タイトル:人形師の偏愛マスター:みろる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/26 23:54

●オープニング本文









 その日岡本は、土山という人形師の経歴について書かれた書面を読んでいた。
 土山という男の人は、その業界ではわりと凄い人形師だったらしく、彼の作る人形は、今にも動き出しそうな程精巧で、滲みだす気品と、不思議な色香を持っていた、という。
 そしてそれとは別に、彼は、生涯同じような顔をした人形を延々と作り続け、それは誰にも売り渡すことなく、自分の手元に置いていた。らしい。
 大森から受け取った依頼は、その土山という彼がアトリエとして使っていた土蔵のキメラ退治で、だから岡本は、そんな資料を読んでいた。
 けれどそもそも、人形から滲みだす気品、であるとか、人形が持つ不思議な色香、であるとか、そういう文学的な表現が、既にもー全然全く分かっていない。ただ、分からなくても依頼の申請とかは出来るので、「じゃーこれで、貰って帰りますね」とか何か、大森に言った。
 大森は、頭が良くて優秀で、尚且つ無駄に美形で、そのくせ性格が多分破綻している未来科学研究所、研究員で、ULTの総務部でただの事務職員として仕事をしている岡本とかに、自分ですればいー依頼の面倒臭い申請作業とかをわざわざさせて、嫌がらせして暇潰ししている、みたいな所があった。
 面倒臭いので余り関わり合いたくなかったのだけれど、むしろ拒否する方が面倒臭い事になる、みたいな所もあって、じゃーみたいに流されてたらいつの間にか、意外と順応し易かったらしい自分が「今日の依頼は何ですか」とか何かマイルドに切り出していて、ハッと我に返ったら、時々怖い。
 そんな岡本の変化に気付いているのか居ないのか、気付いていたとしてそれを嬉しがっているのかいないのか、全然何考えてるか分からない生理感の薄い美形は、今日もわりとじーとかこっちを見て、立ちあがろうとする岡本を、止めた。
 曰く、「もう少し、読んでみてよ」
「はー。でも、だいたい分かりましたし。依頼を申請するには、十分なんですけど」
「うんでも土山さんのこと、もうちょっと見てみて」
「それ拒否したら、どうなりますか」
「させない」と、社員食堂の細長いテーブルを挟んだ、向かい側の大森の手が伸びて来て、岡本の手の甲を撫でた。「見てみて」
「気持ち悪いので、分かりました」
 と、しぶしぶ頷き、手から逃れるために資料のページを繰る。「でも、別に人形師とか人形とか、あんまり良く分からないし、興味もないっていうか」
 ぶちぶち言いながら、最後から二番目のページを開き、え。と手が止まった。
「似てるでしょ」
 顔を上げたら、ぼーと大森がこっちを見ていた。「土山さん、岡本君に似てるでしょ」
「えーと」
「むしろ、ガン似でしょ。同一人物と言っても過言ではないでしょ」
「はーまー似て‥‥ますかね」
 って分かってるけど言ってみて、「似てるよね」って断言されて、でも何か認めたくなくて、もう一回だけ「似てますかね」とか言ってみたけど、もうその「か」と被るくらいの素早さで、「いや似てるね」って断言されたので、負けた。
「あーはー」
「しかもこれ見て」
 骨ばった指が、最後のページを繰る。そこには彼が生涯手放さず、黙々と作り続け家の中に飾り続けた人形の姿が映し出されていて。
「似てるでしょ。岡本君に」
「あのー何ていうか」
 って言葉を濁しておいて、何とか否定しようとしたけど言葉が見つからず、結局「はー」と頷いた。
「土山さんに似てる岡本君に似ている、人形ってことだよね、だから」
「はー」
「つまり、岡本君に似ている土山さんは、黙々と自分の顔を作り続けたナルシスト臭い人ってことなんだよね、多分ね」
「はい‥‥」
 畳み掛けられるように言葉が振って来て、岡本はすっかりもー畳み掛けられた。
「あのー大森さん」
「うん何だろう岡本君」
「何か、別に僕と全然関係ない人なんですけど、何だろう、何か、嫌です」
