●リプレイ本文
●君の努力は忘れない
「いい仕事してます。このキメラには火属性の武器が有効そうです」
瓜生 巴(
ga5119)は地元のUPC軍管轄の病院で資料に目を通す。
「命を半分くらい賭けて集めた情報だぜ、借りを返してくれなきゃこまるぜ」
包帯を巻いた姿で依頼主の徐・アレクサンドルは巴に答えた。
かなり元気そうである。
『足止めしてくれた方‥‥大丈夫‥‥そうでなによりです』
クラリア・レスタント(
gb4258)はシュシュッと分厚い手帳に文字を書いた。
「色々‥‥有難うございました‥‥怪我は‥‥大丈夫‥‥ですか?」
アレクの怪我を心配していたルアム フロンティア(
ga4347)は水をもって様子を見に来る。
「怪我も水も大丈夫だ。お前達も気をつけよよ? ミイラを取りにいきたくはないぜ」
「ああ、このままでは二次災害も免れん。事態は早急に収集させなければならない」
自らに起こった出来事を思い返しながら、アレクがぼやくとリヴァル・クロウ(
gb2337)が眼鏡を直しながら答えた。
「情報はある程度集まりました。あとは現地で決着をつけましょう」
巴がトントンと資料を花瓶の置いてある台の上で整えるとアレクに手渡す。
「吸血植物か‥‥まるで吸血鬼‥‥ん? なるほど、吸血木か! ‥‥くだらな‥‥」
アレクに渡された報告書をちらっと見た黒羽 空(
gb4248)が思わず突っ込みを入れた。
「俺でもいわんかったのに‥‥空さん芸人なんやね?」
黒羽の一人ぼけ突っ込みを見ていた鳳(
gb3210)が驚き半分、呆れ半分で問う。
「い、今のは違う‥‥別に狙ったわけじゃないんだ‥‥ほら、それよりもさっさと行こう。時間がたつほどに被害は酷くなるんだ」
誤魔化すように黒羽は仲間を捲くし立てると、一人先にアレクの病室を後にするのだった。
●死する森
「ぃ‥‥ゃ‥‥」
クラリアの口から言葉が漏れる。
両親を殺され、言葉を失ったはずの彼女を突き動かすほどの光景が当たりには広がっていた。
冬という季節であるにしても異常なほどに殺風景であり、命というものが感じられない。
「乾燥していますね‥‥となれば、ここはもうキメラの被害にあった場所ということになります」
巴が唾をゴクリと飲み込みながら、肌と目で乾燥具合を確認した。
その間にもクラリアは何かを引きずったかのような後を見つけると、背中に背負った大鎌「サリエル」を揺らし、森の中を駆ける。
「ちょっと、まってぇな!」
クラリアの後を鳳がAU−KVに乗りながら追う。
「相手は水をかなり体内にためているように思います。水の弾丸で出したとしても、この森の乾燥具合からしてすぐになくなるとは思えませんから気をつけなきゃいけませんよ」
走っていく二人の背に巴が両手を口元に当てて大きく叫んだ。
高々一回声を出しただけだというのに口の中がカラカラになってくる。
「短期決戦するしかないですね」
ミネラルウォーターを口に含めると、巴もその後を追いかけた。
動きが遅くなっているのか、ずるずると太い根地面を抉り、枝を周囲の木々に差し込んでは枯らしていく。
「こレ以上はやラせない!」
覚醒したクラリアが片言の『言葉』で吼えた。
絶望を超えた強い怒りが彼女に失われたはずの言葉をよみがえらせている。
シルフィードがきらめき、差し込まれた木の枝を狙った。
『俺もいくで! おまえさんにぴったりの武器をもっているんやっ!』
同じく、鳳が装甲形態からアーマー形態へAU−KVを変形させ、槍斧「ドライグ」を振り回し反対側の道にある木の枝を斬り裂く。
枝を切り裂かれたことで、動く怪樹のキメラは能力者達の存在に気づいた。
幹がぱっくり割れて、水弾が勢い良く鳳とクラリアに向けて放たれる。
『おぉ、木がうごいとる‥‥小飛虎に追いついてこられるなら、来てみぃや!』
AU−KV「リンドヴルム」の走輪が回転し、水弾の直撃を避けた。
