●リプレイ本文
「災難やったなぁ、自分も」
アルカを不憫そうに哀れんだ目で見るのはクレイフェル(
ga0435)だった。あまりの哀れさと面白さに彼の脱出計画を手伝う事にした。
「今回はキメラじゃなくて‥‥一般人なのが残念‥‥どう考えても‥‥危険な相手だと思うけど‥‥?」
ため息混じりに呟くのは幡多野 克(
ga0444)だった。確かにアルカから聞いた限り、風峰志保という女性は、ある意味キメラよりタチが悪いような気がする。
「でも半年もの間、お礼を言うためだけに通い続けるって凄いですね〜☆」
シェリル・シンクレア(
ga0749)がニコニコと笑みながら呟く。
「でも依頼はアルカさん本部の外に出す事だけですよね〜? その後の事は好きにしていいってコトですよね?」
ふふふ、と妖しげな笑みを浮かべるシェリルにベル(
ga0924)は少し怖いものを感じていた。
「‥‥女の人って‥‥みんな恋をするとあんな感じになるんでしょうか」
「そうとも限らんやろ、あの人は特殊や」
クレイフェルの言葉にベルは納得したように頷いた。
「思い込んだ女性は、本当に怖いからな‥‥しかし目潰しとは」
体を震わせながらシリウス・サイラー(
ga1919)が呟く。
「女に好かれるってのは嬉しい事だけどよ‥‥今回のは災難だよなあ、女難?」
社 槙斗(
ga3086)は本部から借り受けてきた携帯をメンバーに渡していく。
「いくら本部の中とはいえ、別行動するなら必要だろ? あとアルカは名前を変えて呼ぶ事にしようぜ、んー‥‥ハルカ?」
「そうですね、本名で呼ぶと物凄い速さで追ってきそうですし‥‥ベルさん、幡多野さん、私は護衛班に回りましょうか」
「さて、それじゃあ‥‥哀れなアルカを外に逃がしてやるとするか」
クレイフェルの言葉と同時に作戦は開始された――‥‥。
●運命の再会・アルカ様‥‥?
「じゃんけん‥‥」
「ぽんっ!」
アルカの姿に変装し、風峰の前に姿を出す役割――それをクレイフェルと社はじゃんけんで決めていた。
「うおおおおっ! 負けてもうた!」
嘆くのはクレイフェル、その後ろで社がガッツポーズを取っている。
「そ、それじゃ宜しく頼むよ‥‥」
「これ使えそうですね」
シリウスはアルカにニット帽を渡し、被るように勧める。
護衛班がアルカを連れて行くのを見ながらクレイフェルは少し怯えたように、アルカの服装に似たものを着込んだ。
「まあ‥‥頑張って逃げろ、とにかく逃げろ、障害物とか死角を如何に活用出来るかが生死の境目だぜ」
「‥‥という事は槙斗も囮で志保の前に出ればいいんじゃないか?」
九条・命(
ga0148)の提案に社が青ざめる。
「え、えええっ! 俺も!?」
「そうしようや、皆で渡れば怖くない赤信号やで」
皆で渡っても怖いものは怖い、九条は心の中で呟きながら二人のやり取りを見ていた。
「私も志保ちゃんのサポート役に回りますね、女がいた方が結構イイ場合もあるでしょうし」
言いながらシェリルはアルカに変装した二人をどーんと突き飛ばす。
「ちゃんと、別々の場所に逃げてくださいね、アルカさんが二人いる事になっては大変ですから」
「じゃ、俺はこっちにきたら向こう側に逃げるから」
社は壁の近くに隠れ、クレイフェルが志保の前に姿を現すのを待っている。
「アルカ様!」
早速目ざとくクレイフェルを見つけた風峰は物凄い速さで近づいてくる。その意外な速さにクレイフェルは逃げるのが少し遅れる。
「まぁ! 何故お逃げになるの! お〜待〜ち〜に〜なっ〜て〜ええっ!」
