●リプレイ本文
〜荷物運び、これも傭兵の仕事〜
「徘徊する花嫁‥‥ですか。女性として余りいい気分にはなれない表現ですね」
苦笑しながら加賀 弓(
ga8749)が呟く。
今回、現れたのは白無垢姿のキメラと女性を冒涜するようなキメラに加賀は僅かながら怒りを覚えていた。
「今回は屋敷で花嫁のキメラであるか。私は怪談とか、その手のものが苦手なのであるがな‥‥」
ため息混じりに呟くのは御巫 雫(
ga8942)だった。彼女の言葉に「まったく‥‥」と言葉を返したのは神無月 るな(
ga9580)だった。
「ホラー映画じゃないんだからそんなキメラ作らなくてもいいじゃない‥‥とにかく、安心して人が住めるようにキメラを排除するわよ」
神無月が呟くと「‥‥よし、お仕事‥‥お仕事‥‥」とリュス・リクス・リニク(
ga6209)が拳を軽く握って呟いた。
「しかし‥‥俺はキャンプにでも行くのか?」
自分の持ち物を見て苦笑するのは早坂冬馬(
gb2313)だった。
今回は2日かけて任務を行う為、食べ物と飲み物を持ってきていた。それは屋敷に誰もいない為、食事などの都合がないかもしれないと考えたからだ。
「乙女の夢、ウェディングドレスを着て人を襲うとは許せません! 女の敵です、即退治なのです!」
真白(
gb1648)が拳を強く握り締めながら話すが「最初はホテル行って聞き込みだよ」とサルファ(
ga9419)が苦笑気味に言葉を返した。
「それでは、行きましょうか」
榊 紫苑(
ga8258)が呟き、能力者達は詳しい状況などを聞くために、住人達が泊まっているホテルまで赴き始めたのだった。
※※※
「屋敷の構造‥‥ですか」
能力者達はホテルまで赴き、屋敷の主に屋敷の構造が分かるかを聞いていた。
「おい、屋敷の見取り図を持ってきていたな、それをお渡ししなさい」
主は家政婦の1人に話しかけ、見取り図を渡すように指示をする。能力者達が話を聞きに来た時の為に見取り図に『徘徊する花嫁』が現れる場所などを記していたようだ。
「しかし‥‥倒せますか?」
少し不安げな表情を見せた主に「任せてください!」と真白が胸をどんと叩いて言葉を返す。
「そんなキメラ、あっという間に倒しちゃいますから!」
真白の言葉に「貴女のようなお嬢さんに頼んで本当に申し訳ない」と主は頭を下げて「宜しくお願いします」と言葉を付け足した。
「無事任務達成を目指して、皆様‥‥頑張りましょう」
加賀が穏やかな笑顔で話しかけると「そうであるな」と御巫が言葉を返す。
「そういえば、屋敷の物を移動させてもよろしいでしょうか? 戦闘の際に被害が出ないように戦闘部屋に選んだ場所のものを移動させたいのですけど‥‥」
神無月の問いかけに「キメラを倒す為に必要ならそうしてくれて構わんよ」と主は言葉を返してきた。
「あ、何か食べる物を買っていった方がいいですかね?」
早坂が思い出したように呟くと「この場所が食料庫になっているから好きに食べてくれ」と主が話しかけてきた。
「昼間に業者さんが食料を置いていくので、腐っているとかはないですよ」
家政婦の1人が早坂に話しかける。
「そうですか、それはわざわざすみません」
早坂も、他の能力者達も好意に甘える事にした。
そして屋敷の住人から話を聞き終えると、能力者達は問題の屋敷へと向かい、戦闘場所にふさわしそうな場所を探し始めた。
「‥‥うわぁ‥‥高そう‥‥」
屋敷の至る所に置かれている壺や掛け軸などを見てリニクは小さく呟く。
「でも古い屋敷って絶好の探検場所ですよね〜」
戦闘場所を選ぶために屋敷内を歩き回っていると、真白が何処か楽しげに話す。
「あら、この着物素敵ですね‥‥」
開かれた箪笥から見えている薄紅の着物を見て、和服好きの加賀が口元に手を当てながら呟く。
「着物はよく分からないけど、こういう場所には高そうなお酒とか置いていそうだね」
サルファが屋敷内を見渡しながら呟く。BARを経営している彼としては酒の事が気になるのだろうか。
