでね」
 超機械「扇嵐」を構えた零次は、まだ、何が起こっているのかも把握し切れていない相手の側面へと飛び込み、その首筋を、ピシリ、と撃った。
 敵の体制が崩れたところで、豪破斬撃を発動し。
 そして、黒耀を抜いた。
 頭上からの、一刀両断!
 首筋を狙い、叩き折るくらいのつもりで、黒耀を振り抜いた。ごと、と嫌な音と共に、不自然な角度で頭が地面を打つ。
 上手く切ったつもりだったけれど、それでも多少飛び出した返り血が、ピュウと、その華奢な頬に飛んだ。
 それを拭い、「こちらも援軍を呼ぶ類の装置は」と、冷静に彼は観察を続ける。
「何も、持っていないようですね」





 ロジー、國盛に続けて地下へと降りたセシリアは、まず、地下のブレーカーを探した。
 地下には部屋が一つしかなく、それもだだっ広い部屋のようだった。
 恐らくはその中に、飯田が居る。
 ブレーカーはすぐに、見つかった。エレベーター付近の天井に近い位置に、ポツンと四角い箱がある。
「中に居る」
 殆ど、口の動きだけに近い声で、國盛がドアを指さす。探査の眼でも、敵の存在は確認出来た。間違いない。見張りは居る。
 だが、愚かな事に、まだ、気付いては、いない。
 中からはぼそぼそ、と途切れ途切れの声が聞こえていた。
「‥‥しく言うこと聞いてりゃあ‥‥な不自由も‥‥鹿じゃねえかお前、それともマゾか」
 ひゃひゃひゃ、と下品な笑いが外まではっきりと聞こえてくる。
 ロジーが扉の前に立ち、虫唾が走りますわね、と言わんばかりに眉を顰めた。
 エレベーターの稼働音にも気づかないのか、あるいは、仲間の出入りだと油断しているのか。
 どちらにせよ、ブレーカーが落ちたと同時に内部へと侵入し、あの見張りの息の根を‥‥止めてみせますわ!
 しかしブレーカーを落とそうにも、誰の手も届かない場所に、それはある。ロジーが國盛を見て、セシリアもまた、國盛を見た。
 ま。そんな予感はしてたんだ。
 國盛は肩を竦めて見せると、セシリアを肩車し、ブレーカーの前に立った。
 いきます。
 ええ。
 そんなアイコンタクトの後、セシリアが、ブレーカーに手を伸ばし。かち、っと。
 するや否や、ロジーはドアを開けて中へと飛び込み、暗視スコープで見える視界に、電話機のような物に手を伸ばしている男の姿を確認した。
 そこに淀む、人の排せつ物と血の匂い。
 それは、この場所がどんな環境だったかを物語るもので。
 カッ、と瞬間的に血が、脳天を直撃する。
 ――させませんわ!
 覚醒状態の彼女の体から、蒼い闘気が羽のようにぶわっと広がる。流し斬りを発動した彼女は、まるで、羽を広げた天使のように強化人間の側面へと回り込むと、二刀小太刀「花鳥風月」の刃をその腹に。
 ――これ以上、彼を傷つけるようなことは許しませんわ!
 くるんと回転し、次のターンで、今度は、強刃を発動する。剣の紋章が、その瞬間頭上で強く輝き、彼女の不快感が全てその刃へと乗り移ったかのような激しさで、花鳥風月は、留まる事を知らず、相手を切り裂く。
 飛び込んできた國盛が、「サポート」と呟き、その場の様子を見て、「の、必要はないみたいだな」と、肩を竦める。
「では、救出前の細工といこう」
「ロジーさん‥‥その「物体」を、端へと寄せて下さい」
 セシリアが冷たい目で倒れた強化人間を見下ろす。


 その後、ブレーカーを一旦戻し、監視カメラの死角に入った國盛が、手を上げ、カメラに近い位置から、飯田の姿を貸与申請していたポラロイドカメラで撮影した。
 写真が出た後、またブレーカーを下ろし、監視カメラ前に撮影した写真を設置した。
「これで、それらしく見えてくれればいいがな」
「まあ、最後の目くらましですからね」
「そうだな。新見が現れて、部下の不在に不審を持たなかった場合は、あの録画を確認し、飯田の姿を確認するだろう。それでまず問題がなければ、ここに実際に見に来るのは後回しにするかもしれない」
「こちら、セシリアです」
 無線機に向け、セシリアは、言った。「無事救出‥‥成功です」
「やった!」
「ああ、良かったよ」
「ご無事でなによりです。では、とっとと逃げますかね」
「その前に皆さんには、戦闘の後片付けをお願いしたいと思います」
「了解。ぱぱっとやって、ちゃちゃっと帰ろう」


 その間にもロジーは、もう一つの作戦決行に勤しんでいた。
「来て‥‥くれたんだ」
 ぐったりとしていても、まるで他人事のように淡々と話す飯田の物言いは、相変わらずのようだった。
 ふふ、とロジーは肩を竦め、腰にぶら下げた荷物から、びらっと薄っぺらいワンピースを取り出した。
「飯田さんったら‥‥こんな格好。匂いましてよ。折角ですもの。お着替え、持ってきましたの。さぁ、このメイド服を‥‥っっ!!」
 とか言ってる目が、もーマジだ。
 抵抗する気力などないらしい飯田を、下着姿にむくと、そのメイド服をひっかぶせ、きゃっきゃと笑っている。
 それをやれやれ、といった顔で見つめる國盛はふと。
 その服の間に、何か発信器のような物が転がっているのを、見つける。
 なるほどこれは。
 意外と、必要な作戦だったかも知れんな。
 苦笑して、そんな事を思った。






「戦闘の痕跡の後片付けとか、カメラの回収とかね」
 駐車場の二台の車のエンジンをかけ、待っていたせりなが、運転席から言った。「出来る限りのことはやっておいたよ」
「相手はいつ、気付くんだろうな。せめて、飯田が、安全な所に隠れるまでは、気付かれたくはないが」
 國盛が中での奮闘ぶりが嘘のように静まり返る、地球環境協会を見上げる。
「警備員が気付いて真っ先にすることは、新見への報告ではないでしょうか」
「何にしても、早々に退散した方が良さそうです」
 零次の言葉に答えたセシリアは、言うなりもう、運転席に乗り込んでいる。
「そうですわね」
 と同じくロジーが運転席に乗り込んだ。「飯田さんが、以前のような滅茶苦茶な作戦を思いつく前に、とっとと浚ってしまいましょう」
「事件はまだ、解決とは言えないけれど、山は一つ、超えたかな」
 せりなが助手席に乗り込みながら、言う。
「そうだ。後は、事件の解決だ。飯田にも話が聞きたいしな」
「そう、これからですね」
 國盛と零次も、それぞれの車へと乗り込んでいく。

 走り出して行く景色は、行きと何も違わないけれど。
 皆の気持ちはまるで違う、帰りの道中。

 そこには、八人目の乗客が、居る。