タイトル:一日中バードウォッチマスター:三橋 優

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/27 18:30

●オープニング本文


 とある前線基地の、警報鳴り響くうららかな雪解け日和。
 今この基地は二十数匹のキメラに悩まされていた。
「‥‥鳥が来る?」
「ええ、音波砲を持つキメラです。強敵なんです‥‥」

「まず平均的に強く、小回りのきくサヨナキドリ型キメラ」
「サヨナキドリ? ナイチンゲールのことか?」
 ぺらりと資料をめくる下士官。
 スポーツドリンクを飲みながら話を聞く、派遣されてきた少尉。
「異常なほどの攻撃命中率で、完全暗視を持つと思われるワシミミズク型キメラ」
「‥‥えーと、ドイツ語でウーフーか」
「精密な動作と、やや小さめの体躯で回避率の高いコマドリ型キメラ」
「ロビンか」
「持久力がありタフな、大きい体躯のアホウドリ型キメラ」
「アルバトロスだな」
 なんでKVの名前ばかりなのだろう。
 不死鳥はいないようだが。
 まあ世の中には鳥アレルギーなんて人間もいるようだし、バグアが鳥のキメラを作るのはおかしくないが。
 ラストホープの傭兵を出すまでの事か?
 相手がキメラなら軍だけで対応できるのではないか?
「確かにそうなんですが、弾や燃料の消費が激しくて」
 相手の敏捷性は、揃ってかなりのものらしい。
 ヘルメットワームのような無茶な機動・慣性制御が無いのに、対処しづらいのだとか。
 おまけに翼を狙ってもそうそう落ちてくれない。
 下手するとワームと同じくらいタフなのではなかろうか。
「加えて、朝昼夜の波状攻撃で、みんな疲弊し始めてるんです」
 ワシミミズクキメラは揃って夜間に襲ってくる。
 かなりの遠距離から来ているのだろう、巣を見つけて叩くということもできなかった。
 昼夜の疲弊により基地としての有効度が落ち、このままではバグア軍に睨みをきかせる事もままならない。
 KVを動かさざるをえない状況だろうと、上官も認可した。
「ワームより、安いキメラで波状攻撃か‥‥これを続けられるときついかも知れんな‥‥」

 実はこの巨大キメラはそんなに安くもないというのは、人類側にはわからない話。
 もう大量生産は中止されているなんて、それこそ知るよしもなかった。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
菱美 雫(ga7479
20歳・♀・ER
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
カイト(gc2342
19歳・♂・ER
カデュア・ミリル(gc5035
21歳・♂・CA

●リプレイ本文

「ハヤブサはいないのか」
 資料を受け取ったあと、時枝・悠(ga8810)は呟いた。
「‥‥いないのか」
 なぜか残念そうな声で。


●夜明け前の襲撃

 ラストホープとの時差もあり、到着したのはまだ暗い時間。
「さしずめ、夜の子狼って感じか?」
『いい感じだな。基地の照明も消してやろうか?』
「それは勘弁してくれ」
 飛行テスト中のカイト(gc2342)に、笑いながら話しかける司令官。
 彼のディアブロには夜空をイメージした塗装が施されており、地上からは見えづらい。
 ‥‥もっともこのペイントは星々まで描かれ、迷彩になるかというと微妙だが。

「弾薬の補給が可能ならお願いしたいです」
「ああ、それはもちろん。一度に使えるのは少ないが補給路は充分に‥‥ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ」
 飛び立とうとしている里見・さやか(ga0153)の問いに、楽観的に答えようとした整備士だが‥‥
 送られてきた弾薬の、そのリストを見てよろめいた。
「なんだこの小型ミサイル900発、500発、500発って。ああ、うん、できるけどね? できるけどね?」
 恐るべきカプロイアとMSI。

 各々が機体の具合を確かめていると、さっそく第一の襲撃を知らせる警報が鳴り響いた。
「サヨナキドリのキメラだ!」
「了解。予定通り出撃します」
 夜明け前の襲撃。
 さやかのウーフー2と、最上 憐(gb0002)のナイチンゲールが、爆発的なエンジン音とともに飛び上がる。
「‥‥ん。ナイチンゲールは。私の。オホソラで。倒す」
 空のカイト機を加えて、3機。
 なにぶん小さい基地のことでKVをフル稼働させる余裕が無いのである。


