タイトル:ある事件と慰労会マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/27 03:17

●オープニング本文





ある事件と慰労会
あるいは、民間人救出依頼の第二部の幕開け





 ふと目覚めると、ベッドで眠っているはずの飯田の姿が、なかった。
 佐藤は、床に敷いて作った簡易の寝床から起き上がり、辺りを見回す。がらんとした雰囲気の部屋には、まだ深夜だということを示すための冷たい静けさと、ひんやりとした空気だけが、あった。
 脳裏に、微かな不安が過る。
 まだはっきりとはしない頭の中の眠気を追い払うため、溜息と共に顔をこすっていると、ことん、と何かがぶつかるような音が、キッチンの方から聞こえた。
 膝の辺りにまだかかったままだった薄手の毛布をはぎ取ると、佐藤は立ちあがり、音のした方へと足を進めた。
 こんな夜更けに、一体何を漁っているのか、冷蔵庫の青白い光が、その端整な横顔を照らし出している。
 ぱたん、と閉まると、辺りはぞっとするほど暗くなり、目が慣れてくると今度は、月明かりに照らし出されるすらりとした背中が見えた。
 その背中を無言で見つめながら、何か、ふと、思った。
 いっそ。
 いっそ、本当に居なくなってしまってくれたら、せいせいするのに。と。
 本当にぽっくり死んで、その死体がちゃんと目の前にあって、そしたらもう心配することもなくて、そりゃあ多少はショックだろうけど、もう面倒な心配はしなくて良くて、きっと、せいせいする。
 でも残念な事に彼は数日前にきちんと救出されてきて、ちゃんと生きていて、昨日の朝くらいまでは起き上がるのも辛そうだったのに、夜辺りには徐々に元気を取り戻し、今はもーぴんぴんしてて、冷蔵庫を漁っている。
「何してるの、佐藤君」
 実は気付いてたけど、とりあえず今まで黙ってました、くらいの何気なさで、飯田が振り返る。
「っていうかそれはこっちの台詞だよね、飯田君」
「俺に見惚れてたなら、見惚れてたって、言ってくれて、いいよ」
「君がまだ生きてて、僕にそんな口を叩いてくる日がくるなんて、信じられない」
「ごめんね、心配させて」
 なんて、全然申し訳ないと思ってません、みたいな口調で言った飯田は、冷蔵庫から取り出したらしいビールのプルトップを引く。
 ぷしゅ、と鳴った瞬間にそれを、「勝手に飲まないでくれる」と、家の持ち主の権限で取り上げた。
 瞬間、もー手を掴まれた。
「飲むから」
「飲ませないから」
「君がさ、嫌がらせしたくなるくらいには俺のこと心配してたのは分かったから、かして」
「飯田君」
「うん」
「死ねばよかったのに」
 すると飯田は、腹立たしい事に、笑った。声を立てて、晴れ晴れと。
「佐藤君のそういうところ、好きだよ」
「どういうところのことを言われてるのか、全然分からない」
「そういう、踏み込んで来られるの、嫌がってるところ」
 ぐい、と引き寄せるように飯田が手に力を込める。「ねえ、それって俺が好きって告白してるの」
 佐藤は、引き寄せられまいと力を込め、踏ん張る。
「飯田君」
「うん」
「さっきも言ったけど、君がまだ生きてて、僕にそんな口を叩いてくる日がくるなんて、信じられない」
「救出してくれた能力者の人達のお陰だね。感謝しないと」
「じゃあ、何かお礼したらいいんじゃないの」
「そうだね。今後の事も話し合わないといけないし」
「今後の話合いって」
「事件を解決するための話合い」
「解決なんて出来るのかな。だいたい、バグア派の人間だというだけで、本当に自分の家族と戦う事が出来るの、君は」
「バグア派というだけじゃないよ。あの人達はもう、人じゃない。俺だけならまだしも、佐藤君にまで危害が及びだしたら嫌だし。佐藤君を嬲るのは俺の役目だしね」
「飯田君こそ嬲り殺されてしまえば良かったのにね、残念だよね」
「それでさ、佐藤君がいつも行ってる女装クラブがあったよね」
「あったけど、それはこの話に関係あるの」
「そこに集まって貰おうかな。貸切にすれば、話をするのにも最適だし」
「あと何でもいいけど、手が疲れてきたから、そろそろ、力を緩めてくれないかな」
「じゃあそっちが緩めればいいよ、抱きしめてあげるし」
 とか、飯田が言い終わらない内に、佐藤は不意を突くようにして力を緩めた。
 バシャ、と手に持っていたビールの中身が、その端整な顔に飛ぶ。
 目に入ったらしいビールに気を取られている内に、傍を離れた。もちろん、ビールも忘れずに持って行った。
 何考えてるか分からないクソ飄々とした彼でも、目にビールは痛いのか、「痛った」とか何か言いながら、暫く目をこすり、舌打ちしていたけれど、その内、身を翻し、キッチンの水道で本格的に顔を洗い始めた。
 可笑しい。
 佐藤は笑う。
 つい数日前まで、敵に浚われ死にかけていた奴が今は、目が痛いと言って、顔を洗っている。
 可笑しい。可笑しくてたまらない。
 けれど。
 こうして馬鹿馬鹿しいことに笑って、もう二度と無駄な心配なんかしないで良い為には、彼の周りを取り巻く「事件」を解決しないといけないらしい。

