●リプレイ本文
●囮部隊
今、傭兵達の前では輸送部隊が慌しく今回の任務で運搬する物資を車両に積み込んでいた。
「うわ〜、みんな忙しそうだね」
「今回の大規模作戦も味方の被害は尋常じゃないからね」
月森 花(
ga0053)と宗太郎=シルエイト(
ga4261)は作業中の兵士達の邪魔ないならないよう一緒にコンテナに座りながら雑談していた。
「補給は重要だそうですし、苦しい思いをしてる皆さんの為にも頑張りませんと」
「ええ、補給の流れはまさに血の流れに等しいですから、これ以上は邪魔させるわけには参りませんからね」
石動 小夜子(
ga0121)と望月 美汐(
gb6693)もお茶を飲みながら出発の準備が整うのを待っていた。何もする事がないならいざと言う時の為に力を蓄えておくのも仕事のうちだ。
「こういった嫌がらせは効果的ですけど、いざ自分達がやられてみると大変ですね」
地味で目立たない割にジワジワと効く戦略だとは知っていたが、やられる身になってその恐怖をさらに理解したフィルト=リンク(
gb5706)がしみじみと呟く。
「あ〜、面倒だな。いっそ、正面から来てくれたら分りやすくて楽なのに」
などと、ヒューイ・焔(
ga8434)がぼやく。
「面倒だからこそ俺達が呼ばれるたんだけどね」
と新条 拓那(
ga1294)が苦笑しながら応える。
「しかし、少数での護衛か、これは捨て駒になっても確実に届けろと言う事かな?」
月城 紗夜(
gb6417)などは少々自虐的な考えをしていた。だが、キメラが確実に出現するであろう危険地帯を行軍する数十両の車両からなる輸送部隊の護衛につく能力者が十名足らずではそれも無理からぬ事かも知れない。
「捨て駒のつもりはないのだがね」
傭兵達が声のした方をいっせいに振り向くとそこには今回の作戦の指揮官であるヘルマン・クレヴィング(gz0299)が立っていた。
「今回の任務は地味で危険ではある割に重要なものだ。残念ながら我々、一般兵の部隊では被害が増えるばかりでね。今回の作戦では君達を当てにさせてもらう」
「そんな言われ方すると手抜けないね」
焔の飄々とした物言いにクレヴィング大尉は苦笑すると綺麗な敬礼を傭兵達にした。
「では、よろしく頼む」
そう言うと準備の最終確認の為に大尉は車両の列へと向っていった。
「あ〜、せっかく宗太郎クンと久しぶりに一緒なのに浮かれてられないなぁ」
「なら、手早く終わらせて後で食事に行こう」
「うん!」
宗太郎の言葉に元気に返事をする花だった。
「どうやら、準備が整ったようだな」
今まで黙っていた瓜生 巴(
ga5119)がそう言って促すと視線の先では兵士達が各車両に乗り込んだり最終点検を行っている所だった。
「では、私達も準備するか」
そう言うと巴は自分の配置である先頭付近の車両へと向った。他の者もそれにならうようにそれぞれの配置につく。
やがて、出発の合図を受けて先頭車両から順に補給所を後にしたのだった。
●草原の狩人
一行は最初の襲撃予想地点である草原まで到達しようとしていた。
「地図によればそろそろのはずですね」
小夜子が双眼鏡を使いながら気持ちの良い風が凪ぐ草原を見渡していた。
「出来るなら、こういう場所はピクニックで来たいね」
拓那も双眼鏡を片手に兵士の運転するジープから周囲を警戒する。平和なら家族連れで遊びに来るには良い場所かもしれない。が、今はここには危険な怪物共がいるのだ。
「ならば、我らで怪物共を駆逐してやれば良いだけの話だ」
「確かに」
バイク状態のAUKVで随行している紗夜の堅い物言いに少しだけ苦笑がもれる。
「‥‥あれは? 西側の丘に何かいます!」
