タイトル:variant―赤い螺旋マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/24 01:56

●オープニング本文


それは、赤い螺旋を描くような炎の攻撃――。

立ち尽くす天使の姿に、俺は不覚にも見惚れてしまったんだ。

※※※

そのキメラに出会ったのは偶然だった。

舞うように森を焼き尽くす赤い炎、そして空から見下ろす天使の姿。

確か何かの本で読んだような気がする。

天使の中で『炎』を使えるのは4大天使のミカエルなのだとか‥‥。

その日の俺はキメラ退治を終えた後で、精神的にも肉体的にも天使キメラを相手に出来る気力はなかった。

だから、俺は申し訳ないと思いながらもキメラから逃げるように隠れて歩いていた――。

だけど、俺は聞いてはいけない声を聞いてしまった。

「誰か助けてええぇぇ!」

幼い少年の助けを求める叫び声。

俺が生き残るためなら、そのまま何も聞こえないフリをして帰ればよかった。

だけど――俺はその声を見捨てて逃げることなんて出来なかったんだ。

「逃げろ!」

気がつけば、俺は少年とキメラの前に出て、剣を握り締めていた。

疲れがあり、剣がいつもより重く感じる。俺は少年が逃げるのを確認すると、自分も逃げようと足を進める。

だけど―――。

背後からやってきたキメラの攻撃を避けきる事が出来ず、キメラの腕が俺の胸を貫いていた。


●参加者一覧

葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
榊 紫苑(ga8258
28歳・♂・DF
月村・心(ga8293
25歳・♂・DF
優(ga8480
23歳・♀・DF
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
音影 一葉(ga9077
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

「‥‥侵略者が天使気取りとは‥‥笑わせてくれる‥‥」
 クッと笑みを見せながら呟いたのは八神零(ga7992)だった。
「天使か‥‥神など試練という名の下に人間にちょっかいを出してくるだけで、いざという時に何もしない――そんな奴の使いなどありがたくもないな」
 月村・心(ga8293)が冷たく呟く。彼の言う事も一理あるのかもしれない。本当に『神』などが存在するなら、バグアが闊歩している今の時代こそ神が救うべきなのだから。
「所詮、どんな姿をしていようともキメラはキメラですね」
 音影 一葉(ga9077)が自信たっぷりの表情で呟く。彼女は油断をしているワケではない。単に『異能力を持つキメラ』としか今回の天使を見れなかっただけなのだ。
「神も仏もないこの時代で偽りの天使だけが蔓延っている――何度でも来るがいいさ、そのたびに殺してあげる」
 葵 宙華(ga4067)が『スコーピオン』を握り締めながら冷たく呟く。
「そう、天使だろうが関係ない。敵なら討つのみ」
 神無 戒路(ga6003)が葵の言葉に賛同するように言葉を返してきた。
「そういえば‥‥必要ないかもと思ったんだが‥‥敵の情報とかを集めてきた」
 榊 紫苑(ga8258)がメモを取り出しながら呟く。彼は合流前に単独で情報収集を行ってきていた。
「情報‥‥誰からの情報ですか?」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が問いかけると「この前の能力者」と榊は短く言葉を返した。
 この前の能力者、つまり少年を逃がす為に無理して戦闘を行ったという男性能力者の事だった。彼は重傷を負いながらも通りがかった能力者に助けられ、命は助かっていたのだ。
「敵‥‥天使キメラは最初に炎攻撃を行って相手を弱めてくるらしい‥‥その後に自分の手を使ってトドメを刺しに来る‥‥性格は悪そうだな」
「炎の攻撃、回避できれば良いのですが‥‥」
 優(ga8480)が困ったように呟くと「‥‥なるようにしかならないだろうね」と葵が言葉を返す。
「上空からの攻撃だったら‥‥回避は難しいかもしれないですね」
 音影が呟き、能力者達は今回のキメラを倒すべく現地へと移動していったのだった。


〜赤い翼・空高くありし異形のモノ〜

 現地へ到着すると同時にユーリが『探査の目』を使用して、キメラからの待ち伏せや不意打ちを受けないようにしていた。
 元々は緑の多い森だったのだろうが、キメラが焼き払ったせいか見晴らしが良くなっている。
「‥‥あれ、キメラ――でしょうか」
 ユーリが指差した遠くには空に浮かぶ『何か』があった。結構距離が離れているので、はっきりキメラとは言えないが、空に浮かんでいる時点でほぼ確実にキメラなのだろう。
「それじゃあ、此処からは班で分かれて行動しましょうか」
 優が問いかけると、他の能力者達も首を縦に振る。
 今回、能力者達は班を三つに分けて行動することにした。
 囮班として八神と優の二人がキメラへと接近して、他の班の所にキメラを誘導する役目だ。
 そして狙撃班は葵と神無の二人、攻撃班として榊、月村、音影、ユーリが待機する事になっている。
「私は覚醒せず、下手な動きでキメラに格下だと思わせて行動しようと思います」
 優は呟き、八神と共に囮となるためにキメラの方へと向かって走り出した。合流地点は瓦礫が散乱している場所が一箇所あり、そこへとキメラを誘導する事になっている。

