タイトル:キアラ―悲しみの果てマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/03 01:44

●オープニング本文


これで、あたしは幸せになれる。

もう未練も、何もかもない。

あたしはあたしでいる以上、自分のことを曲げられない。

世界の人間すべてが死んでしまえばいい。

でも、それが叶わないのならば――あたしが死んでしまえばいい。

※※※

「ごめんねー、あたしが思うとおりの結末にならなければ‥‥あたしは貴方達を殺しちゃうよ」

たまたま偶然通りかかった家族3人連れ、それを見た時にキアラの中に渦巻いていた感情が爆発したような気がした。

『何であの人達はあんなに幸せそうなの?』

『何であたしはああじゃないの?』

『あたしだってこんな風にはなりたくなかった、狂わせたのは人間、あたしのせいじゃない』

「わ、私達が何をしたって言うの!? せめて子供だけでも‥‥」

母親らしき女性がキアラと同じ年くらいの男の子を見ながら、涙ながらに訴えてくる。

「‥‥大丈夫よ、能力者を呼んでいるから運がよければ助かるわよ」

キアラは自嘲気味に呟くと、本部に送った手紙のことを思いだしていた。


――

能力者の皆様へ

これで本当に終わり。

一般人三人を人質に預かってるよ。

助けたければ始まりの町へおいで。

来たくなければ来なくてもいいよ、善良な一般人とやらが死ぬだけだから。

今回は獣型三匹のキメラが能力者を出迎えるよ。

さよなら

キアラ

―――

●参加者一覧

ベル(ga0924
18歳・♂・JG
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
高坂聖(ga4517
20歳・♂・ER
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
サイオンジ・タケル(ga8193
26歳・♂・DF

●リプレイ本文

〜全てを終わらせる為に〜

「‥‥そうですか‥‥」
 UPC本部のオペレーターに向けて高坂聖(ga4517)は小さく言葉を返した。キアラがキメラと人質を連れて待っている町――その場所に赴く前に高坂は『人質自体がキメラ』という可能性を考えて、行方不明になっている人間がいるかを調べてもらった。
「やはり行方不明になっている人間がいるそうです、キアラが指定してきた場所の近くにある町に『友人が来ない』と言っている方がいるそうです」
 高坂が行方不明になっている家族のデータを能力者達に見せながら呟く。
「行方不明者と‥‥キアラが言っている一般人の数が合いますね‥‥」
 ベル(ga0924)が小さく呟く。
「これで最後だ‥‥どのような形にしても‥‥」
 サイオンジ・タケル(ga8193)が誰に言うでもなく呟く。彼は最悪の事態も想定して、だけどキアラに対して希望を捨てる事なく任務に参加した。
「最初に会った時はタダの協力者で結果は‥‥最悪だった‥‥」
 MAKOTO(ga4693)が独り言のように呟き、能力者達はMAKOTOを見やる。
「次に会った時は割と如何でも良かった‥‥三度目からかな、ほっとけなくなったのは‥‥」
「MAKOTO‥‥」
 南雲 莞爾(ga4272)が拳を強く握り締めて呟くMAKOTOに声をかけるが、続く言葉が見つからなかった。
「四度目の時からはもう自分で引き返せなくなって‥‥それでこの間の時は‥‥アレだ」
 呟いた後にMAKOTOは唇をかみ締めて「うん」と短く言葉を付け足した。
「被害者の感情は関係ない、私は――彼女が泣いているのが嫌なんだ」
 助けに行くよ、MAKOTOは決意を秘めた眼差しで他の能力者達を見る。まるで『キアラは殺させない』とでも言うかのように。
「俺もキアラが心の傷を負っている事くらい、分かってるぜ。だがな、キアラ自身がそれに甘えている今の状況を放っておくわけにもいかないだろう? どんな形でも、きちんと片をつける必要がそろそろあるはずだ」
 威龍(ga3859)がMAKOTOに話しかける。もちろん決着については他の能力者も考えていた。キアラ自身が己の手を血に染めた以上、今まで通りには行かないのだと。
「だからMAKOTOには機会を与えるが、決裂した時には容赦は出来ない。この手で楽にしてやる事も考えている」
 それ事だけは予め心に留めておいてくれ、威龍はMAKOTOに向けて呟く。
「彼女には、他にも説教が山ほどあったのだがな‥‥ここはMAKOTOに賭けるしかないか‥‥」
 南雲もため息混じりに呟く。彼自身もキアラの生き方そのものが彼女自身が嫌っている『人間』そのものだと言う事を分からせたいと考えていたが、現在キアラに一番近い位置にいるのはMAKOTOだと知り、MAKOTOに全てを賭ける事にしたのだ。
「私は人質救出班の楯となるように動きますね、キアラが人質を傷つける前に彼女を挑発して私に引き付ける事も考えています」
 熊谷真帆(ga3826)が能力者達に向けて呟く。もしMAKOTOが説得に失敗した場合は迷う事なく殺害する事も考えていた。
「これ以上‥‥罪を重ねさせはしない‥‥」
 神無 戒路(ga6003)がポツリと呟きながら一枚の写真を取り出す。それは前にキアラが捨てたとされているものだった。写真の中でのキアラは能力者達に見せる残酷さを忍ばせた笑みではなく、本当に子供らしい笑顔だった。
「‥‥それでも駄目な場合は‥‥覚悟は出来ている」
 神無は1人呟く、彼もまたキアラを殺害する覚悟と悲しい罪を背負う事を覚悟している者の1人だった。


