●リプレイ本文
「恋人を家で待たせて戦いに出るというのはどういう感じなのかな?」
御山・アキラ(
ga0532)が小さな声でポツリと呟く。
「私も大切な人がいますし、出来れば緋音君には怪我をして欲しくないので‥‥サトル君と言いましたか、依頼人の気持ちは分からなくもないつもりですが‥‥」
レイアーティ(
ga7618)が自分の婚約者である御崎緋音(
ga8646)をちらりと見ながら呟く。
だけど彼は『大事な人だからこそ信頼して待ってあげる事』が必要な時もあるという事を最近知ったのだという。
「もちろん心配するのも当たり前ですし‥‥結局、何事も2人のバランス――なのかもしれませんね」
レイアーティの言葉に御崎も同じ気持ちなのか首を縦に振る。
「リコさんの気持ちも分かるけど‥‥サトルさんの気持ちも汲んであげてほしいなぁ‥‥」
御崎がポツリと呟く。
「そうだね、でも心配する気持ちも分からなくないけど、毎回ああいう感じなら確かにうんざりしてきそうよね‥‥」
ため息混じりにアズメリア・カンス(
ga8233)が呟く、リコが向かっている場所が森のどの辺りかを彼女は調べてきたのだが、本部でうろうろとしているサトルに捕まり「絶対に無事に帰ってこれるよね?!」と詰め寄られたのだとか‥‥。
「でも‥‥少しだけ今回の依頼には怒りを感じます‥‥」
優(
ga8480)がポツリと呟き「何がですか?」とロジー・ビィ(
ga1031)が聞き返すように言葉を返した。
「キメラを殺る事はいいのですが『共に戦う仲間を無傷で帰す』――これはリコさんに対する侮辱でしかありません」
依頼ですからきちんと遂行しますけれど――優は言葉を付け足してロジーに答えた。
「私も正直呆れてはいますけど、そんな行動を起こせる関係を少し羨ましくも思いますね」
文月(
gb2039)が苦笑気味に呟くと「とりあえず、リコの所へ急ごうか」と水円・一(
gb0495)が言葉を返し、能力者達はリコが向かった森へと急いで向かい始めたのだった。
〜深遠な森に潜む鋭い狼の刃〜
「何か数人でキメラ退治に来たらしく、分かれて捜索する事にしてるみたいだね。リコの捜索区域は森の中央周辺みたいだよ」
アズメリアが持ってきたメモと地図を見ながら能力者達に話していく。
「確認されているキメラは一匹のようですね、数人で行動しているのならば余計にサトルの行動は腹立たしいものがありますね」
優はキメラが単独か複数かを調べた紙を見ながら呟く、一匹のキメラにリコを含む数人の能力者で行動しているにも関わらずサトルは『無傷で』という無茶な依頼をしてきた。
これはもう『心配』ではなく『信用していない』という部類に入るのではないか、優はそう考えているのだろう。
「とりあえず、リコさんと合流しましょう」
御崎が呟き、能力者達はリコと合流することを優先にした。
「周辺に罠などは仕掛けられていないみたいだな」
水円が『探査の眼』を使用して周囲を警戒するが、特に問題はないらしく引き続き彼は警戒を行う。
「大して広い森ではないですけど、1人を探すとなったら苦労ですね‥‥」
レイアーティが鬱蒼と広がる緑の森に小さなため息を漏らした。
「でも探さなくちゃね、合流したら交戦中でした――というのをないように準備は最低限にしてきたんだし」
アズメリアが呟き、森の中を歩き出す。歩いて探す、確かに現段階ではこれしか方法が無いため、他の能力者達も足を動かしてリコと合流するために森の中を進みだしたのだった。
それから十数分が経過した頃に水円の『探査の眼』でリコを見つける事が出来て合流することが出来た。
「あ、すぐそこの洞窟にキメラを確認したから仲間を待ちつつ牽制攻撃でもしようかなって思ってた所なのよ。貴方達もアレの退治で此処に?」
リコが能力者達に話しかけると、能力者達は互いの顔を見合わせて「そ、そうなんだ」と、言葉を返した。
此処の来るまでに能力者同士で決めたこと、それは『サトルの依頼で来たという事言わない』というものだった。言うとしてもキメラ退治を無事に終えてからという事になった。
サトルの依頼だと言ってしまえば無理にでも前衛で戦うかもしれないと考えた結果だ。
「はっきり言って鬱陶しいかもしれないが」
リコを囲むようにぞろぞろと能力者達で行動、はっきり言って怪しむなという方が無理な事である。
「な、何でこんなにぞろぞろと? 何かの作戦?」
リコが戸惑いを隠せない表情で水円に問いかけると「気にするな」と短い言葉を返す。
「一応それなりに分担することになっている、ばらけ過ぎるよりは対処がしやすいだろう」
確かに、リコはどこか納得いかない様子だったが『対処しやすい』という言葉に唸りながら納得したようだ。
今回、無事に任務を遂行する為に能力者達は班を三つに分けた。
前衛・アズメリア、優、ロジーの三人。
リコのカバー役・御山、水円、文月の三人。
そして後衛として御崎とレイアーティの二人という事になった。中でもリコのカバー役として動く三人は、もちろんキメラにも気をつけなければならないがリコにも気をつけなければならない。リコに『サトルからの依頼』と知らせていない以上、リコは普段通りに動こうとする――つまりリコが怪我をするかもしれないという事。
考えれば考えるほどに厄介な依頼内容なので、能力者達は少しの気も抜けない。
「来るぞ!」
