●リプレイ本文
〜激昂した能力者・太一郎を追うために〜
「親友の為‥‥とは言え‥‥無茶しますね?」
神無月 紫翠(
ga0243)が「敵討ちか‥‥気持ちは分からんでもないが」と梶原 暁彦(
ga5332)が小さく言葉を返した。
「親友の最後も看取る事しないで、勝手に先走るとはな。何と言う大馬鹿野郎だ。きちんと連れ戻して、親友の墓前で最後まで心配かけた事を謝らせてやらないとな」
榊兵衛(
ga0388)が呟く。
「確かに馬鹿だ。友人の事で頭に血が昇って判断力を失う‥‥愚かだが好ましい愚かさだ」
九条・縁(
ga8248)が「ふ」と笑みながら呟く。
「若いのは良い事だ‥‥考えるより先に体が動いてしまうのもな‥‥分かるが、死んでしまっては情けないものだぞ」
火茄神・濡恩(
ga8562)が俯きながら呟く。
「ところで太一郎さんって能力者なのかな?」
火茄神・渉(
ga8569)が小さく呟くと「そのようです」と状況報告をしてくれた医者が遠慮がちに言葉を返してきた。
「お2人は仲が良かったみたいで、仕事を一緒に行う事が多かったと前に怪我をして来られた時には言っていました」
「そんなに仲が良かったのですか‥‥冷静さを欠く気持ちは分かります。ですが無事に太一郎ちゃんを連れ戻しましょう」
亡くなられた親友の為にも、とラピス・ヴェーラ(
ga8928)が目を伏せながら呟く。
「えぇ、故人の思い‥‥無駄にはしません‥‥」
シャーリィ・アッシュ(
gb1884)が呟き、能力者達は太一郎が向かった『森』へと急いで出発したのだった。
〜疾走、太一郎を探せ〜
今回の能力者達は、キメラと太一郎が接触する前に見つけようと班を三つに分けて行動することにしていた。
A班:ラピス、渉、シャーリィの三名。
B班:九条、濡恩、梶原の三名。
C班:榊、神無月の二名。
「渉、此処からは別行動だ‥‥任務経験は私よりあるお前の事だ、心配はないと思うが年上のお姉さん達の言う事もよく聞いて行動しろよ」
渉の母親、濡恩が渉に言い聞かせるように話しかけると「うん」と渉は子供らしい笑みを浮かべて首を縦に振った。
「それじゃ‥‥行きましょうか‥‥急いだ方が良さそうです‥‥」
神無月が森の奥を見ながら小さく呟き、能力者達は三つに分かれて行動を開始したのだった。
※A班※
「太一郎ちゃんが傷つく事を依頼人は望んでいませんわ――依頼人の最後の願い、私達が叶えて差し上げましょう」
ラピスは森の中を走りながら、同じ班の渉とシャーリィに話しかけると「もちろん」と渉が言葉を返してくる。
「無茶をしていなければ良いが‥‥この辺には争った形跡は見当たらないようですし‥‥少なくとも太一郎さんはこの辺を歩いてはいないようです」
シャーリィは地面や木を見ながら呟く。地面には今走っている三人以外の足跡は存在しない。
「こちらA班の火茄神ですっ、こっちには足跡とかなかったから来てないみたいだよ」
渉が『トランシーバー』で他の班に連絡を行い、そのまま奥へ向かって走り出す。
此方の方向にはいなくても、奥に進む事で先回りできるかもしれないと考えたからだ。
※B班※
「こう薄暗くちゃ視界が悪いったらねぇな」
九条が『ランタン』を持ちながら森の中を走る。キメラが潜んでいるという事もあって、薄気味悪さと薄暗さがあり、いかにも――な雰囲気を醸し出している。
「渉がいる班の方向には足跡などもなかったようだ。此方にいるやもしれぬな‥‥」
濡恩が呟くと「医者に聞いた話だが‥‥」と梶原が走りながら話し始めた。
「太一郎というのは頭に血が昇りやすい性格らしい‥‥無茶をしていなければいいが」
梶原が呟く。
「頭に血ぃ昇らせた状態なら頭に一杯ぶっ掛けて冷やしてやればいい、ついでに敵討ちの手伝いもな」
九条が梶原に言葉を返す。もし太一郎という男性が『一般人』なら敵討ちなどさせられないけれど、太一郎は『能力者』なのだ。戦い方も心得ている。
「そうか‥‥分かった、すぐに向かおう」
濡恩が『トランシーバー』を切り、梶原と九条を見ながら「太一郎が見つかったそうだ」と短く告げた。
