タイトル:わたくしの魂の価値はマスター:三橋 優

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/28 13:37

●オープニング本文


 日が沈もうとしていた。
 頭上には雲が広がっているが、西の空だけは夕焼けを演出するかのように雲が無い。
 湿度や気圧などさまざまな条件が重なり、分厚い雲が夕陽を反射して、まさに紅の世界といった風情。
「綺麗ですわね‥‥」
 紅に染まる森の中。
 ダークファイター神崎奈々は大地に脚を投げ出し、愛機ディアブロに背中を預け呟いた。
 二十歳とはいえ、まだ少女と呼んでいい外見の金髪碧眼の娘。

 美と恐怖は表裏一体だ。
 血のように赤い世界を見て、恐怖を覚える事もある。
 普段は無意識のうちに心の奥底に封印しているのだろう『死』というものの記憶ゆえに。
 数時間前まで話をしていた知り合いが遺体として運ばれていくなんて光景も見慣れてしまった。
 コクピットごと貫かれて潰されたパイロットも見る。
 それでも、美しいものは美しい。
 この血のように赤い世界が‥‥
「‥‥命、か」
 自身の胸の中央に指先で触れ、見えない傷跡を思い返す。
 自分自身の心臓が止まっていた時のことを。
 キメラに胸板を貫かれたあの時、奈々は確かに自分の死を受け入れていた。
 傭兵仲間が自分の死によって決意を新たにするかなとか、覚悟を決めるかなとか、プラスばかり考えて。

 それは。
 今も変わっていない。

 指を十数センチほど下に動かすと、コツンと硬い感触が指をとどめる。
 そのコツンという軽い衝撃だけで体の芯に走る壮絶な痛み。
「‥‥っ」
 割れた金属板。
 メトロニウム板の、幅20センチメートルほどの大きな破片。
 脱出の際の事故で腹部に突き刺さったのだ。
 ‥‥致命傷だろう。
 もちろん活性化は試みており、内側から治癒されていくのは感じるのだが、もう練力も残り少ない。
 傭兵仲間や軍の人々はまだ上空で戦闘中。
 後方の基地から救出が来るまで生き延びられるとは思えない。
(でも‥‥わたくしには似合いの最期でしょうね‥‥)
 奈々は目を閉じて自然な微笑を浮かべた。
 人生が終わるという事は怖いが、泣くほど嫌というわけでもない。
 戦場に出る、と決めた時から覚悟していた事だ。
 そりゃあ心残りは色々とある――気持ちよく殴り合える友もできたし、それ抜きでも大切だと思える人が――


 と、奈々が記憶を手繰ろうとした時、森の中から気配が生まれた。
 葉をかきわけてくる明確な音。
 はたして姿を現したのは‥‥狼男型キメラ。
 奈々は薄目を開けて敵の姿を確認したが、また閉じる。
 ‥‥もう、疲れてきたのだ。

(‥‥?)
 奈々が待っていた爪の一撃は来なかった。
 キメラは奈々を担ぎ上げ、その拍子に金属板の破片がズルリと抜け落ち、奈々の脳髄を揺さぶる。
「がっ、ふっ‥‥!」
 落ちそうになる意識を繋ぎとめ、奈々は激痛に耐えた。
 死を待っていたはずなのに、耐えた。
 なぜなら。
 生体兵器であるところのキメラが『担ぎ上げる』という行動を取った、その違和感。
 奈々を死体と勘違いしたとしても、この場で食べず、放置もせず、どこかに運ぼうとするという不自然さ。
 それが一瞬にして奈々の脳を目覚めさせたのだ。
(まさかヨリシロを求めるバグアが、近くに‥‥!?)
 思い至った奈々の行動は素早い。
 腰に隠していた機械剣αを敵の背中に突き立てる。
「グオゥッ!?」
 たぶん背骨を貫いた。うん、敵は立ち上がらない。

 わたくしの体が重力に従って落下する。
 荒い息をつきつつ、腸がこぼれそうになる腹を押さえ、最後の活性化。
 先程までとは違って主な筋肉だけに対象を絞る。内臓は犠牲にしていいし、すぐ傷口が開いてしまっていい。
 命はいらない。
 あとほんのわずか活動できればそれでいい。
 コクピットによじ上って、機体の給油口を開いて、着火し‥‥この肉体を燃やす。
 1分あればできるだろう。

 わたくしの体が、わたくしの顔が、わたくしの知識が、人類の敵になる事それ自体はどうでもいい。
 人類の期待や希望など、知ったことではない。
 でも、わたくしには大事だと思える友人がいる。仲間がいる。
 わたくしの体がその人達と敵対すること、それだけは決して許せないのだ。

●参加者一覧

ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
菱美 雫(ga7479
20歳・♀・ER
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
ストレガ(gb4457
20歳・♀・DF
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
黒羽 拓海(gc7335
20歳・♂・PN
月野 現(gc7488
19歳・♂・GD

