●リプレイ本文
「まあ! なんて、タイプカプセル日和なのでしょう!」
とか何か、校庭の端っこに立つ、ロジー・ビィ(
ga1031)が言った。
続いて、ピコっとか、赤と黄色で出来たポップなぴこぴこハンマーを叩き、ぴこぴこ、と更に叩き。
とか何か何でもいいのだけれど、今、彼女は、聞き間違えでなければ、確か、タイプ、カプセル、と言った予感がする。
未名月 璃々(
gb9751)は、はー何でもいいですけど、間違えてませんかー、みたいに、ロジーを振り返った。
そしたらロジーが、
「それで、タイプ=カプセルとは、一体どういった物なのでしょう? 新しい武器か何かなんですの? それとも何かを指し示すコードネームか何かなんですの!」
とか何か、今度こそ完全に、タイプ=カプセルと言った。そして‥‥。
「掘り起こして、ド派手に飛ばすんですのね! 宇宙へ! ドーン!」
ぱーっと両手を上げて、それから、ね? と、満面の笑みを浮かべ、セシリア・D・篠畑(
ga0475)を振り返る。「ね? セシリア」
対するセシリアは、物凄い「無」の表情で、暫くじー、とかロジーを見つめた。
やがて「はい」と。
あ、そこは頷いちゃうんじゃな、みたいに、坂上 透(
gc8191)がゆらーとちょっと反応していた。
「やっぱり、タイプ、カプセルを打ちあげるには、今日のお天気は、うってつけなんですのね!」
「はい。いよいよ私達も打ちあげるのですね、タイプ=カプセルを」
と、無表情かつ抑揚のない喋り方をする彼女が言うと、これはもしかしたら壮大なプロジェクトの話だったのではないか、と錯覚しかけてくる。
「いや、打ち上げたりは、しないんじゃないかの」
とりあえずそんな面倒臭そうな展開になったら困る、と思ったのか、透が、そっと指摘をした。
「成る程。では、私達で埋めるのですね。タイプ=カプセルを」
あ、そうくるんじゃな。みたいに透がセシリアを見た。
それからちょっと、何か、見詰め合った。
「‥‥いえ、分かりました。分かってました。倒しましょう。キメラを」
廊下に、四つの扉を確認した。
つまり、教室二つ分。
校舎内探索班の那月 ケイ(
gc4469)は、素早く一つ目の扉へ近づくと、壁に身を隠すようにしながら、そーっと、扉を開き、さっと内部の様子を窺った。
覚醒の影響で金色に変化した瞳を、素早く走らせる。
右、左、天井。
「よし、キメラなし、と」
瞬間。
何かが後ろからぴゅっ、とケイを追い越して行き、えっ、とか思ったら、フロン・M・カーン(
gc6880)だった。
戦闘用ドレスの白いレースをひらひらさせながら、教室内に飛び込み、「小学校だー! わーわー!」とか何か、はしゃいだ声を上げる。
そのまま何か、教室の隅っこ置かれた掃除用具入れにガーン! と突進して行き、バーンと開き、中からアルミのバケツを取り出したかと思うと、それをケイに向かって投げて来た。
わりと凄い勢いで、ヒュッ! とか飛んでくるバケツを、うわ、とか思って避けた。
と思ったら、踏み込んだ先の木材が傷んでいたらしく、そのまま床にズボッ、とか足がハマり込み。
「のあぁっ!!?」
って後ろに仰け反った鼻先をバケツが通り過ぎて行き、ガツッ、と壁にめり込み、止まった。
「さあ! ボロボロになった校舎を綺麗にするのです! 水を汲んで来て頂けますか! 那月様」
「いやいやいや‥‥フロンさん」
「はいっ!」
返事と共に、彼女の左右に結んだ髪が、子犬の尻尾のようにパタパタッ、と動いた。覚醒するとこうなるらしい。
「いやはい、じゃなくてさ。その「掃除」っていうのが既に、違うから」
「えっ!」ぱたぱたっ。
「今日はキメラの討伐ですよ」
と、浮ついた雰囲気を完全に引き締めるような真面目さで、久川 千夏(
