タイトル:童子の子守唄マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/29 03:41

●オープニング本文


その森の中には子守唄が響き渡る。

歌うのは――手まりを持った童女‥‥。

※※※

「森の中の子守唄? 不気味ねぇ‥‥」

任務の資料を見ながら女性能力者が呟く。

「子守唄? 何だそれ」

男性能力者が資料を覗き込みながら女性能力者に問いかけると「ね〜んね〜んころ〜り〜よ〜‥‥」と鼻歌のように歌い始めた。

「この歌よ、これを歌っているキメラがいるんだってさ」

資料を見せながら女性能力者が呟くと「あ、この歌なら知ってる」と男性能力者も言葉を返した。

「発見されているのは童女のキメラ、手まりを持った不気味なキメラ――近隣住人の報告によるとこんなところね‥‥」

女性能力者が呟き、その後に俯きながら「能力者も死亡者が出てるのよね」と言葉を付け足した。

「能力者が?」

「何か持っている手まりを使って攻撃をしてくるみたいなんだけど――生き残った人がいないから詳しくは分からないのよね‥‥」

資料には近隣住民が撮ったであろう写真が同封されており、おかっぱ頭で赤い手まりを持ち、不気味に笑む姿が映っていたのだった‥‥。

●参加者一覧

鳳 湊(ga0109
20歳・♀・SN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
神無月 るな(ga9580
16歳・♀・SN
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
水枷 冬花(gb2360
16歳・♀・GP

●リプレイ本文

〜童女キメラを倒すために〜

「皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥‥」
 作戦開始前、終夜・無月(ga3084)が今回の作戦が無事に終わるよう祈りを込めながら小さく呟いた。
 今回は童女の姿をしたキメラの討伐任務であり、七人の能力者達が集まった。
「子守唄‥‥永眠の方は勘弁願いたいわね」
 緋室 神音(ga3576)が資料を見ながら呟く。今回のキメラは森の中に潜んでおり、子守唄を歌い、手まりを持つという不気味な少女型キメラなのだと資料には書かれていた。
「子守唄‥‥昔、隣家の少女が赤ん坊に歌って聞かせるのを聞いた事があるくらいだな」
 アンジェリナ(ga6940)が昔のことを思い出しながら話すと「外見は少女、ですか」と神無月 るな(ga9580)が資料に目を通しながら呟く。
「ふむ‥‥見た目で判断すると痛い目を見そうですね」
 神無月が言葉を付け足すと「鞠にも何かあるかもしれませんね」と櫻杜・眞耶(ga8467)が言葉を返した。
「確かに‥‥資料にも『手まりには気をつけるように』とありますね」
 白雪(gb2228)が呟く。
「キメラの子守唄にも催眠効果などがあるかもしれませんから、これを用意してきました」
 水枷 冬花(gb2360)が人数分の耳栓を能力者達に見せながら呟いた。
「耳栓程度でも無いよりはマシでしょう」
 水枷は耳栓を能力者達に渡しながら話す。確かに何もないよりはマシだと考えた能力者達は耳栓を受け取り、作戦の確認を行い、童女キメラが待ち受ける森へと出発したのだった。


〜子守唄が誘う先は‥‥〜

「ここ、ですね」
 神無月が森の前に立ちながら呟く。森は木々が生い茂っており、昼間だと言うのに薄暗ささえ感じられた。
「そこにはキメラがいるから近寄らないほうがいいよ」
 森の中へと入ろうとした時、背後から少年の声が聞こえ、能力者達は後ろを振り向く。そこには、左手に買い物袋を提げた十歳くらいの少年が立っていた。
「誰かが森の中に入ると、歌声が聞こえ始めるんだ、おっかないキメラがいるって母ちゃんが言ってたから近寄らない方がいいよ」
「俺達はその『おっかないキメラ』を退治する為に来たんだよ」
 終夜が少年に話しかけると「兄ちゃん達、能力者か」と少年は能力者達を見上げながら言葉を返してくる。
「俺達も遊び場所が減って困ってるんだよ、早く退治しておくれよ」
「そうだな、ちなみにキメラについて何か知っている事はないか?」
 アンジェリナが問いかけると「鞠に攻撃はするなって前に来た能力者の兄ちゃんは言ってたよ」と少年は思い出したように言葉を返してきた。
「‥‥鞠に攻撃はするな――? どういう意味かしら‥‥」
 水枷が口元に手を置きながら呟く。
「俺が知ってるのはこのくらい。じゃあちゃんと退治してくれよな!」
 そう言葉を残して少年は走りながら「頑張れよ!」と叫び、能力者達の前から姿を消したのだった。
「‥‥攻撃をすると何らかの効果を示してくるという事でしょうか」
 白雪が首を傾げながら小さく呟く。前に童女キメラと対峙した能力者が残した言葉ならば、自分達も気をつけなくてはならない――白雪は心の中で呟く。
「何にせよ、本人と対峙してみない事には何も言えませんね。先読みしすぎてもいけませんし‥‥」
 櫻杜が呟くと「そうね、それでは行きましょうか」と緋室が森の中に入るように促し、能力者達は童女キメラが潜む森へと足を踏み入れたのだった。