●リプレイ本文

 神崎奈々の予測には2つの誤算があった。
 今は救助に向かう人員が惜しいというような、危機迫る状況ではなかったこと。
 そしてもうひとつ。
 単純明快な『助けたい』と願うヒトの心を侮っていたことだ。

「今すぐ行きますから‥‥待っていてくださいね‥‥!!」
 VTOL機、クノスペを駆る菱美 雫(ga7479)。
 奈々の事をよく知る傭兵仲間。
 もとい、親友。
「垂直離着陸機能を搭載した俺と菱美さんが救出に向かう。援護を要請する」
 ノーヴィ・ロジーナのバーナーを吹かすは月野 現(gc7488)。
 命を何よりも優先する男。
 森の中に大破した奈々機を発見した傭兵達の中で、最もこの状況に適した2機が着陸の姿勢を取った。

 人類側のKVが降下して来るのを視認し、もう機体ごと燃やす必要はない、と脱力する奈々。
 ずるりと操作パネルから崩れ落ち血だまりに倒れこむ。
「‥‥あ」
 そして着陸したクノスペから飛び出してくる人影を見て。
 命尽きる前にそばに居てほしかった人が出てくるのを見て、奈々は目が潤むのを感じた。
「雫、さん‥‥」


 2機が着陸する事を、付近の敵機や巨大キメラとて黙って見ているわけではないが‥‥
 今回は、援護する味方が頼もし過ぎた。


 敵は3機の小型ヘルメットワームと数匹のドラゴンキメラ。
 人類機にまっすぐに向かってくるキメラの数は4。その後方からワームも迫る。
 そこで傭兵達の取った作戦は。
「重傷を負った味方を放置したままで居るわけにはいきませんからね。速やかに救出を図る事としましょう」
 榊 刑部(ga7524)の機体から響く無数の発射音。
 1回の総数は250。カプロイアの誇るK−02小型ホーミングミサイルポッド。
 アサルトフォーミュラをも使用した美麗無双の弾幕が宙を彩り‥‥
「最初の一手はド派手に行こうってな!」
 続いてゲシュペンスト(ga5579)機が放つはホーミングミサイルDM−10。50発の密集形小型ミサイル。
 この2機のスカイセイバーの弾幕に重ねるように他機からも波状攻撃。
 夕陽とは違う赤が、空を染めた。
 奈々機の頭上で戦闘を行って、敵機やその破片を落下させてしまうわけには行かない。
 この派手な全力攻撃は敵の目を釘付けにするための行動だ。

 火力のあるミサイルのみならず直線で飛び来る弾丸も、牽制どころではない弾丸の壁となる。
「助けられる命なら助けてみせる。俺はもう‥‥あの時とは違う」
 コクピットで呟く黒羽 拓海(gc7335)。
 誓いも新たに敵群へと機体を躍らせ、敵の注意を引く。

「短距離AAM全弾射出! 下方から向かってくる敵を引き付けます」
 今回の戦場へ出る前に神崎奈々と顔を合わせた時、その容姿を見て他人とは思えないと感じた。
 一房だけ編んだ金髪を垂らしたストレガ(gb4457)の瞳は、蒼く地上を見つめる。
 彼女を救出する。その心を胸に。
 こちらを向いたドラゴンキメラの意図を読み、火炎放射を危なげなく回避。
 今はこの敵達を片付け‥‥いや、引き付けなければ。

 覚醒状態にあって、外見には感情の動きの見えない番 朝(ga7743)だが、奈々への好意は強い。
 何度も会い拳を交えた記憶。
 感情を殺すことなく、ただ好きなように遊んだ記憶。
 細かい理屈はいらない。
 助けたい。
「‥‥」
 拓海機と同様にマシンガンをばら撒き、敵の注意を引く。
 流れるような波状攻撃によって、既に相手は地上の事など目に入っていないようだ。

 ティナ・アブソリュート(gc4189)は初めて受けた依頼で奈々を救出する羽目になった。
 その時も抱いていた思い。
 父への反発というだけでなく。けして見捨てない、と。
 それから1年の時が経とうとも、ティナの思いは変わっていなかった。
「神崎さん‥‥」
 150発の小型Gプラズマミサイルの群れがドラゴン達の神経を焼く。
 キメラのうちゲシュペンストの攻撃を受けていた1体が、この非物理攻撃により意識を手放した。
 その体は崖下へ。決して助からぬであろう、木々も生えていない岩地へ落ちてゆく。


