●リプレイ本文
〜出発前に‥‥〜
「ふーん‥‥わりとあっさりとしたやり方ね」
斑鳩・眩(
ga1433)が資料を見ながら小さく呟く。
今回の敵とされるキメラは、はっきりとした目撃情報がなく全く外見などが分からない状況にあった。資料を見る限り、被害者に共通してあるのは『鋭利なもので貫かれた跡』があるという事。
「姿もハッキリと分からないキメラですか‥‥少々厄介ですね‥‥ですが、これ以上の犠牲者は出させません」
加賀 弓(
ga8749)が自身の武器である『鬼蛍』を握り締めながら小さく呟く。
「森の中に出るという影かぁ‥‥確かに厄介そうな相手だよね。強いて言うなら『シャドウ』って感じかな?」
ちと警戒していかないとヤバそう‥‥と言葉を付け足しながら呟くのはブラスト・レナス(
gb2116)だった。それを聞いてディッツァー・ライ(
gb2224)が「気にいらねぇ」と短く呟く。
「何がですか?」
千光寺 巴(
ga1247)がディッツァーに問いかけると「やり方だよ」と彼は言葉を返す。
「‥‥辻斬りとは、どうも気に入らないな」
ため息混じりに呟くと「そうですね、確かに‥‥」と千光寺も賛同するように言葉を返した。
「こんにちは、また一緒の依頼になりましたね」
美環 響(
gb2863)がディッツァーに丁寧に頭を下げながら話しかける。
「よう、響。また一緒の任務だな。今回も世話になるが、宜しく頼む」
ディッツァーが言葉を返すと「こちらこそ、頼りにさせてもらいますよ」と美環は微笑みながら答えた。
「とりあえず、問題の森に行く前に町に寄って被害者から話を聞いた方がいいだろうな。注意すべき所があれば戦闘に生かせるだろうし」
愛輝(
ga3159)が呟くと「そやね」と桐生 水面(
gb0679)が言葉を返した。
「それにうちらが森に入っている間、一般人は立ち入り禁止にしてもらえたらええな。そっちの方がうちらも安心して戦えるし」
桐生が呟き、能力者達は森へ行く前にまず被害者が多数存在する町へと向けて出発し始めたのだった。
〜ひっそりと静まった町、怯える住人達〜
問題の町はひっそりとしていて、何処か不気味ささえ感じるほどだった。きっとキメラ事件の事が町の住人達にさえも影を落としているからだろう。
「何か‥‥お世辞にも良い雰囲気とは言えないですね‥‥」
千光寺が町を見渡しながら苦笑気味に呟く。それはどの能力者も心の中で思っている事だった。
「確か死者が一人、重軽傷者が十数名‥‥キメラの被害としては少ないと見るか、多いと見るか‥‥いえ、多い少ないの問題ではないですね」
加賀が言葉を訂正しながら、話を聞けそうな人を探し始める。
「まぁ、キメラに襲われて無事な人の方が多いんやし、余り力は強くないキメラなんやね。うちの好きな森をこれ以上惨劇の舞台にするわけにはいかんし、敵は必ず倒すで」
その為にも情報収集や、桐生が呟きながら近くの家のインターホンを鳴らす。
すると、家の中からは中年の女性が「どちら様ですか」と言って顔を覗かせた。
「この町の近くで問題視されているキメラを退治にやってきた能力者だ。資料だけじゃ心許ないから、被害者から話を聞かせてもらおうと思って‥‥」
愛輝が中年女性に説明をすると「立ち話もなんだし、中にお入りよ」と中年女性は能力者達に家の中に入るように促す。
「え?」
美環がきょとんとした表情で呟くと「私も犠牲者の一人だ、話は出来るだろう?」と中年女性は言葉を返してきた。能力者達は互いに顔を見合わせ、促されるままに家の中へと入った。
「薄暗い森の中での出来事だったからね、私も外見とかをハッキリと見たわけじゃないんだ」
中年女性は左腕に巻かれていた包帯を取って、能力者達に傷を見せる。腕には痛々しく小さな青痣のようなものが幾つもあった。
「‥‥それは‥‥貫かれた跡、ですか」
千光寺が傷口を見ながら小さく呟く。遠目に見たら痣がぽつぽつとあるように見えたが、近くで見ると、それは貫通するほどではないが刺し傷なのだという事がよく分かる。
「森の中で変な音を聞いたんだよ、ザザザって木々が揺れるような音を。その直後にはもう腕に傷を負っていたんだ。命からがら逃げて、後ろを振り返った時に見えたのは‥‥暗闇の中で不気味に光る赤い瞳のようなものが‥‥」