「‥‥徘徊する花嫁か。ふむ、一般人とはいえ、殺さなかった所を見ると単に人を殺める為に作られたキメラとも思えぬな‥‥何か目的があるのだろうか?」
御巫の言葉に「どうだろうなぁ」と早坂が呟くように言葉を返す。
「花嫁か‥‥独りが気楽でいいだろうに。まぁ‥‥寂しくないとは言わないけどね」
早坂が苦笑気味に呟く。
「どちらにしても、この家の花嫁じゃないなら、手加減しない」
榊が呟き、屋敷内を歩く。見た目以上に古い屋敷なのか歩くたびにきしきしと軋む音が耳に入ってくる。
「あの部屋なんて良さそうじゃないですか?」
神無月の言葉に能力者が部屋を覗いてみると、広い和室がそこにはあった。恐らく客が来た時の為の客間なのだろう。掛け軸や壺などが綺麗に置かれているが、これらを避ければ十分に戦う事が出来る。
「本当は外でも良かったのですけど‥‥あれじゃ外で戦えませんものね」
神無月が外を見ながら苦笑して呟く。外には盆栽などが置かれ、中央にある池には鯉も跳ねている。
「この鯉、餌はどうしていたんでしょうね」
榊が池の中を覗きながら呟くと「昼間のうちに家政婦さんが与えに来てたみたいであるな」と御巫が言葉を返した。
「‥‥さて‥‥壺とか‥‥退かすの、頑張ろう‥‥」
リニクが呟き、能力者達も高そうな壺や掛け軸などを移動させ始めたのだった。
「お、重っ! でもこれ高そうだから‥‥慎重に持っていかなくちゃ」
真白が呟き、落とさないように壺を確りと抱えて別の部屋に移動させていく。
「この箪笥とかも移動させなくちゃですね‥‥」
加賀は大きな箪笥を見上げ、億劫そうに呟く。
その後、部屋の中の物を移動させるのに半日ほどが潰れて、能力者達は徘徊する花嫁を確認する為に気配を隠して、その時を待つ。
「‥‥夜の屋敷って不気味〜‥‥」
真白が呟き「全くであるな」と御巫も言葉を返す。
そして時間が経過して――衣擦れのような音がし始める。能力者達は部屋の中に隠れ、気配を隠して『徘徊する花嫁』が通るのを待った。
屋敷の廊下を一周しているのか、花嫁は一歩、また一歩とゆっくりと歩いていく。
「‥‥鬼‥‥」
リニクが小さな、本当に小さな声で呟く。障子越しに見えた『徘徊する花嫁』の姿は額に鋭いツノが生え、牙をむき出しにした鬼そのものだった。
花嫁キメラが部屋の前を通り過ぎると、能力者達も花嫁キメラの後を追いかけて何処に潜んでいるかを確認する。
花嫁キメラは屋敷内をぐるりと歩き回ると、屋敷外れにある井戸の中へと入っていった。
「‥‥井戸の中に‥‥入っていきましたね‥‥」
リニクが呟き、能力者達は明日の為に休む事にして戦闘場所として選んだ部屋の中へと入っていく。
「‥‥気のせいかな、あのキメラ――まっすぐ歩いていなかったような‥‥」
早坂の言葉に「え?」と他の能力者達も聞き返すように呟く。そしてそれを確かめる為に廊下を見ると、確かに廊下には泥のついた足跡が残っていて真っ直ぐに進んでいない。どちらかというとふらふらとした足取りで歩いているようにも見える。
「とりあえず今日はもう休みましょう、明日はキメラとの戦闘ですし」
神無月が能力者達に向けて呟き、休む事にしたのだった‥‥。
〜能力者VS花嫁キメラ〜
決戦当日、能力者達は予め決めていた班で行動することにした。行動とは言ってもキメラが現れる夜まで何もする事はないのだけれど‥‥。
花嫁キメラを和室で待ち伏せするのはリニク、神無月、真白、加賀の四人。この四人は誘導班の榊、御巫、サルファ、早坂の四人がキメラを誘導してから行動を開始する事になっていた。
「流石に交代で見張りをしていたので十分な睡眠は取れなかったですね」
早坂が欠伸をかみ殺しながら呟く。
そして休憩をしながら花嫁キメラが現れるのを能力者達は待った‥‥。
※※※
「そろそろ時間だな‥‥」
榊が時計を見ながら呟く。
誘導班の四人は部屋から離れた場所で待機しており、花嫁キメラが現れたら牽制攻撃を仕掛けながら部屋へとおびき寄せ、部屋に入ってからが戦闘の本番という事になる。
「いくら戦闘しやすい場所を見つけたからと言って、あまり派手に戦闘するわけにも行くまい」