 森の中に入ると、歌声のようなものが能力者達の耳を掠める。微かにしか聞こえないので、まだ童女キメラは離れた場所にいるのだろう。
 能力者達は前衛と後衛に班を分けて、離れすぎないように童女キメラを捜索していく。
「‥‥子供型のキメラ‥‥嫌な相手ね‥‥」
 白雪は覚醒を行い、今回のキメラを想像してため息混じりに呟く。彼女はキメラといえど『子供の姿をした相手』に攻撃を行う事に躊躇いを感じるのだろう。
「でも倒さなくちゃ被害は増えるだけだわ」
 緋室が白雪に言葉を返すと「分かっているわ、でも‥‥中々、ね」と白雪は俯きながら呟く。頭では分かっていても、気持ちの整理がつかないという事なのだろうか。
「‥‥でも、そろそろ近いみたいですね――耳栓をしていても歌が聞こえますから」
 水枷が呟き、能力者達も耳を澄ませると確かに子守唄がゆっくりとしたテンポで聞こえてくる。
「‥‥あれ、ですか」
 木々を避けながら歩いていくと、赤い着物姿の童女が手まりを持ちながら子守唄を歌っている。森の静寂さと童女の子守唄、どこか不気味なものを感じずにはいられなかった。
「生憎‥‥子守唄を聞いている心境ではないのですよ」
 終夜は『フォルトゥナ・マヨールー』で童女キメラ目掛けて攻撃を行う。
 もちろん『鞠を攻撃するな』という言葉を忘れているわけではないので、直接当てるのではなく、牽制攻撃として行動を行った。
「鞠は此方に任せて‥‥キメラは任せたからね」
 白雪が『蛍火』を構えながら他の能力者達に話しかける。前衛の白雪、アンジェリナ、櫻杜、水枷、緋室、終夜が鞠を担当して、後衛である神無月が童女キメラ本体を担当する事になっていた。
 だけど神無月一人では危険という事もあり、それぞれが臨機応変に行動を行う事に急遽変更をした。
「うふふ、貴女の相手は私ですよ」
 神無月は『サーベル』を構えて童女キメラに攻撃を仕掛ける。童女キメラは神無月の攻撃を避けたが、手鞠を遠くに投げて離してしまう。
「手鞠がそちらに行きました!」
 神無月が前衛班の能力者達に向けて叫び、後ろを向く。
 だが、その一瞬の隙を突いて童女型キメラが神無月に攻撃を仕掛けてくる。
「え――っ」
 神無月は『サーベル』で童女キメラの攻撃を受け流したが、背後から何かがぶつかる鈍痛に表情を歪める。何が当たったのかと神無月は視線だけを動かして足元に落ちた『モノ』を見る。
 すると、それは先ほど童女キメラが遠くに投げ放った手鞠だった。
「手鞠‥‥? 何故‥‥」
 神無月が疑問を表情に出して呟くと、童女キメラの指と手まりを繋ぐきらりとしたものを見つける。
「‥‥極細のワイヤー、それで手まりを自在に操っているのですか」
 神無月が呟くと、童女キメラは『にたり』と気味の悪い笑みを浮かべて、手まりを操ろうと再び手を動かした時に童女キメラの背後から終夜が『月詠』を振り下ろす。
「大人しくしてもらいますよ」
 終夜は呟くと一歩下がり『フォルトゥナ・マヨールー』を構える。彼の攻撃を察知した神無月も童女キメラから離れ、彼女が離れたのを確認すると終夜は攻撃を行う。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 瞳を閉じながら緋室が覚醒を行い『月詠』を構えて、目を見開く。
「夢幻の如く、血桜と散れ――剣技・桜花幻影(ミラージュブレイド)」
 緋室は『月詠』を振り上げ『紅蓮衝撃』と『急所突き』を使用して童女キメラに攻撃を行い、一歩下がり『二段撃』で再び攻撃を行う。
 終夜の攻撃が一時終了した時、アンジェリナが『蛍火』を構えて童女キメラへと走り出す。
「その命‥‥黒染めの桜と散らせ――朱桜・捌型【八重】――」
 アンジェリナは『豪破斬撃』『紅蓮衝撃』『流し斬り』を使用して童女キメラに攻撃を行う。
「糸を切れれば――と思いましたが‥‥無理なようですね」
 櫻杜が舌打ち混じりに呟き『蛍火』に手鞠と童女キメラとを繋ぐ糸とを絡め取る。
「何も切るだけが動きを封じるだけではありませんよ」
 櫻杜が糸を絡め取っていれば、少なくとも手鞠の動きは封じる事が出来る。童女キメラは糸から手を離し、櫻杜に直接攻撃を仕掛けようとしたが「うふふ‥‥油断したわね」と神無月が不敵に笑む。
 そして『強弾撃』を童女キメラに至近距離で使用する。
「さぁ、お遊びの時間は終わり‥‥大人しく眠りなさい」
 神無月は冷たく呟き、再び『強弾撃』を使用する。
「‥‥悪いけど、貴女そのままだとろくな事しそうにないから」
 白雪は呟くと『真デヴァステイター』を構えて童女キメラの利き腕と両足を攻撃して、まともに動けないようにする。
「これで最後‥‥」
 水枷が攻撃を行おうとした時に、童女キメラは子守唄を歌い、能力者達は体が重くなるのを感じる。
「なっ‥‥」
 突然の出来事に水枷は『月詠』を地面へと落としてしまう。
「これは――恐らく歌のせいだな‥‥」
 アンジェリナも苦渋の表情を見せながら呟く。能力者達の動きが鈍っている間に童女キメラは絡まっている櫻杜の武器を糸から解き、余裕の表情すらも見せて手鞠を持つ。
「‥‥このままじゃ‥‥」
 白雪が呟き『真デヴァステイター』で童女キメラを攻撃する。白雪の攻撃は童女キメラの手を撃ちぬき、童女キメラは手鞠を落とし、歌も止む。
 その一瞬の隙を見逃さぬように水枷は『月詠』を振り上げて童女キメラの胴体を貫く。
「‥‥大人しく、眠ってちょうだい」
 水枷の呟きと共に童女キメラの心臓を突き刺す。
 ごほ、と童女キメラは血を吐きながらも笑い、残る力を振り絞って手鞠を殴りつける。
 それと同時に爆発音のようなものが辺りに響き渡る。
 幸いにも童女キメラの笑みを不信に思った能力者達は慌てて後ろへとそれぞれ下がる。
「まさか爆発だなんて‥‥スイッチでもあったのでしょうか」
 櫻杜が小さく呟く。
 童女キメラが持つ手鞠の爆発は範囲も効果も大きいものではなかったが、近くにいたらそれなりのダメージを受けていたことだろう。