 8体のサヨナキドリキメラを射程範囲内にとらえ、憐機『オホソラ』のスナイパーライフルRが先制の一発。
 大きくキメラの体が揺らいだ。
 仲間に向けて鳴き声を発したか、基地へと降下気味に飛んでいたキメラのうち2体が憐機に向かう。
 今撃たれたそいつも体勢を立て直して合流。
「‥‥ん。朝ご飯までには。終わらせる。勢いで。頑張ろう」
 その体勢を立て直したキメラに再度、カイト機『鋼鉄の子狼』の弾丸がめり込む。
「OK。夜間迷彩にしたからって運動性が落ちたりとかはしてないぜ?」
 空の戦闘では狙撃銃がとても役に立つ。
 カイト機は対ワーム用スナイパーライフルD−02をリロードしながら距離を詰めた。

 その百メートルほど下から、さやか機『Spenta Armaiti』も。
「基地は私達が守ります、距離700、オービットミサイル攻撃始め!」
 降下しようとしていた残り5体のサヨナキドリをターゲットロックオン。
 ガシャンガシャンと3つの発射口が開き、三百の小型ミサイルが群れに向かって派手に降り注ぐ。
 この時期、この時間帯、この高度。おそらく外は寒いのだろう。
 そんな寒い中を遠くから飛んできてご苦労なことだが‥‥
 手加減はできない。
「第二波、発射!」
 何度見ても派手な弾幕が再び5体それぞれに着弾、炸裂、誘爆し、まんべんなく破壊する。
 キメラの視線は、もはや基地には向いていなかった。

「‥‥来るか」
 カイト機に向かって大きくクチバシを開くサヨナキドリキメラ。
 音波砲を使うというのは事前にわかっていた事。
 即座に機体を傾け、その見えない攻撃を回避する。
「空戦は苦手だが、四の五の言ってられないってな」
 反撃のターン。
 カイト機のミサイルポッドCが火を吹く。
 ベアリングをばら撒くという攻撃方法は、翼を持つこういう相手には効果てきめん。
 狙撃で弱っていたサヨナキドリ最初の1匹は地上へと落ちていった。
 まさにパニッシュメント。
 続いてさやか機に向かってくる敵に狙いをさだめ‥‥
「集束装置、オン!」
 ウーフー2のジャミング集束装置の恩恵を受け、カイトはガトリングでのドッグファイトへと移行。
 ほぼ乱戦と言ってもいい状況で、冷静に対応する傭兵3人。
「少し試したい事があります‥‥東方向は気にしないでください」
 わずかな期待を込めてラージフレアをばら撒いてみるさやか。
 効果が出ているようには見えなかったが。
 このキメラに重力波探査等は存在せず、五感だけで物事を判断しているようだ、という事はわかった。
 そんな実験をするくらいの余裕はあるということ。

 1分後‥‥残り1匹になったところでようやく逃げに入ったキメラだが、そんな事が許されようはずもない。
 2機の狙撃銃から逃れるすべもなく、サヨナキドリキメラはすべて地に落ちた。


●昼前の襲撃

 滑走路の向こうに逃げ水が見えるくらい、あたたかい日差しとともにやってくる襲撃。
 アホウドリという名前はついているが‥‥
 優雅に飛ぶ姿は、目を奪われるくらい美しい。
 6体、綺麗な編隊で飛んでくるキメラ達。
「範囲攻撃の餌食だな」
 時枝悠は冷静に判断した。
 当然である。
「皆さんの足を引っ張らないよう、気をつけるっスよ!」
 こちらはカデュア・ミリル(gc5035)、初めてKVで空戦に望むということでやや緊張気味だが‥‥
『鳥で鳥を落としに来たか』
「ええ、夕方のコマドリ、このロビンで落としてみせるっス。もちろん今回も頑張るっスけど」
 司令官から激励が飛ぶ。
『いや、名前がな』
「?」
 だが少し噛み合っていない。
『君のロビンの名は『アワオドリ』という鳥ではないのか?』
 中途半端な日本語知識による天然ボケ。
 緊張感が砕け散った。
 そうこうしているうちにあと十数秒で射程圏内である。

 菱美 雫(ga7479)も、さやかと同じくウーフー2を駆るパイロット。
 地球上のほとんどを覆うバグアのジャミングを、わずかにやわらげてくれる支援機。
 雫機のジャミング集束装置の恩恵を受け、悠も安全装置のロックを外した。
 6体がまとまって飛んでくるのだ、最初の一手で使わない理由はどこにも無い。
「私は一番右を除いて狙う」
「わ、私は一番左を除いて撃ちます。発射タイミングはお任せします」
 K−02。
 それは。
 発射口が一斉開放され、250の小型ミサイルが大きく広がって展開。
 敵に向けて何通りもの曲線を描きながら迫る。
 その噴射煙の描く流線、その軌跡は、極めて壮大、美麗。カプロイア社の誇る美しき兵器。
 一秒遅れて雫機『FRAGMENT』からも。

