●リプレイ本文
サヌキのクニを一望できる天守閣。
ビームナギナタで武装した、袴にたすき姿の衛視と挨拶を交わし、家老はその部屋に踏み入った。
パールホワイトの立て襟のカフスシャツの上からロイヤルブラックの艶無しのフロックコートと、いきなり周辺と世界が違う大殿・UNKNOWN(
ga4276)の姿にこめかみを揉みほぐす。
一応、皮靴で畳の上に立つ気は無いのか、UNKNOWNは板張りの廊下に一歩出て城下を見下ろしている。
「大殿‥‥既に伝令より聞き及びのことと存じますが、牛鬼が出現いたしました」
「で、あるか」
口元の微笑は絶やさず、しかしいつもの黒帽子についた丁髷が超絶シュール。
いつものってなんだっけ。
もう既に何がなんだか。
家老はツッコミたい衝動を必死に押さえ、引き続き問いかけた。
「タテヤマのクニ、カチヤマのクニからも、戦力が集まっております。多少内陸とはいえ我が城も危険区域」
「で、あるか」
喋っている間に床の下から出現した司令官用椅子に腰かけ、城の手摺に足を載せてしまうUNKNOWN。
体の動作は、『安穏』と書かれた扇子を悠々と動かすのみ。
「‥‥我が城からも戦力を出すべきかと存じます」
この城の地下には25機の大名ロボが眠っている。
伝説級の力を持つものも数多く、特に1機、本当に伝説そのものとなった機体もある。
見ていないところで勝手に動き回っているという話も聞くが‥‥
とにかく、この城の武力は半端ではないのだ。
UNKNOWNの返答やいかに。
「‥‥よきにはからえ」
乗る気ねぇ。
家老は泣きながら去って行った。
この城で大名ロボを扱えるのは殿だけなのだ。
遠くに見える沿岸の景色。
確かに、何機か大名ロボが既に発進しているのが見える。
UNKNOWNの深遠な思考は何人たりとも覗くことかなわず。
煙管‥‥ではなくタバコの紫煙が高く上がってゆく。
空は、荒れる気配を見せていた。
所変わってカチヤマのクニを望む城。
神崎奈々は何人もの伝令を走らせていた。
「鳳覚羅(
gb3095)! 覚羅はいませんか!」
お庭番衆のうちの鴉天狗を呼ぶ奈々。
他の城へのしらせの手紙をしたためつつ、少し時間を置いてもう一度。
「覚羅はいますか!」
「はっ、ここに」
バサリと羽の音をさせ、1羽の鴉が手すりに降り立った。
常日頃から空よりこのクニを見守っている覚羅である。
既に牛鬼の姿も視認しているだろう。
「牛鬼の姿は見ていますわね? 『藻』館様にお伝えください。全『藻』庭番衆の力が必要です、と」
「承知‥‥」
ついでに。
「リゼット・ランドルフ(
ga5171)には既に伝書を頼みましたが‥‥また噛んでいるやも知れませぬゆえ」
「‥‥はい」
同僚の姿を思い浮かべ、覚羅は羽を頭に当てて溜め息をついた。
藻館様とはなんなのか。
藻庭番衆とはなんなのか。
その答えは、城の裏にある藻寒湖にいる1人のあやかし。
「藻館様〜」
やや大きな栗鼠が、かぷっと、その存在に噛みついた。
「ふぉっ」
真顔で――真顔なのかどうかわからないが――リゼットに噛み付かれているリヴァル・クロウ(
gb2337)。
大きな毬藻そのものに人の顔がついた珍妙な姿。
彼こそ藻庭番衆の筆頭、藻館様である。
「毬藻は食用ではない。離れるべきだ。‥‥ふむ」
鷹揚に甘噛みを許しながらも、その目には知性の輝きがある。
なぜかリゼットの口の中に広がるは芳醇な磯のかほり。
‥‥毬藻って淡水性だったような。(汽水でも生きられるようだが、間違いなく海の匂いはしない)
そこに舞い降りてくる覚羅。
「藻館様!牛鬼が街に近づいておりま‥‥って先に伝令に走ったはずなのに何やってる」
「はっ、そうでした、藻館様を齧ってる場合じゃなかったです! 一大事なのですよ!」
覚羅は後頭部に汗を浮かべ、リゼットはがびん、と書き文字が出そうなほどにショックを露わに。
それはいつもの光景。
とはいえ、今は和んでいる暇はない。
「凶災のあやかし、牛鬼が現れました。沿岸部は津波を受けております、全藻庭番衆の力が必要です」
覚羅の報告にリヴァルはぴくりと眉を動かし。
「藻庭番は先行して出撃。俺も後から追う」
そして、増殖を、始めた。
増殖って何かって?