小夜子が示した方向にある低い丘の上に何か動物らしき影があった。
「ウオーーーーーーーーーーーン!!」
その影がいきなり遠吠えして輸送隊の方へ駆け出してくる。
「一匹? たったそれだけの数で‥‥」
「いや、北と南の方からもだ。タイプは犬か狼、数は二十ほどだ」
紗夜の言う通り双眼鏡を向けてみれば三方から迫ってくる肉食獣の群が見えた。しかも、その足は‥‥。
「早いな、ノロノロしてたら追いつかれる」
「まずは、前方の車両が距離を稼げる様にしないといけませんね」
「では、行くとするか!」
「厄介な前衛役は俺達が引き受けます。その為の能力者ですから。兵士の皆さんは無理はなさらず。折角ですしお互い楽しみましょ?」
その言葉に合せるかのように指揮官の号令の下で後方の車列が変化していく。機関銃や自動小銃を構えた兵士達がまだ離れているキメラに照準を着けていた。
「任務遂行の為だ排除する」
紗夜がそう言い放ちながら小銃の引き金に掛かる指に力を込めた。それに従うように一般兵達の銃からも銃弾が放たれさながら鉛弾の雨となってキメラ達に降り注ぐ。
だが、キメラ達もそれに応じてジグザグに動いて的をずらして攻撃が集中するのを避ける。そして、死角から飛び込んで来た一匹が兵員輸送車の一つに飛び掛った。
「ぐわぁ!」
接敵されてはいかな屈強な兵士でも何も出来ず車から叩き落される。
「くっ、来るなぁ!」
「グオゥ!」
「伏せて!」
自分が乗る車をキメラの飛び乗った輸送車に近付けてもらった小夜子が車から車へと飛び乗ると同時に蝉時雨をキメラの顔に全力で叩き込んだ。
「ギャウッ!」
そのままの勢いで転がり落ちたキメラに兵士達の怒りの篭った銃撃が降注ぎFFの許容量を越えた攻撃がキメラをただの肉塊にする。
「ちっ、このまま併走しながらでは埒が明かんか!?」
紗夜も銃を撃ち続けていたが走行しながらでは的確な攻撃を加えるのに無理があった。片手ではバイクのスピードを保つので精一杯だ。
「オウン!」
一方に気を取られている隙に銃を向けていない方向からキメラが体当りを仕掛けてくる。
「ちぃ!?」
吹き飛ばされて空中に投げ出された瞬間にリンドヴルムをアーマー形態に変化させて地面を転がる。
「調子に乗るな!」
追撃をかけようとして来たキメラに蛍火を叩き込んで一刀両断する。だが、その隙に別の個体が口を大きく開けて飛び掛ってくる。
(しまった!?)
だが、その口に生え並ぶ鋭い牙が紗夜に突き立てられる事は無かった。青白い電撃が空中に居たキメラを撃った。
「大丈夫だったかな? 手間が掛かるとは思ったけどこれはキッツイね」
いつの間にか車から降りた拓那がその手に超機械を構えて立っていた。見ればいくつかの車両も停止して兵士達が奮戦している所だった。
「いけるかい?」
「無論だ」
拓那の問いに答えた紗夜も立ち上がり小夜子も加えてキメラの足止めと迎撃へと向った。
的が大きかったのか紗夜が敵の攻撃に曝されて危くもあったが勝利する事が出来た。
●森林に響く音
「草原に残った方々は大丈夫でしょうか?」
本隊と一緒に森林地帯まで来た美汐が呟く。道を通っていると途中から折れている木や道の脇へと転がった車両の残骸が目に付く。
「どうやったらこうなるのかな?」
出来る限り固まらない様にした車列の中ほどで花が警戒しながら言うがその雰囲気は陰気な森のせいか少し鈍い。
「こういった視界の悪い森なら狙撃か‥‥それだと、移動する車に狙いをつけるのは難しいか」
宗太郎はそう言いながら頭上を見る。確かこの辺りで発見された車の残骸は上方から叩き潰された物が多いらしい。
しかし、自分達の通っている道の頭上以外には視線が通りそうな場所はほとんどない。と考えている所だった。