「ぐはっ‥‥」
突然、速さを増した風峰はクレイフェル目掛けて飛び蹴りをくらわす。
「アルカ様! お礼を―――――ってどなた?」
蹴りつけたはいいが、アルカではないと知ると風峰の怒りボルテージがあがっていく。
「か、堪忍。アルカに憧れて格好を真似ててん」
咳き込みながらクレイフェルが呟く。
「まぁ! そうでしたの! アルカ様はやはり人気があるのですねえ、痛かったでしょう? 申し訳ございません」
とりあえず、風峰は相手に痛みを与えているのは自覚しているようだ。
「や、平気やて。やっぱりアルカはいいよな、うん、あれほどの能力者は中々おらんやろし」
クレイフェルがアルカの事を語りだすと、風峰は頷きながら笑っている――のだが、突然表情を険しくした。
「あ、あなた‥‥もしかしてアルカ様の事を‥‥? 駄目ですわあっ!」
目潰しをくらわそうと風峰が攻撃してくるが、クレイフェルは間一髪で避ける。
「あ、危ないやんか――あ! あれアルカや!」
このままでは身の危険を感じたのか、クレイフェルは隠れている社を指差し、アルカだと叫ぶ。
「え! 本当ですわ! 待ってくださいませ〜〜!」
「ぐえっ!」
倒れているクレイフェルを踏みつけ、社を追いかけていく。
「‥‥お、関西人はこのノリでええん‥‥や」
がく、と力尽きたように倒れ、それを心配した九条が駆け寄ってくる。
「とりあえず‥‥生きてるな?」
つん、と指でつつきながら、九条は社のあとを追っていく。
「護衛班は‥‥大丈夫かな」
●護衛班・彼らは今――‥‥
「‥‥本当に一般人ですか? あの人‥‥」
ベルは囮班の惨状を聞いて一言呟いた。護衛班の取っている行動はアルカを囲み、周りから見えないようにしていた。風峰が襲ってくるようであれば、すぐにエスケープゾーン‥‥もとい男子トイレに逃げ込むなど策も考えている。
「とりあえず‥‥周りは大丈夫?」
シリウスがベルに問いかけると、ベルは周りを見渡しながら首を縦に振る。
「‥‥えぇ、周りに風峰さんはいなさそうです」
視力抜群のベルがいれば、風峰を見つけた時に素早い対処が出来る。その為、ベルは周りに十分気を張っていた。
「‥‥くそぅ、何で本部の中をこんな遠回りで‥‥」
嘆くアルカに幡多野はため息混じりにアルカに話しかける。
「‥‥アルカさんも‥‥彼女にはっきり言った方が‥‥いいよ?」
「それが出来るならとっくにしてるよ‥‥近寄って来てすぐにラリアットくらわされて意識をなくすんだよ‥‥だから毎回逃げてたんだ」
何という不運な男だろう、護衛班のメンバーは哀れまずにはいられなかった。
●逃げろ逃げろ、敵は其処まで来ている
「貴方もアルカ様を狙っているんですのね!」
ばちこーん、と聞いていて気持ちの良い平手打ちの音が響く。
「ち――ちが‥‥」
平手打ち、もといパンチをお見舞いされ、社は派手に倒された。話を少し前に戻すと、社は全力で逃げたのだが‥‥結局は捕まってしまい、クレイフェルと同じような言い訳をしたのだが、それが彼女の逆鱗に触れたようだ。
「まあまあ‥‥俺もアルカを探すのを手伝うから、其処までにしてやってくれ」
無惨な社の姿に苦笑しつつ、九条が風峰に話し、倒れる社をそのままに二人で歩いていった。
「おーい‥‥生きてる? とりあえず私も行くから〜‥‥」
シェリルも先を行った二人を追いかけるように小走りで走っていく。
「‥‥お、俺っていったい‥‥」
●馴れ初め話をしてあげましょう
「へぇ、森の中を彷徨っていたところ、キメラに襲われて‥‥アルカに助けられたんだ?」
