●リプレイ本文
門で囲まれた広場の中に、動きまわるキメラの姿が、見える。
時折、思い出したように、飛びまわったり動いたりするキメラの隙間に佇む石像は、何かもー完全に無視されているように、見えた。
「あれは‥‥何か意味が在るのでしょうか‥‥」
それで思わず、そんな事を呟いた終夜・無月(
ga3084)は、物凄い無表情の裏で、あれこの既視感は何だろー、とかふと思って、良く良く思い出してみたら、ついこの間終えた、広場の銅像を壊すとかいう似たような仕事の際に、全く同じ言葉を言った事を思い出した。
つまり、銅像だろうが石像だろうが、やっぱりあの少年天使の銅像は、全然意味が分からなくて、やっぱり、意味が、分からなかった。
とか何かやってたら、滝沢タキトゥス(
gc4659)が、「石像か‥‥今後の為に見ておく価値がありそうだ」
とか何か言いながら近づいて来て、「壊すのが勿体ないと感じたりしたら、どうすればいいんだろう」って顔を上げて、広場にある石像と対面し。
「‥‥‥‥え?」
これこそがまさに愕然とした表情というのではないか、というような、愕然とした表情をした。
そこへ、鮮やかなブルーの塗装が目立つAU−KV「アスタロト」を装着した壱条 鳳華(
gc6521)がやって来て、フェイスガードを開き、「なるほど石像か。うむ」とか何か、何を納得したのかは分からないけれど、何かを納得したように、頷いた。
「そうだな。いずれは私も自分の石像でも作りたいものだ。もちろん素材は金か! な!」
って、別に全然聞いてなかったけれど、丁度隣に居た大神 哉目(
gc7784)を何か、見た。
それで見られたからには、「はー」とか何か頷いたけれど、だいたい素材が金とか言ってるあたりで、もうそれは石像でも何でもないんじゃないか、とか、思った。でも全然気にしてないらしい鳳華は、
「あれだな! クリスタルな感じで美しく、な!」
とか何か、まだ、言った。
もー何でもいいけど、最悪、金なのか、クリスタルなのか、せめてそこだけははっきりして欲しい、と思った。
「はー、そうね」
大神はとりあえず、眼鏡を押し上げながら、エアーな返事を返しておくことにした。
「それにしても」
フェンダー(
gc6778)が、うーむとか何か、腕を組みながら、唐突に、言う。「石像に蟷螂‥‥何故この組み合わせなのじゃろうか」
いや別に理由なんてないんじゃないか、むしろ何だったら、あの変な顔した石像が実はキメラでしたとか言われた方が納得できそうな気もするんだけどな、とか何か月野 現(
gc7488)は考えていたのだけれど、「ああそうか」と、何か理由が思い当たったらしいフェンダーの声に、言葉の続きを待つ。
「そうか、これは、あれじゃな。ハンマーつながりじゃな」
「え」
いや全然、何処も何一つ繋がってないけど大丈夫ですか、と、何か月野は、ちょっと、慌てた。
ぼーっとした感じの彼女はそれでも、「そうかそうか、これで納得じゃ。ハンマーか」とか何か一人で納得していて、納得しているのだから、ここはそっとしておいてあげた方がいいかな、とか、思った。
「何にしてもやっぱりあれ、見れば見る程、変な石像だよな。もしかしてあれがキメラを呼び寄せていないか?」
そして、話を逸らすかのように、言った。
●
ギーッと門が開かれるや否や、竜の翼を発動した鳳華が、アスタロトの脚部にスパークを走らせながら、ばっと飛び出して行く。
「よし、キメラを叩くぞ! 頭数では負けてるが、我々が一丸となればいけるだろう! 出遅れるなよ!」
通称「天の御剣」とも呼ばれる、青色の天剣「ウラノス」を両手に構え、勢い良く振り回すと、その場に居たキメラ二匹が、いっせいにざわ、と後方へ飛んだ。
のを、装輪走行で鳳華は更に追い込んで行く。着地点を見定め、走り込んだ。
「ええぃ、ちょこまかとうっとおしい! 大人しく私の剣の錆となれ!」
「よし、追い込むぞ。こっちは、任せろ」
自身障壁を発動した月野が、鳳華と並行するように走り出した。「前衛は久しぶりだが役割は果たさせて貰おう」
