●リプレイ本文
〜鞭の企画者達〜
「皆さん、初めまして。今回はどうぞ宜しくね」
レムリアは丁寧に頭を下げながら、鞭を使いやすくする為に集まってくれた能力者達を出迎える。
「1人で考えても良いアイデアも浮かばないし‥‥何か良いアイデアはあるかしら?」
大きな丸いテーブルに備え付けられた椅子に座っていく能力者達にお茶とお菓子を渡しながらレムリアが問いかける。
最初に企画を発表したのはNAMELESS(
ga3204)だった。彼は三つ鞭を考えてきていて、その中にはKV用の物もあった。
「へぇ、面白いわ」
レムリアが目を留めた物は彼の企画の一つ『ナインテイル』と『アラカルト』だった。ナインテイルの特色は九つの球体が柄に装着されており、煉力を流す事で球体と柄の間にエネルギーの線が発生して、球体を柄から解離させて鞭状の武器になると言うもの。
そしてレムリアが面白いと言った点は、球体全てを柄に連結させれば物凄い長さの鞭となり、球体を個別に連結させれば別々の鞭として使用出来て広範囲の攻撃が出来る武器になるという部分だった。
しかも連結部分はエネルギーによって発生している為、混線したり切れたりしてもすぐに繋ぎ直す事が出来るのだ。
「俺が一押しするのはこのナインテイルだな、けけけけけー!」
そしてもう一つの鞭『アラカルト』についてはその名の通りに三つの形状に姿を変える鞭なのだという。
「一見すれば普通のロングスピアに見えるが、内部には大量の関節、ジャイロが内臓させてあって、変形時に武器自体が耐えられるようにバネも仕込んであるんだ」
NAMELESSは「槍と鞭、そして楯にもなるんだぜ」と言葉を付け足した。槍は内臓されている関節を縦に連結させ、鞭にする時は各関節を解除、内臓されたジャイロが各部毎にダメージを与えるのだと企画書には書かれている。
「アラカルトは面白い発想なんだけど‥‥使いこなせる人が少なそうね、作ってみない事には分からないけれど変形させる時にどれくらい時間が掛かるかも気になるし‥‥」
そして彼のもう一つの鞭『フニクリ・フニクラ』は先端にドリルを装着させて敵に向かう力を大幅に強める物だと彼は言う。柄の部分に探知機をつけて自動で敵を追尾する機能もある鞭なのだという。
「これの難点は力がないと犬の散歩状態になる事だぜ‥‥」
確かに敵を追尾するのだから振動などに耐えられるだけの力がないと扱えないという事で、此方の企画は少し難しいとレムリアは彼に向けて呟いた。
「次はえぇと、シェリーさんの企画書ね」
レムリアはシェリー・ローズ(
ga3501)の企画書に目を通していく。もちろん他の能力者達にもコピーは渡してあるので、能力者達もページを捲る。
「私が提案したいのは意外性よ‥‥現行技術はそのままに物理的な威力優先でSESを搭載しても、既に実用化された武具に対してのアドバンテージは低いと思うの」
シェリーの言葉にレムリアは共感するものがあった、何処かを特化させなければわざわざ『鞭』というものを開発する意味がないからだ。突きたければ槍を、遠距離からだったら銃を――そうなるから鞭としての機能を生かした『武器として使える鞭』の提案を能力者達にお願いしたのだから。
シェリーが企画してきた鞭は二つで『ヒートウィップ』と『ショックウィップ』というものだった。ヒートウィップの方は煉力を使用して高温発熱させた金属繊維で溶接するという鞭で、シェリー本人も「使いこなすには相当の技術が必要でしょうね」と言うほどだった。
「提案としてはいいんだけど‥‥手軽に、というわけじゃないけど万人向けの鞭になりそうなのは『ショックウィップ』の方かしら」
レムリアはもう一つの鞭の説明を見る。其方は誘電効果の高い繊維に帯電させた鞭で予想外の方向から攻撃出来る知覚武器なのだとシェリーは説明する。
「ファイターが使いこなせる中間距離知覚兵器、そういうのあってもいいでしょ?」
シェリーの言葉に「もちろん、私は万人向けを作りたいから」と言葉を返した。
「やっぱり皆が考えるのは華やかねぇ、頼んでよかったわ」
レムリアの言葉に「華やかさって‥‥武器に何を求めてんだか」と瞳 豹雅(
ga4592)が苦笑気味に言葉を返した。
「ま、自分のアイデアは特色としては地味ですね。いかにも鞭っぽいですし」
そう呟いて瞳は『サイドワインダー』の企画書をレムリアに渡した。
「メトロニウム製人工筋肉? へぇ、面白いわ」
レムリアが企画書を捲りながら呟く。瞳の提案した鞭はAIとの連動により手の延長として使える自在鞭だった。見た目としては長い鞭で、メトロニウム金属繊維を束ねたワイヤーケーブルのようになっている。
「見た目通りの鞭として想像できる基本的な動作は全て可能です。これの独特的な性能として形状を自在に変化させ、しかも任意の状態で固定する事が出来ます」
