タイトル:誰もが夢見るその世界マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/12 22:14

●オープニング本文


貴方は何故戦うの?

どんな世界を目指して戦っているの?

――どんな世界にすれば、皆が笑えるの?

※※※

「この戦いって‥‥いつになったら終わるのかな‥‥」

スナイパーであるレリアがポツリと呟いた。

「いきなりどうしたのよ」

女性能力者が問いかけると「だって‥‥」とレリアは俯きながら言葉を返してきた。

「どれだけ戦ってもキメラは減らないじゃない‥‥最近の状況は前より悪化しているような気もするんだもの」

レリアの言葉に「確かに‥‥」と女性能力者も頷きながら言葉を返した。

最近のキメラは以前よりもタチが悪くなってきている、そう思うのはレリアだけではなかった。

「終わりが見えないのに、毎日戦って傷だらけになって――いつになったら『普通』に戻れるのかな」

「その終わりの見えない戦いを終わらせるのは私たちだけでしょ、頑張って行こうよ」

女性能力者が慰めるようにレリアに話しかける。

レリアがこんなにも沈んでいるのにはちゃんとした理由があった。

先日、キメラ退治に赴いた際に子供が一人犠牲になったのだ。

もちろん、どんなことをしても子供は助けられなかった状況にあったのだが、レリアは「もう少し早く到着していれば‥‥」と自分を責め続けた。

そして――子供一人守れなかった自分が、これから誰かを守れるのか――という考えにたどり着いたのだ。

「レリア――私たちは神様じゃないのよ? 人を守るにしても限界があるわ‥‥」

「それは分かってる――だけど、簡単には割り切れないのよ‥‥」

レリアは武器を強く抱きしめながら、今にも泣きそうな声で言葉を返したのだった。


●参加者一覧

イシイ タケル(ga6037
28歳・♂・EL
ナオ・タカナシ(ga6440
17歳・♂・SN
志羽・武流(ga8203
29歳・♂・DF
火茄神・渉(ga8569
10歳・♂・HD
猫瞳(ga8888
14歳・♂・BM
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP
安築 百菜香(gb0700
17歳・♀・GP

●リプレイ本文

〜暗き表情の女性・レリア〜

「まるで、昔の俺を見ているようじゃないか‥‥放っておけないな‥‥」
 ポツリとレリアを見ながら呟くのはサルファ(ga9419)だった。だけど、その呟きは誰の耳にも入る事はなく、返事を返すものはいない。
 彼だけではなく、他の能力者達も今回同行しているスナイパー・レリアを見て同じような気持ちを抱いていた。
 レリアは子供を死なせた事が原因で己の無力を感じ、気持ちを沈ませていた。死なせてしまったとは言ってもレリアに責任があるワケではなかった。
 言い方は悪くなるが『仕方のない事』だったのだ。
「わたしも‥‥初めての任務で子供を死なせてしまった時、あなたのようにぐったりとなってしまいました」
 俯くレリアに話しかけるのは、過去に同じ経験を持つイシイ タケル(ga6037)だった。
「‥‥あなた、も?」
 レリアは顔を上げ、イシイの顔をしっかりと見ながら言葉を返した。
「どうして、貴方は割り切る事が出来たの? これからを生きなくちゃいけない子供を死なせてしまって‥‥何故、貴方は今も戦う事を止めずにいられるの?」
 レリアの言葉に苦笑しながらイシイは「別に戦いたいわけではないですよ」と言葉を返した。
「目の前によちよち歩く子供がいたら、転ばないか心配になるでしょう? わたしはその気持ちに従っているだけです」
 答えるイシイに「貴方は割り切れる程に強いのね」と再び俯きながら言葉を返した。
「こんなに状況も悪くなってきているのに‥‥」
 レリアが呟いた時に「割り切る必要ないし」と猫瞳(ga8888)が言葉を返してきた。
「俺には、お前が欲しい答えは既に体の一部になっているからこそ逆に見えねーように見える。じゃなきゃ来ないだろ?」
 猫瞳はゴーグル越しにレリアを見つめながら呟く。確かにレリア本人は戦いたくないという気持ちが胸を占めていた。
 だけど、仕事があれば戦地へ赴いてしまう――それが当たり前であるかのように。
「さっき状況は悪くなってるって言ってたけど、何もしなかったらもっと悪くなると思うよ。別に割り切る必要なんてないだろうし、何もしないで助けられないより――何かして助けようとした方がいいでしょ」
 火茄神・渉(ga8569)が頭の後ろで手を組みながらレリアに向けて言葉を放つ。
「死者や怪我人が少ない方がいいだろ? そのためにどうするかは――自分で考える事だ」
 水円・一(gb0495)がポツリと呟く。
「私も‥‥今回が初任務だから――レリアさんと同じような立場になる日が来るかもしれない。でも‥‥私は立ち止まらないって決めたの‥‥そう決めたんだもん」
 安築 百菜香(gb0700)はレリアに、というより自分に言い聞かせるように瞳を閉じて呟く。
「レリアさんはなぜ傭兵になられたのですか?」
 ナオ・タカナシ(ga6440)が穏やかな笑みを浮かべて問いかけると「‥‥困っている人を、助けたかったから‥‥」と俯きながら言葉を返す。
「‥‥でも結局は助けたい人も助けられない。何で神様は私なんかにこんな力を――」
 レリアが震える声で呟くと「この世に神はいない」とサルファが短く呟いた。
「両親が殺された時に、俺はそう思った。キミは昔の俺と同じだ」
 サルファの言葉にレリアは怪訝そうな顔をして「昔のあなた‥‥?」と聞き返す。
「そう、自分の力の無さを恨み、悔やみ、運命を呪う――でも、それではダメだ。自分から動き出さなければ、何も変わらないんだ――何も」
 最後の言葉は小さな声へと変わり、レリアは言葉を返す事が出来なかった。そう、まさしく彼の言うとおりだったのだから。
「そろそろコンサートホールが見えてきますね、頑張りましょう。レリアさん」
 ナオがレリアに話しかけると「‥‥えぇ」と言葉を返し、能力者達は問題のキメラがいる場所へと足を進めたのだった。


