タイトル:首が来たりて火を招くマスター:三橋 優

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/13 10:06

●オープニング本文


 よう、オレの名前はアレクサンドル。
 ULT末端の能力者だぜ!
 未知のキメラの調査には常に死の危険がつきまとうが、これも世のため人のため。
 さあて今回のキメラはどんな能力を持っているんだ?

 場所は、ほとんどの人間が避難しちまった町。アジア全体の戦線の影響だな。
 キメラは夜しか出ないと聞いてるが‥‥
 おう、来たな。
 バッサバッサと、巨大な耳を翼のようにして飛んでくる生首。
 物凄い満面の笑顔。妙にカンに触るタイプの笑顔だ。
 ひのふのみ‥‥6匹か。殲滅は無理だろう。
 だが。
 これから雇う傭兵達のために少しでも情報を掴んどくのが、いいULT職員ってもんだ。
 末端とはいえ『未知生物対策組織』の看板を背負ってる身。
 仲間に連絡は入れたし、まずは1匹だけ引き付けたいところだが‥‥


 そのキメラの名は飛頭蛮。
 元となったのは中国妖怪、伝承では首が離れている間に体を隠してしまえば退治できるというが、このキメラに体なんてものは無い。
「いやオレにも中国人の血は流れてるんだが、飛頭蛮が火を吹くなんてお伽噺は聞いた事もないぜ!」
 なぜか笑いながら言うアレクサンドル。
 全身に包帯を巻いた、と言うとギャグ漫画のようだが、現実に見ると痛々しい。
 皮膚呼吸ができなくなるほどの火傷というから、重傷だったのだろう。
 赤毛の大男は車椅子に乗って解説を続けてくれる。
「吹いてくる範囲はかなり広い。まとまっているとヤバいようだ」
 射程はおよそ20m。
 上から扇状にまんべんなく吹き付けてくるという。
「加えて、獣くらいの知能はあるらしい。群れでまとまって行動しているから、複数を相手にする事になるぜ」
 その結果が、この大火傷というわけだ。

 しかし‥‥
 こんな重体で解説をしてくれるとは。
「なあに、いつもUPCのオペレーターばかりじゃつまらねえだろう?」
 そんな理由かよ。
 白い歯を見せるな。サムズアップするな。ノリで体を酷使するな。
 いいから大人しく休んでおきなさい。
「おっと最後にひとつ大事な情報だ。やつらは耳を翼のようにして飛んでるように見えるが、シエルクラインで吹き飛ばしてやっても平気で飛んでいたぜ」
 地上に落とすという戦術は不可能。
 あくまでも空中にいる相手を片付けなければならないのだ。

 キメラはエサを求めて彷徨っているらしく、食料が荒らされていた。
 また、人は『ほとんど』いない町だが、完全に誰もいないわけではない。
 ましてこの町は避難民が帰ってくる場所だ。
 戦線が安定してくれば、すぐにでも帰りたい者は沢山いるだろう。
 早期殲滅を頼む。

●参加者一覧

野良 希雪(ga4401
23歳・♀・ER
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
優(ga8480
23歳・♀・DF
紫檀卯月(gb0890
20歳・♂・SN
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG
鳳(gb3210
19歳・♂・HD
アブド・アル・アズラム(gb3526
23歳・♂・EP

●リプレイ本文

 すっかり紅葉した山々を横目の見つつ、傭兵達はその町に到着した。
「さって、怪談キメラの殲滅、頑張りますかね」
 大きく伸びをしながら周防 誠(ga7131)が呟く。
 高速移動艇から降りてすぐまた列車に乗り2時間。長かった。
 列車は途中からほぼ貸切だったが。
「しかし列車が動き始めているという事は、人が戻って来られる環境が整いつつある証です」
「そうですね。この町に戻ってくる住民のために一肌脱ぎましょう」
 優(ga8480)と紫檀卯月(gb0890)。
 避難民が帰ってくる町を開放し安全を確保する。
 それが今回の目的だ。
「敵は空飛ぶ生首ですか‥‥気持ち悪いですね〜‥‥夢に出てこられても困るので駆除です駆除」
 ゴキブリ退治でもするかのように気合を入れている野良 希雪(ga4401)。
「フェイトウマン(飛頭蛮)‥‥俺も知っとるけど、確かに火を吐くっちゅう話は聞いたことあらへん」
 まあキメラなんやし不思議やないか、と自己完結し、鳳(gb3210)は皆と一緒に町並みを見渡した。
 町を一望できる珍しい駅。