任意の状態で固定できるという事は対象を強力に拘束出来るという事、そして何より面白いのは固定の強さはSESの出力に依存するため、使用者の体力相当なのだとか。
つまり、使用者の体力が高ければ高いほど強い力で対象を拘束出来るのだ。
「致命的なダメージは与えれなくても、相手の足に巻きつけて転倒させる、武器を封じるなどといった行動制限も出来ます」
つまり使用者の使い方次第で無限の力を引き出せる鞭という事になるのだ。形状を固定出来る為、受けを取る事も出来て楯にもなる。
「これまでのSES搭載兵器にない使い道があってとても便利だと思います」
「確かに便利ね」
レムリアは呟く。そして次の企画書――ファルル・キーリア(
ga4815)の企画した鞭が発表される事になった。
「鞭って言うのは馬上鞭を基本として、それを強化する方法が3つあるわ。重く、硬くして打撃力を持たせる方法、刃などを付加する事によって斬れるようにする方法、数を多くして命中率をあげる方法。大体この3つね」
確かにファルルの言う通りだとレムリアは心の中で呟く。今まで挙げられた開発企画もどれかに偏っている物が多いのだから。
そこで彼女が考えたのは『鋼索鞭』『馬上鞭』『ライトウィップ』の3つだった。
「鋼索鞭は細い糸状、針金のようなものにしてそれを繋ぎ合わせる事によって作る鞭ね。本当はメトロニウムで作れればそれが一番いいと思うんだけど‥‥。鋼鉄でもSESさえ装備してれば威力はかなりになると思うわ」
しかし、この鞭には重量と硬さを兼ね備えるというメリットもあるが、扱いづらいというデメリットも存在していた。
「馬上鞭に改良を加える事で威力をあげようという提案ね。一番いいと思うのは電撃かしら」
ファルルの提案は超機会の技術応用でインパクトの瞬間に非物理ダメージ、もしくは固定追加ダメージを与えればどうかというものだった。
そして最後の『ライトウィップ』に関しては「実現可能か分からないんだけど‥‥話半分に聞いて欲しいわ」と話す前に呟いて、ファルルは話を始める。
「SESによりエネルギーを収束させ、光の鞭としたらどうかなって思うのよ」
雪村やビームコーティングアクスなどの鞭バージョンを作れないかという話だった。
「細い糸のようなものでエネルギーを鞭状に収束出来ればって考えてるんだけど‥‥」
だけど、この鞭を実装するにはデメリットが大きすぎるのだという。
「それは――「煉力の大幅な消費」――」
ファルルが呟く前にレムリアが先に答えた。確かにエネルギーを収束させるという事で煉力の消費が激しくなり、戦闘に支障を来たすかもしれないという不安もあった。
「‥‥でも浪漫なのよね」
苦笑しながらファルルが呟くと「その気持ちは分かるわ」とレムリアがファルルの手を握りながら言葉を返した。
「次は貴女の提案だけど、何かいいアイデアがあるかしら?」
レムリアが視線を向けた先は櫻杜・眞耶(
ga8467)だった。
「即興で出したアイデアばかりですので、私のアイデアが実装されるとは思っていないのですが‥‥」
呟きながら櫻杜は企画書を差し出す。彼女が出したアイデアは『九節鞭』『ワイヤーロッド』『トールウィップ』の3つだった。
「どちらかといえば自分が欲しい武器、として考えたものです。少し追加で説明させていただきますね」
櫻杜は能力者達にも企画書のコピーを渡して、自分が欲しいと考える鞭の説明を始めた。
「九節鞭は多節棍が鞭状になった物です。短い鉄や木製の棍が鎖で繋がれた物の先にSESが搭載された柄があります」
彼女の説明を聞いていれば、派手さはないが、チェーンウィップより打撃力があり、一般的な鈍器よりも柔軟性に優れているのだという。
「鉄とかを使う以上、重くなるのは必至ね、重ささえ改良されれば何とかなるかもしれないけれど‥‥使いにくいかもしれないわ」
レムリアの言葉に「そうなんです」と櫻杜は言葉を返す、重さの事は本人も考えていたようだ。
「2つ目のワイヤーロッドは暗器、暗殺武器のワイヤーソーを改造したもので、ワイヤーソーの先端にSES搭載の柄が付いた鞭です。ただし此方は素早さや鋭さ重視ですので主兵装とするには威力が不足しています」
櫻杜の言葉に「確かにそうね」とレムリアが言葉を返す。
「最後のトールウィップは競技のハンマー投げに似た感じの物で、先端に鉄球がついた鞭です。普通に使えば鉄球付の鎖鞭なのですが、能力者が使用する事によってSESが反応して鞭全体に電流が流れるようになるものです」
つまりこれはシェリーが提案したショックウィップのようなものなのだろう。
「ありがとう、次は‥‥」
「私ですね」
エメラルド・イーグル(
ga8650)が呟き、企画書をレムリアに渡す。彼女が提案してきた鞭は先端が九尾と言って九つに分かれているというものだった。
「鞭の特性上、剣や槍に勝る攻撃力を得るのは難しいと思います。なので私は威力よりも命中率を重視したものを考えました」