小銃「ヴァーミリオン」を構え、走るキメラの足を狙い、引き金を引く。
着弾した弾丸に撃ち抜かれ、片足が破裂したキメラは、その勢いのまま、ズベエエエエエッと、顔から地面へつんのめり、滑った。
その隙に月野は、貫通弾を装着し、敵が起き上がってしまう前に、照準を、その眼へ、当てる。
躊躇いなく引き金を、引いた。
腕に伝わってくる強い反動。飛び出た弾丸が、キメラの瞳を撃ち抜き、その一点を境に、顔面がダン、と破裂した。
「よし。一匹」
とか何か言ってる月野に、また次のキメラが襲いかかってくる。
咄嗟にその鎌の攻撃を、プロテクトシールドでガツン、と受け止めた。
「銃撃戦しか出来ないと思ったら、大間違いだ」
攻撃をシールドごと横へと受け流し、反対側の手で拳銃の照準をすかさず、合わせる。ダン、と飛び出た銃弾が、また、キメラの顔面を撃ち抜いた。
その頃、鳳華は、合流によって二匹に増えたキメラを、大きな剣をバットのように横に構え、追いかけていた。
勢い良く回る装輪が、砂煙を上げる。
「ほらもう、逃げ場はないぞ!」
端まで追いつめて、ぶわっと、剣を振りかぶれば、風圧にガシャン、と広場を囲む高いフェンスが音を立てた。
「その尻尾も、愛らしくない! その鎌も、流麗ではない !醜いキメラめ、せめて美しく散れ! Danse de la Rose!」
薔薇乱舞! と声を張り上げ、そのまま力任せに、勢い良く大剣を振りおろし、キメラの体を斜めにぶった斬る。
今度は振り上げる力で、隣のもう一匹を、やっぱりぶった斬る。
べロン、と半身を斬られたキメラが、ぎょろっと目を剥いたままの格好で、その場に、崩れ落ちた。
その頃、広場の入り口辺りに陣取ったフェンダーは、キメラを眠りへと誘う歌を口ずさんでいた。
「美麗なる我の歌声で永遠の眠りにつくがいいのじゃ」
覚醒の影響で、赤い粒子状のオーラを纏っていた彼女の体は、次の瞬間、子守唄を発動の影響で、銀系統の淡い光に、一瞬、包まれる。
「ねむれー、ねむれー、さっさとねむれー、そして我の前に跪け〜」
みたいな歌詞の、何か、やる気なさそーな歌に、その場に居た二体のキメラが、うとうとし出し、遂には、どさ、と、糸の切れた操り人形みたいな勢いで、地面へ突っ伏した。
「うぬ。跪きよったわい。良い眺めじゃの」
って嬉しいんだか嬉しくないんだか、やっぱりあんまり良く分からない表情で呟くフェンダー。
そこへ後方から、滝沢が、水晶のように透き通った剣、オーラブルーを構え、飛び込んで来る。
「ま。お前達は所詮、噛ませ犬だ。石像が本命なんでな」
素っ気なく言い放つと、緩やかに曲がったオーラブルーの刃で、その首を掻き切った。
どろ、っと流れ出してくる血らしき液体が、地面に広がる。それをびちゃ、と踏みつけるのも気にせず、回転するように体を捻った滝沢は、更に隣の一体の首を、躊躇いもなく、斬った。
「じゃあな」
その背後には、一体のキメラと応戦中の大神の姿がある。
疾風の勢いで走り距離を取る大神へと、ダッと跳躍し、距離を詰めたキメラが、鋭く尖った鎌を突き出して来た。
咄嗟に振り返り、その攻撃を、メトロニウム製の棒に、持ち手をつけた形状の武器、旋棍「輝嵐」で、ガチン、と受け止めた彼女は、そのまま、一瞬の間、力比べを行うような間を置いて、バッと勢い良く、振り払う。
そしてすかさず後方に飛び、距離を置いた。
相手がまたバッと跳躍。けれどその隙を見逃さず、迅雷を発動し、後方へと抜けた彼女は、後ろから思いっきり着地を決めたキメラの頭を、ぶん殴った。
ガシャッと、何か硬い、骨のような物が崩れる感触が、輝嵐を通し、腕に伝わってくる。
尚も彼女は、力を緩めない。まるで地面へと押さえつけるかのように体重をかけ、キメラと共に着地した。
「では、最後の掃除です」
とか何か、物凄い無表情で言った終夜が、残った最後のキメラに向かい、両断剣・絶を発動する。
「闇裂く月牙(LUNAR†FANG)」
空に輝いた剣の紋章が、デュランダルへと吸収され、目が眩むような光を放った。
――!!!!