御巫が姿を見せた花嫁キメラを見て笑み「ふふん、しかし悪趣味なものを作ってくれるな、バグアも」と言葉を付け足した。
「キメラを発見、これから誘導を開始する」
サルファが『トランシーバー』で待機班に連絡をする。そして此方の気配を感じたのか花嫁キメラは牙をむき出しにしてサルファに攻撃を仕掛ける。
サルファは『クルシフィクス』を構えたが、狭い廊下なので大きく振り上げる事も出来ない。
「――ちっ、こう狭くては、大剣が振れねぇか‥‥」
忌々しげにサルファは呟き、バックステップで花嫁キメラの攻撃を避ける。
「白無垢の花嫁は、ある意味女達の憧れだからな? それを汚すとか――覚悟はいいな?」
花嫁キメラの攻撃を避けながら榊が呟く。
「‥‥白無垢姿だというのにずいぶん動きがいいのだな‥‥」
御巫が呟き「本当に」と早坂が『ゼロ』で攻撃を仕掛け、花嫁キメラを引き剥がす。
その後、何とか花嫁キメラの攻撃を受けずに予定の場所へと誘導して待機班も攻撃態勢取る。
「‥‥来た来た‥‥飛んで‥‥火にいる‥‥夏の‥‥あれ‥‥何だっけ‥‥」
リニクは覚醒を行い、洋弓『アルファル』で『強弾撃』を使用して花嫁キメラに攻撃を仕掛ける。
「ふん、お前なんでこの家に現れる? この家の主人にでも捨てられたか?」
く、と笑みを浮かべて榊は『蛍火』で攻撃を仕掛ける。榊の攻撃は避けられたのだが、最初に早坂が言っていた事の意味を理解できた。
花嫁キメラ、彼女は目が見えないらしい。全てが白目で音と気配で攻撃したり、攻撃を避けたりしているようだ。
「これは花嫁というより鬼ですね、なら同じ鬼の名を持つ『鬼蛍』で冥府に案内仕ります」
加賀は呟き『鬼蛍』を構えて花嫁キメラに攻撃を仕掛ける。彼女が攻撃を仕掛けた後、リニクが『フォルトゥナ・マヨールー』に武器を持ち替えて『強弾撃』と『二連射』を使用して攻撃を仕掛ける。
同時に攻撃が来て花嫁キメラも避け切れなかったのだろう、リニクの攻撃を直撃で受けてしまう。
「このような雰囲気たっぷりの場所は早く離れたいからな、倒させてもらうぞ」
御巫が『流し斬り』を使用して花嫁キメラに攻撃を仕掛け、その後に『両断剣』を使用して袈裟斬りで攻撃する。
「憎悪を抱いたまま生きるのも辛かろう‥‥私からの手向けだ、安らかに眠るがいい」
御巫は『刀』を振り上げながら攻撃するが、花嫁キメラは自分の腕を犠牲にして攻撃を仕掛けてくる。
「危ない!」
早坂は叫び『瞬天速』を使用して花嫁キメラにタックルをして、攻撃を逸らす。
「自分を救ってくれる人を攻撃しちゃいけないよ」
真白が呟き『スコーピオン』で攻撃を仕掛ける、花嫁キメラは銃弾を受け、バランスを崩して膝をつく。
「どのような経緯で徘徊しているのか分からないけれど、貴女の居場所は此処ではないのよ‥‥さようなら」
神無月は呟き『ショットガン20』で花嫁キメラの頭を狙い撃ち、花嫁キメラを無事に倒す事が出来たのだった‥‥。
〜花嫁亡き家の中で〜
「それにしても‥‥何故ここに現れたのか気になりますね‥‥」
花嫁キメラを退治した後、神無月が小さく呟く。
「キメラの考える事なんて、俺には分からないが‥‥花嫁でも羨ましかったんじゃないか?」
榊が「まぁ、花嫁一人で徘徊してるから相手にでも逃げられたか?」と言葉を付け足す。
「それより‥‥一番気になるのは――運び出した家具、私達が元に戻すんですかね?」
加賀が苦笑しながら呟くと「そうなるでしょうね」と早坂が言葉を返す。
「やっぱり‥‥」
少し肩を落としながら加賀が答え、能力者達は鶏が鳴き始める明け方から荷物を元に戻す作業を始めた。
この屋敷が広く、周りに騒音などの心配がないというのが幸いなのか不幸なのか、キメラを倒すという重労働の後に箪笥などを運ぶ作業は一番辛いだろう。
「‥‥覚醒すれば、荷物運びも楽だな」
サルファは一人覚醒をしながら箪笥や壺などを元の場所に戻していく。
結局作業が終わって、本部に報告に行く時間は昼が近い時間で、ぐったりとした能力者達が本部で見受けられたらしい‥‥。
END