「あら? 何か聞えませんか?」
「何が?」
美汐の問いに花が大きな声で質問を返す。
「こう、なんというか、団扇を扇いだ時の音を大きくしたような音が」
「‥‥まさか!?」
美汐の言葉に花と宗太郎も木と木の隙間を探すのではなく耳を澄ましてみる。そうすると複数のバッサバッサという音が近付いていた。
「飛行タイプ!? でも」
「なるほど、何も空を飛ぶ生き物は鳥だけじゃないと言う事だよ花」
「本隊には先を急いで貰いましょう」
予定通りに役割を決めていたメンバーが速度を落として敵を迎え撃つ準備を整える。車両を分散して配置して盾とし、陣形を整える。花も木の陰に身を隠して敵を待った。
やがて、羽音がさらに大きくなり蛾や蝙蝠といった形のキメラが姿を現した。もっとも、通常の蛾や蝙蝠が全長三メートルを越えているなどありえない。
「キーーッ!」
キメラがガラスを擦り合せたような鳴き声を上げると口を開く。
「なんだ?」
宗太郎が呟いた次の瞬間、いきなり地面が爆ぜた。
「何あれ!? 宗太郎クン大丈夫!?」
「心配ない」
「目に見えないハンマーの様な物‥‥空気を圧縮した物ですか」
投石などと比べて有効射程は落ちるが弾が目に見えない分やっかいだ。証拠も残らないわけだ。
「なら、これ以上撃たれる前に叩き落すまでだ!」
宗太郎は近くにある木の幹を蹴って三角跳びの要領で敵の上へと躍り出る。
「キッ?」
「ランスは突撃だけじゃねぇんだよ! 喰らいな!!」
紅蓮衝撃で威力を増したエクスプロードが強く敵を打ち据えるが一撃では落ちない。
「なるほど、敵地で行動するのに耐久力を高めてるのか」
「ボクらに出会ったのが運の尽きだね」
覚醒状態になって金色に輝く花の瞳がキメラを確実に捉える。
「遅いよ」
そして、堅そうな胴体ではなく、目や羽の付根を狙い撃つ。
「こちらも迎撃に移ります」
美汐も敵に自由に飛ばれていては厄介とばかりにバハムートとマモンで敵の翼を撃ち抜いていく。そして、地面に落ちたキメラに一般兵達が的確に銃撃を加えて削っていく。
「これなら、なんと‥‥きゃあ!?」
さらに敵を撃ち落そうとした美汐の体に衝撃が走る。地面に落ちながらもキメラ達も負けじと空気弾を吐いてきたのだ。
そして、バランスを崩した拍子にトラックにめり込んだ所へさらに集中攻撃を加えられてやがて動けなくなる。
「ちっ、しまった!?」
仲間がやられた事で焦ったのか宗太郎もランスの一撃を外してしまい地面に降立った所に空気弾を撃たれ足止めを食らう。
「こっちは任せて!」
なんとか、自分に注意を向けていたキメラを倒した花が美汐の前で地面に這い蹲るキメラたちの前に立ちふさがる。
「ギィ!」
地上で機敏に動くには不向きな体を動かして空気弾を撃つ。
「汚い息をボクに吹きかるな!」
動きの鈍ったキメラの頭に向けて銃の引き金を引くと乾いた銃声の後、キメラ達の額に穴が開いた。
「なんとか、片付いたか」
その頃には宗太郎の方も敵を片付けていた。美汐を含めた怪我人を救助する為、二人は再び作業に従事する事となった。
●荒野の魔弾
「こちら瓜生だ。今の所は敵影は見つからない」
二つのポイントを何とか切り抜けた輸送隊本隊は最後の難所へと差掛ろうとしていた。
警戒のために速度を落とした本隊に先駆けて巴が一般兵を率いて偵察行動を行っていた。
(‥‥崖の上まで調べられれば良いのだけど)
だが、それに時間を掛けて敵に見付かっては本末転倒なので、道から見える場所を警戒する。道の両側には二十メートルほど離れて崖が存在した。
『こちら本隊です。もうすぐそちらに合流します』