「ねえねえ岡本君」
「はい」
「想像してみて」
「嫌です」
「こう、薄暗い土蔵の中で、白いシャツ来た痩身の岡本君にガン似の土山さん。いやむしろ岡本君がさ。黙々と自分の顔に似た人形の顔を一生懸命作ってるの。ストーブに載せたヤカンからシュウシュウと蒸気が出ててね。その煙の向こうに岡本君の、うっとりと恋するような横顔が見えてて。自分の顔に恋する岡本君。悪くないよね。むしろそんな、わりと変質者な岡本君も良」
「うんいや大森さん」
「うん何だろう、岡本君」
「あの何かもーロマンチストですか」
「文学的でしょ」
「ちがもう何でもいいんで、マイルドに気持ち悪い想像を披露するのは、やめて欲しいです」
 とか、気持ち悪い想像と実際言葉にして口に出してみたら、それに反応するようにぞーっと頬が粟立ち、岡本は思わず眉を潜めた。
 自分の顔で、自分のカテゴリーにない事をされるのは、とっても、居心地が、悪い。
 すると大森は薄っすらと、嬉しげに、笑った。
 うわー笑ってるよ、と思った。
「久々に本気で困った岡本君の顔見れて、あー楽しい」
「分かってましたけど最低ですよね、大森さんって」
「そうね。知ってる」
「わざわざこのために、この依頼探して来たんですか」
「捜して来た、わけではないけど。ほら、建築やってる弟がね」
「ああ、あのびっくりするくらい似てる双子みたいな人ですよね」
「このアトリエ内のキメラを退治して貰って、人形を保存したいっていう依頼を受けてたから、それをわざわざ奪って、持って来ただけだよ。岡本君に見せるために」
「わざわざ何かもーすいません」
「全然楽しいから大丈夫だよ。あとは、自分にそっくりな、やや偏った性癖のある人のアトリエ内のキメラ退治の依頼を、岡本君がどんな顔で申請するかも、見ものだしね。心配ないよ、こっそり見守っててあげるから」
 珍しい生物の生態を観察する研究者みたいな顔でそう言われ、そう言われれば、確かにこれを、申請受付の人ともう一度一緒に見るという難関が待っている、と、岡本は、益々困惑し、恥ずかしがり、途方に暮れた。










●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
緋本 せりな(gc5344
17歳・♀・AA
エレナ・ミッシェル(gc7490
12歳・♀・JG

●リプレイ本文






 土蔵の中に足を踏み込むと、古ぼけた物が放つ埃っぽいような独特の匂いの中に、ふと、白檀らしき甘い芳香を嗅ぎ取った。
 背後で、ぎぎぎ、と重い物が軋むような音がする。
 扉が、更に開かれた。
 薄闇に包まれる内部に、大量の光が、入る。
 エイミー・H・メイヤー(gb5994)は、顔を上げ、そして、そのどちらかと言えば小柄な体を、ぎょっ、と揺らした。
 その眺めに、「凄い‥‥」と、思わず呟く。漆喰の壁を覆い尽くすように並べられた、人形、人形、人形‥‥。そのどれもが、侵入者を見下ろすように、空虚な瞳で地面を見つめている。
「これは‥‥確かに凄い数の人形だ」
 しかもわりと、同じ顔ばかりが目立つ。むしろ、あっちの壁に飾られた人形は、同じ顔しか、居ない。
 それで、これだけ同じ顔が並んでるとちょっと不気味だな、とか何かエイミーが、ゴスロリワンピースのきゅっと締まった腰元に手を当てて、むん、とか辺りを見回していると、もぞもぞ、と、何かが動く感触がした。
 ん、と振り返ると、そこには小動物。いや、エイミーより更に小柄なエレナ・ミッシェル(gc7490)が、ふわっふわのカーテンから中を覗く、みたいにピトっと貼り付き、中を覗きこんでいた。
「なんか不気味な眺めだねーぞわぞわしてくるー」
 って何か、その姿が可愛かったので、可愛い女の子見るとうっかり出てくる、王子でナイトな心が、「エレナ嬢。大丈夫だ、岡本氏もどきに、手出しなどさせない」とか何か、衝動的に口走らせていたのだけれど、エレナは「あ! やっぱり似てるよね!」とか、そっちに反応した。
「岡本さんに似てるよね!」と、天真爛漫に、はしゃぐ。
