●リプレイ本文
「ラブリーな物をキメラ化するなんて、何を考えているのよ‥‥」
ため息混じりに呟いたのは的場・彩音(
ga1084)だった。
「敵はぬいぐるみの姿に擬態している、という事ですのね。油断は出来ませんわ」
水無月 魔諭邏(
ga4928)が今回の任務書を見ながら呟くと、木花咲耶(
ga5139)が少し憂鬱そうな表情を見せた。
「どうしたのニャ?」
アヤカ(
ga4624)が首を傾げながら問いかけると、木花は「‥‥大好きなんですわ」と小さな声で呟いた。
「大好き?」
「ぬいぐるみ‥‥かなり大好きなんですわ。よりにもよってキメラがぬいぐるみに化けるとは何という事でしょう!」
一刻も早く成敗しなくては! と木花は拳を強く握り締めながら決意したように呟く。
「あたしの場合は、ラブリーな雰囲気には興味ないんだけどさ。ぬいぐるみが人を襲ったって話を聞いたら放っておけないよね」
門屋・嬢(
ga8298)もため息混じりに呟く。
バグアがぬいぐるみ型のキメラを作ったという事は、もしかしたら小さな子供を対象に殺戮を繰り返すかもしれない――そんな可能性が能力者達の頭によぎった。
「‥‥今回のキメラって、食べられるのでしょうか」
ポツリと呟くのは『てんたくるすのぬいぐるみ』の頭を齧っている芹架・セロリ(
ga8801)だった。
「‥‥食べる?」
飛田 久美(
ga9679)が苦笑気味に芹架へと言葉を返す。
「ぬいぐるみは食べられません‥‥。しかしぬいぐるみキメラは一応生物です。食べられるのでしょうか!?」
やや興奮気味に芹架が叫ぶと「さ、さぁ‥‥」と飛田も曖昧な言葉を返した。
「それにしても――子供の夢を奪うような輩は早々に粛清しなければなりません」
天狼 スザク(
ga9707)が呟き、能力者達はぬいぐるみキメラが潜んでいるおもちゃ屋へと向かい始めたのだった。
〜ラブリーキメラ現る〜
今回、能力者達は班を二つに編成して行動を起こす事になった。
A班・アヤカ、的場、飛田、天狼の四人。
B班・水無月、門屋、芹架、木花の四人。
最初におもちゃ屋に侵入するのはA班で、彼女たちは見取り図で予め確認しておいた電源などを入れる役目だ。
もしおもちゃ屋が通常営業をしていたら閉店後に侵入するつもりだったが、店長が惨殺されるという事件が起きたせいか、ぬいぐるみキメラが潜んでいるせいか、おもちゃ屋は閉鎖されていた。
「でも見取り図でも何処にどんなぬいぐるみがあるとかは書いてないニャね〜‥‥」
アヤカが見取り図を見ながら呟く。電源位置などは確かに書いてあるのだが、ぬいぐるみが何処に配置されているなどは書かれていなかった。
「あたしは暗視スコープ持っていないし、暗闇の中ではお任せするね」
飛田が的場とアヤカに話しかける。暗視スコープを持っている的場とアヤカが先発隊の中でも一番前で行動をする事になっている。
その中でもアヤカは俊敏さに長けているため、ぬいぐるみキメラが現れた時に陽動役も買って出ていた。
「さて――それでは行きましょうか」
A班が行動を開始し、B班はいつでもおもちゃ屋に突入できるように待機してぬいぐるみキメラがあぶりだされてくるのを待つしか出来なかった。
「さて――電源は、と」
的場が暗視スコープを使用しながら店内を見渡す。
決して広いとも狭いともいえない広さで、明るさでぬいぐるみキメラが動かなければ探すのに手間がかかりそうだった。
「久美さん、前方に電源があるから行ってもらえる?」
的場が呟くと「オッケー」と飛田は言葉を返して電源のところまで歩いていく。
もしかしたら暗闇に乗じてぬいぐるみキメラが襲ってくるかもしれないと思ったが、数では能力者の方が有利なのか、ぬいぐるみキメラは動く気配を見せない。
飛田以外の能力者がキメラ襲撃に備え終わると「電源を!」と天狼が少し大きな声で言う。
それと同時に飛田が電源をいれ、真っ暗だったおもちゃ屋はぱぁっと明るくなった。
「みんな、行っけーーーっ!」
飛田が外で待機している能力者達に聞こえるように大きな声で叫ぶと、数秒後にB班も突入してきた。
「やっぱり動いたニャね」
電源が入った時点で覚醒を行っていたアヤカが動き出したぬいぐるみキメラに牽制攻撃を行う。
だが、俊敏さの高いアヤカに攻撃できるほど、ぬいぐるみキメラも素早さが特化していた。
「これは‥‥なるほど、ぬいぐるみですね」
天狼が『刀』で攻撃を仕掛けながら納得したように呟く。真っ白なくまのぬいぐるみの姿をしており、爪と牙が鋭いものだった。