gc7374)が、言った。背後からの奇襲を警戒するように、来た道の方をじっと見つめながら、「肉体を酷使してキメラ討伐、なんて、時代錯誤も甚だしい限りですが、仕方ありません。本当は、上空から爆弾でも落として一掃、というのが合理的なんですが、目的がタイムカプセルだと言われると、それも無理ですし」
とか何か、わりと豪快かつ過激かつ、金のかかりそうな事をさっぱり、と述べた。
「だからやっぱり、肉体を酷使してキメラを探すしかない私達は」
と、話の続きを浚ったのは、多目的PDA「タクティカル・サポーター」の液晶画面を操作していた辰巳 空(
ga4698)で。
「一階、二階、と探索を終え、残るは、三階のみなわけですが」
ただもうこれ、校内にはキメラいなんじゃないんですかね、と言おうとしたまさにその矢先。
覚醒の影響で僅かに紅く変化した瞳が、ぷっつりと切れた廊下の向こうに飛び上がる、青い何かの姿を見つけた。
「あれは‥‥河童? 両生類?」
「キメラだ!」
ケイが、声を上げる。
「全く、バグアのセンスは‥‥」
呆れたように言いながら、空は、尻のポケットに端末を仕舞い込み、すぐさま背後の階段の方を振り返る。
「上にも、居ますね」
気付いていたらしい千夏が、先に、言った。
「ええ、やっと動き出したようです」
空は頷き、駆け出した。
その間にもケイが、片手剣カミツレを手に、廊下から侵入してきたキメラへ向かい走り出している。
そこに居るのは、キメラ、二匹。キーッ! と耳触りな威嚇の声を上げ、水掻きのついた手を振りかぶり、突進してくる。
プロテクトシールドを突き出しながら、躊躇う事なく飛び込み、繰りだされた攻撃を、ガンッと、受けた。
瞬間、周りに赤く浮かび上がる盾の紋章に、パシッ! と、金色の閃光が走る。
すかさずカミツレの刃を、その横っ腹に向かい振り抜く。
と。
バッ! と、背後から、もう一匹のキメラが飛び上がった。ビュっ! と回転した勢いで、鞭のようにしなった尻尾を、ケイ目掛け――。
「よーし、キメラの討伐ですねー! もちろんやります! やらせて頂きますともーっ!」
可愛らしい声と共に、バシューッ! と、フロンの黒刀「鴉羽」から飛び出した衝撃波がキメラに衝突し、攻撃を食いとめた。
直撃を喰らった青い体が、ダンッ、と床に叩きつけられ、その衝撃に耐えられなかったのか、バキッ! と木が破れた。
そのまま、落下するキメラを、たたたた、とスカートをはためかせながら追ったフロンは、流し斬りを発動し、渾身の一撃でキメラを斬る!
ギシャーっ! と倒れ込んだキメラを、烏の濡れ羽色をした、艶のある美しい刃が、尚も背後から、斬る斬る、斬る!
と。
その頃、三階に駆け上がった空は、四匹のキメラの姿を確認すると、戦闘用のハイテク靴「シャドウランナー」で、その内の最も手前の一匹へと素早く駆け寄っていた。奇襲に気付くのが遅れたキメラは、武道家らしい引き締った空の腕に口を塞がれ、そのまま、ストライク・アームズの爪に喉元を掻き切られ、バタッ、とその場に、落ちる。
それが、開戦の合図だった。
ハッ! としたように、残りのキメラ達が、空と、そして千夏を振り返る。
ギャシャーッ! と、派手な鳴き声を上げ飛びかかってくるキメラへ、千夏はすかさず拳銃「スキンファクシ」の照準を合わせ、引き金を引いた。
眩く輝く白色と青銅色の銃身を持った、高級感溢れる拳銃から、ダンッ! と、飛び出た弾丸が、プツン、とキメラの腕を撃ち抜く。
致命的なダメージはない。
千夏は、拳銃を構えたまま、スタイリッシュグラスの赤いフレームを押し上げる。急所を狙わなければ。
けれど。
急所、何処よ! っていうかこのキメラ、気持ち悪いのよ!