「見つかったのか、まさか――キメラと戦闘‥‥?」
梶原が問いかけると、濡恩は緩く首を横に振る。
「キメラと戦闘する前に合流出来たそうだが‥‥激昂状態で手が付けられないらしい」
濡恩の言葉に九条がため息を漏らし「急ごう」と促すように呟き、太一郎を見つけたC班の元へと走り出したのだった。
※C班※
時は少し遡り、神無月と榊の二人は太一郎を探す為に森の中を疾走していた。
「‥‥他の班でも‥‥発見したという報告は、ありませんね?」
神無月が榊に問いかけると「そうだな、まだ見つかっていないらしい」と彼は言葉を返した。
先ほどから入ってくる連絡は「見つかっていない」という言葉のみ。もしかしたら最悪のこともあるかもしれない、と榊は考えて嫌な汗が頬を伝うのを感じる。
「‥‥あそこを‥‥」
神無月が突然足を止めて、それにつられるように榊も足を止める。
「‥‥あれは――」
榊と神無月が見かけたもの、それは熊にも似た大きなキメラだった。外見、特徴などを見ると太一郎の友人が死んでしまうキッカケとなったキメラで間違いないだろう。
「‥‥とりあえず、太一郎さんを見つけるまでは‥‥なるべく回避すべきでしょうね? 戦っていると時間も掛かりますし‥‥」
「もしかしたら既に交戦して、怪我か何か負っているんじゃ‥‥?」
熊型キメラの手からは血が滴り落ちていて、地面に赤黒く染みを作っていく。滴る血はつい先ほどついたようなもので、襲われた者がいるという事。
「急ごう――あれは‥‥」
キメラに見つからぬように気配を隠し、足音を忍ばせながら歩いていくと榊が木に付着している血痕を見つける。
その血痕を辿っていくと、腕から血を流している男性能力者の姿が見えた。
「太一郎さんですね? 探しましたよ」
神無月が『トランシーバー』で見つけたという連絡をすると「どけ!」と神無月を追いやってキメラがいる方向へ行こうとする。
「何処に行く」
榊が問いかけると「あのキメラを倒すんだよ! あいつのために」と榊が肩にかけた手を振り払いながら叫ぶ。
「お前の親友は死んだぞ」
榊が短く太一郎に話しかけると「‥‥え?」と驚きで目を見開いた太一郎が神無月と榊とを交互に見比べる。
「お前の事を俺達に託してな、どれだけ自分が馬鹿な事をしたのか分かっているのか? せめて最後を見届け、親友の最愛の女性にそれを伝えるのが本来のお前の役目――」
榊は言葉を中断して後ろに避ける。避けなければ榊が太一郎の持っていた剣に斬られていたからだ。
「嘘を吐くな、アイツが死ぬわけない。アイツは強いんだ、アイツが死ぬわけない――アイツが‥‥死ぬわけないっっ!」
太一郎は叫び、涙を流しながらその場に膝折れたのだった。
〜伝えられた真実と、これからすべきこと〜
A、B班の能力者達が太一郎の所まで来ると、太一郎は泣きながら何度も拳を地面に打ち付けていた。
何で、アイツは強いのに、結婚するのに、そんな言葉を並べながら大きな声で叫び続けていた。
「落ち着きなさい」
ぱしん、と乾いた音が響いて太一郎は叩かれた頬を手で押さえる。
「あなたまで倒れたらご友人に顔向け出来ませんわよ」
叩いたのはラピス、感情が高ぶった状態でまともな会話は望めないと考えた彼女は頬を叩く事によって感情の高ぶりを抑えようとしたのだ。
「なぜご友人が最後の瞬間まであなたの身を案じたのか‥‥理由がお分かりか!? 死んで欲しくない、自分の分まで生きて欲しい‥‥そう思ったからでしょう! 仇を討つために飛び出すほどご友人を大事に思っていたのなら‥‥それに応えるのがあなたの義務です」
シャーリィは座り込む太一郎の前に立ち、凛とした表情で言葉を伝える。
「ここまで来てしまった以上、帰れとは言わない。親友の仇の最後を見ていけ」
榊は太一郎に言葉を残した後、叫び声で此方に気づいたキメラと戦うために行動を開始し始めた。
「死ぬ為に無茶をするのが敵討ちじゃねぇ、アイツを俺達の経験値にして誰も欠ける事なく帰る! それが敵討ちだ!」