無線機の向うからフィルトの声がした。やがて遠くからエンジンの音が聞えてくる。
いまだに敵の気配はない。このままでいてくれた方が良いのではないかと巴は思った。
やがて、二列に並んだ車の列が姿を見せる。後少しで合流という所で異変が起こった。
甲高い音と共に先頭の車両が蛇行して道を外れて急停止した。
「なんだ!?」
不自然な先頭車両の行動に焔が思わず声を上げる。また、先頭が停まったせいで他の車も停まってしまう。
「崖の上に敵影、囲まれてます!」
双眼鏡で素早く周囲を警戒したフィルトがいち早く敵を発見した。
「くっ、コソコソと隠れてたか私は右前方に向う」
巴はそういうが早いか素早く敵を射程に入る位置へ移動する。
「なら、俺は左側のヤツラをやる」
焔も自らの最大の攻撃を繰り出せるようにするために番天印で威嚇射撃を行いながら距離を詰めていく。
「正規兵のみなさんは正面の敵を!」
そう叫ぶとフィルトもリンドヴルムを纏って崖の方へと走り出した。
相手の狙撃手は耐久力の無さそうな細身で接近戦ならすぐに決着が付けられる様に思えた。だが、それは敵も予測していたのか狙撃手の前の空間が揺らいだと思うと盾と鎧で身を包んだ敵が現れた。
「ちっ! 光学迷彩ってやつかよ、つくづく隠れるのが好きなヤツラだな!?」
焔が目の前に突然現れたキメラの攻撃の片方を受け流し、もう片方を避ける。
狙撃手と距離を置いている者達に鎧姿のキメラは突撃を仕掛けてくる。
「ふん、バカの一つ覚えに接近戦して足止めか? ならば、貴様が到達する前に狙撃手を倒せば良いだけだ」
巴は冷静に狙いを定めたエネルギーガンで狙撃手を撃ち抜く。もともと耐久性は低いのかすぐに体がボロボロになって動きを止めた。更に残る突撃して来た鎧キメラを冷静に処理していく。
「愚かなだな」
「たくっ、堅すぎんだよ!」
焔が握るカミツレが赤く輝き切れ味を増す。それを全力で叩き込んで頑強な鎧ごと敵を両断する。さらにもう一体、崖上で接敵される心配のなかったのとペアのもう一体を援護を受けながら捌く。
「くっ、固い敵とは厄介ですね」
竜の翼で崖に上がり狙撃手を早々に倒したは良いが鎧キメラの方との決着がなかなかつかなかった。
フィルトは被害を最小限にする為に盾で攻撃を受けつつ反撃していたが元の防御力が高いのか小さく揺れるだけでなかなか倒れる様子がない。
「援護する。さっさと倒すぞ」
「すいません、助かります」
正面に居た敵は一般部隊の方で何とかなったので巴もまだ時間のかかりそうなフィルトの方へ援護に回る。
ここに居たキメラ達の戦術は壁役と狙撃に分かれての包囲殲滅ではあったが狙撃手が潰れた今、完全に手数と能力者の爆発的な攻撃力に戦況は傾きつつあった。
「これで最後だ!」
一体だけ本隊に攻撃を仕掛けていた狙撃手に焔が全力を込めた一撃を見舞う。既に自らを守る壁がなければ枯れ木の様なものだった。あっさりと両断される。
「こちらも終わりました。被害状況の確認を」
フィルト達の方の戦闘も終息していた。動きを止めた所に集中攻撃を受けて沈んだのだ。
こうして全部のポイントに巣食っていたキメラは退治された。
●結果
やがて短くも険しい道程を補給部隊は終えた。数名の一般兵の死者と数十名の負傷者、能力者も一名重傷という結果を彼らは残した。
だが、当初は部隊全体の二割から三割の被害を想定していた事を考えれば大した成果だ。
時に残酷な様でも軍隊ではあえて多数を生かす為に少数を犠牲にするような作戦が取られる。その是非は別として。
だが、その犠牲なくしては今の地球の状況も維持できないのだ。今回の作戦でも能力者達はツライ時代が続く事を予感させられずにいられなかった。
了