「みんな、キメラによる罠とかはないみたいだから安心して!」
門屋が能力者達全員に聞こえるように叫ぶ。彼女は突入してすぐに『探査の眼』を使用して罠などが仕掛けられていないかを確認していたのだ。
「もう少し――移動していただきましょうか」
水無月が『ポリカーボネート』でぬいぐるみキメラの攻撃を防ぎながらポツリと呟く。彼女の役割は前に出て、他の能力者達が戦いやすい場所までぬいぐるみキメラを移動させる事だった。
「盾が半透明ですから守りを固めても視界が遮られませんのよ」
最初、危ないと能力者達が反対した時に水無月が返した言葉だった。
これが気兼ねなく攻撃できる場所だったら、水無月も移動させるなどさせなくて良かったのだが、他のぬいぐるみ達には害もなければ罪もない。
なるべく壊さないような戦法を取りたかったのだ。
「余計な被害を出して、賠償責任を負うのは出来る限り避けなくては」
水無月が呟き、ぬいぐるみキメラを徐々に移動させていく。
そして店の隅っこ、おそらく店主が殺された場所なのだろう。周りには何もない一角を発見して、そこで本格的に能力者達は戦いを始める。
「てやんでえ! 報酬で野菜炒め定食を食いに行く為‥‥お前を粉砕する‥‥ゾっ!」
覚醒を行った事でマイペースな口調からこてこての江戸っ子に変わってしまった芹架が『ゼロ』で攻撃を仕掛けながら叫んだ。
だが、彼女は自分の力量を見誤ったりはせず自分に出来る攻撃を行う。
「可愛い♪ だけどキメラだったら別物よ!」
的場が『ライフル』で攻撃を仕掛けながら叫ぶ。
「本当に‥‥ぬいぐるみが好きなわたくしにとっては‥‥不愉快極まりないですわ」
木花がポツリと呟き、的場の射撃攻撃の後に前衛へと出て名刀『国士無双』を振り上げる。
そして『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用してぬいぐるみキメラに攻撃を仕掛けた。彼女の攻撃によってぬいぐるみキメラはのけぞり、そこへ間髪いれずに飛田が攻撃を仕掛けた。
その後『疾風脚』を発動してスピードを強化した芹架は一気にぬいぐるみキメラとの距離を縮めると「ちょいさー!」と叫んで『急所突き』を使用して攻撃を仕掛けた。攻撃を仕掛けた後は再び後ろへと下がる。
「ラブリーな外見で惑わそうたって無駄だよ! あたしはぬいぐるみには興味ないんでね!」
門屋が叫び『ショットガン20』で攻撃を仕掛け、その攻撃の後に天狼が『刀』で攻撃を仕掛ける。
やはりぬいぐるみの姿をしていても、生き物だという事で真っ白だった姿は血に染まっていた。
その後、動きの鈍くなったぬいぐるみキメラを能力者全員で総攻撃して見事ぬいぐるみキメラを撃破したのだった。
〜バグアの卑劣さ、ぬいぐるみの悲惨さ〜
「今、元に戻してあげるからね」
戦いによって壊されたぬいぐるみ達を集めて的場がソーイングセットで修復を行っていく。
「貴方達は人間を襲っちゃダメよ。貴方達は、人間に可愛がられるために存在するんだから‥‥」
ぬいぐるみ達を修復しながら的場が呟く。
「それにしても、ぬいぐるみ程度の可愛さ‥‥昔に退治した事のあるふわもこ達に比べたら‥‥月とすっぽんニャ!」
アヤカが血まみれで倒れているぬいぐるみキメラを見ながらため息混じりに呟く。
「今後、ぬいぐるみに擬態するキメラが出てこなければいいのですけど‥‥あまりこういうのが出てしまったら、子供達が怖がってぬいぐるみを買わなくなっちゃいますわ」
木花が呟くと「ボクはこの子があれば充分‥‥」と芹架が言葉を返して『てんたくるすのぬいぐるみ』を齧りだした。
「でも、修復不可能なぬいぐるみってどうなるんだろ。あたし高校生だからそんなにお金持ってないし、もしもの時には宜しくね♪」
飛田がにっこりと笑顔で言うと「えぇ! それは困る!」と門屋が抗議の言葉を返した。
「そりゃ困るよ‥‥あたし、赤貧なんだから!」
「キメラ退治の為にやむなし――だから大丈夫な気はしますが‥‥」
天狼が言葉を返し、店の中を見渡す。
「しかし、店を任されている以上‥‥商品の安全性には気をつけなければ、ですね」
その後、能力者達は本部へ帰還して今回の任務の報告を行った。
そして壊してしまったぬいぐるみに関して弁償しなければならないのかと問い合わせた所『キメラ退治最優先』が依頼人から言い渡されていたらしく、弁償などはなかったそうだ。
END