 警察の介入によって、「行方不明民間人殺人事件」と名付けられたその事件は、それ以前に飯田が佐藤を介して出していた、民間人救出依頼と繋がっていた。
 飯田の親族はバグア派の人間だ。
 それが飯田組という、暴力団とも呼ばれる組織だった事も、事件は、そんな飯田組がバグアに対し、「生贄」としてフロント企業の人間や、その関係者である一般人を差し出す、というからくりで行われていたという事も、警察が介入した後の調査で分かった事だった。
 警察の介入があったのは、飯田が馬鹿な思い付きで、内通者の救出の際、敵に連れ浚われてしまったからだ。
 飯田から入ってくる民間人救出依頼は途切れ、今度は、死体となった民間人が現れた。
 そこで、警察が事件に介入し、幸運にも佐藤の知り合いである青年に話を持ちかけ、それに協力した能力者の人達の力で、こうして、飯田は無事、戻って来た。
 そして、もう二度と民間人や、そして彼に関わる全ての人達に危害が及ばないよう、この事件を終わらせ、解決しようとしている。
 もっと大きな戦争で人が生き死にしている今。
 片隅に細々と生きる自分達と、そしてそれに関わる能力者の人達や、関係者の一般人の平穏を守るために必要だからと、世の中から見れば、ほんの少数の集団かも知れないバグアやバグア派の人間達に立ち向かおうとしている。
 あるいは、自分の家族とも呼べる、肉親に。
「佐藤君、タオル、取ってきてよ」
 飯田がタオルを求めてか、後手にひらひら、と手を振った。
 とっとと死んでくれれば終わっていたのに、目の前で彼は、目が痛いと言って顔を洗い、つまりは、生きている。
 けれど。それも。
 
 こんな、戦争に荒れ狂う世の中の、ほんの片隅の小さな小さな事件を。
 そう思うとこれはもー腹立たしい。面倒臭くてたまらない。
 けれど。それも。
 
 まあ。いいか。
 佐藤は、黙って身を翻しながら、思った。









●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
緋本 せりな(gc5344
17歳・♀・AA
若羽 ことみ(gc7148
13歳・♀・SN