刃が命中するその瞬間、衝撃にキメラの体が粉砕し、光の中に溶けていくかのように、見えた。
とかいう一連の流れにまた、
「何故かな‥‥デジャブを感じる‥‥」
終夜は、一人、そっと、呟いたのだった。
●
「それにしてもこれは」
広場に置かれた石像を、横からじーとか眺めながら、滝沢が、言った。「なんて悪趣味な石像なんだ」
それでも一応、今後、置物を作るためにと、良く良く観察を続けていたのだけれど、
「自分なら絶対にこんなセンスのないものは作らない‥‥」
見れば見るほど、石像は、何というか、人の苛っとするツボをガンガン押してくるような顔をしていて、見ている内に何かどんどん、置物マニア・アマチュア置物職人の血が騒ぎ出して来て、怒りがむんむんと込み上げて来た。
「絶対に‥‥絶対に、こんなの作らない‥‥こんな石像を作ったのは一体、何処のどいつなんだ!」
ってあんまり腹が立ったので、思わず、がっとか何か、石像の肩の辺りを両手で叩いて。
と思ったら何か、手がツルン、と滑って、下半身の辺りの何か、突起物を、へし折っていた。
――‥‥とろとろ‥‥とろとろとろとろとろとろ。
って何か、そこの辺りから、白い液体が、だらだら流れだして来た。
――‥‥‥‥。
石像は、何か、すっごい腹立つ笑顔を浮かべながら、白い液体を垂れ流し続けている。
――ッ!!!
滝沢の怒りは、何か分かんないけど、その時、頂点に、達した。
「どういう意図があったにせよ、これは最悪だ!!」
くわっと目を剥き、覚醒状態でオーラブルーを振り回す。
「こんな石像、世の中にあっていいわけがないぞ!!」
そんで何か、ガッツガッツ、ガッツガッツ、液体が飛び散ろうがお構いなしに、とにかく、壊し、壊し、壊し、壊し!!
地面に落ちた残骸も、踏みつけ! 踏みつけ! 踏みつけ!
「もう終わりだな、クソ石像め‥‥!」
とか何か、わりと本気で目を据わらせ、石像を破壊している滝沢の後ろを、どうやら石像の腹に内蔵されていたゴム製ハンマーの仕掛けに叩かれ、吹っ飛ばされたらしいフェンダーの姿が、ビヨーンと横切って行く。
そして、ボサッと地面に突っ伏して、着地。
「いてて‥‥この石像め。何をするのじゃ!」
ムン、と修道服の裾を直して、また性懲りもなくとことこと、接近。
「この石像め。不細工な顔をしよって。我の美的センスに合わないばかりか、反撃までしてくるとは。主様が許しても我が許さんのじゃ!」
って今度は、ホーリーナックルを装備した手を振り上げ、そのどたまに、ドーン!
そしたら、腹からまた出たハンマーに、鳩尾辺りを、ドーン!
「うっ」
と、今度はちゃんと踏ん張り、また、そのどたまに、ドーン!
そしたらまたまた、腹辺りから出たハンマーに、鳩尾辺りを、ドーン!
