●リプレイ本文
〜彼がやってくる時、能力者達は疲れの嵐に見舞われる〜
「今回は宜しく頼むよ! ボクを強くて頼れるイケメンにしてくれ!」
コリオは意味のないポーズをビシッと決めて、今回彼を鍛えなければならないという仕事を請けた能力者達に挨拶をした。
「‥‥本当に懲りない人だ‥‥」
はぁ、とため息を吐いてホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が独り言のように呟く。
「まさかこういう手で来るとは思ってなかったぜぃ」
オーガン・ヴァーチュス(
ga7495)が苦笑気味に呟くと「ボクも悟ったのさ!」と目を輝かせながら言葉を返した。
「まぁ、やっと自分の部分に目が行き始めたって事はいい事なのかもしれないけどよぅ」
コリオの僅かな成長に呆れ半分、嬉しさ半分の複雑な心境で言葉を続けた。
「‥‥鍛える、ねぇ? やる気だけは満々だな」
榊 紫苑(
ga8258)がお菓子やら飲み物やらが入った袋を下げて苦笑混じりに呟く。彼の今回の方針はコリオ本人が『教えてくれ』と言ってくるまでは見守る役をするのだと言う。
「とりあえず、鍛える前に体力測定をしてもらいましたけど‥‥酷いですね、これは」
優(
ga8480)が体力測定の結果を他の能力者にも見せると、結果とコリオとを見比べて大きなため息を漏らした。
「‥‥普通の一般女性の方がよっぽど体力ありますね」
神無月 るな(
ga9580)が哀れみの視線をコリオに送りながら呟く。
「ぼ、ボクは箱入り息子だったんだよ! だから運動とかは普通より少し下かもしれないけど!」
コリオの言葉に「‥‥少し?」と憐(
gb0172)が疑問気味に呟いた。
「そう! だから強くなれば『きゃあ、コリオさん素敵ぃー! 愛してるぅ』なんて展開があるかもしれないじゃないか! いや! きっとある!」
コリオは拳を強く握り締めながら自分に思い込ませるように叫ぶ、いや、既に思い込んでいる。
「‥‥なんと言うか‥‥モテない事と強さに‥‥因果関係はないと思うのですが‥‥」
憐は「‥‥まずは‥‥二言目に愛とか恋とか言うのを‥‥何とかした方が良いと思います‥‥」とため息混じりに言葉を付け足すが、コリオは自分の世界に浸っている為、彼の耳に言葉は届いていない。
「‥‥なんとなく、理由が分かったかも‥‥」
コリオを見て赤崎羽矢子(
gb2140)はため息を交えて呟く。彼女は能力者になって初めての任務なのだと張り切っていた所に「可哀想に‥‥」と言われたらしい。その時は何で可哀想なのか分からなかったが、コレ(コリオ)の相手をしなくちゃいけないのだと分かり、全てに納得したのだ。
「ま。それはともかく、自信が欲しいならそれが付くように手伝ったげましょ?」
赤崎は呟き、能力者達もそれぞれコリオを鍛える為に動き出したのだった。
〜走れコリオ、その先の愛を目掛けて〜
「おはようございます、朝ですよ」
午前六時、優は早朝マラソンをコリオにさせる為に起こした――のだが、朝は弱いらしく中々コリオは起きない。
「起きてください、強くなりたいのでしょう?」
優は何度もコリオを揺すったりして起こそうと試みるが、起きる気配は全く見られない。こうなれば実力行使だと決意して、コリオの口と鼻を塞ぐ。十数秒が経過した頃にコリオの目がぱちりと開き「な、何をするんだい!」と朝からテンションを高くして叫ぶ。
「中々起きないので、少々実力行使を。起きたら軽く準備運動をして、走りにいきますよ」
もちろん、他の能力者達もコリオに付き合って走らなければならない為、眠そうな表情の能力者、欠伸をする能力者などが見られた。