〜始まりの町・終わりの町〜

「‥‥此処から始まったんだよね‥‥」
 町の入り口付近に来ると、MAKOTOが足を止めて小さく呟く。
「此処からは分けた班で動くことにしましょう」
 熊谷が呟く。今回、能力者達は任務を遂行させる為に班を三つに分けた。
 キアラの説得役としてMAKOTO、人質救出役として神無と威龍の2人、そしてベル、熊谷、南雲、高坂、サイオンジはキメラとの戦闘に徹する事になった。
「‥‥キアラさんの事は任せます‥‥悔しいけど今の俺じゃきっとあの子を救ってあげられないから‥‥」
 俯きながら、だけど悔しさを湛えた表情でベルがMAKOTOに向けて話しかけた。
「‥‥うん、私は絶対キアラを死なせたくないから‥‥頑張るよ」
 MAKOTOは「キメラは任せたよ」と言葉を付け足してベルに返した。
「‥‥キメラは任せてください‥‥そのくらいなら‥‥説得の手助けくらいなら、出来ると思うんです」
 ベルが呟いた時「‥‥どうせだったら見知らぬ人が来て欲しかったな」とキアラの呟きが聞こえた。
 声の方を見ればキアラが薄い笑みを浮かべながら此方を見ていた。その後ろには縛られている3人の一般人とキメラの姿も見えた。
「見知らぬ人だったら、遠慮なく殺せちゃうと思ったんだけどなぁ。来ちゃったんだ、おねーさん」
 MAKOTOを見ながら呟き、キアラは逃げるように走っていく。MAKOTOはそれを追いかけ、他の能力者達もキメラを倒すため、人質を救出する為に動き出したのだった。