「うん、似ている」
「だよね、やっぱり似てるよね! むしろ悪趣味なくらい、似てるよね!」
「ん、似てるな」
「だよね、だよね、やっぱり、もんどりうって、どーん、くらい、似てるよね! もんどりうって、どーん! くらいに!」
 とか何か、同意してあげる度に、どういうわけか、やたらどんどんテンションが上がっていったエレナは、もんどりうってドーン! というわりと意味不明な言葉を表現すべく、エイミーから離れ駆け出して行き、ちょうど入って来た巨体の國盛(gc4513)にドーン! して、その屈強な体にバーンと跳ね返されて、ドシン、と尻餅をついた。
 ぎろ。と鋭い双眸が、エレナを見下ろす。
「‥‥大丈夫か」
 あ、これは殺されるんですね、と、その強面としかいいようのない顔を見て、思った。
「いやいや、このオジサンはね、こんな怖い顔をしてるけど、意外に天然で良い人だから、大丈夫だよ」
 するとそこに入って来たのは、緋本 せりな(gc5344)で、ちょっとニヤつきながら國盛を見て、言う。「たぶんね」
「何だろう、せりな。その表情に、悪意を感じるんだが‥‥」
「いやあそれにしても人形と言うからどんなものかと思って来たけど、リアルな感じのだったのか」
 とかすっかり國盛の睨みを交わしたせりなは、小さく肩を竦める。「ふむ。アテが外れたな。いや、別に私が可愛い人形が欲しいとかじゃないんだけど。いや、可愛かったら勝手に持ち帰るとかもないけど」
 むしろそれでは逆に、怪しいではないか、というようなしつこいアピールをしてみせる、その少し離れた所では。
「せま‥‥」
 渡り廊下の方を、わりと面倒臭そうそうに覗きこんでいた須佐 武流(ga1461)が、眉を顰めて呟いた。
「しかもキメラもよ。どこから出てくるかわからねぇってのも面倒だよな‥‥いきなりガバッ! とか襲ってきたりってか? それじゃあ単なるホラーハウスだよな。しかもあまり出来の良くねぇタイプのよ」
 そして皮肉めいた、冷笑を浮かべる。
「確かに、面倒臭い性質のキメラのようですね‥‥」
 終夜・無月(ga3084)が、自分こそ人形のような、美しい無表情で、頷いた。「人形‥‥人の形を取った異形か‥‥」
「この扉は開けっ放しにしておきますね」
 そこへ、外の様子をチェックしていたらしい鐘依 透(ga6282)が内部へと顔を出しながら、言った。「差し込む光が、光源の足しにもなるでしょうし、誘導時にもその方がいいでしょうしね」
 続いて、「この入口の他には、窓などはないようだよ」と、同じく建物の構造をチェックしていたらしいUNKNOWN(ga4276)が、高級煙草の煙を燻らせながら、付け加え。更に。
「内部の構造もだいたい把握できたところで、一旦外に出て、作戦の手順の確認といこうか。互いに邪魔しあってはなんだしね」
 と。にこやかに。
 けれど、全く、瞳だけは冷たく笑っていない。
「そうですね」
 一方、朴訥とした雰囲気で頷いた透は、口上に上がった作戦の内容を、思い返していた。
 それは、内部の人形を出来るだけ傷つけず戦闘を行うため、また、狭い場所ではなく、しっかりとした戦場を確保するために、敵を発見次第、外へと誘導する囮班と、待ち伏せ班に分かれ行動する、という作戦だった。
 上手くいけばいいけど‥‥さて。
 とか何か考えている透の前を、終夜がさらーと通り過ぎて行く。
 何にしても‥‥待ち伏せ班の無月さんの十字撃だけは注意しないと‥‥食らったら重症、どころか絶対死んでしまうような予感がした。





 キメラは、人形の中に紛れ、隠れているらしい。
 そんなわけで國盛は、探査の眼を発動した双眸で、しっかりと他の一つ一つの人形を確かめていった。
 例えば、瞬きをしていないか。例えば、何処かが微細に動いていないか。
 そして背中合わせに、死角を補うようにして立つ透もまた、同じように、土蔵内に飾られた人形を確認する。
 生物なら呼吸しているのではないか? 呼吸による胸元上下や呼吸音にも注目しよう。もしかしたら、瞬きもするんだろうか?