●リプレイ本文







 受け付けカウンターと店内へと続く廊下の中間辺りに位置する、三つばかりの個室は、見知らぬ客同士が互いに顔を合わせないようにしながら、待ち合わせをする時や、メイク室などが混雑している時に時間を潰すために使われる。
 佐藤(gz0425) と飯田が待つその場所へ、店員に誘導されて最初に姿を現したのは。
「やっとお二人が揃いましたのね」
 二人の顔を見比べ、はしゃいだ笑顔を浮かべたロジー・ビィ(ga1031)と。
「‥‥飯田さんはすっかりお元気そうで何よりです」とか、わりと「何より感」が伝わってこない、無表情で、言ったセシリア・D・篠畑(ga0475)だった。
「とても嬉しいですわ。‥‥まだ問題は山積みとばかりに残っていても」
「ご心配をおかけしました」
 ゆっくりと立ちあがった飯田が、腰を下ろした二人の前に屈みこみ、そっとその手を取ったかと思うと、気障な仕草で甲へと社交のキスを落とす。
「素敵な場所ですわね」
 王女の貫禄でそのキスを受けたロジーが、悪戯っぽい笑みを浮かべ、「このお誘いは、飯田さんも自ら女装する気になった、と、そういうことですわよね?」と、ころころと、笑う。
「では、そこにあるリクエストカードに、今日する格好を書いて店員に渡して貰えますか」
 と、佐藤は、部屋の隅にあるアンティークな台を指さし、説明をした。「メイク室の準備が整ったら、呼んでくれる手はずになっていますから」
「そうか。今日の格好を決めないといけないのか」
 飯田が頬を撫でながら唸ると、突然、セシリアが喋り出した。
「私としてはピンクでミニのナース服にナース帽、紺のカーディガンですね、ええ」
 いきなり何ですか、っていうかむしろ、そんな無表情でどういうことですか。っていうか、あれ? 誤作動ですか? と、佐藤は若干、慌てた。けれど、飯田は「ああなるほど。ナース服ね。うんいい。紺のカーディガン」とか何かもー普通に答えていて。
「ええ。紺のカーディガンは外せません」
「外せないよね」
「ええ、外せません」
「うん外せな」
 っていやもう紺のカーディガンのくだりはいいんじゃないかな、と佐藤が指摘しようとしたまさにその時、「どうも‥‥」と、また店員に誘導され、終夜・無月(ga3084)が姿を現した。
 店員は、終夜をちらっと見やると、あれ、もう扮装終えてますよね? みたいに一瞬戸惑い、「お客様‥‥カードのご記入は」と、言葉を濁した。
「いえ‥‥結構です」
 台の方を見やり、意味を理解したらしい終夜が、静かに言う。「男装の麗人です」
 けれどどう見ても彼は、まだ、何の扮装もしていない。
 なのに店員は、「あ、そうでございますね。かしこまりました」とかもー、すっかり引き下がり、確実に女性に良く間違われるのだという彼の美しい外見に騙されている。
 続いて入って来た國盛(gc4513)は、「何だ。そういうのもありだったのか」と、不満げに腕を組み、ぎろ、と佐藤を睨んだ。
「慰労会をやってくれるのは嬉しいが‥‥女装、とはな」ってこれはもう完全に怒られそうな雰囲気だったので、「それは何か飯田君が‥‥」って人のせいにしようと思ったら、意外と「まあこうなったら俺の本気を見せてやらんこともないが。まずは化粧からだな」
 ってあれ何。意外とやる気? え、やる気なの。本気なの?
「何だ」
「いやえーっと」
「俺は本気だ。本気の大人をナメるな。この日の為に既に練習済みだ」
「あ、はい、え」‥‥練習?
「確かに、國盛さんの女装というのは非常に気になる所だな」