「そのまま惹きつけてくださいね、挟み撃ちが成功しますから‥‥」
鳳が避けると共に対面に回り込んだ巴の『レイ・エンチャント』によって強化されたエネルギーガンが枝を更に撃ち捨て、他の能力者達もキメラを挟むように動く。
死に逝く森にて、お互い生を求めてぶつかり始めた。
●仲間と共にあって‥‥
(「いくら水分を取っても‥‥足りないなんて‥‥可哀想に‥‥でも‥‥森を護らなきゃ‥‥」)
ルアムはほんの少し前までは青々としていた木々の干からびた姿を目を閉じることで記憶し、目を開いて敵を見る。
「リヴァル、4時!」
『練成弱体』を怪樹キメラにかけつつ、ルアムは大きく指示をだした。
幅10mまでの木々が根や伸びた枝により水分を吸われては乾燥している。
人体の7割は水分であり、それを吸われるということは死に直面する事態だ。
リヴァルがルアムにいわれた方向に注意を寄せれば、怪樹キメラの根が鞭のようにしなって襲い掛かってくる。
「かなりのパワーのようだが‥‥見切れていればどうということは無い」
月詠をもってリヴァルは怪樹キメラの攻撃を弾いた。
しなる先が肩口を傷つけるが、彼の顔は余裕を崩してはいない。
「でかいなー‥‥この太さじゃ『スマッシュ』まで使わないと切れそうにないね」
リヴァルが弾いた根をそのまま黒羽が蛍火による『スマッシュ』と『円閃』によって斬り落とした。
ビチビチと根元が動き、痛みを受けている素振りを見せる。
顔もなければ声も出さないキメラのため、果たしでどれだけの効果がでているかはわからなかった。
「このままラッシュ‥‥っと! あたらないなー。何処を狙っているのさ?」
根を一本斬り、そのまま突っ込んでいこうよする空へ怪樹キメラの枝が何本もの槍のようになって向かってくる。
それを曲芸をするかのように空は避けていった。
覚醒効果によって名前を示すような黒い羽を生やした黒羽はまるで堕天使のようにも見える。
「あまり遊ぶな、油断しているとやられるぞ」
リヴァルは黒羽へ注意をしながら月詠を振るい確実に根の攻撃を弾きつづけた。
二人の距離は声も届き、危ないときはリヴァルが割り込めるほどに近い。
「空、真上」
「上!?」
ルアムの叫びに黒羽が思わず上を向く。
大きく上に広がっていた枝が三叉の槍のようになり真上から串刺しするかのように落ちてきていた。
「だから、遊ぶなといったはずだ‥‥ちっ、味なマネを」
黒羽を押しのけてリヴァルが立ち真上からの攻撃を受け持つ槍のようになっていた木の枝がきゅるりと鞭のように形を変えてリヴァルを縛り付ける。
「リヴァルさんゴメン!」
自分の不注意でリヴァルに被害を出したことを謝り、黒羽が『円閃』でもって枝を裂いた。
「上も下も広がっていて面倒だ‥‥本体を中心に狙おう。ルーク、打ち合わせていた技を試すぞ」
「え、本当‥‥いいの? ‥‥大丈夫?」
リヴァルが打ち合わせていた作戦の実行をルアムに打診する。
実験的要素も強いが少しでも攻撃に回る人員を増やしたいというのもあった。
時間をあまりかけるわけにはいかない。
「‥‥ごめん」
「ちっ、水弾か‥‥今だっ!」
枝から解放されたリヴァルが幹へ向かおうとすると先ほどの言葉を理解していたのか水弾がリヴァルに向かって飛んできた。
多少水弾をくらいながらも木の幹まで進み、月詠による『豪破斬撃』が幅1mはあるかという幹に食い込む。
そのタイミングでルアムの超機械「PB」とよばれる赤い箱の中から、電磁波が放たれて怪樹キメラにダメージを与えた。
「ためらう必要はなくなったか‥‥ルーク、そのまま攻撃をしてくれ」
「うん‥‥ありがとう」
リヴァルの声を聞き、ルアムはふっと頬を緩ませると超機械による攻撃を続けだす。
力を貸してくれる仲間のありがたさを感じた瞬間だった。
●Rush! Rush! Slash!