増殖は増殖だよ。
増えるのさ。
残る藻庭番衆の元にも知らせは届く。
錬兵用の教室にいる、その場に不釣り合いなビジュアルのマルチーズ、名はテト・シュタイナー(
gb5138)。
自称『激辛マルチーズ』という西洋妖怪らしいが‥‥
「テト様! 敵襲ですわ!」
「あぁん、敵? ちょっと待ってくれ、もう少しで出前が」
神崎奈々の知らせに待ったをかけたいテト。
しかし無情にも牛鬼の起こす津波や地震の振動が、わずかながら伝わってくる。
これはどうも本気で危ないらしい。
「うぅ‥‥俺様のデスカレー」
一般人なら死を見る辛さの、テトの好物。
それを泣く泣く諦めて大名ロボのある裏山へと向かうが、立腹は収まらない。
「畜生。牛鬼の奴め、カレーの具にしてやる!」
胸中の怒りをすべてぶつけるため、マルチーズは駆け出した。
後を追って廊下に飛び出した奈々は、運ばれてきたデスカレーの匂いだけで庭に転がり落ちたが。
涙と鼻水を流しながらも立ち上がったので平気だろう、たぶん。
カチヤマの城の裏手には大きな山がある。
山の中には‥‥当然、大名ロボの格納庫があるのだ。
「壱番機スタンバイ! 弐番機の動作も開始です!」
「サギヤ君、準備はできていますか!」
突如、扉から駆け込んでくる栗鼠と、飛び込んでくる鴉。
むろん覚羅とリゼットである。
大名ロボを磨いていたシン・サギヤ(
gb7742)は今まさに搭乗する所だった。
シンは伝書を見て事のあらましを理解したのだが‥‥その機体のピカピカ具合は半端ない。
どれだけ普段から大切にしているのかが窺い知れるというもの。
もっとも、それをシンに言えば『人として当然のこと』と返されるだろう。
「夜鳴鶯に傷がつかなければいいが‥‥」
‥‥自機への愛情はだいぶ度を過ぎている気がするけれど。
「伍番機、夜鳴鶯‥‥発進!」
別にシンは藻庭番衆というわけではない。
ただ格納庫の都合と、作戦指令の都合で、番号を割り当てられているだけ。
いつの間にか一まとめにされている事に少し納得のいかないものを感じつつも、戦う事に異論は無い。
衣食住の世話のぶんは恩を返さねばならない。
そう思っているのである。
山の一部が割れ、鋼鉄の扉からシンの機体が飛び出した。
「肆番機黒焔凰。出陣する」
背中に翼を持つ鴉天狗の姿となった覚羅。
彼が乗るは、巨大ロボ黒焔凰。
山の中腹に位置する巨大天狗像が真ん中からふたつに割れ、地響きとともに出現する輝く機体。
「参番機! サージェント・ドッグ出撃!」
「弐番機、瑠璃蝶出撃なのです!」
こちらは山の山門の仁王像。
阿形・吽形の両方が割れ、中からテトとリゼットの大名ロボが出現する。
テトは犬の――マルチーズの――獣人、リゼットは栗鼠の獣人。
どちらも水干を身に着けてはいるが、下はそれぞれミニスカートとショートパンツ姿。
まあ深くツッコまないでいただきたい。
そして‥‥藻館様。
「壱番機藻兆星、出撃」
藻寒湖の水面が割れ、下からせり出てくる発進口。
死期の近いあやかしの前に現れるという伝説の藻の名を取った機体は、残念ながら普通にかっこ良かった。
分裂増殖を繰り返した毬藻、それが浜に広がって津波を食い止めているさまを眼下に、牛鬼のもとへ急ぐ。
シュール。
いや本当になんで海水に漬かって平気なのだろう。
妖怪だから?
