●リプレイ本文
〜狡知神の妻・シギュン〜
今回の標的は神話上のロキの妻とされているシギュンの討伐任務だった。
今までも何名かの能力者が討伐に向かったが全滅という悲惨な結果に終わっている。最後の通信で、シギュンの居場所、外見、そして攻撃が当たらないという謎の言葉を残したのだった。
「ん〜‥‥夫のイメージが大きすぎてイマイチ影の薄い女神様が今回の相手か‥‥実像はよく語られていないけど、貞淑な人妻のイメージで描写される事が多いよな」
九条・縁(
ga8248)が呟くと「確かに‥‥」と櫻杜・眞耶(
ga8467)が言葉を返す。
「神話にあるシギュンの話を考えて‥‥この戦闘には少し気にかかる事があるのは事実ですけどね?」
「一応些細な事でもヒントになるかもしれないからな、本部に再度情報を確認してきた」
麻宮 光(
ga9696)がメモを見ながら呟く。彼は情報は何度聞いても損はない――と情報を仕入れに行っていたのだ。
「まぁ、同じことしか教えてもらえなかったけどな‥‥場所と外見、そして――攻撃が当たらないという事‥‥」
麻宮はため息混じりに呟く。一言で『攻撃が当たらない』とは言ってもどんな状況なのかがさっぱり予想が出来ないのだ。
神話上のシギュンは毒蛇の毒液からロキを支える為に桶を持っているとされている。神話を真似ているなら『攻撃が当たらない』理由は桶の中の毒なのでは、と能力者達は考えていた。
「攻撃の無力化!? はっ、どういったトリックかは知らんが、暴くまでだ」
ゴリ嶺汰(
gb0130)は拳を強く握り締めながら呟く。
「前回は世話になったな、今回も宜しく頼む」
嶺汰は櫻杜と九条に握手を求めるように手を差し出す。
「それにしてもシギュンかぁ‥‥。神様もキメラになっちゃ有難みがないわね」
中岑 天下(
gb0369)がため息混じりに呟き。
「そうだな。それに今回は相手の出方が全く分からない状況‥‥さてどうしたものかね」
ファルロス(
ga3559)も呟く。確かに相手の事が分からない以上、どうやって戦えばいいかも分からない。少しの遅れが命を危険に晒すのだから。
「けけけけけー! シギュンが毒を使う時の為にガスマスクを持っていきたかったんだがな」
NAMELESS(
ga3204)が独特の笑い声と共に話す。
今回、能力者達はシギュンが毒を使う時の事を想定して『ガスマスク』の申請を行っていたのだが、確実に『毒を武器にする』という情報が無いため、ガスマスクの貸し出しは却下されてしまったのだ。
「仕方ないから布か何かで口と鼻をガードするしかないな」
無いよりはマシ、NAMELESSは呟きながら用意してきた布を取り出す。
「本当に『毒』だった場合、布で防げるかも分からないんですけど、確かに無いよりはマシでしょうね」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)もスカーフの裾を口元に巻きながら言葉を返した。
今回、能力者達が考えた作戦は接近班と狙撃班の二つに班を分けて行動することであった。
接近班はNAMELESS、九条、櫻杜、麻宮、中岑の五人。
狙撃班はファルロス、ユーリ、嶺汰の三人。狙撃班は現場へ到着してシギュンを確認後、接近班の援護、そして接近班が攻撃しやすいようにシギュンの動き封じに専念するという役割を受けている。
その際に三人は互いの射線が被らない位置取りで三方向から攻撃を行う事になっている。
「母と言われた神か‥‥キメラとは言え本物じゃないだけ倒すにはマシか‥‥」
麻宮は呟き、能力者たちはシギュンが潜む廃墟へと向かい始めたのだった‥‥。
〜崩れし町に潜む母なる女神〜
「見たところ、変わった場所はないな」
NAMELESSが廃墟を見渡しながら呟く。
「‥‥罠、なども見当たらないですね」
