●リプレイ本文
「リビングデッドだって! 楽しみだよね!」
任務地へ向かう前、能力者同士で挨拶をしている時にレジーノ・クリオテラス(
ga9186)が凄く楽しそうに話している。
彼自身も不謹慎かもしれないと心の中で思っていたが、楽しみなものはしょうがないと苦笑混じりに呟いていた。
「鎧武者ねぇ? 怪談では、よく出てくるけどさ‥‥俺達より坊さんの出番だったら‥‥すげ〜嫌だな」
はは、と笑みを交えて神無月 翡翠(
ga0238)が呟く。
「しかし、どんなタネで動いているのかは気になるな」
月影・透夜(
ga1806)は手を口元に置き、考え込むような仕草を見せながら呟いた。
「独りでに動く鎧ねぇ‥‥さて、どうなる事やら」
薙原 尤(
ga7862)が苦笑気味に呟く。彼はキメラ撃破が最優先だと分かっていたが、月影と同じく『動く鎧』がどんな謎を秘めて動いているのか気になって、出来ればそれも解明したいと考えていた。
「既に何人も能力者が退治に向かって、未だ倒されていないキメラ――鎧が本体ではなく、別に本体があるのか、それとも倒し方に問題があったのか‥‥」
どちらにせよ、調べてみる必要があるな――言葉を付け足しながら呟くのは御巫 雫(
ga8942)だった。
「‥‥う〜ん、呪われませんように」
手を合わせながら呟くのは都倉サナ(
gb0786)だ。彼女は実戦任務は始めてなのだが、周囲に悟られないように平静を保ちながら話に参加していた。
「退治の方法としては、鎧を完全に破壊するか、操っている何者かを排除するか、それとも幻覚だから退治は無理――どのような方法が有効なんだろうな」
九条・命(
ga0148)が呟く。出来れば最後の『幻覚』というのはあってほしくないのだが、色々な予想をしておかないと対処できないと考えていた。
「とりあえず、現場に行って確かめてみるか‥‥」
九条が呟き、能力者達は『中身のない鎧』が潜んでいる『無人の屋敷』へと向かい始めたのだった。
〜暗がりの屋敷・蠢く鎧〜
「‥‥いかにも、何かがいそうな場所だな」
御巫が屋敷を見上げながらため息混じりに呟く。
「‥‥一応、見取り図の申請が通った‥‥」
エリク=ユスト=エンク(
ga1072)が見取り図を御巫に渡しながら呟く。見取り図を見る限り、屋敷は確かに大きいのだが八人の能力者が集まっているなら屋敷内を捜索するにも問題はないだろう。
「よ〜し、それじゃあ張り切ってリビングデッドを倒そう!」
レジーノが元気よく叫び、能力者達は屋敷の中へと入っていく。
まだ昼間なので、屋敷の中は真っ暗というわけではなかったが薄暗く、陰気臭い雰囲気を醸し出していた。
「ここでお化け屋敷をしたら雰囲気出そうだな? いや‥‥それより本物がいそうだ」
神無月が屋敷の中に入って呟くと「お化け!?」と御巫が過剰な反応を返してくる。実はお化けが苦手という可愛い一面を持つ御巫に「いるのはキメラだって」と薙原が苦笑しながら言葉を返した。
「何かあるか?」
九条がレジーノに問いかける。レジーノは屋敷に入ると同時に『探査の眼』を発動しており、キメラからの不意打ちや罠に対処できるようにしていた。
「や、今の所は何にも!」
レジーノは顔の前で手を振りながら言葉を返す。
「中々見つからないものだな」
月影がコツンと置物の鎧をノックするように軽く小突く。しかし何の反応も返ってこない。
「後ろも何もいないな」
御巫は小さく呟く。
今回、能力者達は固まって行動する作戦をたてており、前衛にレジーノと九条、中衛にエリクと神無月と薙原、そして後衛に月影と御巫という陣形で行動をしていた。
