●リプレイ本文
〜言葉を間違えて理解した懲りない男、コリオ〜
「ははははははっ!」
けたたましい声と共に槍をずるずると引き摺るのは今回の依頼主・コリオ。彼は特訓を経て『重い槍』を持てるようになったのだと自慢げに能力者達に話してきた。
「あ〜『重い槍』が持てるようになったんですかぁ? すごいですねぇ。そういえば『らぶれたあ』を書くのは止めてしまったんですかぁ?」
門鞍将司(
ga4266)が穏やかな笑み浮かべてコリオに問いかける。
「本当は書きたかったんだけど‥‥手紙が重く感じられ、僕は悉くフラれてるのかと思ったんだ、だから今回は書かなかったんだよ」
コリオは少し肩を落としながら言葉を返す。コリオのそんな姿を見ていると『らぶれたあ』は書きたかったのだという事が窺える。
(「‥‥報告書を読んだりしていたけど、なんというか‥‥懲りない男だな」)
門鞍とコリオのやり取りを見ながらカルマ・シュタット(
ga6302)は心の中で呟く。
「僕に足りないものは『重い槍』だと教えてくれた能力者がいるからね、あの人たちには大感謝だよ!」
先ほどのようにけたたましい笑い声と共にコリオが叫ぶ。
「‥‥重い槍は『思いやり』の間違いじゃないのか? コリオという奴は本当に勘違いしまくりな奴だな」
ロック・スティル(
ga9875)が呆れた視線をコリオに送りながら呟いていると「あいつもなぁ‥‥」とオーガン・ヴァーチュス(
ga7495)が頭を掻き、苦笑しながら呟く。
「重い槍‥‥ねぇ、アイツが何で日本語で勘違いしているのかわかんねぇん‥‥」
確かにコリオが日本へ来たばかりの外国人なら日本語が分からず勘違いするのも分かる。だけど彼は流暢な日本語を話している。それなのに『思いやり』を『重い槍』と勘違いしているのだから、本当はわざとなのではないかという気さえしてくるのだ。
「ほ、方向性はさておき、以前出来なかった事を努力して出来るようになった――という所は見習うべきところかもしれませんね」
既に暴走を始めかけているコリオを見て、文月(
gb2039)が苦笑混じりに呟く。
「確かにそうかもしれませんが、俺めんどくさいやつ嫌いなんですよね」
立浪 光佑(
gb2422)が冷めた視線をコリオに向けながら呟く。確かに『めんどくさい奴』という言葉はコリオの為にあると言っても過言ではない。
「つうか『重い槍』って突けなきゃ意味ないじゃん。バグア襲撃以前でも受けないギャグだろ」
立浪同様に冷めた視線でコリオを見るのはドリル(
gb2538)だった。
「そもそも差し入れなんかする酔狂な女って誰?」
ドリルは『差し入れをする女』の存在が気になるようだ。でも確かに能力者達は気になっているのだろう。差し入れをするという事は少なくとも好意を持っているという事なのだから。
「コリオ氏は見ている分には楽しいんですけどね‥‥」
神無月 るな(
ga9580)がコリオを見ながら呟く。確かに『自分と関係ない位置』から見ている分には楽しいのだけれど『自分も巻き込まれる位置』にいる場合は迷惑極まりないのだろう。
「それではぁ、コリオさんの恋路を邪魔するキメラを倒しに行きましょうかぁ」
門鞍が呟き、能力者達はコリオを『運命の恋人』に会わせる為にキメラが潜む森へと向かい始めたのだった‥‥。
〜深淵の森、潜むキメラ〜
今回の能力者達はコリオの身を守る為とキメラを無事に退治する為に班を二つに分ける事にした。
キメラとの戦闘を担当するのはオーガン、ロック、立浪、文月、カルマの5人。
そしてコリオの護衛――もとい監視役として神無月、ドリル、門鞍の3人。
戦闘班が先を行き、護衛班が後からついていくという方法で森の中を探索することになっていた。もちろん護衛班がキメラに襲われる事も考えられるので攻撃班はすぐに対処できるように警戒を強めていた。
「‥‥罠とかはないみたいだな」
ロックが『探査の眼』を使用して待ち伏せや罠などに警戒を強めるが、何も感じられない事から狼型キメラが罠を仕掛けていたり、待ち伏せをしている事はないのだろう。
「大丈夫さ! 僕がキメラなんてやっつけてあげるから! ははははははっ!」
コリオがけたたましい声で叫ぶ。武器を持とうが彼がキメラに敵うはずもないだが、説明しても理解しそうにないので誰も説明するものはいなかった。
「そういえば、差し入れの女と何処で知り合ったんだ? 何処まで進展しているんだよ、ここにいる傭兵より可愛いのか?」
