●リプレイ本文
「大きなキメラが現れて‥‥という事は目撃者がいるんですよね〜? どなたからの情報でしょうか〜?」
大きなキメラと特定されている事から、ラルス・フェルセン(
ga5133)は目撃者がいるのだと予想して呟いた。
「それは、討伐に向かった能力者達が知らせてきたからよ。これから攻撃に入る――という通信の後に連絡が取れなくなったの」
ラルスの話を聞いていた女性能力者が話しかけてきて、キメラの正体が分かっている理由を教えてくれた。
「キメラ退治も大事だけど‥‥帰ってこない能力者達が心配だよ‥‥無事なら早く助けてあげたい」
皆城 乙姫(
gb0047)が悲しげな表情で俯きながら呟くと「うん、我もそう思う」と篠ノ頭 すず(
gb0337)も相槌を打つように言葉を返したのだった。
「助けられる人がいれば、出来るだけ助けたい‥‥」
エイドリアン(
ga7785)が先に向かった能力者のリストを見せながら呟く。リストを見ると男性3名、女性2名の合計5名の能力者が鍾乳洞に向かっているようだ。
「そういえば、鍾乳洞内には光源がないようですね。2つほど懐中電灯を借りてきましたので」
鴉(
gb0616)が両手に持った懐中電灯を能力者達に見せながら話しかける。先頭と殿の能力者に懐中電灯を渡しておき、ラルスと皆城はそれぞれ自前で準備してきたした懐中電灯とランタンを使う――という事になった。
「急いで皆を助けに行こう! 早くしないと手遅れになるかも」
水鏡 空亜(
gb0691)が準備万端と言った表情で能力者達に話しかける。確かに彼女の言うとおり、消息を絶ってから三日ならば最悪の状況も考えなければならない。
「例え可能性が低くても、仲間が生きている可能性が僅かでも有るのなら‥‥放っておくわけにはいきませんね」
ヨネモトタケシ(
gb0843)が呟くと「確かにそうね」と楓姫(
gb0349)が言葉を返し、能力者達は鍾乳洞へと向かい始めたのだった‥‥。
〜不気味な鍾乳洞へと突入〜
問題の鍾乳洞へ到着した頃には、日も沈みかけていて不気味さに拍車をかけていた。
今回の鍾乳洞は観光地などになっていた場所ではなく、人々の記憶から忘れられていたのか、手入れも何もされておらずひっそりと佇んでいた。
「十分二列で行動できる広さですね――生存者を探すのも大変そうですけど」
鴉が苦笑気味に呟き、予め決めていた陣形で鍾乳洞の中へと足を踏み入れていく。
ちなみに決めていた陣形は以下の通りである。
前衛がエイドリアンとヨネモト、中衛に楓姫と鴉、後衛に皆城と篠ノ頭、殿としてラルスと水鏡の二人ずつを分けた4班構成にしていた。
「それにしても広い鍾乳洞だね、すず、足元気をつけ‥‥わぁっ!」
気をつけて、という筈の言葉は最後まで紡がれる事はなく、逆に皆城は心配をした篠ノ頭に抱きとめられて助けてもらう形となった。
「我のことはいいから、乙姫こそ気をつけて」
苦笑しながら話しかけてくる篠ノ頭に皆城は「は〜い、でもすずも気をつけてね」と言葉を返した。
「此処は観光地でもなさそうですし、傷をつけても大丈夫ですよね〜?」
ラルスが壁に傷をつけながら呟く。鍾乳洞の中は予想以上に迷路状態になっていて、キメラを倒し、無事に負傷者を助けても自分達が迷っては意味がないと考えたのか、ラルスは必ず分かれ道で傷をつけるようにしていた。
「‥‥あっ‥‥」
鍾乳洞内部に落ちている石に足を引っ掛けて、エイドリアンが転んでしまいそうになるが鴉が腕を支えて転ぶのを止めた。
