●リプレイ本文
〜少女から『赤』を奪いしキメラを倒す為に‥‥〜
「赤い色が嫌いな少女か‥‥全く心が痛むな。バグアの奴らが来てからこんな話ばかりだ」
ため息を吐きながら呟くのはザン・エフティング(
ga5141)だった。
「‥‥宜しく‥‥お願いします‥‥」
少し物憂げな表情で今回一緒に任務を行う能力者に挨拶をするのは椎野 のぞみ(
ga8736)だ。
普段の彼女ならここまで静かな事はない。では、何故今回はこんなに静かなのかというと赤い色が嫌いという少女・アヤコと自分の過去が重なって見えたからだ。誰よりもアヤコの気持ちが分かる椎野だからこそ今回の任務も参加を決めたのだとか‥‥。
「赤が嫌い‥‥ですか。ならば私は絶対にアヤコちゃんとは会えないですね」
テミス(
ga9179)が苦笑気味に呟くと「私もだな」と楓姫(
gb0349)も言葉を返した。
何故二人がアヤコと会えないのかと言うと、テミスは髪の毛が赤い、そして楓姫は服装や彼女の愛刀『血桜』に赤が含まれているからだった。
「‥‥俺にとっては初任務なのですが、仇討ちとは‥‥気が重いです」
鹿嶋 悠(
gb1333)が俯きながら小さく呟くと「あんな小さな子供なのに‥‥」と月夜魅(
ga7375)も表情を曇らせながら言葉を返してきた。
「確かに‥‥可哀想だけれど――別に珍しくもない、どこにでもある悲劇‥‥」
私にも、と言葉を付け足しながら呟くのはFortune(
gb1380)だった。
確かにアヤコに起きた悲劇はバグアが現れた今の時代では別に珍しくもない、ありふれた事だった。中にはもっと悲惨な事に出くわした人間もいる。
「今回のキメラは『天狗』だったかの? ほっほっほ‥‥難儀な姿を取ったものよの」
鳥を模したような仮面で顔を隠し、話し出したのは黍瀧(
gb0631)だった。
「天狗ってーのは確か日本の妖怪の事だったな」
ザンが思い出したように呟くと「攻撃は手に持った団扇での風攻撃みたいですね」と月夜魅も言葉を返す。
「団扇から発生させた風で切り裂く――つまりは鎌鼬って奴だな。確かに厄介だが‥‥逆を言えばこれさえ対処出来ればどうにでもなる相手、とも言えるな」
ザンが呟くと「倒す為には団扇をどうにかする――って事ですね」と鹿嶋が呟く。
「あの‥‥キメラを倒した後に余裕があったらでいいんだけど‥‥ご両親の形見の品とかあったら持ち帰りたいと考えているんだ」
椎野の言葉に「探す時は私も手伝います」とテミスが軽く手を上げながら言葉を返す。
「あ、俺も手伝います。何か持ち帰ってあげたいとは思ってたし‥‥」
鹿嶋もテミスと同じく、軽く手を上げながら呟く。
「だったら、その為にも早くキメラを倒さなくちゃね」
Fortuneの言葉に、椎野、テミス、鹿嶋は首を縦に振り、天狗キメラが潜む廃墟となった場所へと能力者達は向かい始めたのだった。
〜かつては賑わい、笑顔の少女がいた町〜
「こんな‥‥こんな、酷い‥‥」
目的の場所に到着すると同時にテミスが両手で口元を隠しながら呟いた。廃墟――もとはアヤコのふるさとだった町もキメラに襲われたせいか、建物は崩れ、人がいた頃は丁寧に世話されていたであろう花壇もぐちゃぐちゃに荒れ果てていた。
崩れかけの建物の中を見れば、壁などに茶色へと変色した血の跡などが視界に入ってきて椎野は表情を歪める。
「‥‥こんな状況を見て、アヤコは両親を失うだけではなく多くのものが嫌になったんだろう――――赤には、赤で返させてもらう」
楓姫は廃墟を見渡しながら『血桜』を強く握り締め、低く呟く。
「さて‥‥何処にキメラがいるのか探さないとな。まぁ大人しくしているタイプには思えないからすぐに見つかりそうだけど」
ザンが呟くと「これでキメラを引き付けてみますね」と月夜魅が『呼笛』を見せながら言葉を返してきた。
「『探査の眼』も使ってみるから、キメラを発見したらすぐに知らせるよ」
椎野が『探査の眼』を発動しながら呟く。囮役のザン、そしてキメラを『呼笛』にておびき寄せる為の月夜魅、そしてキメラを発見するための能力を持つ椎野以外の能力者はキメラが発見されると同時に攻撃に移れるように、それぞれ武器を構える。
その中でもテミスと楓姫、そして鹿嶋は先行する椎野とザンの背後からキメラの側面へと移動できるように行動を行っていた。
そして月夜魅が『呼笛』を鳴らすと、100mほど離れた場所から手に団扇を持った天狗キメラが地面から空へと飛ぶ姿が視界に入った。