とか何か、わりと忙しい千夏の前では、空の息を飲むような攻防が。
キメラの尻尾の攻撃を翳した腕で、バシッと受け止め、振り払うように回転し、その反動で、爪の刃を振りかぶる。
うっと、それを避けたキメラは、後退し、足を踏ん張り。
そのまま、ズボッ!
とか何か、片足を完全に床の中に突っ込み身動きが取れなくなった仲間を、このアホー! みたいに飛び越えて来たキメラと、また応戦し。
「そうそう、俺もそうなりました」
いきなり、頭上から飛び出して来たキメラの足に驚いたものの、何が起こったのか理解したケイは、ちょっと、思わず、笑っていた。
ツンツン、とカミツレの刃で突くと、ビクッ、としたように動きが一瞬止まった。そして火事場のくそ力! とばかりに凄い勢いで引き抜かれようとした、それを。
「おっと、逃がさねぇよ!」
声と共に、力の限り足を引っ張った。
凄まじい音を立てながら落ちて来たキメラを、そのまま床に叩きつけ、すかさず、喉を掻き切る。
頭上で、ダンダンダンッ! と、銃声が鳴った。
「急所は分からないけれど、目を撃たれたら、少なくとも、困るでしょう!」
続けて千夏の、鋭い声が聞こえてくる。
と、思ったら。
突然「キャッ!」と、いう声と共に、穴から細身の彼女の体が、ものの見事にスルン。
「おっと。危ない」
差し出したケイの腕の中に、どしっ、と彼女が落ちてくる。
「おっと、ご無事で。俺、受け止めたものの、このまま床が抜けたらどうしようと思った」
「こ、これは、半壊した校舎が‥‥いえ、ありがとう」
ぼそぼそ、と聞き取れないくらいの声で、千夏が、言う。
眼鏡のフレームを、そっと押し上げた。
●
さすがに小学校の跡地に食べ物はないかのォ。
と、ふら、と目を向けた先に、透は何故か、スナック菓子が落ちているのを、見つけた。
「え」
自分で見つけておいて大層びっくりしたのだけれど、もしかしたら、何処かの悪ガキが内部へ入り込み、たむろしていた痕跡だったのかも知れない。そこには、幾つかのお菓子と、煙草の吸殻や、空き缶などが、転がっていた。
ああ、お菓子じゃ‥‥!
透は喜び、とにもかくにも手を伸ばそうと近づいた。
瞬間、ガシャッ、とそれを青い足が、踏みつけた。
‥‥‥‥。
ガシャガシャガシャ、と駆けつけて来た青い足が、尚も、踏んだ。
‥‥‥‥。
食べ物を貰った恩は、三日間は、忘れない。
そして、食べ物を奪われた恨みもまた、忘れない。
ただしこちらは。
「一生じゃぞーこのやろー」
と、相変わらず覇気のない声ではあったけれど、透は確実に怒っていた。
じと、と目を据わらせ、キメラを睨みつける。そして、ゆっくりと鉄槌「メテオライト」を。
と。そこへ。
ズサっ! と、凄まじい勢いで背後から、何かがキメラへ向かい颯爽と飛びかかって行った。
セシリアだ。
覚醒の影響で赤く血管のような模様を浮かび上がらせた腕に、ホーリーナックルを装着した彼女は、ガツッ! と、早速その手でキメラの顔を、ぶん殴った。
ウワー‥‥。
でも、瞳を赤く変化させ、目の周りにも腕と同じような赤い血管の模様を浮かび上がらせたセシリアは、とにかく、「無」の表情で。
「キキキキー!」
その場に居たもう一匹のキメラが、やばいよやばいよ、コイツやばいよ! みたいに、鳴き声を上げ、水掻きのついた掌をバタバタ、と動かした。
その手から発生した突風がセシリア目掛け、ズサっ! と飛んで行くかと思われたその矢先。
ズドーン、と、エネルギー弾が飛んで来て、それをかき消し。
すちゃ、とエネルギーガンを下ろしたロジーは、銀色の美しい銀髪の裾をそっと、肩から払い。
遅れて、背後から駆けつけてきた仲間のキメラを知っていたかのように、腰から二刀小太刀「花鳥風月」を抜き去ると、回転の反動で、その刃を早速キメラへと打ち込んだ。
頭から立てに真っ二つ――!