〜童女キメラが去りし、静寂を取り戻した森の中で〜

 無事に戦闘が終わった後、爆発によって形も残らなかった童女キメラを見て、終夜が小さく呟く。
「子に捧ぐはずの子守唄‥‥人の入らぬ森の中で響かせ‥‥あの童女は何を望んでいたのか‥‥」
 終夜は少し複雑そうな表情で呟き、瞳を伏せる。
「――子供が大人に子守唄を聞かせるとは‥‥本末転倒もいい所だ」
 アンジェリナは呟き、刀についた血を払い落とすように勢い良く振る。
「せめて、他の遊び歌の一つでも覚えてから出直してきなさい」
 櫻杜は呟きながら、童女キメラへの鎮魂歌代わりに手鞠歌を口ずさむ。
「‥‥キメラとはいえ守るべき者の姿を倒すのは辛いですね‥‥」
 神無月が少し眉を寄せながら呟く。本来、子供だけではないが弱き者を守る為の能力者。だけどバグアの要らぬ知恵により、倒すべき敵が守るべき者の姿で現れる。
 それはとても悲しいことだ、と神無月は言葉を付け足して呟いた。
「‥‥次はキメラとしてではなく、人として生まれてきてね」
 届かぬ声だと白雪は分かっていたが、今は亡き童女キメラに言わずにはいられなかった。
「それでは、戻りましょうか」
 水枷が呟き、能力者達も首を縦に振る。
 その後、簡単な片付けを行い、任務の報告を行うために本部へと帰還していったのだった。


END