※戦闘&人質救出班※
「未来ある子供の命を勝手に奪う権利は誰にもないの!」
 熊谷は叫びながら2匹いる犬のようなキメラに向けて『アサルトライフル』で攻撃を仕掛ける。
 もちろん、これで倒せるとは思っておらず弾幕を楯にして一匹に『流し斬り』を使用して攻撃を繰り出した。
「キアラさん! 俺達は貴女を助けに‥‥っ! 邪魔ですよ!」
 ベルは邪魔をするように攻撃してくる犬キメラに彼の相棒である『フォルトゥナ・マヨールー』で攻撃を行った。
「‥‥こちらはキメラを引き付けます、人質の方は任せましたよ!」
 ベルが人質救出班の威龍と神無に向けて話すと、2人は首を縦に振って人質となっている3人の所に走り出した。
「空中をフワフワしている程度で、逃げられはしない」
 サイオンジは呟くと同時に飛行型キメラに向けて『ワイズマンクロック』に装備を変えて追尾機能を生かして攻撃を行う。追尾機能から逃れるように地面に近い場所までやってきた所をサイオンジは『フランベルジュ』で攻撃を行った。
「悪いが今日の俺は、今までのように温くはない‥‥」
 冷たい視線を飛行型キメラに向けると『練成強化』で高坂が能力者達の武器を強化した。
「さっさと倒してしまいましょう」
 そう呟くと高坂は『電波増幅』を使用して『超機械α』で電磁波攻撃を行って、犬キメラなどを痺れさせた。
 もちろん、この時に人質や仲間である能力者達を電磁波に巻き込まないように計算を行ったうえでの行動なので、巻き込まれた人間はいない。
「悪いが時間も余裕もなくてな‥‥抜く前に斬らせてもらうぞ」
 南雲は小さく呟き、攻撃を仕掛けてくる犬キメラに『瞬即撃』と『急所突き』を使用してカウンター攻撃を行った。
 既に飛行型キメラと犬キメラ一匹は物言わぬ死体となって地面に転がっている。
「残りはあなただけ、早く殺られてください」
 熊谷は呟くと『豪破斬撃』と『急所突き』を使用して最後のキメラにトドメを刺したのだった。

 そして、仲間達がキメラと戦闘を行っている時に威龍と神無は縛られて動けない一般人の救出に向かっていた。
 キメラを他の能力者達が引き離してくれたおかげで、苦労することなく2人は人質の所まで来る事が出来た。
「‥‥! 危ない!」
 神無は叫び『先手必勝』と『影撃ち』を使用して木の後ろに潜んでいたキメラに攻撃を行う。
「3匹じゃなかったのか‥‥キアラが潜ませていたのか、それとも偶然住み着いていたのか‥‥」
 威龍が呟きながら人質の縄を解いていく。
「怪我をしているな、大丈夫か?」
 神無が子供の腕に巻かれているハンカチから滲む血を見て問いかけると「うん、でもおねーちゃんが‥‥」と俯きながら呟く。
「おねーちゃん? キアラのことか?」
「木の枝で引っかいて怪我したんだけど‥‥おねーちゃんがハンカチ巻いてくれたんだ」
 少年の言葉に威龍と神無は互いに顔を見合わせる。
「‥‥まだ、希望があるのか――?」
 威龍は人質を助けた後に少年に巻かれているハンカチを見て、小さく呟く。
「まだ戻ってこれる場所にいるなら――助けてあげたい‥‥」
 神無も呟くと、人質を安全な場所まで連れて行き、説得に向かったMAKOTOの所へと向かい始めたのだった‥‥。


