●リプレイ本文
〜能力者達に挨拶〜
「ふんどしーちょ! 今日は集まってくれてありがとう! 今日は楽しい祭にしようね〜!」
主催者である個人雑誌『クイーンズ』の記者・土浦 真里(gz0004)が公園に響き渡るような大きな声で挨拶をした。
7月1日、それは前々から告知されていた『ふんどしーちょ祭』開催日。
この日の為にマリは公園を一日貸しきりにするなど準備を行っていた。
祭の為に貸しきられた公園は、普段なら子供達の遊ぶ姿、そして楽しげな声が聞こえる公園のはずが、今日だけは「ふんどしーちょ!」という言葉と褌姿でうろつく能力者達という奇怪な公園へと姿を変えていた。
「ついに‥‥ついにこの日が来ました‥‥」
ほろりとした表情で呟くのは鳳 つばき(
ga7830)だった。
「本当に‥‥思えばあのさりげない一言がこんな祭に進展するとは‥‥」
篠原 悠(
ga1826)も会場を見渡しながら遠い目をして呟いていた。
「何はともあれ、ついにふんどしーちょ祭開催ッスね! 気合いれていくッスよ〜!」
六堂源治(
ga8154)はスカジャンを模した法被に頭は捻り鉢巻、そして白の褌姿で叫ぶ。
「私は『しーちょ君人形』を作って販売していますので、お暇がありましたら来てくださいね」
レンタルの『幻想的なふんどし』を着用して現れたのは水鏡・シメイ(
ga0523)だった。彼はふんどしーちょ祭をより盛り上げるために『しーちょ君』というマスコットキャラクターを考えて、その人形販売の屋台を出すというのだ。
しーちょ君のデザインはゆるキャラで、形は六尺褌を基にしており前垂れの部分に顔が書かれているというもの。顔はゆるいものから、劇画調のダンディーなモノまでさまざま用意されている。
「色々な『しーちょ君』をありがと! 制作費は後で祭が終わった後でい〜い?」
「あ、いいですよ。お金は出すつもりでいましたし‥‥」
水鏡が言葉を返すと「だ〜め。そういうのは確りしなきゃ気がすまないの」とマリは言葉を返した。
「あの〜‥‥写真撮影は禁止ですか?」
防水ケースに入った使い捨てカメラを持って、マリに問いかけてくるのは宗太郎=シルエイト(
ga4261)だった。
「え? 撮影はもちろんOK! 私達も取材用に写真とか撮らせてもらう予定だし。でも水を撒いたりするから壊れる可能性もあるよ?」
マリが言葉を返すと「大丈夫です、防水仕様ですから」とカメラを見せながら答えた。
「ふんどしーちょ!」
大根を持って挨拶をしてくる神楽克己(
ga2113)にマリも「ふんどしーちょ!」と挨拶を返す。
彼は公園内の噴水やライトアップの下準備を行っていた。ふんどしーちょと文字の書かれた提灯も彼が飾っていた。
「手伝いが必要な時はうちの記者を使ってくれて構わないからね」
他の能力者にも挨拶をしなければならないため、マリは神楽に言葉を言い残して公園の中を走りだそうとした時に見知った顔が見えて「おーいっ!」と手を大きく振る。
「おや、マリさん」
青地に黒い縞の変則虎柄の褌を着用にいつも着ている白衣という格好をしているのは玖堂 鷹秀(
ga5346)だった。
「鷹やん! 来てくれたんだね。もう少ししたら騎馬戦とか踊りとか始まるから参加出来るようなら参加してよ♪」
「踊る方には参加するとしましょうか‥‥マリさんは『クイーンズ褌』なんですね」
そう、マリや記者達は緑色のクイーンズ褌を着用している。ちなみにマリは白いビキニ姿の上から褌という格好をしている。
「うん、でも知っている人がたくさんいて嬉しいな♪ 知らない人とも友達になりたいし♪」
楽しげに言うマリを見て「そうですか、私も楽しませてもらいますよ」と玖堂は去っていくマリに言葉を返したのだった。
「オッス」
「‥‥‥‥?」
馬のマスクを被り、白い褌姿で話しかけてくる怪しげな人物にマリは後ずさりをした。
「おいおい、俺だって」
完璧に引いてるマリに馬のマスクを取り、アッシュ・リーゲン(
