●リプレイ本文
「復讐ね‥‥気持ちはよく分かるけど。やり遂げる前に自分の命を落としちゃ意味がないよね――さっさと行こうか」
ジーラ(
ga0077)が呟く。両親を失った彼女は菊枝の事を他人事と思えないのだろう。
「今度は能力者が飛び出したか‥‥」
先日の仕事を思い出したのか須佐 武流(
ga1461)がため息混じりに呟く。
「本部に確認してみた所、菊枝が通信機の類を持っていったという情報はなかったよ」
鷹代 由稀(
ga1601)が今回の仕事の為に借り受けてきた通信機をメンバーに渡しながら話す。
「まぁ‥‥今回は飛び出していったのが能力者って事が幸いかね」
須佐の言葉に言葉を返したのはリヒト・グラオベン(
ga2826)だった。
「大切な者を奪われた怒り、哀しみ――それはバグアに関わる者達に付き纏う因縁‥‥今回の事件が復讐に彩られてしまった菊枝の救いとなればいいのですが‥‥」
「そのためにはまず――菊枝さんが無事かどうかを確かめなくちゃですね」
ブランドン・ホースト(
ga0465)が呟く。
「そうですね――‥‥頑張りましょう」
ハルカ(
ga0640)が呟き、菊枝が無事でいる事を信じて現地へと向かって行った。
●作戦開始!
今回の作戦は二つの班に分かれて行動する事になった。
第一斑はジーラ、鷹代、フレキ・クロックダイル(
ga1839)、リヒトの四人。
第二班は須佐、ハルカ、ブランドン、五代 雄介(
ga2514)の四人。
「彼女が何処にいるか分からない以上、まずは彼女の捜索を優先にしよう」
ジーラの言葉に頷き、二班は別れて菊枝の捜索を始めたのだった。
第一班は、周囲に人の気配もキメラの気配も感じられない事から、人が身を隠せそうな場所を探し出すことにした。
もしかしたら、キメラとの交戦で傷を負った菊枝が身を潜めている可能性もあるからだ。
「そうだね、彼女だってむざむざ殺されるほど馬鹿でもないだろうから‥‥周囲の状況を配慮して探そう」
ジーラも呟きながら、周りを見渡す。
「こちら一班の由稀さんよ〜、そっちに何か進展はあった?」
通信機を使い、鷹代が二班に連絡を入れる――だが、返ってきたのは『特に進展はない』という短い言葉だった。
「‥‥なあなあ、アレってパイレーツじゃねぇの?」
フレキが少し先を指差しながら呟く。確かに指差した方向には硬そうな鱗を持ったキメラが立っている。
「‥‥結構怪我が目立ちますね」
リヒトが呟いた言葉に、メンバーの脳裏には一つの仮説が浮かぶ。この近隣に能力者は自分達と菊枝しかいない。
もし、第二班がキメラと交戦しているようであれば通信機で連絡が入ってくる筈――つまり、目の前のキメラを傷つけたのは自分達ではない能力者‥‥菊枝しかいないのだ。
「って事は――菊枝もこの近くにいる可能性が高いってことになるのかな」
ジーラが呟くと、鷹代は通信機を取り出し、第二班に連絡を入れる。
「こちら由稀さんよ〜、ただいま仇の方と思わしきキメラと遭遇。何とか足止めしておくから菊枝さんの捜索を急いで!」
●第二班‥‥菊枝を発見、そしてキメラと交戦!