 あとは、不自然に身綺麗な人形も怪しいかな。
 そうして人形を一つ一つ確認していく。
 ――それにしても、同じ顔した人形ばかり。
 ちょっと怖いけれど‥‥これは何か思う事があったんだろうか。
 そして、そういえば。と透は思い当たる。そういえば、僕は木彫りを良くするけど、マリア像ばかり彫ってる気がする。この光景と同じで、同じモチーフの物ばかりをずっと、延々と‥‥何故なんだろう。
 その目に、ふと、ある二体の人形の姿が飛び込んできた。
 ぐったりと虚ろな目をして横たわる人形と、それを抱き抱える、もう一体の人形の姿。
 抱きしめる人形の少し伏せ気味にされた顔は、まるで、慈悲や、慈愛を滲ませているかのように優しげに見えて。中性的な顔立ちのその人形から、母親が子に対して、本能的に抱く愛情のような物が、そっと零れ出しているように見えて。
 あるいは、他の人は、また違った物を感じるのかも知れないけれど。
 僕は。
 ――お母さん‥‥。
「おいっ!」
 國盛の鋭い声に、ハッと、透は我に返る。「見ろ。出やがった。キメラだ」
 その目に、ブワン、と光るフォースフィールドが飛び込んできた。國盛がどうやら、手に持っていた小石を投げたらしい。
 と、その間にも、キメラは、ばれたか! みたいに、ぐわああ、と目を剥き、両手を差し出して来て。
 國盛が、すかさず後ろへと飛び退いた。そのまま、開いた土蔵の扉へと駆け出し、「こっちを頼む! 俺は渡り廊下も調べてこよう」
「了解、引き継ぐよ!」
 外で待機していたせりなが、「ほらほら、こっちだ!」
 鍔の中央に埋め込まれたガーネットの輝きが、炎のように刀身を包む、炎剣「ガーネット」を振りかぶり、キメラへと攻撃を加え、巧みに誘導を引き継ぎ、外に待つ覚醒状態のエイミーと合流する。
「岡本氏もどきなんかには、負けませんよ」
 青い瞳を覚醒の影響で金色に変化させたエイミーが、すとん、と抑揚の落ちた無表情で、淡々と言う。淡い光を放つ直刀「蛍火」を両手に構え、流し斬りを発動した。相手の側面へと回り込みその刃を叩き込む!
 ガッと片腕を斬りおとされたキメラはすかさず、どぶう! と、反対の掌からエネルギー弾のような物を飛ばし、反撃してきた。
「当たりませんよ」
 と、ヒット、アンド、アウェイの法則で、すかさず飛び退き、体を翻した反動で、蛍火の刃を残った腕に食い込ませ、もう一方の刃で、その首をスッパーン! と。
「こっちも頼みます!」
 とそこへ、更に二体のキメラを外へとおびき出して来た透が叫び。
「作り掛けの人形に潜むなんて、嫌なキメラだ全く」
 呆れたように言ったせりなが、虚ろな目をした人形の首だけが動いているように見えるキメラへと接近する。首の下に、にょろにょろと、何やら赤黒い薄気味悪い物が蠢いているのが、見えた。
「やれやれ、中はどうなってるんだろう、とか思ってたけど。これは、見ない方がいいかも知れないね」
 そんな軽口を言いながら、両断剣を発動する。淡く赤色の光を帯びるガーネットで、その薄気味悪い頭を叩き割った。
「ほーらまだ、こっちにも居るぞ」
 更にもう一体外へと誘導してきた國盛が低く呻き、対峙した敵へと、腕を突き出した。専用のグローブに組み込まれた超機械シャドウオーブが、黒い不気味な雰囲気の漂うエネルギー弾を放出し。
 キメラも負けじと放ったエネルギー弾と、バアアン! と激突し合い。
 國盛はすかさず瞬天速で間合いを詰める。ステュムの爪を装着した靴で、キメラへキック! ブワン、と発生したフォースフィールドに弾かれ、後ろへ飛んだ所で、敵が服の中に隠し持っていたらしい拳銃を構えていて。
「くそっ」
 と。そこに飛び込んできたのは、迅雷を発動した透で、何処か禍々しい雰囲気の、煌びやかな金色の魔剣「ティルフィング」で、キメラのその腕を斬り落とし、すかさずその場を離れた。
 ギギ、ギ、カタ、カ、タ。キメラが片腕を失った歪な動作で、透を振り返る。
「真燕貫突!」
 瞬間、叫んだ彼の腕の周りに、翼の紋章が舞った。
 覚醒の影響で四肢を包む、青い光が強さを増し。
 振りかぶったティルフィングが、同一箇所への素早い2連撃を炸裂させ、その体を、砕いた。





 一方、その少し前。
 反対側の土蔵から内部へと入っていたUNKNOWNは、やはり並べられた人形達をじーっとか眺めていた。
 けれどそれは、キメラ発見のため、というよりも、芸術家が作品を愛でるために見る、といった様子で。
「ふむ。人形師という世界は流石に良く知らんが‥‥なるほど。こういうものか」
 と、軽く顎を撫で。
「てる場合かよ、おい」
 忍刀「颯颯」の刃に、差し込んでくる光を反射させたり、などをしながら、反応したやつがキメラとかやってた武流が、いやいや大丈夫かよ、みたいに呟いた。
 刹那。
「――その左から3つ目。気をつけて」
 冷たい瞳で、ゆったりと振り返ったUNKNOWNが、凄い落ち着いた感じで、言った。
 それがあんまりにも落ち着いていたので、武流は、はー? とか思って、三つ目を見て。
 ギシャーッ!!!