ga3804)が苦笑気味に話しかけてくる。
「アッちゃん!? どうしたの、馬のマスクなんて被って‥‥」
そして、マリはアッシュの隣に視線をずらす。するとそこにはアッシュと同じように馬のマスクを被り、白い褌姿の雷(
ga7298)が視界に入ってくる。
「これ被って、一つの太鼓を二人で叩こうって話になってさ。な、アッシュ兄」
雷の『アッシュ兄』という言葉に「弟?」とマリが首を傾げる。
「や、実の弟じゃないんだが‥‥その辺はあんまり突っ込むな」
苦笑するアッシュに「了解!」と言葉を返し、二人は太鼓が置いてある場所へと歩いていったのだった。
「やれやれ、奇抜な褌が多いね」
風巻 美澄(
ga0932)が派手な褌を着用している能力者達を見てため息を吐く。
「んん? 派手なのは嫌いだった?」
マリが問いかけると「褌は白に限るだろう、白以外は認めないね」と風巻は言葉を返してくる。
「おいらも白の褌だぜぃ!」
突然話しかけてきたのはオーガン・ヴァーチュス(
ga7495)だった。彼も白の褌一丁でより漢らしく見えるのは気のせいではないだろう。
「よぉー、おいらのガキが世話になっているようで! まぁ、仲良くしてやってくれや!」
おいらの息子、という言葉に心当たりがあるのか「ふわもこ本家!」とマリは目を輝かせて言葉を返す。
「ふ、ふわもこぉ!?」
「あー、残念! 覚醒ダメって言ってるからオーちゃんのふわもこが見られない‥‥今度見せてね!」
そういって目を輝かせたままマリはオーガンの元から去っていった。
「‥‥ところで、ふわもこって何の話だぁ?」
首を傾げるオーガンだったが、考えていても答えは出ないのでとりあえず出されているお酒を飲むことで自己完結した。
「おーい、真里ちゃん! レンタル用の褌って何処にいけば借りられるんだ?」
話しかけてきたのは志羽・翔流(
ga8872)だった。
「あ、えっとどんな褌がいい?」
マリは抱えている荷物からさまざまな褌を取り出して志羽に見せる。
「じゃあコレを借りるな。あと屋台をするから場所を借りるな」
志羽は盆踊りや太鼓を叩かない代わりに屋台を出すことになっていた。メニューは『ふんどっしーちょ焼きそば』と『ふんどしーちょお好み焼き』の二つ。人手が少ないので、メニューを多く出来なかったらしい。
それでも屋台があるなら祭の雰囲気が出るといってマリは大喜びだった。
「‥‥これは日本男児の象徴である褌をアピールする祭なのだろう?」
風閂(
ga8357)がマリに話しかけると「そーだよ〜?」とにっこり笑顔でマリが答える。
「だったら何故挨拶が『ふんどしーちょ』なのだ! 恥ずかしくて言えるか!」
しかし風閂が叫んだところで今回の『ふんどしーちょ祭』に参加した能力者達から一斉に冷たい視線を浴び、耐えられなくなったのか、それとも自棄になったのか風閂は「ふんどしーちょ!!」と大きな声で叫んだ。
「OKOK! 褌はレンタル? どの褌がいい?」
「彼氏のふんどしを頼む」
風閂の言葉にマリの動きがぴたりと止まる。何故なら『彼氏のふんどし』をレンタルする能力者は風閂が初めてだからだ。
そして、渡されて風閂が後悔するまで一分程度。マリは苦情を言われる前に渡すと同時に他の能力者のところへ全速力で走っていった。
「初めまして、淡雪(
ga9694)です」
丁寧に頭を下げてマリに挨拶をするのは、褌とは縁遠そうに見える淡雪だった。彼女はマイクロミニ丈のスパッツの上から白い褌を着用しており、上半身は同じ白のさらしを着用している。
「私は体力に自信がないので、神輿の時には横笛を吹かせてもらいますね」
「うん、OK!」
「‥‥あの、それは?」
淡雪はマリが持っている人形を見て問いかける。その人形は水鏡が販売している『しーちょ君人形』でどうやら淡雪は気に入ったらしい。
「シメイちゃんの屋台で売ってるよ〜。そういえば氷でしーちょ君を作ってくれたんでしょ? ありがとう! 夜になったらこっちに移動させてもらうね」
