●リプレイ本文
〜女神を屠る者たち〜
「フン、また神か‥‥しかもギリシャ神話のフレイヤ――人を馬鹿にするのも限度というものがあるな‥‥」
月村・心(
ga8293)がため息を交え、忌々しげに呟く。
「女神を模したキメラ‥‥モデルの趣味はいいですが、やっている事は悪趣味ですねぇ」
斑鳩・八雲(
ga8672)が苦笑気味に呟くと「美人の相手なら願ったりだな」と九条・縁(
ga8248)が言葉を返した。
「フレイヤは美の神、神話の美女はどんな姿なのかしらね」
櫻杜・眞耶(
ga8467)が笑みを浮かべながら呟くと「そういえば」と国谷 真彼(
ga2331)が思い出したように呟きだした。
「バグアはどこまで人間を理解しているのかな?」
国谷の言葉に遠石 一千風(
ga3970)が「さぁね‥‥でも誤解しているのは間違いないでしょう」と言葉を返す。
「誤解?」
鐘依 透(
ga6282)が首を傾げながら聞き返す。
「だって、神を模したキメラを作れば人間は動揺する――だから作っているんじゃないかしら。その考え自体が間違いだというのに」
遠石の呟きに「確かに‥‥」と鐘依も納得したように頷く。いくらバグアが神を真似たキメラを作ろうと人間の心は誤魔化されないのだから。
「ま、いくら美女のキメラが出てきても尻軽女には興味がない。今回のチームには美女が二人もいるんだからな」
世辞ではないぞ、ゴリ嶺汰(
gb0130)が櫻杜と遠石に視線を向けながら呟く。
「魅了――かぁ。された事ないし、想像も出来ないけど、惑わされないように頑張ろう‥‥」
鐘依がポツリと呟き、能力者達は『フレイヤ』と『ヒルディスヴィーニ』の二匹が潜む森へと向かい始めたのだった。
〜女神の待つ森〜
今回の作戦は至ってシンプルなもので、森の中を能力者達が歩きまわってフレイヤ達を捜索し、発見次第戦闘に入り、撃破する――‥‥説明では簡単なモノだが実行するとなると意外と難しいものだ。
まず、森が予想以上に広かったこと。なるべく明るいうちに発見して戦闘を行いたい能力者達にとっては時間が過ぎていくたびに多少の焦りが出てくる。
最初は固まって捜索していたが、分かれた方が時間短縮に繋がるといって現在は分かれて捜索中だ。
「全く‥‥見つけやすい所にいてほしいもんだぜ」
嶺汰がため息混じりに呟く。
どうしたものかな、嶺汰がポツリと呟いた時に『照明銃』が打ち上げられた。それは櫻杜からの『キメラを発見した』という連絡――嶺汰はもちろん、他の能力者達も『照明銃』が打ち上げられた場所へと向かい始めたのだった。
能力者達がフレイヤ達の所にやってきたのはほぼ同時で、それぞれは森に来るまでに決めていた役割を果たす為に動き出す。
魅了を使ってくるフレイヤを担当するのは嶺汰、九条、遠石の三人。
猪・ヒルディスヴィーニを担当するのは斑鳩、鐘依、国谷の三人。
そして、両方の対応に出れるように準備をしているのは月村と櫻杜の二人。月村はフレイヤの『魅了』について詳しく分かるまでは前衛に出ないように決めていたのだ。
「まずはコレを受け取っていただきましょうか」
国谷が『ペイント弾』をヒルディスヴィーニに向けて放つ。ペイント弾はヒルディスヴィーニの目に命中し、視界を奪われたヒルディスヴィーニは暴れて騎乗しているフレイヤは弾かれ、ひらりと地面に立つ。
「うまく分散させる事が出来ましたね」
斑鳩が呟き『ソニックブーム』でヒルディスヴィーニに攻撃を仕掛ける。斑鳩が攻撃を終えた後、間髪入れずに鐘依が『フォルトゥナ・マヨールー』で攻撃を仕掛けた。視界を奪われているヒルディスヴィーニは攻撃を避ける事も適わず、二人の攻撃を直撃で受けてしまう。
「まずは――こいつが邪魔だな」
月村が呟き『アサルトライフル』でヒルディスヴィーニに攻撃を仕掛ける。恐らくはフレイヤが騎乗していたならば、苦戦する相手だっただろうが、フレイヤから引き離されたヒルディスヴィーニはただの猪に過ぎない。
「ふふ、ただの猪に過ぎない貴方などに苦戦は――しませんよ」
櫻杜が不敵に笑み『カプロイアM2007』で攻撃を仕掛ける。彼女が射撃を行った後、鐘依は『蛍火』でヒルディスヴィーニを攻撃して斑鳩もトドメを刺すように『刀』で攻撃を仕掛けたのだった。
攻撃を受けた後、ヒルディスヴィーニはズシンと地面に沈み、動かなくなった。
「向こうは倒し終わったみたいだな」
