タイトル:陽だまりの道マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/10 01:51

●オープニング本文


バグアがやってくるまで、ココは綺麗なひまわり畑だった‥‥。

でも――‥‥。

※※※

「あ、私ここのひまわり畑‥‥好きだったなぁ」

女性能力者が写真整理をしていると、一枚の写真で手を止めて懐かしそうに呟く。

その写真には一面のひまわりが咲いていて綺麗な写真だった。

「あれ、でも‥‥この場所って――」

男性能力者が写真を見ながら呟くと「そう」と女性能力者は顔を俯かせながら言葉を返した。

一面のひまわり畑、そこはもう今は存在しない。場所だけなら存在するのだが、咲き誇るひまわりは見ることが出来ないのだ。

――バグアに焼き払われてから。

ひまわり畑の近くには人口の少ない町があり、その町にキメラが襲撃してきた。

その際にひまわり畑も焼かれて、今は荒地になっているだけなのだ。

「小さい頃とか結構行ってた場所だから、焼き払われた時は本当にショックだったわね」

女性能力者が呟き、写真を片付けると別の女性能力者が慌てて駆け寄ってきた。

「大変よ、アンタの故郷――またキメラが‥‥」

え、と女性能力者は呟いた後、手から写真を滑り落とした。

「い、行かなきゃ‥‥」

女性能力者は青い顔で呟き、出て行こうとするが、他の二人に止められる。

「待って、もうキメラ退治に向かう能力者達は出発する頃よ!」

「でも私の故郷よ! 私が助けに行かなくちゃ!」

「足を怪我しているお前が行った所で足手まといになるのは目に見えてるだろ!」

男性能力者の言葉に「でも‥‥」と女性能力者は俯き、涙を堪えながら呟いた。

「他の仲間に任せましょ、ね?」

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
アリス(ga1649
18歳・♀・GP
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
シエラ・フルフレンド(ga5622
16歳・♀・SN
煉威(ga7589
20歳・♂・SN
黒江 開裡(ga8341
19歳・♂・DF

●リプレイ本文

「お願い! 私も一緒に連れて行って!」
 任務地へ出発しようとしていた時、一人の女性能力者に呼び止められた。女性能力者は旭と名乗り、能力者達が行こうとしている場所出身なのだと言う。
「二度と故郷を‥‥蹂躙されたくない気持ちは‥‥分かる。けど‥‥今は俺達に‥‥任せて? 必ず倒すから‥‥」
 幡多野 克(ga0444)が旭に言葉を返す。自分の故郷が危ないのだから大人しくしていられない気持ちは他の能力者達も分かっていた。
 しかし、旭は先日の任務で足に怪我をしていて、とてもじゃないが戦闘を行える状態ではない。
「その足でどうやって戦う?」
 御影・朔夜(ga0240)が短く問いかけると「それは‥‥」と口ごもりながら言葉を返した。
「私の故郷だって‥‥前の大規模作戦で‥‥みんなが、護ってくれたわ‥‥。今回だって‥‥ね、きっと」
 アリス(ga1649)が宥めるように話しかけると「‥‥でも、私は自分の手で護りたいの」と旭は俯きながら呟く。
「‥‥時に、キメラを始末した後の片付けに人手がほしいんだが‥‥手は空いているか?」
 ポツリと呟いたのは黒江 開裡(ga8341)だった。戦闘には参加させられないけれど、その後の片付け程度なら大丈夫だと考えたのだろう。
「そうだねっ♪ 片付けでは参加してほしいかも♪」
 シエラ・フルフレンド(ga5622)が笑って答える。その手には先ほど沢山買ってきたひまわりの種が持たれている。
「そうですね、このまま此処で話し込んでいても仕方ありませんし、一緒に行きましょう」
 霞澄 セラフィエル(ga0495)が呟く。
「キメラ討伐後、焼き払われたひまわり畑に、ひまわりの種を植えようと計画しているんだ。それにはぜひキミにも参加してほしい」
 終夜・無月(ga3084)が旭に話しかけると、彼女は驚いたような表情を見せた。まさかひまわりの種を植えてくれるなど考えもしていなかったからだ。
「そういえば、種植えなんてやった事ねェや‥‥ハハ、でも皆がやるなら俺もやるぜっ」
 煉威(ga7589)が頭の後ろで手を組みながら呟く。
 しかし、彼の頭の中には『ひまわりの種ってウメェのかな‥‥』という考えがあった。
 そして能力者達は旭と一緒に目的の場所へと向かい始めたのだった‥‥。