編集室に置いてある『クリスタルしーちょ君』のお礼を言うと、淡雪も「いいえ、お役に立てて嬉しいです」と言葉を返し、水鏡の所へと淡雪は向かっていったのだった。
「えぇと、まだ挨拶してない能力者の皆は〜‥‥「ちゅうなふんどし貸してください」」
マリが公園を見渡していると、御崎緋音(
ga8646)とレイアーティ(
ga7618)の二人が
『ちゅうなふんどし』のレンタルを申し出てきた。
「土浦君、ふんどしーちょ」
真顔で挨拶をしてくるレイアーティに「ふ、ふんどしーちょ」とマリも言葉を返す。
最初はふんどしの事を誤解していたようだが、御崎にレクチャーしてもらったのか「もう大丈夫です」とレイアーティは先ほど同じく真顔で答えた。
「悠ちゃんとつばきちゃん、本当に楽しそうですね♪ それじゃいきましょ」
着替えの為にレイアーティと御崎は一時『編集室』と書かれたテントの方へ向かっていったのだった。
「あっれー、ナオぴょんも来てる!」
マリはナオ・タカナシ(
ga6440)の姿を見かけて小走りで駆け寄る。
「お久しぶりです」
「久しぶり! 楽しんでいってね♪」
簡単な挨拶を交わした後、ちょうどお昼時間が来ていたので「一度お昼休憩になりま〜す!」とメガホンを使って公園内の能力者に話しかけた。
能力者達が集まる前、櫻杜・眞耶(
ga8467)と朔月(
gb1440)の二人が臨時の編集室に出向いてくれておにぎりと豚汁を作っていた。
「ご飯を食べる人は編集室のところまで来てね! お昼ご飯が終わり次第『ふんどしーちょ祭』を開催しますっ!」
〜祭本番! 皆でふんどしーちょ! 〜
騎馬戦に参加する能力者は、篠原、神楽、玖堂、オーガン、レイアーティ、鳳、六堂、風閂、志羽、淡雪の合計十人。
「組み合わせ発表しま〜す♪」
騎馬戦は本家と元祖の二つのチームに分かれる事になっている。人数は十人なので騎馬を組むのではなく肩車での騎馬戦となった。
本家チームは鳳&風閂、淡雪&神楽、玖堂&六堂。
元祖チームは篠原&オーガン、志羽&レイアーティ。
五つのチームで対戦するため、本家チームがやや有利になっている。
「騎馬戦の説明はりっきーにお願いしま〜す!」
「オッケーっす! 鳳と篠原には『褌』と書かれたキノコ帽子を被ってもらうッス。そして奪った方が勝ちとルールは簡単なものッス!」
六堂が説明を終えた所で、マイクがマリに戻って来て祭の開始を知らせる言葉を言おうとした瞬間――‥‥マイクは櫻杜に奪われてしまう。
「行くよ! 野郎共! ふんどしーちょ祭の幕開けだよ!」
櫻杜の言葉を合図に『ふんどしーちょ祭』は本格的に始まりだしたのだった‥‥。
「‥‥まやちゃん、私の台詞‥‥‥‥」
じろりとマリが櫻杜を見ると「あ、すみません。つい‥‥」と櫻杜は言葉を残して振る舞い用の樽酒準備に取り掛かりだしたのだった。
〜騎馬戦開始〜
「行くぞ弟よ! ブルアァァァァッ!!!」
アッシュの叫ぶ声と同時に大太鼓の音が響き渡る。一台の大太鼓を左右から叩く馬のマスクを被った二人――はっきり言って怖いのだが祭りなのだからOKという事にしよう。
「ふんどしーちょ。ふんどしーちょ」
志羽を担ぎながらレイアーティは祭の合言葉でもある『ふんどしーちょ』を真顔で言っている。
帽子を狙われている鳳は「わが精鋭達よ。行けぃ!」と格好よく淡雪ペア、玖堂ペアに指示を出す。
「わ、わ、こっちに来ないで下さい〜!」
神楽に担がれて淡雪が慌てたように叫ぶ。元祖チームは一組少ない分、協力して一つずつチームを脱落させてしまおうと篠原&オーガンはレイアーティ&志羽と挟み撃ちにしてまずは淡雪&神楽ペアのキノコ帽子を奪って脱落させた。
「よっしゃぁっ! まずは一組! これで五分五分やね!」
篠原が得意そうに叫ぶが、鳳はニヤと不敵に笑って「甘いですよ」と呟く。
「わりぃな、取られちまった」
志羽が申し訳なさそうに帽子を取られた頭を掻きながら呟く。
そして元祖チームは篠原&オーガンのみになってしまい、絶体絶命のピンチに陥る。