御山が叫び、能力者達も構える。洞窟から現れたキメラは情報通りで狼のような外見を持っていて、いかにも素早そうなタイプだった。
最初に攻撃を仕掛けたのは御山だった、彼女は『瞬即撃』を使用して狼キメラに『イアリス』で攻撃を仕掛ける。
その間にロジーが「リコ、これを‥‥」とお守りをリコに渡す。
「貴女の無事をお祈りしていますわ。共に戦いましょう」
リコはお守りを受け取り「ありがと、お互い頑張ろうね」と言って武器を構える。そこで気づくお守りの不自然な匂い。
「‥‥‥‥なんか、すっぱい匂いがするけど‥‥気のせいかな」
お守りを見て首を傾げるリコ、すっぱい匂いがするのも無理はない。なぜならロジーがリコに渡したお守りの中には犬科が嫌う酢の匂いを染み込ませている布が入っているからだ。
これで狼キメラがリコに近づかなければ彼女が怪我をする事もないとロジーの考えた作戦だった。
「いきますよ、緋音君」
レイアーティが呟くと、御崎は首を縦に振り、レイアーティは『フォルトゥナ・マヨーールー』で、御崎は『スコーピオン』で前衛やリコのカバー役である能力者達が上手く動けるようにと援護射撃を行う。
「‥‥簡単に飛び掛ってもらっちゃ困りますね」
レイアーティは呟きながら、リコの方へ飛び掛ろうとしている狼キメラに『ソニックブーム』と『布斬逆刃』を重ねて使用した『月詠』で攻撃を繰り出し、リコから狼キメラを引き剥がす。剥がされた瞬間を狙ってアズメリアが『月読』を振り上げて『流し斬り』で攻撃を仕掛ける。
「あなたには大人しく殺られていただきます」
優も『月詠』を構えて『流し斬り』で狼キメラの腹に攻撃を行う、腹を斬られた事により動きが大幅に鈍った狼キメラは優に再び『流し斬り』で攻撃される。
「よし、撃ち込みます!」
文月は『龍の鱗』と『龍の爪』を発動させて『フォルトゥナ・マヨールー』で攻撃を繰り出す。
狼キメラは能力者達の総攻撃を受けて、既に瀕死状態なのだがまだ気を抜く事は出来ない。手負いの獣ほど何をしてくるか分からないのだから。
「‥‥何で、あなたたちは私を庇って戦うの?」
リコは他の能力者達が怪我をしている中、自分だけが無傷という不自然な状況に気づいて、他の能力者達が戦う様を観察していた。
すると、違和感のないように自分を庇いながら戦う能力者に気づいたのだ。
そこで御山に問いかけたのだが「少し、な」と意味ありげに目を伏せながら言葉を返してきた。
「これでトドメです」
ロジーが『蛍火』で狼キメラの爪攻撃を受け流して『月詠』で『流し斬り』を仕掛けた後に『急所突き』で再度攻撃を仕掛け、狼キメラは地面に突っ伏して倒れていったのだった‥‥。
〜彼女が庇われた理由を知って〜
「サトルが!?」
戦闘終了後、リコが一緒に来た能力者達と合流して、今回の能力者達が此処に来た理由を彼女に教えた。
「あンの馬鹿‥‥なんて迷惑な依頼を出すのよ‥‥本当にごめんなさい!」
リコは何度も「ごめんなさい」と言って申し訳なさそうに頭を下げる。
「『旅、戦い、仕事‥‥なんにせよ、誰かを家に待たせて外に出る者がやるべき事で最も重要なのは、待っている誰かが安心して帰りを待てるようにする事』‥‥受け売りだ。家ごと焼き尽くされた男のな」
御山は何処か寂しそうな表情で呟く。彼女の言う『男』とは彼女の父親の事だという事をリコは知らない。
「きちんと話し合った方が良いでしょうね、でないと同じ事の繰り返しになりそうだし」
アズメリアの言葉に「‥‥毎回話し合いしてるんだけど、はぁ‥‥本当に申し訳ないわ」とリコは肩を落として言葉を返す。
彼女が此処まで申し訳なく思う理由、それは自分を助ける為なら他の能力者が怪我をしてもいいと考えているサトルについてだった。
「でも‥‥サトルさんの事も分かってあげて? もしリコさんが見送る側だったら‥‥どう思いますか?」
御崎の言葉に「それはそうだけど‥‥だからって今回のような事は‥‥」とリコも口ごもりながら呟く。
「相手と立場が入れ替わったとしても、相手の心配をしている事、そのことに気がつかなければ意味がない。理解できなかったらもっと駄目だ。頭に血を上らせるな、冷静に考えろ」
水円の言葉に「‥‥冷静に話し合う、努力をしてみるわ」とリコは答えた。
そして、リコと能力者達は一緒に本部へと帰還していき、本部の入り口でリコの帰りを待つサトルが「お帰り! 無傷みたいだね! よか――」と叫びながらリコを迎えようとしたが、リコは平手打ちで強くサトルの頬を叩いた。
「アンタね! 次にこういう事したら本気で殴るわよ!」
「だ、だってリコのことが心配で‥‥」
よほど痛かったのかサトルは涙を瞳いっぱいに溜めながら言い訳をしようとしているが「問答無用!」とリコの大きな声で言葉を遮られる。
「心配してくれるのは嬉しいけど! そのことに人を巻き込んだ事に腹を立ててるのよ、私は! 私が無傷だったら他の人は怪我してもいいわけ!? どういう神経してんのよ、あんたは!」
ぜぇぜぇ、と息を切らせながら叫ぶリコに「ごめんよぅ、もうしないからさぁ」とサトルは泣きながら言葉を返していた。
「分かったらちゃんと謝る!」
サトルの頭をぐいと押し付け、リコは謝るように促す。
「ごめんなさい‥‥でもリコを守ってくれてありがとう」
サトルは申し訳なさそうに謝り、その後にお礼を言って能力者達もようやく任務を終えて、帰宅していったのだった‥‥。
END