「それじゃ、昼のうちにできる事をやっちゃおうか」
 赤崎羽矢子(gb2140)が元気よく言う。
 作戦は充分に練った。
「町に残っている数少ない住民に勧告して‥‥」
 アブド・アル・アズラム(gb3526)が背中に盾を背負い、歩き始める。
「大デパートの地下駐車場に誘き寄せて殲滅、ですね」
 大きな鍵束を取り出して言うリリィ・スノー(gb2996)。
 鍵束の中にはかなり特殊な鍵もある。
 あらかじめデパートの持ち主(避難地区にいた)に許可をもらい、使わせてもらう事にしたのだ。
 被害はUPCが弁償すると約束した‥‥が。
「あんまり壊し過ぎると報酬から引かれるらしいですから、気を付けましょう‥‥」


 希雪はカチカチとスイッチをいじり、地下駐車場の機能が問題なく使える事を確認していた。
 戦闘のために照明類。火災予防のためにスプリンクラー。ついでに逃がさないための防火シャッター。
「あ、お帰りなさい。お疲れ様ですー」
 そこにアブトが大量の品物を持ち帰ってきた。
「看板に『キャンプ場』の文字を見つけたんでね。使えそうなものを借りてきた」
 金網と串と鉄板を駐車場のコンクリートの上に広げてゆく。
 相手が肉弾攻撃メインのキメラだと壊される可能性もあるが、今回はまず大丈夫だろう。
 あとで洗って返しておけばよい。
「おっ、いいものが来てるじゃない」
 さらに羽矢子、鳳と、住民に避難を呼びかけに行ったメンバーが帰ってくる。
「肉類買うて来たでー。ちいと高かったけど、この町の状況じゃしゃあないな」
 ほとんどの住民は避難していたが、エサをやらなければいけないという水族館の職員、水力発電所の総管理者、そしてそれらの人々に食料を供給する小売店主など、意外と人は残っていた。
 いつキメラが来てもおかしくないという状況で、自らの役目を優先させた人々。
 その目には輝きがあった。
「こちらも回ってきたが、やはり避難する意思は無かったな」
「まあ今までもキメラがうろついてて無事だったわけだし、大丈夫だと思うよ」
「ULTから、キメラが食い物狙ってる情報は説明した言うとったからな」
 ここで食べ物の匂いをさせれば、まず間違いなくキメラはここを狙ってくるだろう。
 そこを叩く。

「地下から順番に、見回り完了しました」
「窓も開けて日光を入れたりしてみましたが、キメラが潜んでる様子はありませんでした」
 リリィ、優、そして卯月と誠は、デパート内を隅から隅まで探索してきた。
 誘き寄せるはずが実は内部にいたなんて事になったら笑い事では済まないかも知れない。
(「この明るさなら、照明銃は必要ありませんね」)
 駐車場が広いので手持ちの照明銃を使う事も考えていた卯月‥‥しかし‥‥
 それなりに持続するはずだが、打ち上げ距離200m。間違いなく壁に激突する。
 それでどれほど持続するか、そもそも眩し過ぎて照明としての役割は果たせるのか、不確定要素も多かったので使わずに済めばその方が良い。
 あいにく今回は1つしか持って来ていないので、試しに使ってみるというわけにも行かない。
「それじゃ、車が入ってくる一番大きな出入り口だけ開けて、西側の換気扇だけ回します」
 希雪により他の出入り口は封鎖され、換気扇も一部が回るのみとなった。
 凍りついた肉が自然解凍される頃には日が暮れるだろう。
 ある者は戦いにそなえて眠りにつき、ある者は燃料となる枯れ木を取りに行く。

「あ、希雪の後ろに生首ーッ!?」
「ひゃわあああ!?」
 ‥‥それなりに小粋のきいたジョーク(イタズラ)なども交えつつ。
「うう、羽矢子さんひどいです‥‥」
「ごめんごめんってば」