ユーリは廃墟に到着すると同時に『探査の眼』を使用して罠や待ち伏せがないかを調べていた。
「ここもキメラに攻撃されたのかな‥‥」
瓦礫となっている建物を見て、麻宮は表情を曇らせた。自分よりも相手が傷つく事を嫌うほどの優しさを持つ彼のことだから、きっとこの町に住んでいた住人の事を考えて表情を曇らせたのだろう。
「こんなにぐちゃぐちゃにしなくてもいいのにな」
嶺汰も『探査の眼』を『GooDLuck』と併用して使用してシギュンを捜索しているのだが、ユーリ同様何も変わりは見つからないようだ。
「廃墟だから隠れる所は沢山だしな、見つけるのも倒すのも苦労しそうだなぁ、けけけけけー!」
苦労しそう、そう言いながらもNAMELESSの表情は何処か楽しそうに見える。
「考えてても仕方ありません、行きましょう」
櫻杜は呟き、前回の能力者達が最後の力を振り絞って伝えたシギュンの居場所を目指すために歩き出す。
町自体は瓦礫だらけになっているが、元々が大きな町ではないので少し時間をかければシギュンは見つけられるだろうと櫻杜は呟く。
捜索の際、ファルロス、嶺汰、ユーリの三人は接近班から離れ、シギュンがいるとされている場所を回りこむような形で進んでいく。
「あれが‥‥シギュン――なのかしらね」
呟いたのは中岑で、他の能力者達も彼女の視線を追うように前を見る。
すると、此方に背を向けて座っている神話に描かれているような衣服に身を包んだ女性――シギュンを見つけた。
まだ此方に気がついていないのを幸いに、ファルロスが『先手必勝』を使用して『スコーピオン』で攻撃を仕掛ける。
しかし、ファルロスの放った弾丸はシギュンから逸れ、数センチ横の木に当たった。
「早めに解決策を見つけたいわね――無欠の能力ってワケはないでしょうし」
中岑は『ファング』でシギュンに攻撃を仕掛けるがファルロスの攻撃と同じくシギュンに当たる事はなかった。
「‥‥桶――は見当たらない‥‥毒ではないのしょうか」
ユーリは呟きながら『クルメタルP−38』でシギュンに攻撃を仕掛けるのだが、やはり弾丸が逸れて攻撃は当たらない。
「――――?」
シギュンに向かっていく弾丸を見て、ユーリは首を傾げる。
「いや、まさか――‥‥」
何かの仮説を立てたようだが、首を振って『スパークマシンα』に武器を持ち替えて再度攻撃を仕掛ける。
「効果なし――ですか。特有の武器ダメージを消失させるわけではなさそうですね」
ユーリはため息混じりに身を潜めながら呟く。
「はぁっ!」
九条が小銃『S−04』でシギュンを射撃して、近づいた所で『クロムブレイド』に持ち替えてシギュンに斬りかかる。
「お‥‥奥さん‥‥米屋です‥‥」
荒い息で九条がシギュンに向けて呟く、しかしシギュンは「ふ」と笑みを見せると髪の毛を操って攻撃を仕掛けてくる。
「うぉっと‥‥」
髪の毛は九条の腕をかすめ、それと同時に九条は後ろへと下がる。
更にシギュンは手に持った剣で九条を狙って攻撃を仕掛けるが、峰汰が『ロングボウ』で攻撃を仕掛けて、シギュンの攻撃を止める。
「私のお相手も願おうかしら、当たらなくても――邪魔にはなるでしょ?」
中岑が『ファング』で攻撃を仕掛けると奇妙なことに気がつく。シギュンの振り下ろす剣の攻撃は避けた――それなのに中岑は腕に軽い怪我を負ったのだ。
「なるほどね‥‥それが攻撃の当たらない理由――か」
中岑は呟くと、一時後ろへと下がり能力者を集めて気がついた事を話す。
「シギュンに攻撃が当たらない理由――それは持っているものだと私は思うわ」
中岑の言葉に能力者達はシギュンの持っている剣へと視線を移す。
「違う、剣と一緒に持っているものよ」
中岑はそう言うが、遠くから見てもシギュンは剣を持っているようにしか見えない。