そしてもっとも南に位置するタテヤマのクニ。
その最南端の物見砦からは‥‥
既に精鋭が発進し、牛鬼とすさまじい白兵戦を繰り広げていた。
戦闘の余波の風圧だけで小さな船は吹き飛んでしまいそうだ。
牛鬼にたたきつけられる海水は津波の怪となって、独立しておどりかかってくる。
「おおおおおっ!」
裂帛の気合とともに振り下ろされる大名ロボの刀。
津波を怪も割る一撃が、その波の後方の牛鬼まで届き傷を付けた。
ヘミシンク・ローゼ(
gc6469)の乗機は刀しか搭載していない。
漢らしい。
『なんで兵装に刀しか装着してなかったんですか!』
「だって俺、刀以外に使える感じがしなかったし」
砦の通信士からはなんだかツッコミを受けているが‥‥
それが『90mm連装機関砲』という名の刀である事はそっとしておいてほしい。
誰がなんと言おうと刀なのである。
現実でどうであろうと、今は刀なのだ。
異論は受け付けない。
「おっと、またおいでなすった!」
六本足の蜘蛛。
そう形容される体だが、強靭な脚は1本ずつが大名ロボの胴体ほどの太さで、しかもツメ状になっている。
海中や砂浜でもこの脚が突き刺さって、体勢を崩すことがない。
その上、前脚は自由にこちらに殴りかかってくるのだ。
それを刀1本で止めるヘミシンクも根性入っているが。
場面変わってタテヤマの城。
「なに、牛鬼が!? 今は‥‥我が国のもののふが食い止めていると!?」
報告を受けた若き殿、雪ノ下正和(
ga0219)が立ち上がった。
最南とはいえ少々海岸線から離れたこの城からは、戦闘の様子はうかがえない。
しかし若殿・正和に迷いは無かった。
「心得た、皆の者出陣じゃっ!」
即座に出陣の支度にかかる家臣達。
あっという間に装束が調えられ、足元の畳が沈み込んでそのまま直通でコクピットへ。
通信機器をオンにすると、他のもののふ達もそれぞれ乗り込んでいるようだ。
「緊張するけど‥‥がんばるぞー」
初陣で、しかも大名ロボに乗らず戦うという犀(
gc6544)はいささか表情が硬くなっているが。
「なに、そう硬くなる事はない。鉄砲隊として、援護につとめてくれればよい。期待しておるぞ」
「はっ、承知です」
大殿っぽい口調のわりにハキハキ元気に喋る若殿に励まされ、ともに戦場へと向かう。
「俺は空から行く。管制は任せておいてくれ」
言葉に情熱を秘めたたちばな(
gc6541)は、直接刃を交えるのでなく上空からの目を志願した。
兵装が無くとも役に立てる。
「よし、皆の者、発進せよ!」
格納庫からカタパルトへ、そして大空へ。
唸りを上げるエンジンとともに発進してゆく強者達。
上空は暗雲に覆われているが‥‥
家臣団の見送りは、たいへん明るかった。
大名ロボに乗る者ばかりではない。
毬藻の防護の無い最南端の海岸では、襲ってくる津波の怪を砦で食い止める衛視達の姿があった。
ミリアム(
gc6548)、悟り(
gc6552)を筆頭に、砦に備え付けられたプロトン砲を操り敵を打ち払う。
そして‥‥善戦する衛視達のもとに、カチヤマ、タテヤマ、それぞれの戦力が集った。
ザバッと大きく水飛沫を上げて浜に着地する大名ロボ達。
膝まで海水に漬かってしまうが、まずは陸地への被害を抑えるため津波の怪を倒さねば。
「ふはははは! 待たせたな、牛鬼。今からテメェを泣いたり笑ったり出来なくしてやんよ!」
激辛マルチーズ、テト。
「陸でまで大暴れしようとしても問屋がおろしませんよ? 街には絶対手出しさせないのです!」
栗鼠獣人、リゼット。
「さぁ往くぞ牛鬼! 我ら神崎お庭番衆の力みせてくれよう」
鴉天狗、覚羅。
「藻庭番衆、筆頭。参る」
毬藻。リヴァル。
なお、ここに突っ込んではいけない。
「誰にも傷をつけさせんさ!」
白子‥‥アルビノ、シン。
かっこいい事を言っているようで実はこの台詞、『街』ではなく『自分の大名ロボ』にかかっている。
やっぱりシンの機体に対する愛着は尋常ではない。
常時ハイマニューバ状態である。
ともあれカチヤマ組は、津波の怪の群れから陸地を守るべく回りこんだ。
「世の為人の為、悪の野望を打ち砕く大名ロボッ!! 災禍のあやかしよ‥‥貴様らを、斬るっ!!」
大刀を抜き腕を広げ、見得を切って宣戦布告する正和。
この動作をロボのままできるのだからナイトフォーゲ‥‥もとい大名ロボの技術は凄い。
「オラオラ‥‥!」
直前の緊張が嘘のように、後方から激しく狙撃を飛ばす犀。
津波の怪は速いかも知れないが、遠距離から撃てば何も問題なく四散させることができる。
大名ロボに乗らずして正確な狙撃‥‥できる。
「せああっ!」
その狙撃の援護を受け、正面から二刀で切り込む正和。
上空のたちばなから、津波の怪の分布データは送られてきている。
そこには統率された動きが無い。
牛鬼が指示していないのなら‥‥とにかくどこからでも、まずは数を減らすまで!
