●リプレイ本文
●始まり――事件はいつも彼女が持ってくる。
「またあの女か」
ため息と同時に、カメラと取材メモを手に元気に取材しているマリの姿を思い浮かべ、沢村 五郎(
ga1749)がどんよりとした顔で呟く。
「仕事熱心なのは良い事だけど‥‥巻き込まれる身としては最悪ね。懲りるという事を知らないのかしら?」
小鳥遊神楽(
ga3319)も沢村と同じく盛大なため息を吐きながら呟く。
「まったく‥‥困ったさんもおったもんやな――でも、見捨てるワケにもいかんしな」
クレイフェル(
ga0435)が友人である黒川丈一朗(
ga0776)に話しかける。
「まぁな――さて‥‥急いで向かった方がいいかもな」
黒川の言葉に集まった能力者達はマリが飛び出していった場所へと向かっていったのだった。
●その頃のマリ――‥‥。
「はーっ‥‥はーっ‥‥何なのよ、あのキメラは! あー‥‥まだ頭がぐらぐらする」
マリは地面に座り込みながらぐらぐらとする頭を押さえながら、苦しげに呟く。彼女はキメラの近くで能力者がやってくるのを待っていたが、その前にキメラに見つかり、死に物狂いで逃げてきたのだ。
「‥‥最初は綺麗な歌声だと思ってたのに――‥‥」
そう、今回のキメラは『歌声』に似たもので相手の感覚を狂わせてくるという能力を持つキメラだった。
「今回の能力者―――結構苦労するかもしれないわね」
空を見上げながら、マリは能力者達がやってくるのを待ったのだった‥‥。
●現場到着――疫病神を探せ。
「さて‥‥作戦通りマリさんを探すことにしましょうか」
奉丈・遮那(
ga0352)が用意したものを確認する。今回、奉丈が用意したものは耳栓―‥‥耳栓は能力者たち全員が対キメラ用に用意したものである。奉丈はその他にハンディカラオケを持って来た。
「それにしても‥‥戦場にわざわざ突撃する一般人というのも珍しいですねぇ‥‥ぶっちゃけ迷惑ですが」
マリを探しながら鋼 蒼志(
ga0165)が小さく呟く。
「参ったなぁ‥‥下手に動いてキメラに襲われてなければいいけど‥‥」
赤村 咲(
ga1042)がマリの安否を気に掛けるように呟く。
「でも聞く限り‥‥結構な無茶をする人みたいだし‥‥その可能性は高いかもね」
的場・彩音(
ga1084)が赤村の言葉に答え、万が一の事を考えて能力者達はマリを探しに走り出した――‥‥。
現場は、大して広くない住宅街跡地なのでマリを探すのに苦労はしなさそうなのだが‥‥能力者たちに見つけやすい場所というのと同時に、キメラも彼女を見つけやすいという事になる。
「‥‥急いだ方が良さそうやな」
クレイフェルもその事に気づいたのか、探す足を少し早くする。
「しっかし‥‥大して広くないとは言っても‥‥狭くもないよねえ‥‥」
はー、とため息を吐きながら的場が呟いた時―――。
「うおええええええっ‥‥‥‥」
‥‥と、この世の者ではないような声が響き渡る。
「まさか――キメラ?」
鋼が表情を険しくしながら声が聞こえた方を見やる。
「ですが‥‥キメラの気配は―――」
がさがさと、木々を避けて此方へ向かってくる声。能力者達が攻撃態勢を取りながら待っていると――現れたのは他でもない探し人のマリ本人だった。
「はー‥‥」
マリが現れると同時に沢村が盛大なため息を吐く。今回の能力者の中で直接マリと面識があるのは沢村だけである。
「や! ごろっち! お久しぶり! 今日も相変わらず良い男であるねぇ‥‥うぇ」
「何だ‥‥その語呂の悪いあだ名と馴れ馴れしさは‥‥しかも良い男って言った後に吐く振りをするな」
沢村は多少ムッとしたように呟くと、マリはジェスチャーで『違う違う』と訴えかけてくる。
「振りじゃなくて、本気で苦しいのよ。あっちにキメラがいるんだけど歌みたいなの聴いてから気持ち悪くて‥‥」
言いながらマリは「うえ」と再び吐く振りをする。
「とりあえず‥‥二人はマリさんの護衛を頼むよ」
キメラとの戦闘を行う能力者が先に向かったのを確認した後、鋼がクレイフェルと的場に話しかける。
「そうやな、さすがに一緒に連れて行ったら戦闘に支障出るかもしれんしなあ」
クレイフェルの言葉に、先に行ったはずの沢村が戻ってきて一言呟く。
「絶対に支障が出る」
彼は呟き、具合の悪そうなマリにヘッドホンとエチケット袋を渡す。何だかんだ言いつつも結構優しい所もあるのだ。
「じゃあ、あたし達も余裕があったら援護に向かうから」
的場達は鋼達を見送った後で、マリの方を向き直る。
「えーと‥‥マリさん、でいいのよね? 取材はいいけどくれぐれも無茶だけはしないでね」
「そうや、とりあえず巻き込まれんように後ろの方に下がるで」