〜囮・天使に逆らう者〜

 キメラの所まで二人が来ると、先に動き出したのは優だった。覚醒をせずに戦闘を行い、キメラが油断した所を八神が『ソニックブーム』を使って、翼を使い物にならなくする――という作戦だった。
 優がキメラの視界に入ると、空から地面へと降りてきた。相手が一人、しかも動きが遅い為に油断をしているのだろう。
 負傷して戻ってきた能力者の話では『炎の攻撃が最初』のはずなのに、地面に降りてきて鋭く伸びた爪で攻撃を仕掛けている。
 つまり『炎の攻撃をする必要がない』と判断されたのだろう。
 優がキメラの攻撃を紙一重で避けた所を、八神が背後に立ち『ソニックブーム』でキメラの翼を攻撃する。背後から、しかも不意打ちでの攻撃だったのでキメラは避けきる事が出来ずに翼にダメージを受けてしまう。
「よし、合流地点に向かおう」
 八神が呟き、優と共に待機班がいる合流地点へと向かい始めたのだった。

〜赤き天使を狩る者たち〜

「来た!」
 葵が囮班と一緒にやってくるキメラを発見して、他の能力者に伝える。
 戦闘時の陣形も考えてあり、キメラを前にして右側に榊と葵、中央に八神、優、音影、ユーリ、左に月村と神無――といった陣形を組んで戦闘を行う予定だ。
「此処なら‥‥盾になる瓦礫が多少あるし‥‥何とかなるかな――銃撃の鎮魂歌を聴くがいい!」
 葵はスコーピオンを構え、翼を狙って攻撃を行った。
 そして、他の能力者が攻撃に移ろうとした時――キメラからの『炎攻撃』が能力者達を襲う。
 瓦礫に身を隠したり、とっさに避けたりなどで重傷まではいかないが、能力者達もダメージを受けてしまう。
「しくじりはしない‥‥」
 神無が呟き『隠密潜行』を使用して物陰からキメラに攻撃を仕掛ける。
「地獄へ落ちろ」
 神無は低く呟き『強弾撃』を使用してキメラに攻撃を仕掛けた。
「所詮は紛い物ですね、美しくも何ともありません」
 音影がため息混じりに呟いた後で『練成強化』で能力者達の武器を強化し『練成弱体』でキメラの防御力を低下させる。
「そろそろ――やられてくれ」
 ユーリは呟きながら『ギュンター』でキメラに攻撃を仕掛けた。
 一方、キメラも反撃として鋭い爪で攻撃を仕掛けてくるが、ユーリはそれを避けて携帯していた『菖蒲』でカウンターとして攻撃を行った。
「悪いけど、そう簡単にはやられないよ」
 ユーリの攻撃を受け、地上戦は不利だと考えたのかキメラは傷ついた翼を動かそうとしている。空中戦に持っていって能力者達を攻撃しようとしているのだろう。
「空中戦は‥‥得意じゃないんだが‥‥今まで好き放題してたんだ、もういいだろ」
 榊はため息混じりに呟く。
 その時に優が「落ちなさい」と短く呟き、キメラの翼を狙って攻撃する。それと攻撃を合わせるように葵も攻撃を行い、キメラの翼は完全に切り落とされたのだった。
「‥‥ご自慢の翼を失った感想はどうだ? 次はその腕を斬り落とす」
 八神が呟くと同時に背後から『豪破斬撃』と『二段撃』を使用して攻撃を行う。
「ハッ、見た目のワリには強さはイマイチのようだなぁ?!」
 月村がおかしそうに笑いながら『アーミーナイフ』を両手に持って攻撃を仕掛ける。
「片方はお前の嫌いそうな水の力がついている。何処まで耐えられるかな?」
 月村は『両断剣』を使用して威力を増強して、キメラの懐に入り込んだ所を『流し斬り』で攻撃する。
 翼の傷、そして体全体の傷、それがキメラの強さを弱めているのだろう。攻撃も最初の時のような鋭さはなく、鈍く避けやすいものに変わっていた。
 それからは苦労する事もなく、キメラを追い詰め、無事に倒すことが出来たのだった。


〜神様なんていない〜

 天使キメラを無事に倒した後、能力者達は瓦礫に背中を預けて休んでいた。倒した後すぐに帰還しても良かったのだが、多少のダメージを負っているので、少し休んでから帰ろうという事になったのだ。
 キメラを倒した後、葵は空を見上げながら過去の仕事を思い出していた。助けられなかった子供の姿が頭に浮かんでくる。後悔で苛々とした気持ちは飴などでは収まるはずもなく、祈りと願いをこめて葵は空へ向けて一発だけ発砲した。
「‥‥天使を騙る者、地獄の業火に焼かれるがいい」
 神無はポツリと呟く。冷静な表情を装っているが、心の中ではキメラに対する怒りが渦巻いていた。
「‥‥神様に宜しくな――お前らにとって神が存在すれば、だが」
 八神も息を整えながら、今はもう動かない天使キメラに対して呟いた。
「‥‥ふぅ、やはり慣れない事はするモンじゃないな‥‥これで、犠牲者が浮かばれるといいが‥‥」
 空中戦が得意な相棒の事を考えながら、榊はため息混じりに呟く。
「バグア達もご苦労なこった。天使、神、悪魔、そんなこの世に存在しないモンを作ってるんだからよ」
 月村が可笑しそうに笑いながら呟く。
「そうですね、神話などに登場するキメラを作れば人間に効果があると思っているのでしょうか‥‥」
 優が空を見上げながら呟く。バグアやキメラが人間の事を理解できないように、能力者、人間もまたバグア達のことを理解する事など出来ない。
 それは決して交わらぬ平行線のようなものなのだから。
「無事に倒せてよかった‥‥」
「所詮は紛い物です、ま――本当に天使だったとしても結果は同じですけど」
 ユーリの呟きに音影が言葉を返す。

 そして、休憩の後、能力者達は報告を行うために本部へと帰還していったのだった。

END