 何時の間に姿を現していたのか、緋本 せりな(gc5344)が、カードにペンを走らせながら、佐藤の心中を代弁してくれた。「今のうちにコメントを考えておかないといけないかも知れない‥‥」
「どういう意味だ、せりな」
「いや、ただの独り言だ、気にしないでくれ」
 そして書き終えたカードを店員へ。
「私はどうしましょう‥‥」
 彼女と共に部屋へ入って来ていたらしい若羽 ことみ(gc7148)が、じんわり目元を赤らめながら、カードを前に考え込んでいた。
「お揃いなりましたね。それでは、順番にお部屋へご案内致しますので」
 店員が、部屋の全員に向け、言った。




「先ずは無事で良かったです‥‥」
 男装の麗人、もとい、終夜が、そっとワイングラスを置きながら、言った。
 するとそこに程なくして、男装を終えたらしいセシリアとロジーが現れた。
 ぴっちりと一つに纏めたらしい髪を、帽子の中にいれ込んだセシリアは、丈の長いブーツに包まれたすらりとした片足を、さりげなく前へと差し出し、立っていた。
「なるほど。士官制服か」
「普段の夫と同じ服装です‥‥」
「え」
 と、飯田が、びっくりしたような声を上げたので、佐藤は「え」とその顔を見やる。
「はい私、既婚者ですが、何か」
「あすいません、何でもありません」
 そしてその隣に現れたロジーは。
「お宝は全部このロジー様が頂きましてよ!」
 偽物の剣を収めた鞘に片手をつきながら、偽物の拳銃の銃口で、白い羽根のついたド派手な帽子の大きなつばを押し上げている。
 ああこれはもしや仮装と間違えているんじゃあ‥‥。
 とその時。
「これは大変。お坊ちゃま、危のうございますので、こちらへ」
 凛とした声で言ったのは、執事服に身を包んだせりなで、言葉を向けたのは、隣に居る、金持ちの坊ちゃま的な銀髪おかっぱ少年に扮したことみにらしい。
「なるほど。執事と少年か。似合ってるね」
 飯田の言葉に、せりなは、手袋をはめた手で、胸元を優雅に押さえ、一礼。「これはお褒めに預かり、光栄です。ま。いつも姉の執事的な立ち位置な感じだし、違和感はないんじゃないかな」
「ボクも、似合ってますか」
 短パンから覗く足を内股気味にして立つことみは、小首を傾げながら、下唇を触る。得体の知れない、色気が滲み出ている。
 何か、危ない。
 良く分からないけれど、何か、危ない。
 と。そこへ。
「待たせたな」
 良く通る低音の声が、響いた。
 一同の視線が、俄然、そちらへ惹き付けられる。
 むっきむきの、ある意味ではとても美しい逞しい体を、大きく胸元の開いた、黒い革製のタイトなワンピースで包み、羽飾りが豪華なマントを羽織った、もう女装とか男装とかっていうか、男なのか女なのかも良く分からなくなってくる感じの凄い人が、堂々とした立ち姿でそこに、立っていた。
 國盛さん‥‥いや、國盛さん?
 顔にあった、黒い蝶を模したヴェネチアンマスクを取るとそこから出て来たのは確かに、國盛さんっぽいけれど‥‥。
 ばっさばさの付けまつげに、赤いルージュ、黒くしっかりと引かれたアイライン。そしてド金髪のふっさふさした、金髪のウィッグ。
 ただでさえ二メートル以上ある身長は、十センチはあろうかという黒いハイヒールのブーツで、余計大きく、得体の知れない威圧を醸し出している。
「どうだ、中々、悪くないだろう」
 佐藤はもう、どうしていいか分からなくなった。
「じょ、女王様」
「っていうか、ドラッグクイ‥‥」
「‥‥誰だ? 今ドラッグクイーンとか言うヤツは。お仕置きしてやるから、前に出て来い」
「いえあの國盛さん‥‥に、似合ってますよ」
 可愛い少年、もとい、ことみが、物凄く申し訳なさそうに、言った。