ルアムが幹に電磁波攻撃を与えたためか、怪樹キメラの動きがさらに鈍りはじめる。
「突き刺シ引き裂ク!」
リヴァル達の対面では背中の大鎌「サリエル」を取り出したクラリアが大きく怒りを表して踏み込んだ。
『円閃』と『二連撃』と『スマッシュ』による回転して尖端で突き刺して、引き裂く。
幹に深く大きな切れ込みがでるも、そこから水弾が飛び出してクラリアを吹き飛ばした。
『ルアムはん、手当てをよろしゅう! 俺がその間もたすでな!』
後ろを振り向かずに鳳がルアムに呼びかけ、槍斧「ドライグ」でもって幹を傷つけだす。
「枝も大分落ちてますし、水弾をだすことで弱りを見せているようです。こっちの水分を奪われないように気をつけてください」
広がっている枝をちまちまとエネルギーガンで落とし続けている巴が誰にともなく話した。
黒羽とリヴァルもそのまま幹を刻みだし、木片が当たりに飛び散る。
「のノくらいデ!」
「無理を‥‥しないでください。今、『練成治癒』を‥‥かけます」
立ち上がろうとするクラリアを手当てしたルアムはそのままリヴァルや黒羽に『練成強化』もかけ始めた。
「ありがとうルーク」
「おっけー、このままトドメまでラッシュかけるよ!」
更なる力を得た二人が各々の刃と共に怪樹キメラの幹を斬る。
幾重にも刻まれた傷跡からは水弾が迸り、接近を阻んだ。
だが、戦闘を続けていればパターンは読めるものであり、もはや脅威とはいえない。
リヴァル達の方へ攻撃が集中しだしたのを見た鳳は間合いを取り、『竜の爪』をかけた。
「あぁアァッ!」
クラリアが残った枝や根を切り落とし、鳳の道を開く。
『ありがとな! とどめやっ!』
小飛虎の走輪が唸り、回転数を上昇させていった。
槍斧「ドライグ」を両手でしっかりと持ち、腰に当てて固定する。
『これで仕舞いや〜!』
ブレーキをはずし、抉れた地面を砂煙を上げながら鳳が怪樹キメラに向かって突撃した。
尖った先が幹に突き刺さり止まるも、さらに加速して押し込む。
ミシミシと音を立て、刺さった部分から亀裂が広がった。
鳳はぐっと手に力を込めてさらに得物を押し込む。
バキっと大きな音が一度響くと続けざまにバキバキと鳴り響き、4mの怪樹キメラに大きな裂け目が生えて倒れた。
暴れていた根の動きが止まり、枝がしおれるように下がっていく。
爆発を警戒して能力者達が間合いを取って下がると、バキィと一際大きな音がでた。
「気をつけてください、きっと爆発を‥‥」
巴が警戒を呼びかけると水が裂け目からあふれ出し、キメラが通った道に沿って川になっていく。
「水がまた土や空に帰っていく‥‥」
黒羽が水を眺め、乾燥しなくなった空気を思いっきり吸い込んだ。
ちゃぷちゃぷと流れる川に足を入れながら、倒れた怪樹キメラにクラリアが一人近づく。
水が溢れるほどに枯れていき、死んでいく姿の上にクラリアの涙が零れ落ちた。
廻りゆく命を感じての涙は死ぬゆく体に静かに染みゆく。
一人、また一人とクラリアを残して能力者達はその場から離れていくのだった。
●水が美味い
「あー、水もう一杯!」
ミネラルウォーターをぐびっと飲んだ黒羽がレストランでそんな注文をする。
店員にとっては迷惑かもしれないが、能力者達に乗っては何よりも欲しいものだった。
「実験が成功してよかったな、ルーク」
「僕も‥‥リヴァルに被害がなくてよかった‥‥」
同じテーブルで水を飲みつつルアムとリヴァルは互いを労う。
「良く無事で帰ってきたな。さすが歴戦の傭兵といったところか?」
怪我も治り動けるようになったアレクがレストランに顔をだし、能力者たちに近づいた。
「もう動いても大丈夫なんですね?」
景気良くスキルを使った巴が疲れた顔でアレクを出迎える。
「エミタの力は便利なものだな。本当によ‥‥乾燥した森は水さえ与えればなんとか戻せそうだが、完全に死滅した部分は植えなおしが必要になるそうだ」
「あのキメラも制御さえできれば緑化に貢献できたかもしれませんね。水分の貯蓄もできるのならなおさらですが」
からからに渇いた巴の喉を氷で冷えた水が潤した。
水は生命にとって必要なものであり、それを自由に操れるのならば生命の維持にも役に立つだろう。
「制御さえ、できればな? 制御できている間はいいが、ああやって暴走されたらそれこそお仕舞いだ。自然は自然のままがいい。そんな教訓を学んだ気がする」
アレクはもうコリゴリといった風に肩を竦めた。
「あのキメラも可愛そう‥‥きっと‥‥いくら水分を取っても足りなくて‥‥ああいうことをしたと思うから」
ルアムは水を飲みつつ窓の外をみる。
「生きるために動いているだけなのに潰しあわなければならないか‥‥もし、そうだとしたらやるせないな」
リヴァルもつられて外を見て呟いた。
世界では生きるために戦っている人類がいる。
だが、バグアに故郷や家族を殺され復讐するために戦うものもいる。
人の数だけ戦いの形はあるが、正しいといえる戦いはあるのだろうか。
自然と闘った彼らはそんなことを少しの間考えたのだった。
<代筆:橘真斗>