前と後ろに接近攻撃が出来る能力者を配置して、キメラが前からや後ろから来てもすぐに対処できるような陣形だ。
「置物の鎧の中に紛れているかもしれない、気をつけろよ」
月影が前のレジーノと九条に話しかける。
「分かっているが‥‥こうも鎧ばかりだと気が滅入ってくるな」
九条はずらりと並ぶ鎧を見ながら小さなため息を吐く。
その時、二階の方からカツンと音がしたのをレジーノは聞き逃さなかった。
「‥‥今、二階の方から‥‥」
エリクが呟くと「俺も聞こえた」とレジーノが言葉を返す。
「ネズミの類か、もしくは――キメラ、でしょうか‥‥」
都倉が小さな声で呟く。
とりあえず音のした二階の方に向かうことになり、能力者達は玄関へと戻り、二階への階段を上り始める。
「元々は金持ちの家だったんだよなぁ‥‥この絵とか高いのかな」
薙原は二階へ続く階段の踊り場に飾られた絵を見ながら呟く。その絵は高級そうな椅子に座った気品ある女性が描かれた絵で、とても大きなものだった。
「いくらお金があっても、命がなくなってしまったら意味がありませんものね」
都倉が言葉を返すと「違いねぇな」と薙原も言葉を返し、絵の前を通り過ぎる――しかし、ここで異変が起きた。
「気をつけて!」
突然、レジーノが叫び、絵の前を通っていた中衛の能力者達は「え?」と聞き返すような言葉を返した。
それと同時に大きな絵がガタンと落ちてきた。絵の下敷きにならぬように能力者達は絵を避けたのだが、絵が落ちたと同時に問題の『動く鎧』が現れ、能力者達は急いで戦闘態勢を取ったのだった。
〜能力者VSリビングデッド〜
「待ち伏せと不意打ちとは姑息なやり方だな」
御巫は呟きながら『刀』で『流し斬り』で鎧キメラの攻撃を回避しつつ、鎧の関節部分を狙って突き刺したのだが、中身がないというのは本当だったらしく全く効果が見られない。
「ふむ。鎧を着た相手には打撃や刺撃が効果あるのだが‥‥中身がないのでは意味がないな」
御巫は攻撃の後に後ろへと下がり、冷静に状況を分析していく。
「それにしても気配も感じられなかったのに、よく気がつきましたね」
都倉がレジーノに問いかけると「探査の眼を使ってるからね」と言葉を返した。
その後、能力者達は戦闘の場を踊り場から玄関前へと移動させた。踊り場も多少大きな場所だったのだが、戦闘をするとなると窮屈でしかなく、それぞれの能力者が自分の戦いを出来るように広い場所へと移らざるを得なかった。
「な〜んか、あの剣も怪しい感じがするんだよね」
レジーノは呟き『ショットガン20』で鎧キメラの腕、つまり剣を握っている部分を狙って攻撃を行う。さすがに衝撃に耐えられなかったのか、鎧キメラは剣を手放し、がらんと音をたてて剣は床へと落ちた。
「‥‥やはり中身がないので、攻撃が効いているようには見えませんね」
都倉が眉を寄せて呟く。彼女は『鋭覚狙撃』を使用して『クルメタルP−38』で鎧キメラの関節部分を集中的に攻撃していたのだが、鎧が傷ついていくだけで効果が全く見られない事に焦りを感じ始めていた。
「さてと、出来る限りサポしますが、限界がありますので無理をしないで下さいね」
神無月は覚醒を行いながら『練成弱体』を鎧キメラに使用して防御力を低下させる。
「低下させても‥‥ダメージがないんじゃ、どうしようもないですね‥‥」
神無月は嫌な汗が頬を伝うのを感じながら小さく呟く。
「どうやって動いているのか、そのタネ――明らかにさせてもらう!」
月影は『カデンサ』を構え、鎧キメラに攻撃を仕掛ける。
「‥‥?」