「大丈夫?」
鴉が問いかけると「‥‥ありがとう」とエイドリアンは言葉を返す。
「たぶんコッチ!」
分かれ道が出ると水鏡が左、そして右を指差してラルスが傷をつけて其方の方へと足を進める。彼女いわく「妖精さんが教えてくれたヨ♪」らしい。
そして何度目かの道を曲がった所に人が倒れているのを見かけ、能力者達は慌てて駆け寄る。
「‥‥この人は‥‥」
ヨネモトは倒れている能力者の顔を見て、表情を歪める。その能力者は先に向かった能力者達のリストの中に入っている顔だったからだ。腹部に酷い傷があって、恐らくそれが致命傷となったのだろう。
しかし致命傷を受けながらも彼は生きようとしたのか、奥の方から此方へと血の痕が点々と続いていた。
「この方の傷を見る限り‥‥他の方も無傷――とはいかないようですねぇ」
ヨネモトが真剣な表情で呟き、能力者達は少し足取りを早くして奥へと向かい始めた。
「‥‥そんなに強い相手、なのかしら‥‥」
最初の男性の遺体を見つけた後、暫く歩くと今度は女性の遺体と男性の遺体、二人を見つけ、楓姫はポツリと呟く。男性が女性を庇うように倒れている事から、傷を負った二人は男性が女性を担いで此処まで歩いてきた――という所だろう。
「酷いよ‥‥こんな風に死んじゃうために傭兵やっているんじゃないのに――」
水鏡が呟いた所で、誰かのうめき声が聞こえて能力者達は勢いよく其方へ視線を向けた。その声の主は女性で、足を怪我しているのか動けないようだった。
「大丈夫ですか?」
ヨネモトが駆け寄ると「‥‥貴方たちは‥‥?」と女性が問いかけてきた。
「私達は貴方達を救助に来たものだ、敵じゃないから安心していいわ」
楓姫が言葉を返すと「仲間が――あっちに」と能力者達が来た方向を指差しながら女性能力者・沙里は話しかけてきた。
しかし、沙里の問いかけにうまく言葉を返せる者はいなく、そんな能力者達の表情を見て沙里も状況を察したのだろう。泣きそうな顔で「‥‥そう」と呟いた。
「もう一人の能力者は? あと一人無事なのかを確認していない能力者がいるんです」
鴉が問いかけると沙里は少し考えて「彼はキメラの所に残っているはず‥‥彼を助けて」と懇願するような表情で話しかけてきた。
その時――ドンと何かが落ちるような激しい音が聞こえて、能力者達は其方へ視線を移す。
すると、銛を手に持って、空を飛んでいるガーゴイルが視界に入ってきた。能力者達がガーゴイルの姿を確認するとすぐに戦闘態勢を取り、それぞれの武器を構える。
「皆、頑張って――すずも、気をつけて」
皆城は呟くと能力者達に『練成強化』で武器を強化して『練成弱体』でガーゴイルの防御力を低下させた。
「さっきの音はあれね‥‥」
楓姫はガーゴイルの少し後ろに落ちている岩を見て呟く。恐らくはガーゴイルが銛を振り回して天井を崩したのだろう。
「此処なら戦闘に巻き込まれることもないはず」
楓姫は沙里と水鏡を安全な場所まで動かし、自分も戦闘へ戻ろうと足を動かした。
「救急セットで簡単でも治療をしておかないとね」
水鏡は持ってきていた『救急セット』で沙里の足の傷を治療していく。
「貴方は戦闘に入らなくていいの? 私なら気にしないで――」
「そんな足でもしキメラがコッチにきたらどうするの? 沙里はボクが守る! 絶対ボクが皆を死なせやしない」
水鏡の言葉に「ありがとう、そしてごめんなさい」と沙里は言葉を返したのだった。
〜能力者 VS ガーゴイル〜