そこから、ロジーの動きはどんどんと加速する。
蒼い闘気をその身に纏いながら、あるいは羽根の一部を羽根のように広げながら、やってくるキメラに向かい、無言で突進して行く。
花鳥風月を振りかぶり、キメラの頭部を。
身を屈め、キメラの足を。
ずさーっと滑り込み、キメラの腹を。
美しい一つの風のように、次々と駆けつけてくるキメラに負傷を負わせ、その後に続くセシリアが。
「‥‥はい。速攻でブン殴ります。兎に角ブン殴ります。ええ、ブン殴っていきますとも」
という言葉に違わず、白銀のグローブに、十字架の模様が刻まれた神聖な雰囲気を漂わせるグローブで、びっくりするくらいがっつがっつとぶん殴り。
「キュキュキュっ」
降参です降参です! みたいにキメラが可愛い鳴き声を放つ。
「‥‥‥‥」
のをまた、殴り、殴り、殴り!
とかやってるセシリアの周りを、有名女優の奇行を発見した記者みたいな勢いで、パシャパシャパシャ、とカメラのシャッターを切りながら、未名月が通り過ぎて行き。
何という華麗かつ恐ろしい連携じゃ‥‥。
と、思わずぼんやり見てしまっている透の元にも、セシリアのぶん殴りから漏れたキメラが。
くわ、と俄に、食べ物の恨みが込み上げ、回転の勢いを付けたメテオライトの打撃部を、ガーン、とその腰に打ち込んだ。
「必殺、めておいんぱくとー」
ぐき、と何らかの骨格が折れたらしい音が、耳に届く。
けれど、聞こえなかったふりで、まだまだ、打撃部を打ち込む、打ち込む、打ち込む!
って、もう原型が分からなくなるくらいやった所で、透は、空腹がピークになりばたんきゅーした。
「ああ‥‥もう一歩も動けん。どうか最後に、我にそのお菓子を‥‥」
とか何か呟いてたら、パタパタパターっと、白い小さな旗を振りながら、とことこと未名月が歩いて来た。
「えー、倒したっぽいです。見た限り。御苦労さまでした」
そして、ポン、と足元にお菓子を置いてくれた。
「このぐちゃぐちゃになった死骸は頂きましょう。色々と中身も気になりますし、保存用に採取します」
って一切戦闘に参加しなかった彼女は、エンジニアの顔つきで、言い。
「このキメラには是非、この全集の一ページを飾って貰いたいですが‥‥んー、やっぱり、気持ち悪いタイプのキメラですかねー」
そして、自ら作成中だという、変態キメラ全書のページを繰りながら、小首を傾げた。
「なるほど、タイムカプセルというんですの」
未名月から、説明を受けたロジーは、「記念や思い出に何かを埋める物‥‥確かにセシリアとこうしていることが一番の記念で思い出ですけれど、その証が欲しい、と。そう言うワケですのね!」と、早速もー埋める気になった。
「はい」
とロジーの言葉にセシリアが頷く。
「こうしてロジーさんと一緒にタイムカプセルを埋めようとした事自体は、素敵な思い出‥‥です。でも何か埋める物は欲しいですね」
そしてセシリアは、きょろきょろ、と辺りを見回し。
やがて、キメラの死骸を凝視した。
「‥‥埋めましょう」
ロジーがそっとセシリアの肩を叩く。
「さぁ、今! ここにっ! あたし達の思い出、タイムカプセルを‥‥っっ!! 」
って何だかもーいろいろ間違っている気がしたが、面倒臭かったし、何よりお菓子を食べるのに忙しかったので、透は黙っておくことにした。