タイトル:朱の更紗マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/22 03:03

●オープニング本文


ボクは戦う事に決めた。

それは誰に強制されたわけでもなくて、ボク自身が決めたこと。

全てを守りたい、全てを終わらせたい、そんな大きな事はボクは言わない――言えない。

だけど‥‥目の前で『助けて』と叫ぶ人くらいは助けられるようになりたいんだ。

※※※

目を閉じれば思い出されるあの日のこと。

まだ能力者でなかったボクは、目の前で助けを求める子供を助けることが出来なかった。

小さな手を一生懸命ボクに伸ばして、綺麗な声が枯れるほどボクに助けを求めていたのに‥‥。

あの子の死がボクを戦いの道へと進ませるキッカケとなった。

助けられなかったあの子の分まで、ボクは戦う。

友人の中には『それは偽善』と蔑む者もいたけれど、ボクはそれでも構わなかった。

戦う力を持っているのに『一般人』として守られながら生きていく――それはボク自身の心が許さなかったから。

「‥‥それにしても、遅いなぁ‥‥」

時計を見れば、待ち合わせの時間を三十分過ぎている。

「待ち合わせは――あれ? こことは逆だ! ヤバイ! 急いでいかないと新人が遅れるなんて許されない!」

ボクは慌てて本来の待ち合わせ場所まで走っていく。

すると既にボク以外の能力者達は待っていて、呆れたような視線をボクに向けていた。

「ご、ごめんなさい! 待ち合わせ場所を間違っていて‥‥ボクは更紗(さらさ)です。今回は宜しくお願いします」

ボクは頭を下げて、能力者の先輩達と共にキメラ退治へと向かい始めたのだった。


●参加者一覧

神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
レィアンス(ga2662
17歳・♂・FT
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
ナナヤ・オスター(ga8771
20歳・♂・JG
レジーノ・クリオテラス(ga9186
25歳・♂・EP
しのぶ(gb1907
16歳・♀・HD
九条・護(gb2093
15歳・♀・HD
高橋 優(gb2216
13歳・♂・DG

●リプレイ本文

〜ドジっ子能力者、更紗登場〜

「‥‥あなたが‥‥更紗さんですか? 今回は‥‥宜しくお願いしますね‥‥?」
 遅れてきた更紗を見て神無月 紫翠(ga0243)が穏やかな笑みを浮かべて話しかけた。
「はい、遅れてごめんなさい‥‥ボク、てっきりあっちかと思って‥‥」
 目の前でうな垂れたように話す少女を見て「気にしなくてもいいですよ」とナナヤ・オスター(ga8771)が言葉を返す。
「此度の依頼は宜しくお願いしますね」
 ナナヤは更紗に手を差し伸べながら「今回は頑張りましょう」と言葉を付け足しながら握手をしたのだった。
「やぁ! 俺はレジーノ・クリオテラス(ga9186)って言うんだ。宜しくね!」
 レジーノは爽やかスマイルで更紗に話しかけるが、当の更紗は別な方向に視線が向いている。その方向とは――レジーノの携帯品だった。さまざまなぬいぐるみがレジーノの携帯品に存在したからだ。
「えっと‥‥あの‥‥もしかして副業でぬいぐるみの訪問販売をしてるんですか?」
 更紗がぬいぐるみを大量に持つレジーノに問いかけると、問われたレジーノは目を何度か瞬かせてけらけらと笑い始めた。
「違うよ、それにもしそうだったとしても今から戦いの場に行くのに商品は持っていかないでしょ〜」
 まさか訪問販売に間違われるとは、と言葉を付け足してレジーノは可笑しそうに笑い続けていた。
「ボクも能力者になってから日は浅いから偉そうな事は言えませんけどね。とにかく‥‥死ぬんじゃないし」
 高橋 優(gb2216)は更紗に言葉投げかけると「‥‥ありがとう」と眉を下げて言葉を返した。その様子を高橋が更紗を困らせていると思ったのだろう。
「ちょっとユウちゃん! 変な事言って、更紗さんを困らせないでよ!?」
 しのぶ(gb1907)が高橋に少し強い口調で話しかけた。
「別に困らせてないし、変な事も言ってないし」
 高橋はため息混じりに呟く。
「そういえば聞いておきたい事があった。持ってきた武器と、ソレの使用経験は?」
 レィアンス(ga2662)が更紗に問いかけると、更紗は「弓を使うよ、クラスはスナイパーだから」と遠慮がちに言葉を返す。
「‥‥弓?」
 レィアンスが聞き返すように呟くと「はい、これです」と更紗は答えた――直後に「あぁ!」と思いだしたように更紗が大きな声を出した。
「どうしたんですか?」
 櫻杜・眞耶(ga8467)が少し驚いたように更紗に問いかけると「‥‥武器を忘れてきちゃいました‥‥」と情けない声で呟き、それを聞いた能力者達も脱力したように肩を竦めた。
「まずはショップに直行してから任務に行かなくちゃですね」
 苦笑しながら九条・護(gb2093)が呟き、能力者たちは更紗を見て大きなため息を吐く。
「それで‥‥武器の使用経験は?」
 レィアンスが先ほどと同じ問いかけを更紗に対して行う。その問いかけに対して更紗は「練習はしたけど実戦は初めてなんだ」と答えた。
「でも‥‥緊張して皆に迷惑をかけないかが心配で‥‥」
 更紗が俯きながら呟くと「大丈夫ですよ」とナナヤが言葉を返す。
「誰だって任務を遂行する際は、少なからず緊張するモノですよ。ワタシだってそうですしね」
 ナナヤの言葉に更紗は少し励まされたのか、俯いていた顔をあげて「がんばります」と短く答えた。
「それでは、問題となっているキメラを退治に向かいましょうか」
 櫻杜が呟き、能力者たちは更紗の買い物を終えた後に任務地である『山』へと向かい始めたのだった‥‥。