〜焼き払われたひまわり畑〜

 今回、能力者達は索敵時と戦闘時と班を二種類に分けて編成した。
 索敵時の班編成は以下の通りである。
 A班・御影、黒江
 B班・霞澄、アリス
 C班・シエラ、幡多野
 D班・煉威、終夜
 そして、キメラを発見して戦闘時になった時の班編成は以下の通りになった。
 1班・幡多野、アリスの二人で1班は囮役を受け持つ事になった。
 2班・御影、終夜、黒江の三人で2班は接近攻撃を受け持つ事になった。
 3班・シエラ、煉威、霞澄の三人で3班は射撃攻撃を受け持つことになった。

「とりあえず、町周辺の地図を班の数だけ申請しておいたよ」
 終夜がそれぞれの班に地図を渡しながら呟く。
 そしてキメラ退治の際に使う火炎瓶の道具も渡していく。
 今回のキメラは長い髪を触手のように使って攻撃してくるという事から、投げて使える火炎瓶を作って攻撃をしようという事になったのだ。
 もちろん火が燃え移らないような場所でしか使えないのだけれど。
「この辺とかが周りに何もなさそうだな」
 黒江が地図上に指を滑らせながら呟く。彼が指した場所は本当に何も障害物がない場所で、旭に話を聞いてみると、その場所は公園で、多少の遊具はあるけれど戦闘には差し支えはないはず――と言葉が返ってきた。
「そんじゃ、早くキメラを倒してひまわりの種を食べ――じゃなくて植えようぜっ」
 煉威が言い直しながら呟き、能力者達はキメラを探すために動き出したのだった。

〜御影・黒江ペア〜
「見る影もないな‥‥」
 ひまわり畑の前を通りながら黒江がため息混じりに小さく呟いた。ひまわり畑は結構な広さで一面にひまわりが咲いていたら、どれほど美しかっただろう。
 しかし、キメラ襲撃によってその美しさは失われ、今では絶望にも似たような荒地が広がっているだけだった。
「他の仲間達もまだキメラを見つけていないようだな。せめて何処に現れるかくらい分かればもう少しやりやすいのだが‥‥」
 御影が呟く。確かにキメラが『何処』に現れるのかという情報は全く手に入れることが出来なかった――というよりも住人達もキメラを恐れて家から出てこないのだ。
 御影たちがキメラ情報を仕入れようと家を訪ねるが「さっさと倒してくれ」としか言葉は返ってこない。
 この町はどちらかというと閉鎖的な町だから、住人の態度も無理はないのかもしれないが――気分の良いものではなかった。
「他の班はどうなっているんだろうな」
 黒江が呟き、通信機で他の班に連絡を入れたのだった。