〜戦い、護れるモノ・護れぬモノ〜

 今回のキメラは植物系で二匹で行動するという情報を得ていた能力者達は班を三つに分けることにした。
 前衛囮班としてイシイとサルファ。
 前衛殲滅班として火茄神、猫瞳、水円。
 後衛班としてナオ、安築、レリア。
「‥‥私が何もしないという可能性は考えないの? 私は‥‥」
 それぞれの班で行動を開始しようとした時にレリアがポツリと呟く。
「悩むなとも忘れろとも言わない。だが‥‥今、キミが動かなければ後悔する」
 サルファはそれだけ言葉を残し、イシイと共に囮班として行動を開始した。

「この任務が終わったらマスターのバーで祝勝会でも開きますか」
 ふふ、と笑みを浮かべながらイシイがサルファに話しかける。
 すると、サルファは少し考えこみ「また、サラダか?」と苦笑しながら言葉を返す。
「‥‥そうだな、今回の野菜は――アイツにするか?」
 コンサートホールの扉を開き、植物キメラを視界に入れ、サルファは親指で指差しながら軽口を叩くように言葉を返す。
「和風ドレッシングなんか――合いそうですねっ!」
 言葉と同時にイシイは『ソード』で植物キメラを攻撃する。
 まず二人がやるべき事、それは二匹で行動している植物キメラを一体ずつに引き離すこと。囮班が一匹を引き受け、もう一匹を殲滅班と後衛班の二班で引き受ける――このような作戦をたてて能力者達はコンサートホールまでやってきていたのだ。
「お前は――向こうへ行っちまいなっ!」
 サルファが『ソニックブーム』を使用して植物キメラの片割れを攻撃すると、次の瞬間に蹴りつけ、殲滅班と後衛班が待機している所まで弾き飛ばしたのだった。
 引き離された事で囮班が担当する植物キメラが片割れを追いかけようとしたがサルファとイシイがそれを防ぎ、攻撃を仕掛ける。
 それに怒ったかのように植物キメラは種のようなモノを飛ばして攻撃を仕掛けてくるが、避けきれない速さではなく、二人は楽にそれを避けた。
「‥‥この程度の力で、能力者を倒せると思ったのか?」
 サルファが小馬鹿にするかのように鼻で笑い「さようなら」と『流し斬り』を使用して攻撃をしかけ、それにあわせるかのようにイシイも攻撃を仕掛け、一匹目の植物キメラを退治したのだった。
 そして――レリアを含む班は‥‥。