大刀が唸りをあげ、津波を横薙ぎに一刀両断。
返す刀で横から襲い掛かろうとしていた津波も切り裂く。
「‥‥またつまらぬものを、斬ってしまった」
と、さっきまで猛烈な勢いで戦っていたヘミシンクは。
小島に上がって休んでいた。
『ちょっ!? なんで戦わないんですか!?』
「一匹を相手に複数で襲いかかるって卑怯じゃね?」
やっぱり漢らしい。
しかし。
『相手は牛鬼ですよ!? 島も沈める、災害の象徴ですよ!? 卑怯もクソも無いでしょう!』
そんな説得もなんのその。
「そうこう言ってる間に、戦いは始まったぞ」
『こ、この人は〜‥‥』
戦う気ねぇ。
「おぉ! あっちのロボは鉄砲が付いてるぞ! 酒でも持ってくればよかったなぁ」
もうただの見物客である。
周囲から空気を集め、リゼットのロボめがけて巨大な砲弾のように撃ち出す牛鬼。
その暴風の弾は双機槍ではじく。
リゼット機を中心に猛烈な風が起こった。
「こんなの‥‥効きません!」
だがそれだけでは終わらない。
雷鳴が響いたと思った次の瞬間、落雷がテト機を襲う。
しかし。
「オラオラ! 悲鳴を上げる前と後ろにサーと言え!」
テト機の電気系統もダメージは受けているはずだが、デスカレーのおあずけをされた怒りは留まる所を知らず。
少々コクピット内が明滅したくらいではテト機の動きは止まらない。
リヴァルと覚羅の支援射撃の中、返礼の拳が牛鬼の膝を叩きのめす。
「脚気の検査だ。ビタミン取ってるか診てやんよ!」
蜘蛛のようについた牛鬼の脚。
さきほど言ったが、その先端はツメのようになっている。
つまり膝から一直線であり‥‥衝撃を逃がすための足首というものは存在しない。
この、上から叩きつける攻撃はとても効果的だった。
激怒の咆哮を上げる牛鬼。
今の欠点は冷静に観察していた覚羅によって全員の知るところとなった。
「まずは周辺を一掃する、直線上から離れろ」
リヴァルの大名ロボが大筒を構える。
その名称、『藻立派砲』。
「‥‥もしやそれネオアームストロン」
覚羅のツッコミを途中でさえぎり、発射準備。
ツッコミを入れながらも、連続したバルカンで牛鬼の動きをさえぎる事は忘れない覚羅。
逆方向にはリゼットの重機関砲の弾丸が飛び交い‥‥
そして側面からは犀の狙撃、正和の剣閃という十字砲火。
この機は逃さない。
「雄々しく猛る筒から放たれる6連射は有象無象の区別なく、あらゆる存在を許しはしない」
砲身から強烈な榴弾が放たれる。
津波の怪の数は一気に減ったが‥‥
嫌な予感。
上空から降ってくる落雷がリヴァル機を焼く。フラグ即時回収。
だがさすがに落雷は血を吸ったりはしなかった。
「シッ!」
駆け抜けると同時に大刀を振るう正和。
津波の怪はもはや散り散り、牛鬼への道は完全に開かれた。
しかし1体でも牛鬼の力は侮れない。
津波の怪が役に立たないと判断したのだろうか、突如として海面に大渦を巻き起こす牛鬼。
残っていた津波もすべて巻き込んで、海底の泥とともに広範囲を薙ぎ払う。
たかが膝までの水と思うなかれ。
暴れ狂う水流はまんべんなくダメージを与えてゆく。
「‥‥よくもやってくれたな!」
その渦にブチ切れている者が1人。
そう、愛機に情熱を注ぐ、シン・サギヤ氏だ。
「無間地獄に落ちるがいい! この痴れ者がッ!!」
渦が収まる前にブーストを使って跳躍。
上から狙うは牛鬼の首ただひとつ。
ダブルヘッドスピアが鋼鉄の皮膚を突き破り、牛鬼の背骨をも傷つける。
初めて苦悶の声を上げる牛鬼。
その時、苦痛から逃れようと叫んだ絶叫が、巨大な津波に息を吹き込んだ。
無我夢中で叫んだためか、はるか遠くに。
陸地にぶつかってしまう。
間に合わない‥‥!