小型で敏捷度の高いキメラというのは体力はそれほどではなくても、攻撃を当てる事が難しい厄介な敵なのだと言う。
「そういった物を打ち破る事に特化した鞭というのを考えました」
九尾はインパクトの瞬間に扇状に広がるというもので、命中はかなり良い。
「でも使い時がかなり限られる鞭ね」
レムリアの言葉にエメラルドはにっこりと笑って「使い時が限られる、そんな癖のある武器もいいと思うのです」と言葉を返してきた。
「それとか武具を大っぴらに持ち込めない場所用に袖の中にでも隠せるような、暗器的な武器でもいいですね」
エメラルドの言う事も尤もだと考えたのか「そうね」とレムリアは言葉を返して、桐生院・桜花(
gb0837)のアイデアに移ったのだった。
「今のSES搭載武器には『鈍器』が圧倒的に不足しているわ」
彼女は主張するかのように大きな声で叫ぶ。そんな彼女が提案するのは『チェーンウィップ』で攻撃力を特化させる物を考えたらしい。
「鞭の特性、こと威力に関して言えばしなりと遠心力ね。しならせる事により、振り回すだけの時とは比べ物にならないほどの打撃を与えられる、これが利点だと思うわ」
ただでさえ、人の骨くらいならば簡単に砕く事の出来る武器なのだから単純にSESを組み込むだけでも有効だと桐生院は考えたらしい。
「私はあえて錘を加える事はしないわ、先端に重みがあるのは仕方ないとしても、錘を加えたら捕縛する際でも相手に重傷を与える可能性があるもの。それにコンパクトに持ち運べるという利点も崩したくないから」
意見を述べ終わると桐生院は椅子に座って、最後の提案者のアイデアに耳を傾けたのだった。
「次は私の番だね」
呟きながら鬼非鬼 つー(
gb0847)が立ち上がり、考えてきたアイデアをレムリア、そして他の能力者達に聞かせ始める。
「最初は蛇腹剣と言って剣と鞭、両方の特性を持った片手武器、切り替えはボタンで行えるものだよ」
鞭の時には全長6mの鋼鉄ワイヤーの鞭として機能し、剣の時は全長1.2mの両刃で幅広の剣となるのだと鬼非鬼は説明を続ける。
よくしなるワイヤーに等間隔でブレードを10枚取り付けたもので、中距離にいる敵をなぎ払う事が出来るのだと言う。
「割と有名だけど幻想の武器だ、だけどその幻想を現実の物とする、素敵だと思わないかい?」
確かにとレムリアは思いながら鬼非鬼の残り2つの提案に耳を傾ける。
「続いてはプロミネンスというもので、極細のワイヤーを百本、特殊な編み方で寄り合わせた8mの片手鞭だよ。だけどこれには特性がある
特性? とレムリアが問いかけると「それはね」と鬼非鬼は言葉を返してきた。
「鞭に衝撃を与えると揮発性の高い燃焼剤がワイヤーから滲み出るんだ、だけど衝撃の際に飛散するようになっていて、クラッキングする事で爆発したように発火するんだ」
そしてレムリアは鞭の材質を見ると、燃えない材質で作るようにと企画書に書かれていた。
「鞭自体は燃えない素材だから、使用後に手で持っていても火傷の心配はないよ」
攻撃の事だけではなく、使用者の事まで考えられている事にレムリアは少し感心したような表情を見せた。
「最後はショックウィップね、シェリーさんも考えてくれていたけれど‥‥聞かせてもらえる?」
レムリアの言葉に鬼非鬼は「もちろん」と言葉を返して説明を続ける。彼が考えたショックウィップは先端に球状のエネルギー発生装置が取り付けてあるというもので、ボタン一つで切り替えが出来るようになっているのだという。形状も鎖なので振り回す事によって防御にも使えるというもの。
「これはFFに先端が接触すると強力な衝撃破を生み出して範囲攻撃も出来る、もちろん使用者の煉力を消費してだけどね」
「だけど10mという長い鞭だから扱いが難しそうね、だけど衝撃破というものは良い考えだと思うわ」
「鞭はやはり攻撃時のインパクトが大事だ。これならインパクトした瞬間に相手は吹っ飛ぶだろうね」
鬼非鬼は言葉を残して席に戻る。
こうして、能力者達が持ち寄ったアイデアは全て発表が終わり、採用があるかがレムリアから伝えられることになった。
「まず初めに素敵なアイデアをありがとう、欠点があるものもあったけれど、逆に利点があるものも多かったわ。そこで今回、私の研究所で作ろうと思ったのは‥‥」
レムリアは企画書を見ながら小さく呟き「ファルルさんのかしら」と言葉を付け足した。
「もちろんアイデアを全て採用出来るとは言えないけれど‥‥鋼索鞭は最初に出す鞭としては理想的なんじゃないかと思うわ」
その後、能力者達は帰還していき、レムリアとハーリィ研究所の面々はファルルの『鋼索鞭』の作成に取り掛かったのだった。
「KV用の鞭、欲しかったなー‥‥」
がっくりとうな垂れながらNAMELESSは誰にも聞こえない程度の声で呟いたのだった。
END