「うぅ、ボクは走るの苦手なんだよ‥‥他にカッコイイ鍛え方ってないのかい?」
準備運動をしながらコリオが不満そうに言葉を漏らす。
「早く走れる人に女の人は弱いのではないでしょうか? 遅い人よりも早い人の方がいいと私は思いますけど‥‥」
「はっはっはっは! 最速のマッハマン! コリオ参上! ははははははっ!」
単純馬鹿という言葉はもしかしたらコリオの為にあるのかもしれない、そう思うほどにコリオの変わり身の早さには驚かされた優だった。
最初にコリオの好きに走らせるようにして、きつくなったら歩いてもいいと優はコリオに言っていた。
しかし運動能力が普通の下の下であるコリオは少し走ると歩いてを繰り返していて、優は先が思いやられたのだとか。
「お疲れさまです、汗をかいた後には確りと水分補給をしておかないとですから」
優は呟きながらコリオに飲み物を渡す。その後、能力者達も含めて朝食を取り、次の訓練に入った。
「この訓練が終わればボクもモテモテさぁっ!」
コリオは汗を拭きながら高笑いをして次の訓練場所へと向かい始めた。
「1日2日で強くなれる人はいません。その為に毎日の積み重ねが大事なのだとコリオさんに伝わっていればいいのですが‥‥」
優はため息混じりに呟くが、既にコリオの姿はなく、彼が訓練の真意を理解しているのか優には図り知る事が出来なかった。
〜愛の為に勉強&実戦〜
「えーっと‥‥それでは基礎的な学習を始めましょう」
神無月が目の前の机に座るコリオに向かって呟く。まるで何処かの犯罪者のような言われ方にコリオは少し納得できないものがあったが「これも愛の鞭だ!」とわけの分からない事を言って、自分に無理矢理納得させた。
「‥‥って、何でオーガンさんまでそこに座っているんですか」
神無月がコリオの隣の机に座っているオーガンに苦笑しながら言葉を投げかける。
「おいらはバカだからよぅ、勉強とかそっちは向かねぇんだ」
「つまりオーガン君もボクと同じように愛を求めて訓練したいというわけだね!?」
「いや、だからおいらは‥‥「いいんだよ! 言い訳しなくても! さあ、一緒に勉強しよう!」‥‥おいらの話なんて聞いちゃいねぇな」
言葉を割り込ませて自分の言葉を聞かせるコリオにオーガンは「やっぱり成長してねぇぜぃ」と大きなため息を漏らして、なぜか一緒にコリオと勉強する羽目になった。
「ま、まずは一般常識からですね」
神無月は黒板に綺麗な文字を書きながら説明していく。普通の人間ならば『一般常識』という勉強は必要ないのかもしれないが、コリオには『一般常識』が欠如していると考えて神無月はあえて勉強させる事にした。
しかし――暫くの努力の後、コリオの『一般常識』と神無月の『一般常識』は地球と太陽ほどに離れていて、彼に一般常識を悟らせるのは無理だと判断して次の勉強に取り掛かる事にした。
「次はキメラに関する基礎知識ですね、いくら屈強な肉体を持っていてもキメラやバグアと戦えるのは能力者だけなのです、つまりこれはフォースフィールドを‥‥」
神無月が自分の知りえている能力者について、キメラについて説明するとコリオの中で名案が浮かぶ。
「つまりボクも能力者になればいいんだね! よぅし、この訓練を終わったら検査を受けてみるぞぉ!」
コリオの言葉に「げ」とオーガンも驚いたような言葉を漏らす。コリオのような破天荒な人間が能力者になった日にはキメラやバグアよりも厄介な事になるかもしれないからだ。
「勉強は以上です、私の手には負えません‥‥よろしくお願いします」
神無月はぐったりとした表情でオーガンにバトンタッチをする。
「あー‥‥おいらはちょいとばっかし自分の身を守る事の出来る戦い方を教えようと思うぜぃ!」