 流れ弾‥‥ドラゴンキメラの吐く火炎に少々被弾しつつも、ほぼ完全な状態で雫機は降下を完了。
「む‥‥」
 現としてはほんの少しの被弾でも不本意だったが、空戦において他機を庇うのは難しい。
 ただでさえ放射の瞬間を狙って飛び込まなければならない上に‥‥
 飛行していると簡単には進行方向を変えられないからだ。
 とはいえ気持ちを切り替えて着陸し変形、寄って来るキメラの掃討にかかる。
 早速獣人型のキメラを1体、撃ち貫いた。
「もう大丈夫だ。必ず生還させてやる」
 周囲にキメラがいない事を確認し、外部スピーカーで呼びかける現。
 奈々機のハッチに飛び込んだ雫は、すぐに奈々を抱えて姿を見せた。
 自分はKVを降りる必要は無さそうである。
(燃料タンクを開いていた‥‥自殺しようとしていた割に、素直に救出に応じるんだな‥‥)
 奈々とて死にたがりではないのだ。
 ヨリシロにされる心配が無ければ、わざわざ命を捨てる事はしない。

 雫は触れた奈々の体温が下がっているのを感じ取り、容態が危険な事を仲間に伝えた。
「助ける‥‥必ず‥‥!」
 奈々の体を補助シートに横たえてベルトを着けさせ、すぐに離陸体勢に入る。
 一刻も早く治療しなければ危険だ。
 コンテナはあらかじめ医療用のものに換装してあるため、基地まで帰らずとも安全が確保できればよい。
 前線から離れさえすれば。
 現機もまた護衛のため、雫機に追従した。


 2機が離れた事を確認し、刑部はキメラの1匹に狙いを定めてAAEMを発射する。
 もう落とす場所を気にせず全方向から自由に狙えるのだ。
 さんざん弾幕を受けてきたキメラは、再度受けたこの非物理攻撃に耐えられない。
 最後の足掻きで振り抜いた爪も、高速移動中のストレガの機体にはわずかな傷しか与えられなかった。
 と。
 連携のつもりか、たまたまなのか、もう1体のキメラはストレガ機に合わせて動きながら爪を振るってくる。
 衝撃がストレガを襲う‥‥しかし近付いてきてくれたのは好都合。
 エンハンサーつきの高分子レーザー砲の連発がドラゴンキメラの表皮に無数の穴を開け。
 流れる血に動きの鈍ったそのキメラに、刑部機が襲い掛かった。
 一瞬遅れて切断されるキメラの翼。
 刑部機のソードウィングである。

 ゲシュペンストは戦闘を行いながらも、距離が開くたび、余裕を取るたびに敵を観察していた。
 ドラゴンキメラは好き勝手に暴れていたようだが、ワームの行動にはパターンがある。
 やはり無人機で間違いないようだ。
 もし『無人と思わせて誘う罠』だとしても、この空域に意識的に近付いて来る敵影は無し。
 ならば、この眼前にいる敵機が妙な行動をしないかだけに注意していればいい。
 いや。
 ‥‥妙な行動に移る前に、落としてしまえばいい。
「伊達や酔狂で空中戦に格闘武器を持ち込んだ訳じゃないぞ‥‥」
 味方が他の2機のワームを引き付けてくれている隙にエアロダンサー。
 ビームコーティングランス、ゲイルスケグルを構えてワームの上に両脚を突き立てるゲシュペンスト機。
「こいつでブチ貫いてやる!!!」
 既にミサイルやエネルギーの衝突でベコベコになっていた外殻は容易に突き破られ、内側を晒す。
 そのままエネルギーを注ぎ込むと‥‥
 光の奔流はワームを完全に貫いて、ワーム下部からその先端を覗かせた。

 こちらも機槍での攻撃を行いたいが、朝の機体は空中変形を前提として作られた機体ではなく。
 敵が1機なら隙が大きくとも一か八かやってみていいだろうが‥‥まだ他にも敵はいる。
 威力の面から見ても劇的に時間短縮できるほどの兵装ではないし、ここは銃撃戦で。
 そう冷静に判断して、朝はワームの上から一気に接近しつつ弾幕を張った。
 拓海機もワーム前方から弾丸の雨を降らせている、敵の向く方向は限定される。
(‥‥)
 見た目には感情の動きのない朝。
 奈々の容態は心配だが、彼女の安全のためには目の前の敵に集中する事が一番いい。
 迷いはなく、迅速に、されど慌てず。
 ワームの回避も計算のうちとばかりに弧を描き、スナイパーライフルに切り替えてワームの下方からの狙撃。
 2機目のワームも、それで地に落ちた。

 威力の面で脅威になるプロトン砲を、撃たないままに撃墜されてしまった2機。
 だからというわけではないだろうが残り1機となったワームは、その強烈な光の帯を照射した。
 だが。
 拓海機とティナ機を巻き込むように見えた射線は、容易に回避される。
 ティナの放ったラージフレアが重力波を乱したのだ。
 敵が無人機らしいとゲシュペンストから聞いたその予想は正しかったらしく、追撃もティナの方へ。
 いまだラージフレアの影響下にある彼女の方に向かってきた。
「もう救出班は地上で治療にかかっているようだが‥‥ここで敵数を減らしておけば」
「はい、充分可能です。‥‥行きます!」
 アンジェリカとアッシェンプッツェル、2機の戦乙女の光条がワームを灼く。
 強く、夕陽にも負けないほど、強く。