〜霞澄・アリスペア〜
「今回のキメラは髪を伸ばして攻撃――なんですよね。髪が伸びる人形については聞いた事がありますが、実際に髪で攻撃してくるキメラとなると迷惑ですね」
 霞澄がため息混じりに呟く。
「そうだね‥‥しかも、お人形さん‥‥ね‥‥出来れば、その姿には‥‥なって欲しくなかったわ」
 今回のキメラの外見、それは日本人形のようなキメラだと聞いていた。やはり女の子としては『人形を壊す』という事に多少なりとも抵抗があるのだろう。
「そうですね‥‥それにしてもどの辺りにいるのでしょうね」
 霞澄が周りを警戒しながら呟くと「えっと‥‥」とアリスが話し始める。
「‥‥日本人形‥‥だから、というわけではないけど、屋根の上よりも道に面した辺りを‥‥着物で、跳躍する‥‥ってあまり考えられないし‥‥」
 少し苦笑しながらアリスが呟くと「確かにそうですね」と納得したように言葉を返し、着物でも動き回れそうな場所をメインに捜索を始めたのだった。

〜シエラ・幡多野ペア〜
「住人の姿も‥‥キメラの姿も‥‥全く見えませんね‥‥」
 キメラ捜索を開始してから十数分が経過したが、捜索に進展は見られなかった。他の班に連絡を入れてみるも、キメラを発見したという連絡はなく、どうしたものかと二人は考え始める。
「‥‥何を、食べているんですか?」
 隣でぽりぽりと何かを食べるシエラを不思議に思ったのか、幡多野が問いかけると「これです」とシエラは小さな袋を見せてきた。
 その袋には『食べられる美味しいひまわりの種!』と書かれていて、植える種を買った時、一緒に買ってきたのだろう。
「幡多野さんも食べますか?」
 ずいっと袋を差し出し「どうしようかな‥‥」と幡多野が呟いた時だった。シエラが持っていた『ひまわりの種』の袋を何かが貫いてきたのだ。貫かれた事により、ひまわりの種が地面にばらばらと落ちる。
「ひ、ひまわりの種が‥‥許せないのです!」
 キッとシエラはキメラを強く睨み、武器を構える。
 しかし、町中での戦闘は避けたい為、最初に言っていた公園へと誘導するように幡多野が呟く。
 シエラもその提案に賛成し、他の班に連絡を入れてから公園へと誘導を始めたのだった。

〜煉威・終夜ペア〜
「何処にいるんだろうなー‥‥このままじゃキメラ探すのに日が暮れそうだぜ」
 はあ、と煉威が大げさなため息を吐きながら呟く。
「まぁ‥‥気長にいくしかないね、こればかりは‥‥」
 終夜が苦笑気味に言葉を返すと「だって〜‥‥暇で暇で‥‥」と煉威はがっくりと肩を落としながら呟く。
 その時に通信機に連絡が入り、煉威は肩を落としている場合ではなくなった。
「‥‥キメラ発見らしいよ、シエラ達の班がキメラと遭遇したらしい」
 終夜の言葉に煉威が目を丸くして「急がなくちゃだぜっ!」と公園目掛けて走り出したのだった。