 キメラ達も避けようと散開するが、射程内である事に変わりはない。
 あたりにジャミングを発するワームも無く、ミサイルもまだ多少は追尾してくれる。
 6体ことごとく無数のミサイルの直撃を受け、あっという間にキメラ達の羽毛表面を黒く焦がす。
 さらに。
 キメラ達から見て煙に隠れつつ、悠機、雫機、両者から、第二波が発射され襲い掛かった。
 多重の壮絶な炸裂音が空にこだまする。
(じ、自分では、はじめて使ったけど‥‥流石カプロイア製、無駄に派手ですね‥‥)
 だが、派手さだけではなく‥‥
 これらの一発一発が手作りなのだと思うと、人々の思いがこめられていると、感じる。

 アホウドリキメラ達の体力はまだ多少残っていた。しかしもはや戦意はガタガタ。
 昨日まで自分達の絶対的優位を確信していた所に。
 今日もまた基地に何発か攻撃して帰るだけと思っていた所に。
 出鼻にクロスカウンターをもらったようなものだ。
 そして、駄目押しにミリル機の『ドゥオーモ』。
 目標は単体ではあるが、100発の放電ミサイルが空の敵に与えるプレッシャーは並大抵のものではなく。
 加えて、その目標となった1体が落とされたとあっては‥‥

 ただでさえ滑空を主として飛ぶ、小回りのきかないキメラ。
 混乱のおさまらないうちに追撃されては、いかな桁外れの持久力を持っていても、結果は決まりきっていた。
「最後まで油断も容赦もしない。深追いもしないが情けをかける事もしない」
「基地を守ることは忘れないっスよ!」
「1体ずつ確実に‥‥落とします」



『あの500発ぶんの発射装置を整備するのか‥‥ふたつも‥‥』
 格納庫から嘆く声が聞こえた気がするが。
 先制攻撃での大勝利なのだ。問題無い。


●夕刻の襲撃

 肌に触れる空気が湿り気を帯び、風に含まれる香りの質も変わってくる。
 体温を奪い始めた、夜の空気のある風。
 カイトは滑走路に立ち、その風を全身で味わいながら‥‥ミリル、雫、憐の3人の機体を見送った。

「俺の機体に賭けても倒させてもらうっスよ」
 コマドリキメラ。
 慣性制御も無いのにその機動力で基地を翻弄した、いわば今回の『依頼』を作り出した元凶。
 数は6体。
「‥‥ん。ロビン。ナイチンゲールの。姉妹機と。同じ名。責任を持って。沈める」
「い、行きます」
 今度もまた派手に、美しく、空に弾幕を描き出す、雫機のK−02。
 5体を狙ったマルチロック。

「かわされた‥‥みたいですね」
 しかし、回避したのは1体だけだ。
 ターゲットを少なくして密度を上げることも考えたが‥‥5体を狙って4体に当たるのなら今のままで充分。
 まだ敵が視界内にまとまっている内に第二弾。
 同時に、マイクロブースターを使ったミリル機が素早く下面から回り、基地を背にしてAAEMを撃つ。
「くっ、避けないでほしいっス」

 敵は音波砲を正面にしか撃てない。
 機動力があるとはいえ、むちゃくちゃな移動はできないのだから‥‥すれ違うように動くのは、難しくない。
 ざごりっ。
 そんな擬音が聞こえてきそうな一瞬ののち、憐機とすれ違ったキメラが、翼を半分斬られ落ちてゆく。
「‥‥ん。ハイマニューバ。展開。無理矢理。姿勢制御‥‥成功。再突撃。開始」

 いーやーっ!? という悲鳴が格納庫にこだまする。
 整備士泣かせのソードウイング。

「なるほどっ‥‥コツを掴んだっスよ!」
 憐にならい、相手の音波砲に合わせるように接近距離からレーザー砲を撃つミリル。
 2回に1回は確実に当たるようになってきた。
 敵の音波砲も2回に1回はくらってしまっているのだが。
「いひーっ!?」
 だが、相手に合わせるだけではない。
 雫機から放たれる、超高命中率を誇るG放電装置。
 そこで一瞬動きが止まったところに撃ち込んだり‥‥
 また、自分も翼でキメラを攻撃すると見せかけて、敵が回避したところを憐に斬りつけてもらったり。
 (むろん武器でもなんでもないミリル機の翼にキメラが衝突したら、ミリル機もただでは済まないだろうが)
 3人の連携は、確実に、確実に敵の数を減らしていった。