オーガンが拳をコリオの前に突き出しながら呟く。
「えぇー‥‥そういうのってモテるのかなぁ? 確かに強い方がいいのかもしれないけど‥‥」
コリオが訓練を渋るように呟くと、オーガンはため息を漏らす。
「暴漢とかも相手に大怪我させずに撃退できる、それで彼女を護ったりしたら、恋も発展するかもしれないぜぃ?」
「よぉーし! 俄然やる気出たぁっ!」
コリオは「かかってこぉい!」という素振りのジェスチャーを見せた。
「やれやれ、現金な奴だぜぃ」
オーガンは本日何度目かのため息を漏らして、コリオに戦い方を教え始める。彼がコリオに教えるのは主に『カウンター投げ』についてだった。何処を取れば安全に投げられるか、それと力がなくとも相手の攻撃の勢いを利用して投げるカウンター、そして人型ではない場合、どうすれば安全に投げられるかなどを教えていた。
「な、なるほど‥‥投げというものは奥が深いんだね! まるで果てしなき愛の逃避行!」
「‥‥お前さんはもうちょい現実に帰ってきた方がいいと、おいらは思うぜぃ」
意味の分からないコリオ語にオーガンは疲れたように呟き、次の能力者に訓練を任せたのだった。
〜休憩を挟み、木刀と水に鍛えられる愛の伝道師 コリオ〜
「ほら、食えよ」
榊はコリオに休憩用に持ってきたお菓子と飲み物を渡した。
「ありがとう! やはりボクに惚れてるんだ――ごす――」
コリオの言葉は最後まで発せられる事はなかった、なぜなら榊が持っていた木刀で(凄く軽く)叩いたからだ。
「‥‥お前がやる気出すと、仕事請けるこっちは厄介極まりないんだよ」
榊はため息混じりに呟くがコリオは食べる事と飲む事に夢中になっていて聞いていない。元から自分に不利になる言葉は聞こえないという立派な耳を持っているコリオに何かを言い聞かせようとするのは無理があるのかもしれないのだけれど。
「そうだ! キミも何かボクを鍛えておくれよ!」
木刀を握り締めて榊に問いかけると「今回だけだ、教えるのは得意じゃない」と言ってもう一本の木刀を取り出す。
「強く握りすぎだ」
木刀を強く握り締めているコリオに榊が指差しながら小さく呟く。
「木刀に限らず、武器を強く握り締めていても良い事はないぞ? それと木刀ばかりを見るな」
木刀を握り締めて、手元しか見ていないコリオに榊が注意すると「難しいよ」と言葉を返す。
(「むしろ、お前が難しいよ」)
榊は心の中で言葉を返すが、実際に口にはしない。口にしたら余計に状況が悪化するからだ。
「今はいいが、敵と対峙したら、目を逸らすな。隙を見せると自分が怪我をする。油断はするな」
榊の言葉に首を縦に振りながら納得し、木刀で素振りをする。
「それに、付け焼刃で、いきなり強くなろうとしても無理。毎日の積み重ねが大事なんだからな」
「えぇ、こんなのを毎日するのかい? 運動しすぎてボク死んじゃうよ」
がっくりと肩を落としながらコリオは言葉を返す。
(「きっとコイツは続かないな」)
榊は何処か確信めいたものを心の中で呟きながらジュースを飲み干したのだった。
「次の訓練は『水泳』を教えよう」
ホアキンは水着姿のコリオに「プールに入って」と促しながら呟く。ホアキンが何故水泳を選んだのかというと、単に暑い中で他の運動をする気になれないという理由だった。
「ぜはー、ぜはー‥‥無理だー、ボクはもう愛の海に溺れてしまう」
「たぶん大丈夫だと思うが、万が一という事も考えられるから少し休憩にしよう」
ホアキンが休憩と言うとコリオはプールからあがって、プールサイドに寝そべって「愛をげっちゅするにはこんなつらい道のりが待っていたのか」と息を切らしながら呟く。