「とりあえず、弾が避けてくれるように祈ってくれ。ついでにキメラの攻撃にも当たらないようにな」
 水円は呟くと『ギュイター』で植物キメラを攻撃する。装弾数が150発という事もあり、植物キメラは反撃をする暇を与えてもらえない。
「早めに終わらせてしまいましょう」
 ナオは短く呟くと『即射』『強弾撃』『影撃ち』の三つをフル活用して植物キメラに攻撃を仕掛ける。
「よしっ! 突貫だ!」
 水円とナオの攻撃が終わると同時に火茄神が呟き『サベイジクロー』を構え『流し斬り』を使用して攻撃を仕掛ける。
「レリアさん、援護射撃を宜しくね」
 安築がレリアに向けて呟くと武器を構えたまま震えるレリアの姿が視界に入ってきた。
「‥‥無理、やっぱり私には無理よ‥‥きっと誰も助けられない」
 がたがたと震えながら呟くレリアに安築は小さなため息を漏らし「レリアさんは‥‥何の為に戦っているのかな?」と問いかけた。
「私はこの戦争で悲しむ人が増えないようにするため。私一人で出来る事じゃないけど、それでも私は――立ち止まらないよ」
 呟くと同時に安築は振り向き『エクリュの爪』で植物キメラに攻撃を仕掛けた。
「抉り込むように打つべしっ!」
 回避力を生かしたボクシングスタイルで戦う安築の姿を見て、レリアは苦しそうに表情を歪める。
「戦う戦わないは今の状況が終わってから考えてくれ。今は目先の事だ」
 迷うレリアに水円が話しかける。
「でも私に出来る事なんて―――‥‥」
「出来る出来ない事は沢山ある。ただ、今持っている力をどう使うかは、己が考える事だ」
 水円の言葉にハッと我に返ったようにレリアが瞳を見開く。
「そーそー、出来るかどうか――じゃなくて『やるかどうか』って選択肢しか目の前にはないんだ。一つ一つ片付ける事でしか未来は変えられないんだぜ」
 猫瞳は呟き、植物キメラに向かって無理矢理な攻撃を仕掛ける。しかし、猫瞳は何も考えずに突っ込んだわけではなく、レリアが反射的に援護射撃を行ってくれる――そう信じた上での行動だった。
「な、にを――やっているのよ!」
 だだだ、と発砲音が響くとレリアは息を切らしながら持っていた武器で植物キメラに攻撃を仕掛けた。
 そのおかげで植物キメラの攻撃は逸れ、猫瞳は怪我をしなくてすんだのだ。
「あんな無茶な突っ込み方をしたら狙い撃ちにされるのは分かりきっているでしょ!」
 少し怒りを交えた声でレリアが猫瞳に話しかけたのだった。
「へへ、戦えるじゃん――その調子で頼むぜ!」
 猫瞳は叫ぶと『瞬速縮地』と『布斬逆刃』を使用して植物キメラに攻撃を仕掛ける。
「くらえっ、瞬速電磁物理攻撃脚『猫瞳バスタアアアアッ!』」
 猫瞳の攻撃に合わせるように、安築、水円、ナオ、火茄神も攻撃を仕掛け、二匹目の植物キメラを退治したのだった。


〜戦わされる理由ではなく、自らが望む戦い〜

「これからマスターのバーで祝勝会を開きましょうよ」
 植物キメラを退治し終わると、イシイが能力者の皆に話しかけた。
「ごめんね‥‥私はちょっとそういう気分じゃないんだよ‥‥」
 安築が申し訳なさそうに不参加を伝えると「残念です」とイシイも言葉を返した。
「ですが厳粛な気持ちで一人で過ごすのは大切ですね。心を真っ直ぐに保つために。では、またの機会に」
 イシイが安築に話しかけると「うん、ごめんね」と安築が二度目の謝罪を呟いた。
「‥‥もうキメラもいないですし、このホールでコンサートが聴けますよね? 私も任務で失敗して、落ち込みはしますが‥‥後悔はもうありません」
 やりたい事がここにありましたから、とナオは言葉をつけたして満足そうに笑う。
「私、また戦えるかな‥‥自分のためじゃなくて誰かのために」
 レリアは自分の手を見つめながら小さく呟く。
「大丈夫だよ、レリアさんは誰かを助けたいって気持ちはあるんでしょ? オイラは父さん助けられなかったから、他の人を助けたいし、他の人が助けられなくてもまた他に多くの人を助けたい」
 オイラにはそれしか出来ないからね、火茄神はにっこりと笑ってレリアに話しかけた。
 その後、安築を除いた能力者達はサルファのバーまで足を運び、今回の作戦が成功した事を共に喜び合ったのだった。

 その後、レリアの友人から届いた話なのだが、彼女は戦線へと復帰して今まで以上に『皆が笑える世の中』を作り出すように頑張っているのだと――‥‥。


END