九条も言葉を残し、榊に続くように武器を構えてキメラの元へと向かい始める。
「自分が今、どうしたいのかを考えて動くんだな」
梶原が呟くと「‥‥どうしたいのかを‥‥?」と太一郎は自分に聞き返すように呟く。
「太一郎、友人はお前に復讐を頼んだのか? 酷だが彼は傭兵として当たり前のように死んだんだ‥‥現実を見ろ、ここで1人で無茶をして死ぬのと、彼の遺志を受け継いで生きるか‥‥それに友人の婚約者もお前まで失ったらこの先どうするんだ」
濡恩の言葉に太一郎は目を丸く見開く。
「あのさ、おいらは難しいことはわかんないけど――太一郎さんが無事なのを親友さんも一番望んでいるよ」
渉が呟き、太一郎も目が覚めたように立ち上がる。
「アイツは自分が死のうと敵討ちなんて絶対に頼む奴じゃない‥‥だけど俺はあのキメラを許せない。だから‥‥俺は俺のために戦って生きて帰る」
呟き、太一郎も戦闘へと入っていったのだった。
「獣風情に何を言っても無駄だろう‥‥来い‥‥この場で斬り捨ててくれよう!」
シャーリィは覚醒を行い『竜の爪』と『竜の鱗』を発動して攻撃を繰り出した。
「ちっ‥‥素早いな、当てづらいけど――逃がすかよ!」
神無月も覚醒を行った後にすぐ『翠澪の弓』で攻撃を仕掛ける。
だが、神無月の攻撃は弾かれ、熊型キメラは木をなぎ倒して攻撃を仕掛けてきた。
「すげ〜馬鹿力だし‥‥やりづらいたら、無いが、やるしかねぇか?」
忌々しそうに神無月は呟き、再度『翠澪の弓』で攻撃を仕掛ける、この攻撃も先ほどと同じように避けられてしまうが、それは予想の範囲だった。
神無月の矢を弾き落とした後、僅かに出来た隙を狙って榊が『イグニート』を振り上げて『流し斬り』で攻撃をする。矢を弾いたことで榊の攻撃を避ける事も流す事も出来ず、熊キメラは榊の攻撃を直撃で受けてしまう。
斬られた事により、熊型キメラが呻いていると、梶原が『シュナイザー』で『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用してダメージを与える。
「お前が太一郎の友人を死に至らしめなければ、今回のような事はなかった。彼の事は良く知らないが‥‥優秀な者ばかりが先に逝ってしまうな‥‥私の夫がそうであったように。だから――私はお前たちが嫌いだ」
濡恩は喪った夫の事を思い出しながら呟き、身を低くして居合いの構えから『流し斬り』を使用して熊型キメラに攻撃を行う。
「これがおいらの必殺技! 流し斬りだ!」
母親の攻撃のタイミングに合わせるように渉も『流し斬り』を使用して攻撃を繰り出す。
「そろそろ弱り始めましたわね」
ラピスは呟くと『練成強化』で能力者達の武器を強化して『練成弱体』で熊型キメラの防御力を低下させた。
その後、防御力が低下した熊型キメラは能力者達の攻撃に耐え切れず、大きな唸り声と共に地面に突っ伏したのだった‥‥。
〜恥じて、悔いて、足掻いて生きよ〜
「今回は‥‥本当にありがとう‥‥」
太一郎が熊型キメラから剣を抜きながら、今回手伝ってくれた能力者達に礼を言う。最後、能力者達は太一郎の気持ちを汲んでトドメを譲ったのだ。
「お疲れ様でした‥‥しかし太一郎さん、無茶しすぎです‥‥悲しむ人を増やす気ですか?」
神無月の言葉に「そういうわけじゃねぇけどさ‥‥」と薄い笑みで言葉を返すのだが、太一郎が無理をして笑っている事はどの能力者にも一目瞭然だった。
「これから‥‥元依頼人のところへいかないか? 報告がてらに」
梶原の言葉に「うん、俺もそうしたいと思った」と太一郎が言葉を返す。
「‥‥手向けの花でも届けよう」
梶原の言葉に「そうだな、花か‥‥何を買えばいいかわかんねぇや」と太一郎は苦笑混じりに言葉を返す。
その後、能力者達は本部に報告する前に太一郎の友人が眠っている場所に赴き、彼を葬ったキメラを倒したことを報告して、その後に本部へと向かい始めたのだった‥‥。
そして、報告が終わった後「頑張ったな」と濡恩が息子の渉の頭を撫でている光景が能力者達の視界に入り、何処か和むような気持ちになったのだとか‥‥。
END