 ‥‥夜。
 まだ西の空はぼんやりと明るく紫色に染まっているが、もう陽の光とは言えない。
 やつらがいつ来るか。
 羽矢子、アブド、優の3人は保安室に身を潜めて待つ。
 シャッターは手動に切り替えてもらってあるため、1人でも体重をかけて下ろせば簡単に出口を封鎖できる。
 地下駐車場というのはつくづく待ち伏せに向いた場所だ。

 リリィ、鳳、誠、卯月は狙撃役。
 二方向からクロスするような射線を取り、それぞれ柱の影に潜む。
 特に誠と卯月の潜んだ場所からは、デパート内へ続く自動ドアのガラスにうまくバーベキューセットが反射して見える。
 そういう風にセッティングしたのだ。

「少し食べちゃっても怒られませんかね‥‥いやいや我慢我慢‥‥」
 直後にグ〜キュルルとお腹を鳴らす希雪。
 時々食べ物に近付いて火をたやさぬようにしているので、この美味しそうな香りがキツイ。
「‥‥無理しないで食べてもいいと思いますよ?」
「‥‥俺の弁当、少し食べる?」
 リリィと鳳から助け舟。
 ひとかけらだけ。
 ぱくっと。

 その瞬間、無線機から羽矢子の声が入り、希雪の頭から飛び出たアホ毛が黒く染まって3本に増えた。
「は!?」
 覚醒による変調である。
 狙撃班の4人は物凄くツッコミを入れたかったが、そういう場合でもない。
 鳳は素早くリンドヴルムを装着。
 息を潜める。

「お客さんのご来場だよ。最後の晩餐(ディナー)だ。最高にもてなしたげて頂戴」
 羽矢子が連絡を終えると同時に、見張っていた3人は動く。
 キメラは6匹、全部揃っている。
 うまく閉じ込められればいいが。
 狙撃班の射撃音がひとつでも聞こえたら即座に動くのだ。

「敵に気づかれる前に必殺の一撃を‥‥」
 卯月が自動ドアのガラスを凝視していると、ふよふよとキメラ達が現れた。
 緊張感のなさそうな、人を馬鹿にしたような、やっぱりカンに障る笑顔。
「のんきに飛んでな‥‥ついでに天国まで飛んでけ」
 覚醒と同時に口調も変わる卯月。
 かたや誠の方は、肉体がきわめて安定した状態に変化していた。
 スナイパーライフルを構え、隠密潜行。
 呼吸はわずか。脈拍も安定。汗など出ようはずもない。

(「あの顔見てるとイラッとしますね‥‥」)
 リリィの両腕から青い光の幾何学模様が浮かび上がり、アンチシペイターライフルに伝播。
 テレスコピックサイトも正常に動作。
 鳳の得物も同じアンチシペイターライフル。こちらは竜の瞳を仕様しておりリンドヴルムの頭部から火花のようなものが見える。

 ふわり、と希雪の超機械が輝き、卯月と誠のスナイパーライフルに光がともる。
 そして最初の飛頭蛮がエサに食らいつく。
 2番目、3番目と群がり始めた‥‥
 それが開戦の合図。

 2つの銃声はほぼ同時に。一瞬遅れてもう1つ、さらにもう一瞬遅れて1つ。
「フンッ!」
 アブドがシャッターに掴まり、ガラガラと下ろしながらシエルクラインの弾をばらまく。
 当然、近付けるわけもない。
 そして優が月詠を振りかぶる。
「ハッ!」
 剣閃が刃となり、キメラの1体にめり込んだ。
 ここでシャッターが完全に閉まる。
「残念だけどこの街はあんた達の居場所じゃないんだ。帰って来る人達の為にも、そろそろご退場願おうか!」
 羽矢子の背には猛禽の翼。
 もはやキメラに逃げ場は無い。