「どうやら向こうの班で仇のキメラを発見したみたいだな」
須佐が一班から入った通信を聞きながら短く呟く。
「私達は菊枝さんの捜索を急がないと‥‥ずっと足止めも出来ないだろうし」
ハルカが少し焦るように呟く。
「その前に――俺達は俺達で結構大変かもね」
五代が、ある一点を見ながら苦笑混じりに呟く。彼が見たその先には恐らく二体目と言われているキメラがいたからである。
「まさか‥‥別行動で動いているとはね、運が良いのやら悪いのやら‥‥分かりませんね」
ブランドンも呟き、菊枝を探す前に目の前のキメラ討伐をする事となり、二班のメンバーは戦闘態勢に入った。
先に走ったのはハルカ、須佐――そして五代の接近戦を行える者達。そして彼らがキメラの所に着くまでにブランドンがハンドガンでキメラの足止めを行う。
良くも悪くも特徴のないキメラにグラップラーたちは疾風脚を使い、速度を上げながらのヒット&アウェイで攻撃を行う。
「コイツに苦労はしなさそうだな」
須佐が呟くと、五代が同じ意見だと言うように首を縦に振る。
流石に接近戦を得意とする能力者が三人も集まったおかげか、キメラに苦労することなく倒す事が出来た。
その時、後ろから何かが動き、メンバーはハッとして勢い良く後ろを振り返る。
すると、そこにいたのは‥‥。
「あなた達――誰? こんな所で一体なにを‥‥?」
現れたのはファイターの女性、つまり彼女こそが探していた菊枝なのだ。腕からは深い傷ではないものの、血が滴り落ちている。
「大丈夫?」
ハルカは持って来ていた救急セットで菊枝の傷を治療していく。
「ありがとう、救急セットを持って来てなくて困っていたのよ」
菊枝が呟き、簡単な礼を述べる。
「それで? あなた達は何でこんな所に――?」
「菊枝さんの復讐のお手伝い、とでも言いましょうか」
「は?」
菊枝が間抜けな声で言葉を返し、それに五代が説明しようとした時、通信機が鳴り始めた。
「ちょっと! 由稀さんだけど、まだ菊枝さんは見つからないの? いい加減こっちも限界よ」
通信機の向こうで切羽詰ったような声で鷹代が話しかけてくる。彼女の後ろではきっと戦っているのだろう、キメラの雄叫びと何かがぶつかり合う音が響いていた。
「話は後にしましょう。あなたの娘さんの仇――仲間が倒してしまわないうちに早く行きましょう」
ブランドンの言葉に菊枝は頷き、一班のいる場所へと向かっていったのだった。
●復讐果たされる時――‥‥。
「遅いよ! もうすぐで倒しちゃう所だったよ」
菊枝を連れて二班が合流すると、ジーラがアサルトライフルでキメラを撃ちながら叫んできた。
「わりー、でもこれで菊枝の復讐も果たせるし――万事OKだろ」
須佐が呟くと同時にキメラに向かって走り出す。
「さってと♪ 俺さんにはない鱗を持ったパイレーツが相手だぁ♪ 羨ましいねぇ、羨ましいよぉ。なーんで俺さんには鱗がないんかねぇ?」
一人でぶつぶつと呟きながら、回避行動は一切取らず、両手に持ったロングスピアでキメラの腹部を刺すのはフレキだった。
しかし、硬い鱗のせいかロングスピアで攻撃してもカキンと金属音のような音を出すだけで相手にダメージは見られない。
「あぁ、もう! ちょこまか動くな! 鬱陶しいのよ!」
そう言いながら小銃・スコーピオンを発砲するのは鷹代、相手に中々ダメージを与えられない、そして攻撃を食らうわけにもいかない――きっと誰だって苛立つ相手だろう。
「ほっといて! あいつは私が倒すのよ! 私が倒さなきゃ舞は‥‥」
協力を拒むかのように叫ぶ菊枝に鷹代の中で何かがキレた。
「アンタねぇ! 傷だらけになっても復讐したいんでしょう! だったらどんな形ででも仇を討って、それを報告するのが義務でしょうが!」