〜任務地到着、足手まといを抱えて戦闘開始〜

「そういえば更紗さんはどうして能力者に?」
 山の中を歩き、しのぶが更紗に問いかける。
「‥‥まだ能力者になる前に、目の前で子供が死んだんだ――それがキッカケかな、しのぶちゃんは?」
 更紗が問いかけると「私は都合が良かったからって理由で入学したから、その辺のキッカケってないんだよね。でも――」
 何度も怖い目にあって漸く戦う覚悟が出来たかも、としのぶは言葉を付け足した。
「とりあえず、今回は『出来ること』と『出来ないこと』の区別をつけられるように慣れればいいと思う」
 レィアンスが更紗に話しかける。更紗はこの中で一番の初心者、つまりは戦闘の仕方も分かっていない。もちろん更紗も訓練はしているだろうが、訓練と実戦が同じものとは限らない。戦いというものは実戦の経験を積んでこそ身になるとレィアンスは言いたいのだろう。
「キメラはどの辺にいるんでしたっけ?」
 九条が能力者達に問いかけると「目撃情報は‥‥」と櫻杜がメモを見ながら呟き始める。
 能力者達は予め情報を集めて、キメラが何処で目撃されたか、大きさはどれくらいなのかを調べていた。
「大きさも大きさだから‥‥目撃情報があるのは不幸中の幸いですよね」
 櫻杜は呟いて、情報を更紗、そして一緒に戦う仲間達に伝えていく。
「悪路とかは調べてあるし、戦闘に向いている広い場所も一応は見つけてあるし‥‥何とかなるよね」
 九条が呟くと「さて、都合よくいってくれるか‥‥」とレィアンスが小さく言葉を返した。
「まずは敵を探さないとね。さて、敵さんはどこかな〜」
 レジーノは呟くと同時に『探査の眼』を使用して、敵の罠や待ち伏せなどに警戒を強める。
「何か見つけた?」
 高橋がレジーノに問いかけると「特には。罠とかはなさそうだね――え?」と何かに気づいたようにレジーノは足を止め、すぐさま「各自避けて!」と大きな声で叫ぶ。
 能力者達は驚いたような表情を見せながらも右に避けるもの、左に避けるものと存在して上空から飛んでくる無数の羽は地面へと突き刺さった。
「ユウちゃん! 更紗さんを守りなさいよね!」
 しのぶが『アサルトライフル』を構えながら高橋に大きな声で呼びかける。
「命令されるなんて‥‥く、屈辱だし‥‥だけど――分かってるし!」
 更紗に向いている羽を高橋が『バックラー』を使用して防ぐ。
「あ、ありがとう」
 更紗がお礼を言うと「‥‥しのぶが守れって命令するからだし。ボクが好きでやったわけじゃないし」と素直じゃない言葉を返してきた。
「空中の敵は――当てづらいんですよね‥‥」
 神無月がため息混じりに呟き長弓『黒蝶』を構えては現れたキメラ『ハーピィ』に攻撃を仕掛けた。もちろん本気ではなく、予め決めていた場所へ誘導するための牽制攻撃だ。
「飛んでいるから厄介だな‥‥」
 レィアンスは『蛍火』を構え、段々と誘導されていくハーピィを見ながら呟く。射撃でハーピィに攻撃を出来るものは牽制攻撃を行い、接近戦を行うものは先に誘導地点まで行き、射撃班がハーピィを打ち落としたところで本格的に戦闘を開始する作戦だった。
「‥‥あ‥‥あ‥‥」
 能力者達がハーピィを退治する為に動く中、更紗はただ弓を抱きしめて立つことしか出来なかった。怖いという感情はとうに超えていた。この場から逃げ出したい――そんな気持ちさえ更紗の中に渦巻いていたのだ。
 そんな更紗にハーピィが気づいたのだろう、羽の攻撃を更紗に向けて行う。
「――――ひっ‥‥」
 更紗が声にならない悲鳴を上げると同時に身体に伝わってくる痛みに表情を歪めた。だけどその痛みはハーピィからの攻撃からではなく、仲間である櫻杜からの攻撃だった。櫻杜に蹴り飛ばされたおかげで更紗はハーピィの攻撃を受ける事はなかったが、やはり痛いことに代わりはない。
「ここは公園でも教室でもないのよ。戦えないなら大人しく下がっていなさい!」
 櫻杜のきつい言葉に更紗はビクリと肩を震わせる。そして弓を構えて震える手で矢を放つ。
「これは銃の場合ですけど‥‥なるべく相手を見て、隙を見せた時に撃つ。そうやって確実に当てるようにした方がいいと思いますよ」
 震える更紗にナナヤが優しく言葉をかける。
「でも無理はしないで、今回はちょっと見ていた方がいいかもね! あ、もちろん悪い意味とかじゃないから!」
 レジーノが『ショットガン』でハーピィに攻撃を行いながら更紗に話しかける。
 そして射撃班の能力者達はハーピィを目的の場所まで誘導して、本格的に攻撃を仕掛けることとなる。
「空中の敵は当てづらいか? やりづらいが逃がすかよ! お前には地上への撃墜旅を送ってやる」
 神無月は長弓『黒蝶』でハーピィの翼を狙いながら攻撃を行い、叫ぶ。神無月の攻撃を受けて一瞬の隙が出来たのを見逃さなかったナナヤは『影撃ち』と『強弾撃』を使用してハーピィに攻撃を行った。
「そろそろ落ちてきなさい!」
 しのぶは叫びながら『竜の息』と『竜の瞳』を使用して『アサルトライフル』で攻撃を行い、九条も間髪要れずに小銃『ブラッディローズ』で攻撃を行う。流石に連続での攻撃を避けることは出来なかったのか、ハーピィの体が大きくぐらつき、接近戦で戦う能力者たちが攻撃できる範囲まで落ちてきた。
「二度とお前が空を飛ぶ事はないし」
 高橋が短く、そして冷たく呟くと『竜の翼』でハーピィとの距離を詰めて『竜の爪』を使用して『エンリル』で攻撃を行い、ハーピィの翼を切り裂いたのだった。
 そしてレィアンスが『流し斬り』と『紅蓮衝撃』を使用してハーピィが落下する場面を狙って攻撃を行う。レィアンスの攻撃をハーピィは避けようとしたのだが、櫻杜が背中から『蛍火』でハーピィを貫き「‥‥動いていいとは言ってないわ」と冷たい口調で呟いて見せた。
「よっと‥‥」
 レジーノも『ヴィア』を振り上げてハーピィに攻撃を行う。
「そろそろ終わりにしよう! 全力ぅ! 全壊っっ!」
 しのぶは叫んで『竜の爪』を使用しながらハーピィに攻撃を仕掛ける。
 そしてしのぶの『アサルトライフル』九条の小銃『ブラッディーローズ』――そして更紗の弓の援護を受けてレィアンス、櫻杜、レジーノ、高橋がハーピィに総攻撃を仕掛けて、能力者達は見事キメラを倒したのだった‥‥。