だが、鎧キメラはガシャンと崩れ落ち、動かなくなった。
「‥‥なにごと、でしょう?」
都倉が目を瞬かせながら呟く。彼女が呟いた言葉は、能力者の誰もが思っていること、致命傷を与えたわけでもない、何かを壊したわけでもない、それなのに鎧キメラは動かなくなったのだ。
「一体どうなっ―――」
薙原が呟いた瞬間、背後から別の鎧キメラが襲い掛かってきた。
「なっ――そんな気配は全くなかったのに‥‥」
レジーノも多少混乱に陥りながら呟く。
「まさか本当にお化けとか言うのではないだろうな‥‥そうなったら私は」
逃げる、御巫は最後の言葉を心の中で呟いた。
「‥‥違う、何かがおかしい‥‥」
ポツリと呟いたのはエリクだった。彼は普段『視覚』を使わない生活を行っているため、何か胸をよぎる違和感を感じていた。
「謎とやらを解明しないことには、キリがなさそうだなっ!」
九条は叫びながら『瞬天速』で鎧キメラとの間合いを詰めて『瞬即撃』で攻撃を仕掛ける。
エリクの言った「何かがおかしい」という事は能力者全員が感じていた。何かを見落としているような、そんな感じが先ほどからしているのだ。
「‥‥‥‥‥‥剣」
ポツリと呟くのは神無月。彼の呟きに能力者達は鎧キメラが持つ剣を見る。
その剣は壁に展示されているものではなく、最初に現れた鎧キメラが持っていた赤い宝石のようなものが装飾された剣だった。
「まさか、本体はアレ?」
薙原が呟き『カプロイアM2007』に持ち替えて『剣』に攻撃を集中する。
「ふふん、幽霊の正体見たり‥‥で、あるな」
御巫は呟いた後に鎧キメラに向けて『デヴァステイター』で攻撃を仕掛ける。全員が『剣』の方に攻撃を向けてしまうと、鎧の方から攻撃をされるかもしれないと考えたのだ。
今、動いている鎧は先ほどの鎧とは違い、肘などにツノのような突起物がいくつもある全身凶器のような鎧なのだから。
最初に攻撃を仕掛けたのはエリクで、彼は洋弓『アルファル』で剣を持っていない方の腕を落とす役目に専念していた。彼の攻撃によって篭手がゴトンと落ちて、鎧キメラに残ったのは剣を持っている腕のみとなった。
そして鎧キメラを撹乱するかのように動きながら攻撃を動くのは九条で、靴に装着された『刹那の爪』で攻撃を仕掛けた。
九条の攻撃の後は鎧キメラの隙間を縫うように『カデンサ』で壁へと突き刺す。
「これでコイツは動けない!」
月影が仲間の能力者に向けて叫ぶと、薙原が『ライフル』で剣を持つ手を狙って射撃する。先ほどの鎧キメラと同じく剣が手から離れ、剣はガタンと落ちる。
能力者達は落ちた剣に触らぬように、剣そのものを破壊するべく攻撃を仕掛ける。
どうやら剣自身は動くことが出来ないらしく、能力者の攻撃をそのまま受けるだけで、やがてぼろぼろになって壊れて鎧キメラを操る事も無くなったのだった。
「‥‥殲滅、確認」
〜鎧キメラを倒し者たち〜
「剣が本体だったなんて、そりゃ倒せないよねぇ」
倒した後、本部に帰還する高速艇の中でレジーノが苦笑しながら呟く。
「そうですね。鎧が動いているのですから、本体は鎧だと思ってしまいますよね」
都倉がレジーノに言葉を返すと「バグア側も厄介な事をしてくれるな」と九条がポツリと呟く。
「でも、たいした怪我人も出なくてよかったな?」
神無月が能力者達に向けて言う。全員が無傷というわけにはいかなかったが、重傷者を出すことなく任務を終わらせることが出来たのだ。
「ああいう輩など、お化けに比べたら楽勝なものであるよ」
御巫は呟き、他の能力者も笑みをもらし、報告の為に本部へと帰還していったのだった‥‥。
END