〜戦闘開始、ひまわり畑を黄色く染めるために〜

 シエラ達の連絡を受けてから、能力者達は公園で合流を果たし、最初に決めていた戦闘態勢を取る。
 最初に行動を起こしたのは囮役のアリスと幡多野の二人だった。触手のようにうねらせる髪を避けながら幡多野が『月詠』と『菖蒲』で攻撃を仕掛ける。いくら触手のようなものだからと言っても所詮は髪でしかなく、切ればそれまでのこと。
「うまくいけば‥‥切り落としたいけど‥‥無理は、しない方がいいわね‥‥」
 アリスがポツリと呟きながら『ロエティシア』で攻撃を仕掛ける。囮班の役目は『髪を切る事』ではなく『射撃班の攻撃援助の為にキメラの攻撃を引き付ける事』なのだ。
 囮班がうまく敵の攻撃を引き付けている間にシエラが『鋭覚狙撃』と『影撃ち』を使用して攻撃を繰り出す。
「さっさとやられちまいなっ!」
 煉威が両手に小銃『フリージア』を装備して『二連射』を用いて攻撃を仕掛ける。髪での攻撃で多少狙いが定まらないが、囮班がうまく引き付けてくれているので全く攻撃が当たらないというほどまではなかった。
「取って置きだ、受け取れ――木偶人形」
 黒江が短く呟き小銃『S−01』に装填しておいた『貫通弾』でキメラに攻撃を仕掛ける。貫通弾を受けた事により、キメラは後ろへ強く仰け反って大きな隙が出来る。
 その隙を見逃さなかった霞澄は『急所突き』『強弾撃』『影撃ち』の三つの能力を使用してキメラに攻撃を仕掛ける。
「怪談話を元にしたのでしょうが、女性の髪に対しての侮辱です」
 霞澄が攻撃を終えると同時に冷たく呟く。射撃班・囮班によってキメラの最大の武器である『髪』はほとんど失われ、その効果は皆無に等しかった。
「――アクセス」
 御影が覚醒と同時に呟き「その程度なのか――」と嘲るように笑う。
「‥‥ならばこれ以上の用はない――飽きた人形の末路など一つだろうに」
 御影は呟きながら小銃『シエルクライン』で『強弾撃』『二連射』『影撃ち』を使用して攻撃を繰り出す。彼の攻撃は文字通り『原型を留めない』ほどの勢いで、他の能力者も少しだけたじろいだ。
「さすがに、火炎瓶は使用できないかな」
 終夜が周りの遊具などを見ながら小さく呟き『月詠』で『豪破斬撃』『流し斬り』を用いて攻撃を行う。接近戦が不利になれば、終夜は下がって『フォルトゥナ・マヨールー』で攻撃を繰り出す。
 その後もキメラは何度も反撃を行おうとしたが、射撃班に遮られ、そして接近班に懐に入られ攻撃を受ける――これを何度も繰り返していると、ついにキメラは地面に倒れて動かなくなったのだった‥‥。


〜今は無理でも、いつか明るい明日がやってくる〜

 キメラ退治が終わった後、能力者達は旭に頼んで町の住人を連れてきてもらった。
「何を始めるんだ?」
 住人の一人が呟くと「ひまわり畑を‥‥復興させるんです‥‥」と幡多野が言葉を返した。畑は見ての通り荒れ果て、ゴミ捨て場に近い状況になっていた。
 能力者達はそれを片付け、ひまわりがまた咲くような場所に少しずつ戻していく。
「種を蒔くのには今がちょうどいい時期ですし、願わくば夏の日差しに大きな花を咲かせてくださいますよう‥‥」
 霞澄が穏やかな笑みを浮かべながら丁寧に種を蒔いていく。もちろん住人達にも種を渡して、種蒔きを手伝ってもらっている。
「前の思い出は燃えちゃったかもですけど、新しい思い出は皆さんの手で作っていってほしいのです!」
 シエラがにっこりと笑って住人達に話しかける。その隣ではぽりぽりとひまわりの種を食べる煉威の姿が見受けられた。
「見ての通り、ひまわりの種は食えるからな。有志の傭兵による食料生産促進の一環‥‥という事で、農作業などいかがかな?」
 黒江がひまわりの種を住人に渡しながら悪戯っぽく笑う。
「黄色い色は‥‥元気をもたらす‥‥色。怪我、早く治るといいね‥‥そして、この町も‥‥」
 幡多野が呟き、旭は「ありがとう」と言葉を返す。

 全てが終わる頃には日もだいぶ暮れ、能力者達はくたくたになって疲れていた。
「わざわざありがとう、あんな態度を取った私達の為に‥‥」
 住人の一人が申訳なさそうに呟くと「‥‥かまわないわ‥‥」とアリスが言葉を返す。
「‥‥いつか、一面に咲き誇る‥‥ひまわりを、見に来るから――その時まで、しっかり育ててね」
 アリスは言葉を残し、能力者達は報告の為に本部へと帰還していったのだった。

 あの荒地に一面のひまわり畑が見られるのも、そう遠い話ではないのかもしれない。


END