と思った次の瞬間。
巨大な津波は遠方からの一条の光に灼かれ、爆発した。
水と暴風がはじけ飛ぶが、津波に襲われるよりはるかにマシだろう。
その光のヌシは‥‥
ライフル状のエネルギーキャノンを家老に手渡し、UNKNOWNは再び手すりに足を乗せ、扇子を動かす。
「――で、あるか」
銜え煙草から紫煙がたちのぼる。
泰然と。
何も不安が無いように。
「こんな手段があるなら最初から言ってくださいよ‥‥」
家老はまた泣いていた。
「せえッ!」
リゼットは何度も跳躍し、上からの銃撃を繰り返していた。
うまく傷のついた部位ができると、そこに双機槍を突き刺しに行く。
「(よし!)」
既に充分弱っている。
リヴァルからの指示が下った。
最後の一斉攻撃に向けてスパークワイヤーを絡めに行くリゼット。
合図とともに覚羅も動く。
「奥技! 鴉忍法火の鳥!」
どこかで聞いたような技名だが気にしてはいけない。
放熱翼を回転させながら放熱、着火。
炎を上げながら、シンの傷つけた首筋を狙い後方から突っ込む覚羅。
「ボディががら空きだぜ、おるぁああああ!」
牛鬼が覚羅の来る背中側を向こうとした隙に、テトはその腹へともぐりこむ。
テト機の両の拳は大悪魔の名を冠する強化を受けている。
その威力、推して知るべし。
「藻館様! 止めは任せます!」
リゼットの言葉に‥‥
リヴァルは短く正和の名を呼んだ。
立ち位置を把握し、理解する。
両者が動く。
リヴァル機の強化装甲が輝きを放つ。
正和機の放熱部が唸りを上げる。
「秘技・藻想乱舞」
「一か八か流っ、十字斬りっ!!」
リヴァル機の背と腕の剣翼が傷ついた牛鬼の脚を落とし。
正和が眼前に構えた二刀は、シンが最初に抉った首筋の傷をとらえていた。
島ほどの大きさもある‥‥島を沈めるという牛鬼の‥‥それが最期だった。
「天下泰平‥‥」
晴れ間を覗かせた空へと紫煙を伸ばすUNKNOWN。
「日々是々‥‥あっぱれなり」
牛鬼の息の根が完全に止まっている事を確認し、覚羅は城へ任務完了の連絡を入れた。
‥‥今さらだが、そんな便利な通信手段があるなら冒頭でわざわざ伝令を送る必要は無かったのでは。
「すまない‥‥帰ったらすぐ直す」
シンは愛機を心配する気持ちでいっぱいで。
「早く帰ろうぜー? 俺様のデスカレーが待ってるんだ」
もちろんテトはおあずけくらった食事へと意識が向いている。
よく働いたのだ、存分に舌鼓を打っていただきたい。
「ふむ」
外からでは見えないが、リヴァルは自動操縦にしてさっさと毬藻の姿に戻ってしまったようだ。
リゼットも同じ。
彼女いわく、「人型は楽だけど力使うとお腹すくのです‥‥」だとか。
‥‥なお、彼らが人型を取れるという事は、神崎奈々は知らなかったりする。
「遊郭にでも遊びに行くか。今なら安いと思うし」
『くおら〜! まず反省文を書きなさい! 反省文を!』
通信士の女性と漫才をかましながらも、夜の街に行こうとしているヘミシンク。
最初に牛鬼を食い止めていたのは間違いなく彼なのだし、まあ、いいんじゃないだろうか。
そして。
若殿様、正和は‥‥
「これにて、一件落着っ♪」
日の丸の描かれた扇子を広げ。
見事に、ハッピーエンドを飾ってくれたのであった。