「さて、行くかね」
ザンは口笛を吹きながら天狗キメラの正面へと向かって走り出す。その際に天狗キメラが団扇を振るって風攻撃を行ってきたが、ザンは『虚闇黒衣』を使用して、ダメージを最小限にした。
「鬼さんこっちら〜♪」
月夜魅が手を叩き、天狗キメラを挑発するように叫ぶ。そして天狗キメラが月夜魅の方へと向かい始めた時に『ロッタ特製花火』にジッポで素早く火をつけて、天狗キメラの後ろへと発射する。
その際に足場に気をつけながら天狗キメラを撹乱していく。
そして椎野はキメラが現れたと後方からの能力者に伝え、自分自身も攻撃へと向かう。彼女の考えとしては自分に天狗キメラの気を取らせ、他の能力者に攻撃を任せたい――そう考えていた。その為になら怪我をしてもかまわないとさえ。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦‥‥意味違うけど」
Fortuneが呟き『鋭覚狙撃』と『強弾撃』と『弾頭矢』を用いて天狗キメラへと攻撃を行う。
もちろん狙いは天狗キメラの手に持たれている『団扇』だった。Fortuneの呼応撃で一度は団扇を手放した天狗キメラだったが、団扇が地面に落ちる前に再び手に取って風で能力者達を攻撃する。
「惜しかったわね‥‥でもあなたはここで倒れる‥‥それがあなたの運命」
再び援護射撃を行いながらFortuneが呟く。
「ふふ、風を起こすという異能を持った天狗‥‥まさしく妖だの」
黍瀧は「我も人の事は言えぬがね」と覚醒しながら呟き、所持していた『翠澪の弓』で天狗キメラに攻撃を仕掛ける。
今回の戦いの中で重要とされるのは、もちろん天狗キメラから『団扇』を手放させる事もそうだが、狙いを一点に集中させないという事も重要な事だった。
それぞれの能力者が天狗キメラの気を散らすように攻撃を仕掛ける事で、一人に対して狙いが行かず、結果として良いリズムで戦闘が進んでいる。
「そろそろ下に降りてきてもらおうか」
ザンは『ショットガン20』で攻撃を行う。地上戦で『ショットガン20』を使うと仲間の能力者に当たるかもしれないという不安があるが、空へ向けてならば撃ち間違えても誰かを傷つける心配は無いと考え、ザンは遠慮なく攻撃を仕掛けている。
そして天狗キメラは仕返しだと言わんばかりに風で反撃を行ってくる。
「わ‥‥すごい風‥‥気をつけなくちゃ」
月夜魅は顔を庇うように手で防御する仕草を見せ、小銃『S−01』で天狗キメラを攻撃する。彼女の攻撃が天狗キメラの腹に当たり、天狗キメラはぐらりと揺れて地面近くまで降りてくる。
「あの子を‥‥アヤコちゃんを孤独にした罪、償ってもらいます‥‥!」
テミスが厳しい表情で呟き、手に持っていた『蝉時雨』で団扇を持つ手を狙って攻撃を仕掛ける。その瞬間、天狗キメラから団扇が離れ、それは地面へと向かって降下を始めた。
天狗キメラ、そして能力者達が『団扇』を目掛けて走り出す。
「――欲しいものはコレか? 残念だったな」
楓姫の持つ武器『血桜』が団扇を貫いて地面へと突き刺す。そして『刀』で向かってくる天狗キメラの足を狙って攻撃を仕掛けた。
「これで、あなたの頼りになる武器はない――アヤコちゃんと‥‥彼女の家族の痛みを味わって逝け‥‥」
鹿嶋は呟き『刀』を振り上げて『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して天狗キメラの翼を狙って攻撃を仕掛けた。
「あなたにアヤコちゃんの人生を狂わせる権利なんてありません‥‥人の人生を狂わせておいて、逃げようなんて‥‥許されませんよ」
団扇を失い、翼すらもまともに動かせない状況で天狗キメラは能力者達から逃れようと傷ついた足で後退していく。
それを見たテミスが怒りがこみ上げてきたのか、赤いオーラを纏いながら呟き
『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して天狗キメラの腹部へと攻撃を仕掛けた。
「ほっほっほ‥‥天狗とは森に生きし者よ。それが活かせぬようでは、御主も三流だの」
黍瀧が天狗キメラを嘲るように笑い声を漏らしながら、それでも呆れを隠せない口調で話しかけ『イグニート』で攻撃を仕掛けた。
「‥‥‥‥あなたも赤の恐怖を知れ」
黍瀧の攻撃が終わると、入れ替わりのように楓姫は小さく呟きながら攻撃を仕掛け、能力者達は天狗キメラを打ち倒す事が出来たのだった。