クレイフェルの言葉に、マリは手をクロスさせて『NO!』を強調する。
「離れてても戦いの全景は見えるやろ?」
「見えるだけじゃ駄目なのよ! 読者に伝える情報はもっと迫力あるものじゃないと!」
「‥‥クレイフェルさん、彼女を説得するのは無理っぽくない?」
的場がクレイフェルの耳元で呟くと、クレイフェルも同感なのか、ため息混じりに強行に出る。
関係ないかもしれないが、マリと関わる人は何故かため息の連発ばかりである。
「さて! 撮るわよおおおおぅっ!?」
突然の浮遊感にマリがぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。彼女が浮いた理由、それはクレイフェルが抱き上げたからだ。
「ちょ! 何するのよ! セクハラ! 変態! クイーンズの特集にしてやるわよ!」
「いい加減にしなさいよ! 雑誌記者としての仕事をするのはいいけど、それよりも自分の命の方が大事でしょ! 大怪我したら元も子もないわよ!」
「戦えないのに戦地に飛び込んでいくんは、勇気やのうて無謀や――今回、どれだけの人に迷惑や心配かけたか分かっとる?」
少しきつい口調でマリに説教するクレイフェルと的場の迫力にしゅんとしながらマリは俯いた―――と思ったらいきなりパシャと写真を撮られた。
「よし! 能力者怒る! 見出しはこれで決まりね」
(「この女――マジで絞め殺したろか」)
普段は冗談ばかり言うクレイフェルが、心の底から思ってしまった。もちろん的場も同じ考えを持っていたのは言うまでもない。
●キメラ掃討――歌声のキメラ
今回のキメラは感覚を狂わせる『歌声』の持ち主。この情報を事前に入手する事ができたおかげで『耳栓』という対策をたてることができた。
その中で、ハンディカラオケで熱唱しようとする奉丈の姿が見受けられた。
しかし――‥‥歌う直前でキメラの攻撃が奉丈に向かってきて、やむなく歌を中断せざるを得なくなった。
「仕方ない――狙撃に回りますね」
奉丈は呟くと、後衛に下がり、長弓を構える。
「耳栓をしているおかげで歌の効果もない――攻撃は爪による単調な攻撃のみ。手わざのみの相手と戦えるとはな‥‥現役時代を思い出す」
黒川は呟くと、メタルナックルを装備してスナイパーが攻撃しやすいように囮となるため、キメラの注意をひきつける。
今回、耳栓をしての戦闘を強いられるため手信号の打ち合わせも万全に行っていた。
赤村は『今から攻撃を開始をする』と伝え、小銃・スコーピオンでキメラを撃つ。
「無茶する人も苦手だけど―――ボクはお前も嫌いだね」
覚醒したことで口調が変わり、撃ちながら赤村は呟く。
「しかし‥‥歌を何とかしないことには耳栓を外せないな」
沢村が呟くと、持って来ていたスプレー缶の栓をナイフで切り飛ばす。
「あほうが‥‥」
言うと同時にスプレーをキメラに吹きつけ、キメラの歌声を封じる。
「考えたわね、どんなに綺麗な歌でも――声色が変われば効果ないわよね」
言いながら小鳥遊が小銃・スコーピオンを弾切れするのも構わずに撃ちまくる。そして弾切れを起こすと、ハンドガンに持ち替えて先ほどと同じように撃つ。
スナイパーの遠距離攻撃が中断したとき、鋼がキメラに近寄り、刀で強く斬りつける。
そして黒川も一緒に攻撃をして、キメラに反撃の隙を与えない。
「これで――終わりだ!」
沢村が叫び、接近戦組で総攻撃を与えてキメラを倒したのだった――‥‥。
●そしてそして大団円―――?
「皆さんお疲れーっ! いやー、おかげでいい写真が撮れたわ」
凄く嬉しそうにカメラを見せながら喋る。
「こっちは命掛けで戦ってるんだ。あんたがでしゃばる事で、あんたを守る為に余計な労力を裂かねばならない。そのせいで死んだら――どうするつもりだ?」
鋼の言葉にマリはびくりと肩をすくめる。
「そうですね‥‥出来ればこれからは依頼して一緒に行動して欲しいです」
「ボクたちが戦場で死ぬ事は仕方のない事です。しかし貴女は死ぬ事を許されない。もっと自分を大事にしてください」
赤村の言葉に沢村も首を縦に振る。
「次からは絶対に依頼しろ」
「まあまあ、それくらいにしてやんな。記者さんも反省してるだろうし――いい写真は撮れたか?」
黒川が助け舟を出してやると『もちろん!』と言いたげに満面の笑みを黒川に向けている。
その後、マリはチホの元へ戻り、急いで『クイーンズ』新刊の製作に取り掛かった。
後日――。
「何やねん! これは!」
クレイフェルが新刊のクイーンズを見て震えながら叫ぶ。
其処に書かれていたのは‥‥。
クレイフェル氏にセクハラ疑惑!
被害にあった土浦 真里さんに話を聞いたところ―――‥‥とうらみつらみが数ページに渡って書かれていた。
END