ドリルが気になる事を一気に話す。するとコリオは「彼女とは僕の秘密の訓練所で知り合ったんだ」と照れたように言葉を返してくる。
「毎週木曜日なんだけど、僕の訓練所に差し入れを持ってきてくれて恥ずかしそうに去っていくんだよ! あれはもう僕に惚れていると確信したんだ!」
「そ、そうか‥‥とりあえず茶でも飲んで落ち着きなよ」
ドリルが『緑茶』をコリオに渡しながら話すと「はっ! まさかキミも僕に!?」と盛大な勘違いをし始める。
「いや、それはないですから」
即答でドリルは答え「ちぇ」とコリオは口を尖らせて面白くなさそうに呟いた。
「それにしても凄いですね? こんなに重そうな槍を扱えるようになるなんて‥‥カッコイイです」
コリオの武器を取り上げるために神無月が褒め言葉をコリオに投げかける。
「はっ! 今度こそ僕に惚れてしまったのか! でも僕には運命の恋人が!」
「それはないですから安心してください」
神無月も冷静に即答で言葉を返し、コリオは少し落ち込んでいるようだ。少し可哀想かとも思ったのだがここで『えぇ、惚れました』なんて言った日にはもう凄まじい毎日が待っているようで神無月は言うことが出来なかったのだ。
「それにしてもイイ槍じゃねぇか。それくらいのモンがありゃおいらもモテモテかねぇ」
オーガンが褒めるように言うと「そうだろう、そうだろう」と得意げに言葉を返してくる。
「な、ちょいと貸してくれよぅ」
褒めたところでオーガンが武器没収の作戦に出るが「いくらオーガン君でもこれは貸せないよ」とコリオは槍を渡そうとはしなかった。
「これがなければキメラと戦えないじゃないか、もしオーガン君に渡している間にキメラが現れたら僕は戦えなくなるからね」
用心深いな、オーガンは苦笑しつつ「そうかい」と言って次の手を考え始める。
「そういえば俺もキメラとの戦闘では槍をメインにして戦っているんだけど、そのままでいいから槍を見せてくれないか?」
カルマがコリオに話しかけると「それならいいよ」と言って槍を見せる。
「へぇ、こういう槍もあるんだな。きっと名人が作ったものに間違いないだろう。この刃の輝き、俺の槍よりも素晴らしいかもな」
カルマの褒め言葉に気分を良くしたのか「やっぱり僕が持つ武器はこういったものでないとね」と笑いながら言葉を返す。
そして次の瞬間、オーガンに押さえつけられてドリルとカルマによって槍ごと簀巻きにされていた。
「ええええええっ! ちょっ‥‥一体何なんだい! これじゃ僕が戦えないじゃないか! ちょっと!」
ばたばたと暴れようとするコリオだったが、きつく巻かれているのでビクともしない。
「素人が下手に手を出すんじゃない。戦闘のプロである俺らに任せな」
ロックがごろごろと転がろうとしているコリオに話しかけるが、当の本人の耳には届いていない。
は〜な〜せ〜とか僕の恋路を邪魔するのか〜とか喚いているが気にせずドリルは更にきつく縛る。
「大船に乗った気でいな、あんたに活躍されちゃこっちの報酬にならないからね」
ドリルが宥めようと言葉をかけるが「キミたちこそ大船に乗った気で僕に任せるといいよ」と言葉を返してきた。
ちなみにコリオに任せると『大船』どころか『泥船』になって沈没確実になりそうな気がするのは気のせいだろうか。
「ご自分で倒したい気持ちは分かりますがぁ、ここは私達に任せてくださいぃ。私達は貴方の恋のキューピッドなんですからねぇ」
門鞍が簀巻きにされているコリオに向けて言うが、簡単に諦める彼でもない。
「コリオさんが激しく喚きたてるので、向こうから威嚇してくる狼さんがいるんですけど‥‥」
文月が苦笑しながら少し離れた場所を指差す。するとそこには標的である『狼型のキメラ』が此方を見て唸り、威嚇をしてきていた。
「それでは、頑張ってキメラを倒しましょうかぁ」
門鞍は呟くと同時に『練成強化』を使用して能力者達の武器を強化して『練成弱体』ではキメラの防御力を低下させる。
「ま、これで大丈夫だろ。後は任せるぜぃ!」
オーガンは簀巻きにされたコリオを見て呟くと、狼型キメラに向けて走り出した。
「人の恋路を邪魔する奴は、馬だろうが狼だろうが許せないぜ」
ロックは武器を『ギュイター』に持ち替えて狼型キメラに向けて発砲する。射撃が終わると同時に立浪が『壱式』で狼型キメラに攻撃を仕掛ける。
しかし狼型キメラは攻撃を受けながらも後衛にいるコリオを含めた4人の方へ向かって走り出した。後ろにいることで『弱点』とでもみなしたのだろうか。