「ヤバイ! オーガンさん! 逃げて逃げて!」
篠原はオーガンに逃げるように言うが、本家チーム二組に囲まれて篠原の帽子は奪われてしまい、騎馬戦は鳳率いる本家チームの勝利に終わったのだった。
〜 ふんどしーちょ神輿! 生き神様を奉れ! 〜
決して大きいとは言えない神輿だったが、篠原と鳳の二人が乗り、屋台をして手が離せない能力者以外は神輿を担いで「ふんどしーちょ、ふんどしーちょ」と掛け声をあげていた。
「ふんどしーちょ、ふんどしーちょ」
大きな団扇を持って、神輿の前で叫んでいるのは朔月だった。彼女は『しーちょ君』の着ぐるみを来て踊ったりと祭を盛り上げていた。
もちろん炎天下での着ぐるみはツラいので一時間ごとに水分補給として休憩を行うようにしている。
「皆さん、ふんどしーちょですよ」
淡雪は体力に自信がないと言って、担ぎ手にはならずに祭りを盛り上げる役として横笛を吹いている。
「暑いだろうから、水を撒くね!」
マリはホースを持って神輿を担いでいる能力者達に向けて水をばら撒く。着ぐるみを着ている朔月は水を受けないように走り回っている。
「写真撮りますよ〜」
宗太郎は使い捨てカメラで神輿を担いでいる能力者、そして神輿に乗っている鳳や篠原を写真に納めていた。
「ふんどしーちょ! ふんどしーちょ! ナーバス! ガーリレイ! ガーリバス! って違うわ!!」
神楽は一人でノリツッコミをしながら神輿を担いでいる。
しかし、彼は褌一丁にボディペイントで褌ピエロになっている為、水に濡れないように器用に水を避けながら神輿を担いでいる。
「わっしょいわっしょい、ふんどしーちょ! ふんどしーちょ!」
神輿の上で篠原は『褌』と書かれた団扇で煽るように掛け声をあげている。
「スピードアップするぞぉっ!」
アッシュが大太鼓を叩きながら叫ぶと、雷も言葉の代わりに大太鼓を強く叩いて『了解』を促す。
大太鼓の音が激しくなり、雷はコンチキチン代わりに腰につけたもののリズムにも気をつけながら大太鼓を叩いていく。
そして激しく神輿が揺れる中、最初は大はしゃぎしていた鳳も神輿にしがみついて必死に堪えている。
「そろそろ噴水です、行きますよ!」
玖堂が叫ぶと同時に上下に揺れる神輿のスピードがより速くなる。
「ゃ、やっぱやめ‥‥ちょ、ちょっ‥‥ほんぎゃああああああっ!」
鳳の叫びも空しく、神輿の上に乗っている篠原と共に噴水へと落とされる。噴水に落ちた後、鳳は隠していたアフロカツラを被った後、ライトアップされている噴水の中でスッと静かに立つ。
ライトアップされているせいか、何故か神々しく見える。
「神輿が終わったなら、腹ごしらえでもしたらどうだ?」
志羽が『ふんどしーちょ焼きそば』と『ふんどしーちょお好み焼き』を手に持って話しかけてくる。
さすがに動き続けて能力者達も疲れただろう、そう思ってマリはふんどしーちょ踊りの前に腹ごしらえをする事にした。
「しーちょ君、可愛い‥‥」
腹ごしらえをした後、休憩時間もまだ余っているので淡雪は水鏡が屋台販売している『しーちょ君人形売り場』まで足を運んでいた。
どうやら『しーちょ君』を気に入ったらしく、目を輝かせて売り場の人形を見ていた。
「お気に召したなら、お一つどうですか?」
水鏡が穏やかに笑みながら淡雪に話しかけると「そうですね、一つ下さい」と淡雪も笑顔で言葉を返したのだった。
「わぁ、凄いですね」
淡雪が人形を一つ買った所で、御崎の声が耳に入ってくる。淡雪が何だろうと視線を向けると、神楽が玉乗りとジャグリングを能力者達に披露していた。
「次は手品を披露! この超神水に褌をつけると、真っ赤な褌があっという間に驚きの白さに!」
神楽が赤い褌を白に変えるという手品を見せていた。
「はは、褌姿で楽しく騒ぐ。いつもと変わらないような気がしますが‥‥」
苦笑しながら玖堂が呟くが「まぁ、楽しければいいんですけど」と言葉をつけたした。
「さて、そろそろふんどしーちょ踊り始めるよ〜!」