「おかしい、なぜ我がポコポコとされているのじゃ‥‥コレも主様の試練なのかや‥‥」
フェンダーは、もー疲れたよ、と言わんばかりに、その場に、もさ、としゃがみ込む。
でも、その体制のまま、ちょっと何か、横へ、じりじりと、ずれた。
さすがに、ちょっとは、学習したらしい。
「と、見せかけ油断させておいて、やっぱり、ドーンじゃ!」
今度は覚醒状態で、若干ずれた角度から、ホーリーナックルの攻撃を、ドーンと打ち込む。それが見事にガッシャーン、とヒット。
ビヨーンと飛び出したハンマーが、え、あれ? みたいな、実に間抜けな眺めで、ふふん、と思った。
「この怜悧で灰色の脳細胞を持つ我は貴様の手の内を見切ったのじゃ。黄河のような寛大な心を持つ我を怒らせてしまったことを、せいぜい後悔するんじゃな」
とそのちょっと離れた隣では、やっぱり全然可愛くない、どころか、ちょっと苛っとする少年天使の石像を眺めながら、鳳華が、何か、
「おい、これは本当に天使なのか?」
とか何か、愕然と呟いていた。
「だいたい作り手の美的センスが伺えないんだが‥‥もう少し愛らしくはできなかったのか。全く。こういうものはだな。私をモデルにすれば万事解決だと‥‥」
と、またマイルドに若干ナルシスト発言が出始めたまさにその時。
ビヨーンと飛び出したゴム製ハンマーの攻撃が、ガッ、と。
「う」
アスタロトを脱いでいた鳳華の鳩尾に、ヒット。
「な、なにをする‥‥! この、美しい姫騎士たる私に、貴様如き醜い石像が、小癪な! 私は、かの麗しい姫騎士」
ビヨーン。ガッ。
「う」
鳩尾を押さえ、鳳華は、ちょっとたんま、みたいに石像の肩に手を置き、寄り掛かる。
「ま。まあ。何だ。あれだな。貴様も良く見ると、何というか、個性的な、愛敬のある顔と、言えないこともない」
って、ちょっと何か折れちゃいました、みたいに言った鳳華が、顔を上げるとそこには。
やっぱり何とも言えず苛っとくる天使の顔。
「こともないぞ! この野郎! さっさと壊してやるー!」
とか何か叫んだ鳳華の鳩尾に、またビヨーンとゴム製ハンマーが飛び出す、と同時に、背後から近づいていた終夜の、全力手刀が、ガッと、石像を叩き割る。
「よーしよし」
何もしてないけど、うんうん、みたいに偉そうに頷いた鳳華は、ハンマーを石像からちぎり取り、
「こんなもの、こうしてやる、こうしてやる!」
力の限り、踏みつけた。
とかいう仲間達をぼーっと眺めていた月野は、残った一体を見やり。
「製作者、間違いなく性格が悪いな‥‥」
その隣では大神が、
「っていうか残ったこれって、液体の奴じゃないの。液体って何だろ‥‥」
とか何かぼんやり呟き。
「‥‥飲めるの?」
暫くして、ポツン、と言った。
ちょっとその場が、シーンとする。
「え。じゃあ、飲んでみ」
「いや飲まないけどね」
「あ、そう」
月野は、ちょっと残念、みたいに顔を戻した。
「とりあえず何かキモいんだけど、この石像。もうさっさと壊しちゃわない?」
「だな」
月野は、その前に、と、混元傘を取り出し、バサッと開いた。
「お、用意いいじゃん」
「まあな。さ、入って入って」
そうして二人で相合傘。
続いて小銃「ヴァーミリオン」を取り出し、バン、と遠距離から、撃った。
ガシャーン、と弾丸を受けた石像が破裂し、びちゃあ、と何か、良く分からない液体が、飛ぶ。
慌てて下に向けた傘にも、バチバチ、とちょっと、飛んだ。
そっと下ろしてみて見ると、プン、とまず、変な匂いが鼻腔を突いた。
「いやもう、創作は自由だけどさ」
月野はそれを見やりながら、
「せめて他人に迷惑をかけないモノを作れよな」
呆れたように、呟いた。