「飯田さんの女装は何だか新鮮ですね‥‥」
 とセシリアが新鮮と形容する飯田は、女装の礼儀が全くないだけに、美男子ではあっても実に何処からどう見ても「男」だった。
「しかしそれに引き換え佐藤‥‥お前は何でそんなに女装が似合ってるんだ?」
 ってそんな、ドラッグクイーンに呆れた目で見られなくない。とか思ってたら、更に國盛がボソと。
「やっぱりゲイ‥‥」
「ん? あれ、何ですか」
「ところで飯田さんは‥‥、現在は佐藤さんと同棲中なのでしょうか」
 そこへ更に何かきわどそうな質問を投げて来たのはセシリアで、「なるほど。同居、ではなく同棲‥‥」と、國盛が意味深に頷き、佐藤を見やる。
「あと、好きな食べ物は何ですか?」
「え、セシリアさん、どさくさに紛れていきなりどうしたんですか」
「んー、そうね、ハンバーグとか」
「あ、普通に答えるんだね、飯田君」
「ところで、今回は今後の方針についても、話合うということでしたが」
 終夜が静かに言って、場の空気をすっと真面目な雰囲気に戻した。
「ええ、そうでしたわね。ふふ。すっかり忘れていましたわ」
 先程飲んだアルコールに、ほんのりとその白い肌を上気させたロジーが、ころころと微笑む。
「そういえばお伺いしたかったのですが」
 セシリアが、すっかり真面目な表情で、というか、彼女はずっとそうなのだけれど、「地球環境協会と飯田組。この二つの組織は協力関係にあるのでしょうか」と、飯田に向け問いかけた。
「協力関係だね。飯田組の子飼、といった施設だ」
「子飼の施設‥‥」
「そもそも、民間人行方不明事件。これが、民間人救出依頼と繋がっていたのは事実なのでしょう?」
 セシリアの呟きの続きを、ロジーが浚う。「そして、そこにはバグアが関わっていますわ。何せ、飯田さん、貴方は以前、自分のお父様とお兄様はバグア派だった、と。あたし達に説明して下さいましたわよね」
「そうだったね」
「となると、あの救出依頼の際に出現していたキメラですわね。これを飼っている施設が必ずあるはずですわ。地球環境協会は調べましたけれど、キメラの姿はなかった。と言う事は他に、そのような施設がある、ということですわね? まずはそこから突き止めたい所ですわ。キメラは、何処から来るのか。ちなみに飯田さんは何かご存じかしら?」
「詳しくは分からないけれど、そういった施設がある、というのは監禁中に耳にした覚えがあるな」
「監禁中‥‥他にはどんなやりとりがあったんでしょうか。敵は貴方に何をさせようとしていたのか、喋らせようとしていたのか」
「奴らは俺に協力をさせようとしていた。向こうも俺が内通者を通じてどんな情報を入手し、能力者の人達がどんな動きをしていたか、知りたがっていたんだ。そういう情報を引き出そうとして、そして、最終的には、裏切らせようとしていた。まあ、踏ん張ったけど。恐らくは兄から指示を受けていた新見は、地団太を踏んでいただろうな。兄さえ許せば、俺を殺したがっていたくらいだから」
「その君の兄は飯田組の人間なんだよね?」
 せりなが、口を挟む。「けれどそもそも飯田組が暴力団だなんて、君は教えてくれてなかった。君は同じ飯田だし、もちろん知っていたはずなのに、だ」
「まあ。そうだね。言わなかった。聞かれてないしね」
 肩を竦めた飯田を、せりなはその切れ長の瞳で睨んだ。
「私達がまだ知り得ない情報を、更に隠し持っているのなら、今度は事前に言っておいて欲しいね。この際隠し事はしてほしくない。今後のためにも知っている事は全て話しておいてもらいたい」
「もちろん、隠すつもりはないけど」
「ならば新見‥‥彼は飯田さんの親族なんでしょうか」
「そうだ飯田。あの新見と言う男について何か知っていることは無いのか?」
「そうですわね。この際、ご家族について、もっと詳しく聞いておきたいですわね。お父様とお兄様‥‥それに今回の新見さん。調査するならばその方達からになるでしょうから」
「そうだね。まず新見は、俺の従弟だ。そして、飯田組の幹部である俺の兄の片腕でもある。飯田組は、俺の父親という男がトップにある組織で、バグア派だ。救出依頼は、その飯田組が、関係企業などの一般人から、バグアに対して生贄と称し、人体実験などに使われる人間達を提供していたことを、阻止するために始めたことだった」
「では、今後もやはり、もう少し飯田組について調べてみるのがいいんでしょうか」
 それまでじっと黙って話を聞いていたことみが、周りの反応を見やりながら、そっと差し出すように疑問を呈す。
「確かに飯田組を探るのも重要ですけれど‥‥大元を叩けば自然と飯田組の実態も分かるはず。ともなれば、今後は「バグアの拠点」を探す、これが一番の近道だと、あたしは思いますわ」
「そうだね。バグアの拠点を見つけ出し、最終的には潰したい」
「しかし、バグアの拠点を探すにしても、情報の質と量を上げるためにも、飯田組を更に調査するのは必要なのではないでしょうか」
 終夜が言い、「具体的には」と、続ける。「例えば、飯田組の幹部クラスや、幹部ではなくてもバグアとの繋がりを知りそうな人間を警察に別件で逮捕して貰って、尋問する、などですかね。バグアとの繋がりや、その拠点となる居場所が分かる人間の手掛かりだけでも掴めるかと思うのですが」
「そうですわね‥‥その方法もかなり使えそうではありますけれど。警察には手を引いて貰っても良いかと個人的には思いますわ。最終的な敵がバグアなら‥‥警察では歯が立ちませんもの」
「ああ。この事件はもう、警察の手の及ばない所まで来てるんじゃないか」
「そうだね。完全に手を引いて貰うとまでは言わないけれど。でもやっぱり、能力者でない警察が関わるには荷が重いと思うよ。最悪こちらの動くのに害になる恐れもあるしね。こちら側中心に動きたいところだ」
「しかし‥‥飯田組が暴力団と考えると、表面上の事は調べて頂けるとも思いますので、あくまで非公式な形で協力関係に在れれば良いかと」
「飯田組を調べ上げるならば、警察も使える、か。難しい所だな」
「今後も必要で協力は願える様にしておく、という程度で良いのではないでしょうかね。但し本格的なバグア側の匂いがすれば、即座に連絡と能力者への要請はして貰うという条件付きで。やはり、警察だから取れる行動、用意出来る物は今迄もありましたし、これからもあるでしょう」
「ではそうして、警察には完全に裏方になって貰うとして。ロジーの言うキメラの出所だな。地球環境協会でも飯田組でも無い、そこから派生する、第3の施設‥‥それがあるかどうかを、突き止める」
 國盛に見やられ、飯田は頷く。「そうだね。あると思う。ただ今はまだ、情報が足りないけど」
「では先ずは、飯田さんが居なくなった事により、地球環境協会がどんな反応を見せているかを調べ、その第3の組織について、情報を得ること、ですね」
「その前に、情報を整理して提示して欲しいな。これまでに手に入れた情報だ」
「ええそうですわね。以前の事件から洗い直した、全ての情報ですわ。何か見落としている点があるかも知れませんし」
「分かりました。次回までに一応の整理をして、提出します」
「あとはそうだね。今後に当たり、まずは相手にアクションを起こしてもらわなければ契機すらないかも知れない。だから、多少危険ではあるけれど、再度囮として動いてもらうということも視野に置いてほしい」
 せりなが言う。
 飯田は、「俺に出来ることがあれば、何でも協力する」と、頷いた。