マリがマイクを使って大きく叫ぶと、休憩で散り散りになっていた能力者達が櫓の方へと集まりだした。
今回のふんどしーちょ祭の為にマリが踊りの時に流す曲を作ってきていた。
〜ふんどし音頭〜
つらい時の合言葉(ふんどしーちょ)
つらくても笑いが出てくるから、さぁご一緒に(ふんどしーちょ)
楽しい時の合言葉(ふんどしーちょ)
楽しさ倍増させる為、さぁご一緒に(ふんどしーちょ)
わっしょいわっしょい、神輿を担いで
わっしょいわっしょい、褌なびかせて
ふんどしふんどし ふんどしーちょ(ふんどしーちょ)
現れる生き神に祈りを捧げて(ふんどし捧げて)
皆で楽しく、ふんどしーちょ(ふんどしーちょ)
〜作詞作曲 土浦 真里〜
ふんどし音頭が入っているテープを聴いて、能力者達は一言心の中で呟いた。
「すごい‥‥別な意味で」
能力者の一人がぼそりと呟いたのだが、マリはあえて言葉を返さず、ボリュームを最大にして『ふんどし音頭』を流し始めたのだった。
このときに淡雪が持ってきてくれた『クリスタルしーちょ君』をクイーンズ記者たちが櫓のところへと運んできた。
「今からふんどしーちょ踊りなんで、参加する人は櫓の所に集まってね」
篠原が能力者達に聞こえるように叫び、自分も櫓の方へと向かう。
櫓の上ではアッシュ&雷が叩く大太鼓のほかに風閂が叩く太鼓も用意されていた。
「故郷のものなら慣れているが‥‥本格的なものは初めてだな」
風閂は呟き、太鼓を軽く叩く。大太鼓のスタイルは神輿の時と同じだが、踊りを意識したスローテンポにしてある所が違う所だろうか。
「皆、歌って〜!」
篠原は踊りつつも『ふんどし音頭』を歌いながら他の能力者も歌うように叫ぶ。
「ほらほら、もうすぐで祭も終わりッスから気合いれていきましょ〜!」
六堂も叫び、自らも大きな声で『ふんどし音頭』を歌う。
そんなこんなで踊りも盛り上がってきた頃に『ちゅうなふんどし』をレンタルしたレイアーティと御崎が櫓から離れていくのをマリは視界に捉えた。
「‥‥レイさん、こっちこっち♪」
二人が抜け出した先は公園の隅で、木があって櫓からは死角になる場所だった。
「今回はお祭に付き合ってくれてありがとうございます」
御崎が笑顔で言うと「いいえ、こちらこそ誘っていただいてありがとうございます」とレイアーティも言葉を返す。
「緋音君、どんな格好をしていても可愛いんですね」
周りから見れば桃色オーラ全開な二人がふんどしと同じく『ちゅう』をしようとした時に「何をしとるかーーーっ!」とマリがレイアーティ目掛けて飛び蹴りを食らわした。
「ぐはぁっ‥‥」
お約束的に吹っ飛んでいくレイアーティを見て「れ、レイさん!」と御崎が慌てふためく。
「ま、真里さん何をするんですか」
「ちゅうなふんどしを借りたからといって本当にちゅうしちゃ駄目なの! 別に羨ましいとかじゃないけど! そんなんじゃないけど! 違うんだけど! でも駄目なの!」
実際に恋人を蹴られて泣きそうなのは御崎の方なのだが、何故かマリが泣きそうな表情で必死に訴えてくる。
その後、ふんどしーちょ踊りに戻った三人だったが、マリは格闘技でもするかのような鋭い踊りをしていたのだとか‥‥。
〜最後はふんどしコンテスト! 〜
「最後はふんどしコンテストを行い、締めにしたいと思います!」
踊りの後、櫓の前で座る能力者たちにマリが大きな声で叫ぶ。
「特に賞品はないんだけど! 誰がベストオブふんどしなのかを競うものです」
参加者は前へ、という言葉と同時にコンテストに参加する能力者達が集まってくる。
「一番、ふんどしの化身・鳳 つばきです」
上半身はさらし、そして下半身は真っ赤なふんどしを着用した鳳が能力者達の前に勇ましく立つ。
「二番! ふんどし元祖の篠原・悠です」
上半身は鳳と同じくさらし、そして下半身は真っ白な褌を着用した篠原が同じく勇ましく立った。
「三番、褌ピエロの神楽克己です」