 ‥‥そして、安全圏に退避した雫のクノスペで‥‥奈々は見ていた。
 医の道に携わる者の姿を。
(腸が外部に露出していたせいで、膨張している‥‥)
 薬品を染み込ませたガーゼを当て、注射で腹内の圧力を下げる準備をする。
 同時進行で金属片を取り除き、血管から筋肉から全修復。
 腸を適切な状態で腹の中におさめつつ、血のついた手袋で超機械を操って練成治療を行う。
 雫は医師である。
 肉体を治療するプロフェッショナルなのだ。
(死なせない‥‥! こんなことで‥‥終わらせない‥‥!!)
 涙を落とすのは全てが終わってからで充分。

 その外では、着陸の音を聞きつけてか小型キメラが何体か寄って来ていた。
 現の機体が駆動音を上げ、機関砲を向ける。
 ガードビーストの顔面をたやすく打ち割る弾丸。
 そしてアタックビーストからの反撃の牙も爪も、現機の表面を傷つけるのみでまるで効いていない。
 しかし現はこの圧倒的な力に酔う事はしない。
 背中に守るべきものがあるのだから。
「‥‥これ以上、掠り傷一つ付けさせるか」

 彼らは『予備戦力』としては消耗し過ぎたかも知れない。
 だが弾薬と燃料はともかく、それぞれの機体はほとんど傷ついていないのだ。
 この後も戦力として、後方支援者として、再びの救助部隊として、作戦に貢献する事ができた。
 それを考えれば文句なしの大成功。
 まあ、貢献だの損傷や消耗だの、それ以前に。
 仲間を無事に回収できた結果だけあればいいと、彼らは思っているかも知れないけれど。


 ‥‥


 帰りの高速飛行艇。
 搬送用簡易ベッドに横たわり、感謝の気持ちを表すとともに痛みで苦笑する奈々。
「ご心配をおかけしましたわ‥‥」
「あの時もそうでしたが‥‥人を心配させるとこは変わってませんね‥‥」
 それに対し、ティナはいたわる微笑みを浮かべた。
「色々話したい事もありますが‥‥今はゆっくり休んで、怪我を治して下さいね」
 どうせしばらくは動けない。
 話をする時間は、たっぷりあるはずだ。

 その様子を見て、座席に戻り息をつく朝。
「よかった」
 発したのはただ一言だけだったが、表情には心からの安堵と笑顔が浮かんでいる。
 皆が無事で‥‥無事でもないか‥‥
 まあ、みんなで戻れた事が何より嬉しい。
 特に奈々と話をしなくとも。朝はそれだけで満足なのである。
「‥‥本当に、な」
 心からの安堵を浮かべる者はもう1人。
 過去に何があったかはわからないが、拓海もまた、満足の表情で座席に背を預けていた。
 助けることができたという結果に。
 今度は、やりきったと。

「しかし、なぜ燃料タンクなんて開いていたんだ? 機体を壊そうとしていたのか?」
 現の疑問。
 自殺を疑ったが、それならなぜすぐ救出に応じたのかと。
 それには奈々もすんなり答えた。
 キメラの不可解な行動のこと。
 その理由を考えると、ヨリシロを求める者がいるとしか考えられなかったこと。
 説明が終わるか終わらないかという時、雫が奈々の手を取った。
「私は‥‥っ! 神崎さんが、もし死んでしまったら‥‥それはとても、とても悲しいけど‥‥!」
 ひとりの医師ではなく『菱美雫』に戻った彼女の涙腺は、耐えることを知らない。
「ヨリシロにされて、見た目以外神崎さんでなくなってしまうようなことにされてしまったら‥‥」
 後から後から溢れてくる。
「私‥‥そんなの、耐えられない‥‥っ!」
 奈々は感じ入るように聞いていた。
 嬉しかった。
 共感してくれた事が。奈々にとっての苦痛のありかたを、理解してくれるだろう事が。
「有難う‥‥雫さん」
 ティナは黙って微笑み、2人を見守る。
 命を何より大切に思う現としては少し苦笑するが、この空気を壊そうとも思わない。
 それに。
「怪我が治ったら茶でも奢ろう。生き残った喜びが味わえる美味いのをな」
 今は、皆が無事に帰って来られた事を喜ぶだけでいいだろう。


「あ‥‥わたくしの事は、下の名前で呼んでいただけた方が‥‥嬉しいですわ」
 と、皆の座る座席の方にまで聞こえるように、奈々は言った。