 そして、傷つき残り2体となったキメラは逃走に入るも‥‥
「‥‥ん。私達が。いなくなってから。来られても。困るので。倒す」
「今までさんざん基地を攻撃していたんです‥‥敵は逃がしません!」
 憐、雫、2人のスナイパーライフルが1体ずつ順番に落とし、決着をつけた。


●ひとつの食物連鎖の頂点

 夜のキメラ、ワシミミズクは4体。
 さやか機のロヴィアタルが、悠機のK−02が襲い掛かり‥‥今までと同じように威圧で押せるかと思いきや。
 交戦に入った直後、カイト機に鈍い衝撃が走った。
「なんだ?」
 周りのさやかと悠からはよく見える。
 塗装どころか装甲まで切り裂いた、その攻撃の正体は‥‥
「鉤爪だ!」
 互いにすさまじいスピードの中で動いているはずだが、敵の爪は傷ついた様子が無い。
 一瞬止まるように動きを合わせて攻撃しているらしい。
 奇しくも夕方、憐が用いたソードウイングのように。
「戦闘力は認めます‥‥しかし、ワシミミズク‥‥ウーフー‥‥ゆ、許せません。やっつけます」
 ウーフーの名を汚すキメラは許さない。
 1体に狙いを定め、一気に距離を詰めて機銃掃射。さやかがもっとも信頼をおく兵装、20mmバルカンで。
 キメラも弾幕の中に突っ込むほど無謀ではなく、この機銃の連射は効果あり。
 その牽制の直後にプラズマリボルバー。
 エネルギーの塊がはじけた。

 さやか機のジャミング集束装置の恩恵にあずかっている2機ながら、回避においてはかんばしくない。
「基地に向かうのは止められたが‥‥大丈夫か?」
 この3人の中では装甲の厚い悠。なるべく敵の攻撃は引き受けたいところだが‥‥
 自分も敵も仲間も常に動き続けている空戦では、少し難しい。
「ああ、ミサイルポッドも撃ち尽くしたし、狙撃に徹させてもらおう」
 後方へ飛ぶカイト機。
 カイトが攻撃を重ねたキメラは、もう飛ぶのがやっとという感じで‥‥背を向けて逃げ出した。
 その努力の結果は、のがしたくない。
「狙撃する。3秒援護を頼む」
「了解」
 さやかの機銃が弾幕を張り、悠が狙撃のためにまっすぐ飛ぶ時間を稼ぐ。
 その狙撃は、うまい具合に片翼に当たり‥‥
 ‥‥まだ翼を動かしているのはさすがだが、ゆっくり地上に落ちるように、ヨタヨタと降りていった。
 あとで探して生身で戦う必要があるだろうが、もう後日になろうとも基地に有効な襲撃を行う事はできまい。

 くるりと輪を描いて270°方向転換した悠が、さやかに正面から挑むキメラ、その上面から攻撃をかける。
 フィロソフィーの光がワシミミズクキメラの翼を灼いた。
 わずかにバランスを崩してさやか機の機銃の雨の中に突っ込んでしまうキメラ‥‥
 運悪く目をやられたか、あらぬ方向へ飛んでゆく。
 まっすぐ直進するだけのターゲットに狙撃を命中させるのは難しくない。もちろんカイトも見逃さなかった。

 残り2体。
 数の有利もなくなったキメラは、強くはあったが、傭兵達の機体を落とせるほどの余力は無かった。
 だいぶダメージは受けたものの‥‥殲滅は、ほぼ完遂したと言っていいだろう。



「おかげで基地にまったく被害を出さず、20時間でカタがついた。心から感謝する」
 まだ陸に下りたワシミミズク1体は残っているが、それはこの基地の兵士でもなんとかなるはず。
 何か整備士の方から一日中、悲鳴やら愚痴やらが出ていた気がするが、些細な事だ。
「本部に帰れば報酬が出るだろう。私達からは何も出せないが、せめて夕食でも食べていってくれ」
 1人の少女の目が光った。

「少尉‥‥」
「言うな‥‥明日には次の輸送が来る。責任は‥‥俺が取る」
 基地の備蓄は消え去ろうとしていた。
 明日にも輸送が来るという事で、残りわずかになっていた事は確かだ。
 今夜と明日の各々の食事を除けば、余っていたのは三十人前。人外の大食漢なら食べられそうな量ではある。
 だが。
 それは軍用レーション。
 食べ過ぎないよう、わざと不味く作ってあるはずのその食料を‥‥たった1人の少女が食べ尽くすとは。
「‥‥ん。ごちそうさま」
 最後のカレーを飲み干し、きちんとスプーンを置いてお辞儀する。
 無限の胃袋、最上憐。
 彼女に軽々しく『好きなだけ食べてよい』などとは言うなかれ。
 UPCにまたひとつ伝説が広まった。