〜荒れた場所で、最後のぬくもりを〜
天狗キメラを倒し終わると、テミス、椎野、鹿嶋の三人は廃墟の町を歩き回って、アヤコに渡す為の遺品を捜していた。
予め、アヤコの住んでいた家を調べていれば町中を歩き回る事もしなくて済んだのだが、あいにくとアヤコの住んでいた場所を調べてきていないため、三人はほとんど瓦礫と化した建物の中を探す羽目になった。
彼らの手がかりとなるのは『藤條アヤコ』というアヤコの名前しかなかった。家には表札が綺麗に残っている場所もなく、申し訳ないとは思いつつも家の中に入って、アヤコの写真などを探して、彼女の自宅を探していた。
「これ、アヤコちゃんじゃないかな?」
町の奥にある家の中で椎野が一枚の写真を見せながら鹿嶋と月夜魅に話しかける。確かに椎野の持つ写真は今より少し幼いもののアヤコの姿が映っている。
「それじゃ‥‥ここがアヤコちゃんの家‥‥」
テミスは周りを見渡しながら悲しそうに呟いた。他の家でもそうだったが、中のものは散乱していて、血がべっとりと壁に付着している。
「‥‥こんな中で、アヤコちゃんは惨劇を目の当たりにしたのか‥‥」
鹿嶋が俯きながら呟く――がテーブルの下にあった物を見て首を傾げて、それを手に取った。
「何かありました?」
テミスが問いかけると「いや、これが‥‥」と鹿嶋は見つけたものを椎野とテミスに見せながら言葉を返した。
鹿嶋が見つけたものは、ピンクの包装紙でラッピングされたものだった。もちろん綺麗なまま、というわけにも行かずに箱は結構へこんでいて、リボンもだらしなく解けていた。
「カードがあるね‥‥happy Birthday――TO AYAKO」
椎野がカードの内容を読むと、椎野はもちろん、鹿嶋とテミスも苦痛に表情を歪めた。
「‥‥アヤコちゃんの誕生日、事件があった日だったのか‥‥」
鹿嶋が呟き「これを形見に持っていってあげたいんですけど」と言葉を付け足すと、テミスと椎野も首を縦に振って賛成した。
そして、町の入り口の所で待機していた能力者たちと合流して、キメラを退治したという報告とアヤコに会う為に本部へと帰還していったのだった。
〜赤、それは死の色であると同時に生きる色でもあるという事〜
「私はアヤコちゃんに会えないから‥‥椎野さん、私の分もアヤコちゃんを励ましてきてくれませんか?」
テミスが眉を下げて笑みを浮かべながら椎野に話しかける。赤を嫌うアヤコに自分は会えないから、と言うテミスに「分かった」と椎野は首を縦に振って言葉を返した。
テミスの他にも楓姫、黍瀧もアヤコとは会わないと言って、先に解散した。
そして、三人を除いた能力者達はアヤコのいる場所へと向かって歩き出す。
「‥‥‥‥え?」
最初にアヤコに会って、キメラを退治したという報告と一緒に椎野と鹿嶋がぼろぼろになったプレゼントを渡した。
「私の‥‥誕生日プレゼント‥‥? 家族からの‥‥?」
アヤコは震える声でぼろぼろになったプレゼントを開いていく。
すると、箱の中から姿を現したのは―――‥‥赤くて可愛い靴だった。
「‥‥‥‥ふふ、パパもママも空気読んでよね‥‥赤が嫌いな今の私に、この靴は履けないよ」
涙を流しながら言うアヤコに「手を太陽にかざしてみろ」とザンが小さく言葉を投げかけた。
「え?」
「確かに赤は血の色で死の色でもあるが、今を生きる色でもあるんだぜ?」
ザンの言葉にアヤコは目を丸くして「いまを、いきるいろ?」と聞き返すように呟いた。
「僕はアヤコちゃんの気持ちが痛いほどに分かる。もう僕や、アヤコちゃんみたいな人を増やしたくないから、僕は戦い続けると決めたんだ。実を言うと僕も少し赤が怖い。だけど‥‥」
椎野は一度言葉を止めて、頭を飾る赤いカチューシャに触れて、再び言葉を紡ぎ始める。
「赤は怖いだけでなく、僕に力をくれるから。だってザンさんの言うとおり、僕の、そしてアヤコちゃんの中にも流れる生きるための色だから」
「‥‥私も、赤を嫌いだって言わなくなる日が来るのかな」
アヤコが不安げに呟くと、Fortuneがアヤコと目線を合わせるようにしゃがみながら口を開いていく。
「いつまでも引きずってないで、立ち直らないといけない‥‥あなたなりのやり方で、ゆっくりでいいから」
Fortuneの言葉にアヤコは首を縦に振って「ありがとう」と、不器用に笑った。
その後、アヤコが『赤』を前ほど嫌わなくなったという噂を聞いて、能力者達は少し穏やかに笑ったのだった‥‥。
END