「やはりその腕が邪魔ですね」
ラルスは洋弓『アルファル』でガーゴイルを攻撃していたが、鍾乳洞内という事もあって、うまくダメージを与えられないでいた。
「‥‥キメラが鍾乳洞を陣取った理由――もしかしてコレなのかな‥‥」
ガーゴイルは銛を振り回し、氷柱状になっている岩を崩したりなど能力者達を苦しめていた。
しかも常に動き回っている状態で狙撃組の能力者達は狙いを定められずにいる。鍾乳洞内を走り回る能力者を見て、ガーゴイルは篠ノ頭へと近づいて銛を振り上げる。
「スナイパーだからと言って‥‥接近すれば安全と思うな」
篠ノ頭は武器を小銃『バロック』から『ショットガン20』へと持ち替えて、至近距離でガーゴイルに攻撃を行う。
篠ノ頭の攻撃によって、銛を持っていた腕は吹き飛ばされ、続いて楓姫が攻撃を仕掛ける。
「‥‥あなたには空より地がお似合いよ。これがね」
楓姫は言い終わると同時に『血桜』で攻撃を行う。
「‥‥ガーゴイルといえば使役される下っ端さん――偉そうに空にいるのは許せないですね」
鴉は『蛍火』で攻撃を仕掛け、ガーゴイルの翼を剥ぐ。
「ガーゴイルが何を守る悪魔か知りませんが、守る為に戦うなら俺だって負けませんからね」
鴉の攻撃によって翼を失ったガーゴイルは地面へと落ちて、残った手で銛を持つ。だけど利き腕じゃないせいなのか、うまく銛を使うことが出来ないらしい。
「いつまでも此処に居座られては迷惑です。消えなさい」
ラルスは洋弓『アルファル』を構え『強弾撃』と『ファング・バックル』を発動してガーゴイルに残された最後の腕を狙って攻撃する。
その後にエイドリアンが『バスタードソード』で攻撃を仕掛けてヨネモトがガーゴイルの懐に入り込んだ。
「これはこれは‥‥迂闊ですねぇ」
ヨネモトは『両断剣』を発動した後に『二段撃』を使用してガーゴイルのトドメの一撃を放ったのだった‥‥。
〜暗闇から光へ〜
「こんな所には放っておけませんねぇ、空の下へ一緒に帰りましょう‥‥」
最初に天井が崩れ落ちた場所の近くには男性能力者が倒れていた。能力者達は慌てて駆け寄ったが既に息は無かった。
「他の能力者達も放っておけないですね」
鴉が呟くと、他の能力者達も首を縦に振り、遺体を背負って外へと出た。
「この空の色が好きで、ここの任務を受けたのに――この色が嫌いになりそうだわ」
沙里は空を見上げ、涙を流しながら震える声で呟く。
「あなたは空、好き?」
沙里は鴉に問いかけると「好きですよ、空は」と言葉を返した。彼は空を見上げながら祖国の光景を思い出しているのだろう。
「こんな空がいつでもどこでも見られるような世界になったらいい‥‥いいもの見れました」
鴉の言葉に「そう‥‥仲間も好きだと言っていたわ」と沙里は小さく呟く。
「だから、私が嫌っちゃいけないのよね」
沙里は仲間の遺体を見ながら呟き、もう一度空を仰ぐ。
そして高速艇に乗る前に篠ノ頭が皆城を呼び止める。
「いつか、我が死んじゃった時‥‥」
篠ノ頭は言葉を止め、考え込むと「ううん」と首を横に振る。
「どうしたの?」
皆城が首を傾げながら問いかけると「何でもない、帰ろうか」と高速艇へと足を進めた。
「‥‥これは言わないでおく」
皆城に聞こえぬ小さな声で呟き、篠ノ頭も高速艇へと乗り込んだのだった。
後日、依頼人の男性能力者は能力者のところへとお礼を言いに向かった。
「彼女以外が全滅したのは悲しいですけど、彼女の無事を知って喜んでいる自分もいるんだ。本当にありがとう」
END