「おっと、ここは通しませんよ」
文月は呟き『竜の瞳』と『竜の咆哮』のスキルを使用して『月詠』を構えて攻撃を行う。だが狼型キメラの動きは止まらず神無月が『サーベル』を持って狼型キメラの爪を防御して、素早く『ショットガン』に持ち替え『強弾撃』を二連続で使用して狼型キメラを攻撃する。
「そっちはアンタが行く場所じゃないよ」
立浪が『壱式』で攻撃を行い、その後にオーガンが攻撃を受けたことで少し動きが鈍くなっている狼型キメラを担ぎ上げる。
「とぉぉらぁ! おいらは人しか投げられないそんじょそこらのやつとは違うぜぃ!」
オーガンが狼型キメラを攻撃班の方へ投げつけると同時に足元を素早く転がる物体に気がついた。
「僕も戦うんだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
簀巻きにされてなお『戦う』という意思を持ったコリオが転がりながら狼型キメラに向かって猛進していく。
「何してるんだ! アンタはああああっ!」
能力者達が呆気に取られている中、ドリルが簀巻きコリオに追いついて足で止める。多少乱暴なやり方だとは彼女自身も分かっていたが、コリオが狼型キメラに猛進していって攻撃を受けるよりマシだと考えたのだ。
「‥‥何でもアリなんか、アイツは‥‥」
ロックがあまりの出来事に動きを止めていたが、ハッと我に返って『エクリュの爪』で狼型キメラに攻撃を仕掛ける。
そして投げつけられてきた狼型キメラに総攻撃を仕掛けて、能力者達は無事にキメラを退治する事に成功したのだった‥‥。
「僕の特訓は何だったんだーーーーーい!」
コリオの大きな奇声の中で。
〜今度こそハッピーエンド? いえいえ、そんなに甘くありません〜
「そんなにぃ、気を落とさないでくださいぃ。今度こそはぁ、両思いになれるといいですねぇ」
門鞍が落ち込んでいるコリオに話しかけるが「‥‥僕の見せ場が‥‥」と不貞腐れたように呟く。
能力者達はキメラ退治の後、コリオの『運命の恋人』が差し入れを持ってきてくれる場所に向かい始めていた。
「まぁまぁ、この写真を見せれば彼女も納得しますよ」
神無月は先ほど撮った写真を見せる。それは能力者達が倒した狼型キメラをコリオに片足で踏ませて、地面に槍を刺して『いかにも僕が倒した』という写真を撮っていたのだ。
「そうかなぁ、僕をカッコイイって思ってくれるかなぁ‥‥」
写真を見ながら怪しげな笑みを浮かべ、コリオが呟く。周りの能力者達はソレを見ていっそうコリオに関わりたくないと思ったとか。
しかし何やらまわりの雰囲気がよろしくない。
『不法投棄はやめてください』
『ここにゴミを捨ててはいけません』
『不法投棄は犯罪です』
このような看板があちらこちらに目立つように立っている。
「あ! 彼女がいた! 僕はちょっと行ってくるね!」
コリオは叫んで『彼女』に向かって走り出す。
その場所を見て能力者達は同じタイミングで「あ」と呟く。コリオが走っていった場所、そこはゴミ山のような場所で『彼女』は色々なものを袋に詰めて捨てに来ていた『不法投棄者』だったのだ。
「コリオさんへの差し入れ‥‥あれは差し入れではなくて――――ゴミ?」
文月が「まさか」と言うような口調で呟く。そう思いたくはないのだが『彼女』が持っている袋は明らかにゴミ袋ではないものの中身は確りとゴミだらけだ。
しかもコリオを見て「きゃああ! またアンタなの!」と叫んでゴミをコリオに向けて投げて去っていく。
「結局ぅ、こうなってしまうんですねぇ」
門鞍はゴミ捨て場で泣き喚くコリオを見て予想していたかのように呟く。
「‥‥正直、あいつが今回だろうが次回だろうが次々回だろうが恋が実る事はないだろうけど『心の中だけでは応援』させてもらおうかな」
カルマは「関わりたくないから助言も何もしないけどな」と言葉を付け足す。
「‥‥毎回、結果は分かっているけど、一応なぁ‥‥」
オーガンも呆れたようにゴミの中に埋もれて泣くコリオを見る。
「きっと訓練が足らん! 軍隊形式トレーニングを教えてやろう」
ロックはコリオを更に鍛えるために『軍隊形式トレーニング』でコリオを鍛えると言う。
「‥‥やっぱりめんどくさい奴だ、アイツ」
立浪は呟き、疲れたようにため息を漏らした。
その後、ゴミ山から離れようとはしないコリオを何とか引っ張って本部まで連れ帰り、能力者達は報告を終えてコリオを慰めて解散したのだった‥‥。
END