〜初任務を終えて〜

「で、どうだ? 初任務の感想は」
 キメラを倒した後、レィアンスが更紗に問いかける。問われた更紗は暫く考えて「怖かった」と短く言葉を返してきた。
「‥‥もっと、簡単に出来るものだと思ってた‥‥いや、思っていたというより甘くみていたんだと思う‥‥」
 更紗は拳を強く握り締めて「‥‥こんなんじゃ‥‥」と俯きながら言葉を零す。
「こんなんじゃ‥‥ボクは何も守れない‥‥自分すら守れないんだから‥‥」
 更紗の言葉に能力者達は互いの顔を見合わせる。
「戦場で甘えや思慮の浅さは死傷を招きます。今の貴女は己の身を守る以前の問題ですね」
 櫻杜が更紗の悪いところをハッキリと伝える。
「偉そうなことは言えないけど‥‥自分が相手になったつもりで考えて、やられて嫌なタイミングに嫌な事を、全てをしようをするのではなく自分に出来ること、味方の行動を阻止しないように――これに気をつければ大丈夫なんじゃないかとボクは思うよ」
 九条が更紗を慰めるように話しかけると「‥‥うん、次からは気をつける」と更紗は元気のない声で言葉を返した。
「‥‥少しでも役に立ちたかった‥‥だけど頑張りが足りなかったんだね」
 更紗の言葉に「それは違うし」と高橋が言葉を返す。
「‥‥アンタも能力者だし。色々と役に立ちたいだろうけど‥‥無茶はダメだし」
 高橋は呟く。彼は更紗が能力者になったからには『何かしたい』という気持ちがあるだろうし、それを尊重したいとも考えていた。
 もちろん彼の性格上、それを素直には口に出せないのだけれど。
「それじゃ、キメラも無事に倒せましたし、戻りましょうか」
 ナナヤが能力者達に声をかけて、報告を行うために本部へと帰還していく。帰還途中、更紗は今日のことを忘れないようにメモに書きとめ、次は今日より役に立ってみせると心に誓うのだった‥‥。


END