鷹代は菊枝の胸ぐらを掴みながら叫ぶ。そして言い終わった後に手を離し、悔しさ交じりの声で呟く。
「だから‥‥協力させてよ」
「そうです、貴女にとって娘さんがそうであったように‥‥貴女は貴女を大切に思う人の為にも生きて戻らなければなりません」
リヒトの言葉に、菊枝は下を俯き、首を縦に振った。
「あの! 須佐君と私で作戦を思いついたんですけど」
ハルカが後ろの方でメンバーを呼び、一時作戦タイムに入る事になった。
「作戦とは何です?」
ブランドンが問いかけると、答えたのは須佐だった。
「硬い鱗が特徴って言うなら、一点のみを狙って殴打すりゃいいんじゃねぇか? 鱗さえ破れれば菊枝がトドメさせるだろうし」
須佐の提案に、メンバー達は首を縦に振り、その作戦を実行に移すことを決めた。
最初に銃を所持している後方支援者達がキメラの足止めで発砲する。その時、ブランドンは鋭覚狙撃を使い、キメラの視覚を奪う。
そして接近戦を行える者がキメラに近づいたら、発砲をやめ、彼らに攻撃を任せる。回避行動を取りながらの攻撃は意外に難しく、苦労したが、菊枝のためだと言い聞かせて一箇所を接近攻撃者全員で攻撃する。
その甲斐あってか、鱗が裂け、僅かだが攻撃を与えられる場所が出来る。
「今だ――っ!」
それを言ったのは誰だったか、しかしその言葉を合図に菊枝は持っていた剣でキメラを突き刺す。
キメラが絶命するとき、菊枝には何故か娘の笑っている顔が浮かんでいた‥‥。
●復讐終わりて、その後――。
「ありがとう、正直な話、私一人だったらどうなっていたか‥‥」
菊枝は復讐を果たした後で小さく呟いた。
「これからどうするんですか?」
ハルカが菊枝に問いかける。
「これからも恐らく‥‥アンタみたいなのは増えていく一方だろーよ。コレで止めるも、自分と同じ人間を一人でも増やさねーようにするのもアンタの道だ。アンタにとってどっちがいいか俺には関係ねえ、自分の進む道は自分で決めるんだな」
須佐のぶっきらぼうな言葉に、菊枝は苦笑した。
「これから娘さんのお墓参りに行くんでしょ? 花くらい供えさせてよ。もうお互い知らない仲じゃないんだし」
鷹代の言葉に菊枝は、喜んで、と答えた。
そして、その菊枝の後ろでフレキが少し落ち込んだような表情を見せていた。
「どうしたの?」
菊枝が問いかけると、フレキは唇を噛み締めた後で言葉を紡ぎだした。
「あれな、こんな事言ってもどうにもならんのだけども‥‥ごめんなー? いつの事か知らんけど‥‥娘さんの時に駆けつけてあげれんくて‥‥ごめんな」
フレキの言葉に菊枝は驚きで目を見開く。
「馬鹿ね、あなたが謝る必要なんてないじゃない――そう言ってくれただけでも‥‥嬉しいわ」
「これからも能力者を続けるんですか?」
五代が問いかけると、菊枝は首を縦に振った。
「そう、ですか――すみません」
五代は少し悲しそうな表情をした後、申し訳なさそうに謝る。
「でも――これからは自分が幸せになれるように頑張ってほしいです、舞ちゃんの為に」
「ありがとう、でもさっきの須佐君の言う通りなの、私のような人を一人でも少なくしたい――その為に私は戦い続けるわ」
菊枝の言葉に迷いは感じられない。むしろ吹っ切れたかのように爽やかなものだった。
「菊枝‥‥娘さんを覚えていられるのは貴女だけです。そして、貴女が死ぬという事は娘さんがこの世に生きてきた証がなくなる時でもあります――自分の命、粗末にしないで下さいね」
リヒトの言葉に、菊枝はにっこりと笑って首を縦に振った。
彼女は復讐を終えた。
けれど、復讐が終わった後も彼女は戦い続ける。
少しでも自分と同じ悲しみを減らせるようにと‥‥。
END