〜彼女に見えた一筋の光と安息の場所〜

「しつこいねぇ、おねーさん。また刺されたいの?」
 後ろから追いかけてくるMAKOTOにナイフをチラつかせながら楽しそうに笑う。
「何しに来たの? 人質とか助けに行かなくていいの?」
 キアラは崖の前に立ち、MAKOTOの方を向いて呟く。
「人質やキメラは仲間に任せてきた」
 MAKOTOは呟き『瞬速縮地』を使用して一気にキアラとの距離を縮める。
「助けに来たよ、今度こそ」
 MAKOTOの言葉に「‥‥助ける? あたしを?」と自嘲気味に言葉を返した。
「うん、よく考えたんだ。私にとって何が嫌かを‥‥私はキミが泣いているのが嫌なんだよ」
 MAKOTOの言葉にけたたましくキアラは笑い出す。
「見てよ、この手を。もう血に塗れて汚いったらないよ‥‥もう戻れないよ」
 キアラが呟いた時「まだ有効だと思う」と高坂がポツリと呟く。キメラを倒した能力者達、人質を救出した能力者達、共にキアラとMAKOTOを心配してやってきた。
 もちろん、キアラが警戒しないようにある程度の距離を置いて――だけど。
「何が、有効なの」
 キアラは高坂を見つめながら言葉の意味が理解できずに問いかけた。
「‥‥前に誰も殺してないから戻れるって言った言葉、まだ有効だと私は思う――殺害に及んでしまったから、楽に戻れる道ではないけれど、今の道を歩むのと‥‥どっちが楽かな」
 高坂の言葉に、キアラは言葉を返す事はせずに俯いたまま黙りこくっていた。
「‥‥少年の手当てをしたな、何故だ? 殺そうと思えば持っているナイフで殺せたはずだろう?」
 神無の言葉に「‥‥ただの、気まぐれだよ」とキアラは小さな声で言葉を返した。
「まだ道は切れていない‥‥俺にはそう見える。諦めるな、逃げてはいけない」
 サイオンジが呟くと「逃げ?」とキアラは眉を顰めて聞き返してきた。
「死は逃げだ、他の何者でもない‥‥」
 サイオンジの言葉にキアラは唇を強くかみ締めて「じゃあどうしろって言うの!」と大きな声で叫び始めた。
「生きててもどろどろした醜い感情に支配されちゃう! あたしが死んじゃえばあんた達も満足でしょ! さっさとあたしを殺せばいい!」
 キアラの言葉に「アンタを生かしておくと世界滅亡が実現するのよね」と熊谷が武器を構えてキアラに向ける。
「私と一緒にあの世に行って頂戴」
 切っ先をキアラに向けて、足を一歩踏み出そうとした時「やめて!」とMAKOTOが両手を広げて止めに入った。
「‥‥本当に無理なんですか? もう戻ってこれないんですか?」
 ベルが俯きながらキアラに問いかける。
「自分の不幸を力とせず、恨み憤り他者を弄ぶ程ならば‥‥あんたも所詮、あんたが忌み嫌っている人間と何ら変わりないと思うけどな」
 南雲の言葉に「そうだよ‥‥だって人間だもの」と笑いながら答えた。
「どんなに嫌ってもあたしも人間、何で人間なんかに生まれちゃったの‥‥キメラでもバグアでも何でもいいから人間以外になりたかった‥‥」
 泣き崩れるキアラにMAKOTOが「そんな悲しい事言わないでよ」と話しかけた。
「私も、あそこにいる能力者だって、キミのことを心配してる人がいるんだよ? ベルだって‥‥キミを助けられない悔しさを味わっているんだ‥‥」
 MAKOTOの言葉を聞いて俯いていた顔をあげてベルを見る、確かにキアラを心配そうな表情で見ていた。
「‥‥戻れるのかな、あたしは‥‥こんなに嫌な人間になっちゃったけど‥‥戻れるのかな」
 泣きながらMAKOTOに縋りつく。その姿は初めて見せたキアラの本心だったのかもしれない。
「この写真をどうするかはお前しだい‥‥ゆっくり考えるんだな」
 神無はキアラに写真を渡しながら呟く。キアラは写真を大事そうに受けとり「ごめんなさい」と涙を流して謝り始めた。

 その後、キアラは高坂が手配していたラストホープの病院へと収容される事になった。
「‥‥ありがとう、もしかしたら一生出られないかもしれないけどさ、また会えるといいね」
 キアラは病院に入る前に能力者達の方を見て笑って話した。
「この先に待つのもまた茨の道‥‥キアラに一時でも幸福が訪れることを願おう‥‥」
 神無は呟きながらキアラの背中を見送り続けた。
 そしてキアラが入院してから、MAKOTOとベルはよく面会に行っている姿が見受けたれらのだとか‥‥。
 なお、サイオンジからは『ねこみみフード』の入ったダンボールをキアラ宛に送り『‥‥被るか?』というメモも同封されていたらしい。


 1人の少女の悲しき道は閉ざされ、光のある道へと戻された。
 まだ彼女が光の道を歩むには罪が大きすぎるけれど、いつか光の道を歩む事が出来るだろう――‥‥。
 そう願わずにはいられない能力者達なのだった‥‥。


END