「はい、そうなんです。あの時のアルカ様‥‥凛々しくて素敵でしたわあ」
場所は喫茶店、アルカとの馴れ初め話を聞きたいと九条が言い出し、喫茶店で話す事になったのだ。
「志保ちゃんは携帯持ってますか? アルカさんを見つけたら連絡したいし、番号教えてもらっていいですか?」
シェリルの言葉に、風峰はピンク色の携帯電話を取り出し、番号を教える。
「それでは、私はそろそろアルカ様を見つけに行きたいので‥‥」
風峰が席を立とうとすると、それを九条が止める。
「ちょっと待ってくれ」
「―――? 何か?」
「いや。もう少しくらい話を聞かせてほしいな」
九条は嫌な汗を流しながら風峰の気をひきつける。何故なら‥‥喫茶店の向こう側に護衛班&アルカが歩いていたからだ。
これにはさすがのシェリルも驚いたらしく、メニューを取り出して何か食べるようにと勧める。
「そ、そういえば‥‥志保ちゃんも今までと違う行動をしてみたらどうかしら? 例えば逃げないように見つけたら腰に抱きつく、とか」
(「おいおい、それじゃ今後の展開を悪化させるだけだろう」)
しかし――そんな彼らの願いも空しく、風峰はアルカを発見してしまった。
「アルカ様〜〜! 見つけましたわ〜〜!」
喫茶店から勢い良く出て、アルカにタックルを食らわそうとする。
「危ない!」
護衛班の三人がアルカの壁になる、その隙にアルカは護衛班から覚えさせられていた脱出ルートで逃げ出す。
「い、今は此処にいてほしいんだが‥‥」
シリウスが照れたように呟く。流石に相手は一般人、しかも女性なので乱暴な真似をするわけにもいかず、何とか言葉だけで風峰をこの場所に留めようと努力した。
「‥‥え? そ、そんな事言われても‥困っちゃいますわあ」
両手を頬に置き、顔を赤くしながら答える。
「俺は貴方が大好きなんです!」
突然、幡多野が叫んだ、あまりの出来事に風峰は目を瞬かせながら幡多野を見ている。
「‥‥とあの喫茶店の中にいる人が言ってました」
指差されたのは九条。
「お、俺!?」
「あら、いやですわ‥‥私にはアルカ様という人がいらっしゃいますの、お気持ちにお応えできませんわ」
九条は勝手に告白したことになり、勝手にフラれるというとんでもない役を引き受けていた。
「‥‥風峰さん、貴方もアルカさんが本当に大好きなら‥‥いくら恥ずかしくても‥‥乱暴はいけないと思う‥‥アルカさんは能力者‥‥戦いを宿命付けられた人‥‥貴方だけのモノじゃ‥‥ないよ?」
幡多野が淡々と言い聞かせるように呟くと、風峰は瞳に涙を溜め、終いには泣き出してしまった。
「私だって好きで乱暴しているわけじゃないですわああっ、興奮すると勝手に手が動いちゃうんですもの! うわあああん」
この隙にアルカは本部の外へと出る事が出来て、仕事は成功したのだが‥‥。
「はぁ〜‥‥外に出ちゃいましたか‥‥可哀想な志保ちゃん‥‥ですがご安心を」
シェリルが喫茶店から出てきて、風峰に話しかける。
「今ならアルカさん、外に出たことで安心しきってますよね? 志保ちゃん、外に追いかけていく気はありませんか? 何か理由をつければ護衛も兼ねて一緒すれば安全で一石二鳥ですよ」
シェリルの言葉に、風峰は立ち上がる。
「そうですわ! 此処で諦めては恋する乙女の名折れですわ! アルカ様! 今いきますわああっ!」
そう言って走り出していく風峰を見ながら、誰もが心の中で思った。
アルカ(さん)御愁傷様―――。
恋する乙女はどんなバグアよりも恐ろしいものなのだと実感した皆なのだった。
END