神楽はジャグリングをしながら前に立ち、能力者から「おぉ‥‥」という声を浴びていた。
「「四番&五番! 褌馬兄弟! アッシュ&雷!」」
今回の祭で大太鼓担当をしてくれた馬兄弟二人がマスクを被った状態で立ち上がる。馬マスクに褌、確かに普通に歩いていたら職務質問を受けるかもしれない。
「六番! オーガン・ヴァーチュスだ! ふんどしには酒さぁ!」
大きな杯で酒を飲みながらオーガンが立ち上がる。
「「七番&八番、ふんどしカップルのレイアーティと御崎緋音です、ふんどしーちょ」」
御崎は笑顔で、レイアーティは真顔で『ふんどしーちょ』といいながらイチャつき始める。
「九番! 六堂源治ッス! いつも着てるような服装をイメージしてみたッス」
スカジャンを模した法被などを着て白い褌姿の六堂は、今回集まった能力者の中で目立つ部類に入る格好をしていた。
「十番、風閂だ。褌は日本男児の象徴であり、次回は正統派ふんどし祭を希望している」
風閂は立ち上がり「ふんどしーちょ」と恥ずかしさを抑えながら呟く。
「十一番、櫻杜・眞耶です。今回は朔月はんと一緒に豚汁や料理担当をさせていただきました」
胸にさらしを巻いて法被を着込み、桜模様の入った白褌を着た櫻杜が立ち、軽く挨拶をする。
「十二番! 朔月だ、今回は料理担当としーちょ君着ぐるみの中に入っていたな」
コンテストが終わると、クイーンズ記者達から一枚の紙が渡される。
「今渡した紙の中に自分が思う『ベストオブふんどし』の名前を書いてね〜! 書いた後は私に渡すよ〜に!」
そう言いながらマリも自分の紙に能力者の名前を書き始める。
だが、誰を書けばいいのか分からずにマリは「どうしよっかな」と呟きながら能力者たちの方を見る。
すると、能力者達も同じなのか中々紙を渡しに来ない。
それから三十分ほどが経過した頃、全員分の紙がマリに渡され、急いで集計を始める。
「上位三人を発表します!」
呟くと同時にマリにライトが当てられ、ベストオブふんどしにふさわしい三人の名前を発表したのだった。
「一位! 六堂源治!」
「二位! オーガン・ヴァーチュス!」
「三位! 鳳 つばき!」
発表が終わると同時に公園の中は「わぁっ」と声があがる。
「今日は楽しかった! みんなも楽しかったって思ってくれてると嬉しいな♪ またこんな祭をしたいなと思ってるんでそのときは宜しく! だけど――」
マリの言葉の途中で櫻杜がマイクを取り上げ「判ってるね! 帰るまでが祭だよ!?」と叫んで締めとしたのだった。
その後、帰ろうとする能力者たちを引きとめ、最後に集合写真を撮って「ご苦労様でした」と能力者を見送ったのだった。
「それはそうと‥‥‥‥まやちゃん、また私の台詞取り上げた‥‥」
ジロリと見るマリを放っておき、櫻杜は公園の片付けへ向かい始めたのだった。
「立つ鳥と褌は跡を残さずってな」
呟きながらゴミ拾いをしてくれているのは神楽だった。
「ふんどしーちょは永遠に不滅ですー‥‥」
ベンチに座り、やりこんだ『男(?)』の表情を見せるのは鳳だった。色々と騒いで疲れたのだろう。ぐったりとしていた。
「次はもっと人数集めて盛大にやりたいッスね!」
六堂もゴミ拾いをしながら興奮が冷めないのか、元気に叫んだ。
「おーい、真里ちゃん」
ゴミ拾いをしていると志羽に呼び止められて「なーに?」とマリが振り返る。
「今日は楽しかったぜ。これ、クイーンズの費用に使ってくれ」
少ないけど、と言葉を付け足しながら渡されたのは彼が屋台で稼いだお金だった。
「えぇ! 悪いからいいよぅ!」
「いいって、楽しかったお礼と思ってもらえればさ」
「ぅー‥‥ごめんね、ありがとう」
マリは申し訳なさそうに呟くと、志羽の言葉に甘えて売り上げを貰うことにしたのだった。
「私は楽しかったけど、皆は楽しんでくれたかな‥‥またこういう祭をやれたらいいなぁ‥‥真冬のふんどしーちょ祭とか‥‥」
呟くマリに本気でしかねないと心配になるクイーンズ記者達なのだった‥‥。
END(ふんどしーちょ!)