その後、休憩を終えて再びプールの訓練に入る。やはり『愛』という目的があるからであろうか、コリオのタイムは着々と伸びつつある。
(「モテない原因が自分の性格にあるのだと、いい加減に分かればいいものを‥‥」)
彼女ゲットの為に一心不乱に泳ぎ続けるコリオを見て、ホアキンはため息を漏らさずにはいられなかった。
〜応援ガールとキメラから逃げるために愛の疾走〜
「はぁ、ボクはやっぱり強くなれないのかな」
結構ハードな訓練にコリオはため息と一緒に弱音も吐き出した。
「能力者の訓練ですし、受けるだけでも凄いじゃないですか! ファイトです!」
汗をかいているコリオにタオルと飲み物を差し入れながら赤崎が励ますように話しかける。
「ありがとう! はっ! まさかボクに惚れ――「訓練続けましょ!」――」
コリオの告白(妄想)を避けながら赤崎は訓練の続きを始めるように言う。赤崎は新米能力者という事でコリオと一緒に訓練も行っていた。
時にはコリオのやる気を出させるために「凄いんですね!」と尊敬の眼差しを向けたり(もちろん本気ではない)などしてコリオのやる気を奮い立たせていた。
そして、コリオを訓練する最後の能力者・憐がコリオにさせた訓練は『鬼ごっこ』だった。
「‥‥私が教えるのは‥‥『キメラからの上手な逃げ方』‥‥です‥‥」
「逃げるぅ? 何でボクが逃げなくちゃいけないのさ! ボクはどっかーんとした必殺技を教えて欲しいんだよ」
コリオの言葉に憐はため息を漏らす。
「‥‥有利な場所に逃げるのは‥‥能力者でもやってること‥‥それに‥‥逃げ方知らずにキメラとあって‥‥顔に怪我でもしたら‥‥モテなくなりますが‥‥」
それでもいいですか? と憐が尋ねると「さぁ! 今日も張り切って逃げるぞーぅ!」と相変わらずの単純馬鹿っぷりを見せた。
「逃げ方は基本的に単純‥‥腰を抜かさずに走る事‥‥それと‥‥障害物は利用する事‥‥あと‥‥一直線には逃げないこと‥‥後は経験‥‥‥‥
と、言うわけで! 狩の時間の始まりにゃー!!」
そしていきなり憐は覚醒を行い、巨大ハリセンを持って鬼ごっこを始める。もちろん威力とスピードは実戦時より落として、コリオが逃げられるスピードを保ち、コリオが怪我をしない程度に威力を弱めていた。
「よし! つかまら――すぱーーん――いたぁっ」
コリオが憐に追いつかれた時には巨大ハリセンで頭を叩かれる。それを何度も繰り返してコリオに体力もつけるという憐の作戦だ。
〜時は満ちた! 我の前に彼女よ現れ給え〜
「精神的にフラついてたり、回りが見えない人は好みじゃないんだよね、だからごめんなさい」
訓練終了と同時にコリオは赤崎に告白をするが、見事に断られる。コリオはがっくりと肩を落として憐をじーっと見ている。
「‥‥ロリ‥‥犯罪者‥‥」
告白されるならフッてしまえ、コリオ君――歴史に残る言葉に似た言葉を思いつきながら憐は告白される前にコリオをフッた。
「‥‥あなたの恋愛は一方通行だった。相手を良く知りもせず、気持ちを押し付けてばかりで‥‥あなたに足りないのは、鍛えた体でも戦える力でもなく、思いやりだと俺は思う」
フラれて哀愁を漂わせるコリオにホアキンがため息混じりに呟く。
「おもいやり‥‥ボクに足りないのはおもいやりだったんだね! 今から買ってくるよ!」
「は?」
買ってくるという言葉にホアキンは間の抜けた声で言葉を返す。
そして訓練の成果だろうか、既にコリオの姿はそこにない。
「‥‥まさか『重い槍』って勘違いしてるんじゃあ‥‥」
赤崎は呟き、コリオの言葉と行動を見てそれしかないと思った能力者達は本日最大のため息を吐いて「駄目だ、あの人は」と呟いたのだった。
END