九条が『クロムブレイド』を構え、ヒルディスヴィーニの方へと視線を向けながら呟いた。
「確かにアレは正しく神話に聞くフレイヤ、だな」
九条がフレイヤを見ながら小さく呟く。その言葉に「どういう意味?」と遠石が問いかけた。
すると――彼・九条は得意気に答えたのだ。
「近年の創作作品では、えてして巨乳に描かれる!」
九条は叫んだかと思うと『シューティンググラス』の脇を掴み、意識を集中し始める。
「どうした? 何か見つけたのか?」
嶺汰が問いかけると「紳士の嗜みとして3サイズを測る!」と妙に気合が入って言葉を返した。
「おいおい――だいじょ、う――」
嶺汰の言葉が途切れ始める、何事かと九条と遠石が嶺汰に視線を向ける。
すると――嶺汰の首に手をかけるフレイヤの姿があった。
「これって――‥‥」
遠石が嫌な汗を頬に伝わせながら呟く。
「まさか――魅了にかかっちまった、のか?」
九条が遠石の言葉を続きを呟き、二人は左右に分かれる。何故なら、嶺汰が勢いよく腕を振り上げて攻撃を仕掛けてきたからだ。
仲間同士で戦う姿を見て、フレイヤは楽しげに笑っている――いや、フレイヤ自身は楽しく笑っているつもりはないのかもしれない。
今の状況で笑みを浮かべているから、そう見えるだけなのかもしれない。
「これで――目を覚ましな――さいっ!」
櫻杜が持参してきた『ピコポンハンマー』(名前こそUPC支給品に似ているがただのおもちゃらしい)で嶺汰の頭を強く叩くが、嶺汰はピコポンハンマーを防御して、櫻杜を勢いよく弾き飛ばす。
しかし、櫻杜は木を着地点にしてひらりと地面に降り立った。
「恐らく、魅了の発動条件はフレイヤが触る事――なのでしょうか」
国谷が嶺汰の攻撃を避けながら呟く。
「これで、戻せるといいのですが」
国谷は呟くと『虚実空間』を使用する。超機械によって妨害電波を飛ばして特殊効果を打ち消すスキルだ。
虚実空間のおかげで嶺汰の『魅了』は解け、次の瞬間で国谷は『練成弱体』をフレイヤに仕掛け、フレイヤの防御力を低下させる。
更に国谷は『ペイント弾』をフレイヤに向けて使用し、ヒルディスヴィーニと同じく視界を遮る。
視界さえ遮ってしまえば、フレイヤの『魅了』も使いにくくなるだろうと考えての事だ。
練成弱体を仕掛け、防御力を低下させたところを能力者達は狙って総攻撃を仕掛ける。
最初に行動を仕掛けたのは遠石で『瞬天速』でフレイヤの死角に回り込み『ファング』で攻撃を仕掛ける。
「‥‥人の心を弄くり回すやり方――好きじゃない‥‥」
鐘依は悲しみと怒りを湛えたような表情でフレイヤを見つめ『蛍火』で攻撃を仕掛けた。鐘依が攻撃を仕掛ける時に九条も既に動き出しており、小銃『S−01』で攻撃を行いながらフレイヤとの距離を縮め、接近すると『クロムブレイド』に持ち替えてボディを中心的に攻撃する。
「その自慢の美しさを持って、冥府へと行くがいい」
月村は呟き、両手に『アーミーナイフ』を持ち『両断剣』と『流し斬り』を使用してフレイヤに攻撃を仕掛けた。
「あらあら、貴方程度だったら京都の姐様達の方が一万倍綺麗だわ♪」
櫻杜は『菖蒲』で攻撃を仕掛けながら楽しげに呟く。そして櫻杜が攻撃している時に嶺汰が「よくも俺を操ってくれたな!」と叫びながら『刀』で攻撃を仕掛け、フレイヤの胸を貫いたのだった。
〜女神散りし、今〜
「操られて言うのもなんだが、かなり俺好みだったな」
嶺汰がフレイヤの遺体を見ながらため息混じりに呟いた。
「いくら見た目が美しかろうと、見た目だけでは僕の精神は崩せませんよ」
国谷がにっこりと笑みながら呟くと「確かに綺麗だったわね」と遠石もフレイヤを見ながら言葉を返した。
「‥‥女神を押し倒せるか試したかったな」
九条が空を見上げながらポツリと呟く。
「え! 相手はキメラですよ!?」
「‥‥‥‥美人だったら、それもアリかなぁ?」
呟く九条の顔は本気と書いてマジだった。
「女性は一生懸命に生きているからこそ綺麗なんです♪ 見た目だけの美しさなんて何処にでもあるでしょう?」
櫻杜の言葉に「そうかなぁ」と九条は首を傾げながら言葉を返した。
「スタイルよし、器量よし――これでキメラじゃなかったらなぁ‥‥」
九条と同じく、がっくりと肩を落とす斑鳩の姿も見られたとか――‥‥。
何はともあれ、無事にキメラを倒す事が出来た能力者達は報告の為に本部へと帰還していったのだった‥‥。
END