 誠の強弾撃を用いた狙撃と、鳳が貫通弾を使った最初の狙撃。
 さらにリリィと卯月の鋭覚狙撃。
 うまい事に2人ずつが同じ対象を、2匹を貫いていた。
 無論即死。
 満面の笑顔をはりつかせたまま絶命。
「よっしゃ!」
 1体でも2体でも、初撃で落とせば有利になる。
 鳳は超機械に持ち替え、味方の隙間を埋めるようにリンドヴルムで走った。
 ひらひらと幾人もの攻撃をかわしながら飛ぶキメラ達。
 そのうち1匹が‥‥
「‥‥!」
 業火と呼んでもさしつかえないくらいの炎を吐いた。
 天井が低いという事は相手の動きを阻害するが、同時に炎が避けづらくもなる。
 陰から狙撃していたリリィと卯月、そして突入してきた羽矢子も巻き込んで、炎が壁や天井を舐める。
 避ける避けないの話ではない、全面攻撃だ。
 射程外から攻撃しようとしても相手の動きが速すぎる。
(「確実に避ける事は、諦めるしか‥‥」)
 リリィは回避を諦め、とにかく味方同士の距離を開けて被害を減らすことにした。
 その時、蛍光灯がひとつ熱に耐え切れず割れる。
「あわわ、これはヤバイですね‥‥」
 希雪がすかさず保安室に駆け込み‥‥
 あらかじめ作っておいた導線で火花を散らし、スプリンクラーの間近で煙を上げさせる。
 もちろんスプリンクラーは煙に反応し、猛烈な勢いで散水を始めた。

「‥‥このっ!」
 瞬速縮地で横に回り込み、お返しとばかりに獣突で弾き飛ばす羽矢子。
 床に吹っ飛ばされたキメラが飛行姿勢を取り戻す前に、リリィの鋭覚狙撃がとどめを刺した。
 さらに誠、安定した狙撃で、優のソニックブームにより傷ついた個体を貫く。
 あと‥‥2匹。
 しかしその2匹は、まったく同時に炎を吐き始める。
「あづっ!」
「く‥‥っ!」
 入り口近くで牽制を続けるアブドから、保安室のドアの側にいた希雪まで、全員巻き込むほどの炎。
 スプリンクラーをもってしても、勢いは消せない。
 だが‥‥
「ハアァッ!」
 気合一閃。
 優が炎ごと斬るつもりで放ったソニックブームが、1匹の頭蓋を断ち割る。
「いかに高速でも、曲がる時は弧を描きます‥‥ヘルメットワームの慣性無視でもない限りは。そこを狙えば‥‥」
 炎を全身に受けてしまった優だが、とにかくあと1匹!
 鳳の超機械が空中の一点に電磁波を発生させる。
 当たりはしなかったが、それは有効な牽制になった。
 そしてアブドの弾幕がいくつもキメラをかすめる。
 反撃の炎が再び広範囲を薙ぎ払い、また何人も巻き込まれたが、自身障壁で覚悟を決めているアブドの牽制は止まない。
「行くよ!」
「了解です」
 羽矢子と優が声をかけ合い、アブドの弾幕が途切れた次の瞬間に跳んだ。
 再び大ジャンプからの獣突を繰り出し、キメラを壁にブチ当てる羽矢子。
「これで‥‥!」
 渾身の力を込め、流し斬りを放つ優。
 口を切り裂かれ大きく吹っ飛びながらもまだ生きていたキメラに、卯月の最後の狙撃が突き刺さった。


「ぶ、不気味過ぎます‥‥」
 キメラ達はどれもこれも、満面の笑顔で息絶えている。
 正直言って触りたくないがここには自分達しかいない。
 キメラのサンプルも持ち帰らなければならないだろうし‥‥
 嫌々ながら首を運び出す傭兵達。
 キャンプ場から借りてきた備品も洗って返しておかねばなるまい。
 この駐車場もちょっとススがついてしまっている、少しは磨いておこう。
 跡を濁さず。

「またみんな酷くやられましたね〜」
 周囲ではなく、傭兵達自身の被害はなかなかのものだ。
 誠、優、羽矢子の救急セット、それに希雪の練成治療でそれぞれ治療している。
 全員がそれなりに攻撃を受けているというのは珍しい。
 この地下駐車場という場所のせいだが。
 しかし、敵を追い詰めて殲滅する事ができたのだから、あながち場所選択の失敗とも言えないだろう。
「それじゃ、他にキメラがいないかみんなで一通り見回ってみない?」
「はい、そのつもりです」
 羽矢子とリリィ。
 万が一という事もある、もしかしたら『6体のキメラ』がもう1グループいるかも知れない。
 さいわいまだ夜の7時前。住民に聞いてみる事もできるだろう。
 それで何も異常がなければ、この仕事は成功だ。

 さあ、帰って来る人達の安心のために、もうひと頑張り。