●リプレイ本文
「廃墟――というわけではないから、建物にも被害は出したくないわね」
ケイ・リヒャルト(
ga0598)が小さく呟いた。
今回の戦闘現場は町の中なのだが、住人が避難しているだけの生活ある場所なのだ。
だから、単にキメラだけを倒せばいい――という事ではないのだ。
「今回のキメラは刃型の尻尾を持つ狐‥‥か。キメラも擬態するだけでは留まらなくなってきたか‥‥」
アークレイ・クウェル(
ga4676)がため息混じりに呟く。彼自身は『剣のような尻尾』に興味があるらしい。骨が発達して鋭くなったものなのか、それとも金属質で骨格全体が金属並みの強度を誇るのか――それを調べたいらしい。
「狐といえば‥‥年を経た狐が妖怪になる際に尻尾が増えていくと言いますから、今回のはその例で言うと成り立てほやほやなのでしょうね」
榊 刑部(
ga7524)が「皆で立ち向かえば恐れる程の敵ではないはずです」と言葉を付け足しながら、今回一緒に行動する仲間達に話しかけた。
「そういえば僕のエンブレムも狐なのですが‥‥何か複雑ですねぇ」
苦笑しながら呟くのは斑鳩・八雲(
ga8672)だった。
「普通の狐なら可愛いし好きなんですが、キメラの狐はちょっと‥‥怖いですしね」
斑鳩の呟きに言葉を返すように古郡・聡子(
ga9099)が呟いた。
「確かにそうですね。そういえば二尾の狐といえば、玉藻前もそれだったとする説もあると聞きますが‥‥」
ジェイ・ガーランド(
ga9899)が思い出したように呟く。
「そして狐といえば油揚げ――いえ、冗談です。さすがにバグアがそんな俗説を採用するとも思えませんしね」
「でも意外と効果あったりして‥‥」
緑(
gb0086)がポツリと言葉を返す。
「ま、まさか‥‥油揚げに釣られて出てくるキメラなんて――いるのかな」
だんだんと効果があるんじゃないか、と考え始めた頃「持ってきましたよ、私」と古郡がポツリと呟く。
「油揚げではないのですけど、お肉とかを沢山いれたお鍋を持ってきました」
ほら、と古郡は持っていた袋の中を見せながら話す。確かに袋の中には食欲をそそるような匂いを放つ鍋が入っている。
「キメラもお腹がすく――という場合のみでしかお役にたてないですけど‥‥試してみようと思いまして」
「そうね、何でも試してみるのは悪くないと思うわ」
ケイが言葉を返し、能力者達は今回の作戦の確認を行い始めたのだった。
〜異形の狐・存在を許されないモノ〜
「戦闘に適した場所は――‥‥こことここだな」
アークレイは借りてきた町の地図上に指を滑らす。戦闘に適した場所は二つあり、ひとつは町はずれ、一つは遊具のない公園だった。
「じゃあ‥‥キメラを発見しだい‥‥どちらかの場所に誘導‥‥しますね」
緑がポツリと呟く。
今回、能力者達は囮班と待ち伏せ班とに人数を分けた。
囮役として緑と斑鳩の二人、その他の能力者達は待ち伏せ班として、囮たちがキメラを誘導してくるのを待つ――という作戦だ。
「作戦開始だ、あまり時間をかけるなよ」
アークレイが呟き、囮役の二人は首を縦に振り、キメラ捜索へと動き出したのだった。
〜囮役〜
「お荷物にならないよう、頑張らないと‥‥」
緑が呟くと「一緒に頑張りましょう」と斑鳩が言葉を返す。
「匂いに釣られてくれるといいんですけど」
ポツリと斑鳩が呟き、緑が首を傾げると「風上に狐の好きそうなものを置いてきたんですよ」と斑鳩は言葉を返す。
「ああいうもので釣れるとは思っていないですけど、引っかかってくれればラッキーですしね」
双眼鏡で周囲の様子を窺いながら呟く。あまり待ち伏せ班と離れすぎるのも得策ではないと考え、無線機を使って連絡は怠る事はしない。
「あれ――問題のキメラじゃないですか?」
双眼鏡を緑に渡しながら話しかけ、緑は双眼鏡を受け取り、それを覗く。すると町の中で気持ち良さそうに眠っている狐が視界に入ってくる。
「‥‥確かに‥‥あれっぽいね‥‥それじゃあ――」
「行きましょうか」
二人は互いの顔を見合わせ、狐キメラの所へと向かう。
最初に行動を起こしたのは緑で『ディガイア』で狐キメラに威嚇攻撃を行う。狐キメラは飛び起きて、緑に反撃をするが、緑はそれを避け、斑鳩と一緒に待ち伏せ班の所まで誘導を始めた。
〜戦闘開始・狐狩り〜