「狙撃班には見えないかもしれないわね。近くによって眼を凝らさないと見えにくいから」
そして中岑が呟いた言葉は「剣を持っているように見えて、限りなく透明に近い何かを持っているのよ」だった。
「やっぱり‥‥」
中岑の言葉に反応したのはユーリだった。彼は自分が攻撃を行い、弾丸が弾かれた時に光に透ける何かを見たのだという。
「恐らくは羽衣のようなもので体中を覆っているのでしょう、それが攻撃の当たらない理由ですね」
つまり攻撃を行っても羽衣状の何かが弾き、攻撃の際には剣の幻を見せて剣とはタイミングを違えて攻撃する。
だから傍目には攻撃が当たらない、そして避けても攻撃が当たる――こうなるのだろう。
そして前回犠牲者となった能力者達は『夜』にシギュンを討伐に来たのだとか‥‥だから余計に羽衣には気がつかなかったのだろう。
しかし、当たらない理由が分かってもどうやればそれを崩せるのかが分からない。
「考えてても始まらない、俺は行くぜ! けけけけけーっ!!」
NAMELESSは『ロングスピア』を構え、シギュンに向かって走り出す。
「確かにな、攻撃しない事には突破口は見つからないからな」
嶺汰も『ロングボウ』で攻撃を仕掛ける。同時に来られると羽衣の力が拡散されるのか、今まで無傷だったはずのシギュンがほんの少しだけれどダメージを負う。
「なるほど、つまり――同時に攻撃をされれば無傷ではいられなくなるという欠点があるワケだね」
櫻杜が呟き『刀』と『菖蒲』を構えてシギュンに攻撃を仕掛ける。
「ネタがバレた手品師は――消えるべきだな」
ファルロスは小さく呟くと武器を『スコーピオン』と『フォルトゥナ・マヨールー』に持ち替えて『強弾撃』と『二連射』を併用してシギュンに攻撃を仕掛けた。
「残念、弾切れですか‥‥仕方ないですね」
ユーリはため息混じりに呟くと『クルメタルP−38』から『ギュイター』に武器を持ち替えてシギュンから少し下がった所から攻撃を仕掛けていた。
もちろん、仲間である能力者に被弾しないように充分に気をつけて攻撃を行う。
麻宮も総攻撃が始まると同時に『瞬天速』を使用してヒット&アウェイの方法でシギュンに攻撃を仕掛けていた。
「射抜け!」
嶺汰も『ロングボウ』で『影撃ち』を使用して攻撃を仕掛けている。
最初はシギュンも応戦してきていたのだが、次々にやってくる能力者の攻撃に対処しきれないのか、防戦一方になりつつあった。
「あなたの芸はもう分かったわ、だからもう――おやすみなさい」
中岑は呟くと同時にシギュンに攻撃を仕掛け、胸を貫かれたシギュンは苦しそうな表情を見せたまま地面に突っ伏したのだった‥‥。
〜シギュンを滅した能力者達〜
「とりあえず終わったか‥‥みんあ無事か?」
麻宮がシギュンとの戦いを終えた後、仲間達に話しかける。無傷――とまではいかなかったが、重傷者を出すこともなくシギュン討伐が終わった事に能力者達は安堵のため息を吐いたのだった。
「‥‥来いよ、狡知の神――妻を一人で眠らせる気かー?」
NAMELESSが討伐後、シギュンの遺体を埋葬しながら呟く。
「これで邪神が復活となったら、本当に神話通りになりますね」
櫻杜がNAMELESSに話しかける。彼女は戦闘が終わった後も覚醒を解かず、周りの警戒を行っていた。
「また妙なものを使うキメラもいたもんだな‥‥」
ファルロスはため息混じりに呟く。
「これから、もっと増えるでしょうね。キメラやバグアを倒す為に能力者達が強くなるのと同じように、能力者を倒すために向こうも強いキメラを作るはずだから」
中岑の呟きを聞いて「悪循環だな」と嶺汰が呟く。
「ま、終わりのない戦いだろうとやるしかないんだけどな」
九条が呟き「確かに」とユーリも言葉を返す。
そして、能力者達はシギュンを倒したという報告の為に本部へと帰還して行ったのだった‥‥。
END