「おっと!」
 瞬間、飛びかかって来たキメラの攻撃を、後ろに頭を逸らすことで交わし、更に覚醒の影響で銀色に変化した体を、しなるように後方回転させる。瞬間、また背後に潜んでいたらしいキメラの手が、ぐっと食いこんで来て。
 う、っとその硬い手を掴んだ。ギリギリ、と尚も食いこませようとする手と、武流の引き離そうとする手の力比べ――
「うおらああっ!!!」
 轟くような咆哮と共に体を縮め、反動でキメラを地面へと叩きつけ!
「人形は外殻ってことか‥‥正体を見せやがれ!」
 ガッと地面に落ちたキメラの頭を、片手を肘まで覆う篭手型の超機械「ミスティックT」を装着して手で掴んだ。その瞬間に、強力な電磁波を至近距離から叩き込む!
「さて。私は治療もあるから戦況が見えやすい場所に移動するとしよう」
 その間にも、最初に見つけた他にも、次々と仲間の悲劇に姿を現し始めた動く人形を、ゆらり、と誘導するように動き、UNKNOWNはロイヤルブラックのフロックコートの裾をはためかせながら、土蔵の外へと。
 待ちかまえていたのは、銀色の銃身を持った拳銃「CL−06A」を構えた、エレナで。
「よーし! まずは行動不能にしていたぶるために手足を吹っ飛ばすことから始めよー」
 覚醒の影響で、右の瞳の前に現れた十字の紋章を、照準を定めるレティクルに使用し、ドーンと撃った。
 飛び出して来た人形の、手や、脚を。
「人形の外装らしいし生半可な攻撃じゃ効きそうな気がしないからね! あ、鬼畜とかじゃないからね!」
 と言った尻から、また、ダンダン、と両手の銃で、人形達の手足を奪い。
 けれど、脚を奪われたキメラは、手からエネルギー弾を出して来て応戦するし、手を奪われただけのキメラは走り込んでくるしで、つまりは全然、大人しくならない。
 自由を奪われ、いたぶられる人形。の姿にはまだ、ほど遠い。
 すっかりムーっ!!! としたエレナは。
「くそー! 負けないもん!」
 とか何か、強弾撃を発動する。その手の拳銃から、尚も勢い良く弾丸が飛び出し。
 そんな彼女をUNKNOWNは、ちょっと離れた所から、煙草の煙を燻らせながら、見守り。
「おわっと。やりたい放題だな、おい」
 土蔵から飛び出して来た武流が、弾丸を避けるようにタタっ、とステップを踏み、立ち止まる。
「ありゃ、弾丸が尽きるぞ、その内」
 言った傍から、エレナの手の中で拳銃がカチリ、と、空を噛む、切ない音がして。
「ほらみろ」
「わー! 逃げろー!」
 と、素早く方向転換したエレナの真後ろから、ぬ、と現れたのは。
 めちゃくちゃ美人の女性。
「え?」
「離れて下さい」
 と思ったら、声が終夜だった。どうやら、覚醒すると、外見的に完全に女性となってしまうらしい。けれど、その姿はあくまで凛と美しく、神聖な雰囲気を放つ光り輝く聖剣「デュランダル」を構えていて。
「おー、たいちょーが打つよ、決めるよー! 皆離れてー!」
 叫びながらエレナも終夜から距離を取り。
 仲間達が散り散りに離れ、キメラが照準を絞り切れず、うろうろとしているこの最大効果の好機は逃さない。
「十字の墓標(CROSS†GRAVE)」
 呟いた終夜は、ダンっ! と、デュランダルの刃を地面へ撃ちこんだ。
 十字撃が発動し、その場所を起点として、凄まじい威力の衝撃波がブッファアアアアア!! と、十字に走り抜けて行く。
 キメラは散り散りに破壊され、尚も威力の止まらない衝撃波がバシィッ! と、土蔵の分厚い扉に激突した。
 開いたままだったそれは、衝撃に耐えきれず、ドーーーーーン、と地面に。
 暫く土煙がもわもわ、と立ちあがった。
 戦場が、何だか妙に、シーンとする。
 暫くして、腕を組んだ格好で立っていた武流が、言った。
「手入れをされていない古い建物というのも考え物だな‥‥でも、ま、中の人形が無事なんだから、いいじゃね?」と。