「来たみたいね」
ケイが呟き小銃『フリージア』を構える。
「お鍋作戦は効かなかったみたいですね‥‥少し残念です」
古郡が呟くと『スパークマシンα』を装備して、狐キメラとの戦闘に備える。
「来る!」
ジェイが叫んだと同時に囮役の二人と狐キメラが姿を見せた。
「どうやら逃げる心配はなさそうだな」
敵意をむき出しに襲い掛かってくる狐キメラを見て、ジェイが苦笑気味に呟き『鋭覚狙撃』と『強弾撃』を使用して攻撃を仕掛ける。
能力者達は狐キメラを包囲するような陣形を取っているため、狐キメラは逃げる事も出来ないのだ。
「あらあら、逃・が・さ・な・い♪」
ケイが楽しそうな笑みを浮かべながら『鋭覚狙撃』を使用して攻撃を繰り出す。彼女は尾の付け根や足を狙いながら攻撃を行っている。
反撃として狐キメラの尾の攻撃が地面を抉る。まともに狐キメラの尾をくらってしまえば軽症では済まされないだろう。
「‥‥わ‥‥っ」
緑が攻撃を仕掛けようとした時、狐キメラの尾が彼を狙う。
「誰も傷つけさせはせんよ!」
アークレイは叫ぶと同時に『瞬速縮地』を使用して狐キメラと緑の間に割って入り、四枚の翼で体を覆うようにしながら『獣の皮膚』を使用して尾を受け止める。
そしてその瞬間に翼を広げて狐キメラを弾く。弾かれて一瞬の隙が生じた所を『刀』で斬り込む。弾かれて避ける事が出来なかった狐キメラはアークレイの攻撃をまともに受けてしまう。
「このまま一気に叩きましょう」
榊が呟き、狐キメラに向かって走り出す。途中で尾の攻撃が来たが『バックラー』で防御したり『イアリス』で弾いたりなどして、攻撃を受ける事はなかった。
そして狐キメラとの距離を縮めると『豪破斬撃』『流し斬り』『急所突き』のスキルを併用して攻撃を繰り出した。武器の威力を上げ、攻撃スキルを二つも受け、狐キメラは既にまともに立つ事も出来ずにいた。
「二尾‥‥狐というより、猫又とでも混ざったのでしょうかね」
動きの鈍くなった狐キメラを見ながら斑鳩が『両断剣』を使用しながら呟く。
「これで痺れていただきます」
古郡が呟きながら『スパークマシン』で攻撃を行う。本当ならば弓を使っての攻撃を行いたいところだったが、スパークマシンによる攻撃の方が威力があるため、弓での攻撃を諦めたのだ。
「さすがに妖術まで仕掛けてくる事はなさそうだな」
ジェイが攻撃を行いながら呟く。今回の狐キメラは鋭い尾を使っての攻撃のみで、文献上にあるような妖術までは使用してこない。
最も、そのような術を使うキメラが現れると能力者達の戦いも今より厳しくなるのだろうけれども。
「いい加減‥‥諦めたら? 袋のネズミ‥‥じゃない、袋のキツネ‥‥なんだからさ」
なんてね、と冗談めかしながら緑が呟き『ディガイア』を使用して攻撃を行う。
その後も地道に攻撃を繰り返し、能力者達は狐キメラを退治したのだった。
〜帰還〜
「今回の敵が妖術を使ってくる相手でなくてよかったです。素早い上に幻惑のような力を使われては、よほどの戦巧者でもない限り手こずるでしょうからね」
戦いが終わった後、榊が小さく呟いた。
「そうね、でもこれから先そんなキメラが現れないとも限らないわ」
榊の呟きにケイが言葉を返すと「全くだな」とアークレイも話に入ってきた。
「色んなキメラが現れているみたいだからな、どんなキメラとも戦えるようにしておかないと‥‥しかし、こいつには尾は予想通りだったな」
アークレイが狐キメラの遺体を見ながらため息混じりに呟く。尻尾の部分のみ金属のように硬いもので出来ており、それが鋭く刃のような尾にしていたのだ。
「解剖して調べてみたいところだが‥‥道具がないから無理だな‥‥残念だ」
アークレイが残念そうに呟き、斑鳩も「何か‥‥キメラもランクがあがってきているような‥‥」と言葉をもらした。
「皮肉なものですね、キメラに打ち勝とうとして能力者が力をあげれば、バグア側はそれ以上に強いキメラを作ろうとして‥‥悪循環です」
斑鳩の言葉に「そうですね、でも‥‥頑張っていきましょう」と古郡が言葉を返した。
「とりあえずは今回のキメラを無事に倒せた事を喜びましょう」
ジェイが呟き、緑も首を縦に振る。
そして能力者達は今回のキメラを無事に倒せた事を、本部に報告するために帰還していったのだった。
END