中年女性はその時の事を思い出したのだろう、身体を少しだけ震わせながら呟いていた。
「恐らく他の人も同じことを言うだろうね、私も聞いてみたけど、他に特徴のある事を言っている人がいなかったから」
中年女性は「あんまり力になれなくてすまないね‥‥」と申し訳なさそうに能力者達に謝った。
「いや、気にしないでくれ。キメラはちゃんと倒してみせるから、一般人が森の中に入らないように‥‥出来るか?」
ディッツァーが中年女性に話しかけると「それなら、私から皆に伝えておこう。小さな町だし、すぐに皆に話が行き渡るさ」と中年女性は言葉を返してきた。
能力者達は『森への進入禁止』は中年女性に任せて、自分たちは退治最優先で行うこと――つまりキメラ退治を行う為に森へと向かい始めたのだった。
〜キメラ退治開始・赤き瞳の影〜
今回の能力者達は、迅速に任務を行う為に班を二つに分けて行動することにしていた。
A班・美環、ブラスト、加賀、愛輝の四人。
B班・千光寺、桐生、斑鳩、ディッツァーの四人。
最終的にはキメラを囲むような形で戦闘するのを理想としているが、まずはキメラを見つけない事には何も始まらない。
だから班を分けて、少しでも早くキメラを発見しようと能力者達は考えていた。
「それじゃ、キメラをさっさと見つけて、さくっと倒しちゃいましょ」
ブラストが呟き、能力者達は同じ班を組んでいる能力者同士で行動を開始し始めたのだった。
※A班※
班を分けて行動――とは言うけれど二つの班は『トランシーバー』で連絡を行いながら、すぐに合流できる位置を保つように行動をしていた。
「結構、枝とかが邪魔になるな‥‥」
愛輝が木の枝を払いながら小さく呟く。彼は『方位磁石』を使用しながら、森の中で迷わないように、そして木や足元の影などに警戒しながら動いている。
「森の中じゃバイクも出来ないしねー‥‥」
AU−KVを着込みながら呟くのはブラスト、彼女も足元の影などに気をつけながらゆっくりと進んでいた。ブラストは必ず敵は『不意打ち』を狙って攻撃してくると考えていて、自分への、そして仲間への不意打ち攻撃も警戒していた。
「どのようなキメラなのでしょうね‥‥これだけ暴れて目撃情報も殆どないとなると、油断なんてしていられませんね」
加賀も周りを警戒しながら呟くと、木々が突如揺れて加賀は『鬼蛍』を構える――しかしただの風だったらしく、加賀は「ふぅ」とため息を吐いて再び警戒に戻ったのだった。
※B班※
「やれやれ、こんな影だらけの場所で『影』を探せってねぇ‥‥」
斑鳩が苦笑して、ため息を吐きながら呟く。確かに薄暗い森の中、影は至る場所にあるために、いきなり攻撃を仕掛けられても初撃はきっと受けてしまうだろう。
「まぁまぁ、うちのスキル『探査の眼』で罠とか不意打ちに備えるようにするから」
桐生が眉を下げながら笑い『探査の眼』を発動する。彼女も『影』という被害者の言葉から物陰、木々の間など全てに対して警戒を強めていた。
そして早くキメラを見つける事が出来るようにと『Good Luck』も発動している。
「人‥‥?」
ポツリと千光寺が呟き、ディッツァーが「どうした?」と問いかける。
「いえ、そこに人がいたような‥‥でも此処には今、私達以外にいないような?」
そう、先ほど会った中年女性に頼んで能力者が森の中へ入っている間は、一般人は森の中に入らないようにと頼んでいる。
もし、あの中年女性が本当に住人達に伝えてくれているのならば住人らしき一般人がこの森の中にいるはずも無い。
その時、ザザザザ‥‥と何かが抜けていくような音を能力者達は聞く。
それと同時にA班の叫ぶ声が耳に響いてきて「見つけたか!」とディッツァーが叫び、B班は急いでA班と合流する為に走り始めたのだった。
B班がA班のいる場所まで到着した時、既に何名かが負傷していた。大怪我ではないものの、不意打ちを受けたのだという事が分かり、B班の能力者はキメラに知られないように音を忍ばせながら包囲していく。
最初に攻撃を仕掛けたのは加賀で『ソニックブーム』をキメラらしき『影』へと叩きつける。木々に隠れながら素早く此方へと近寄ってきて一度攻撃を行うと後ろへ下がる。ヒット&アウェイ方式でキメラは攻撃を仕掛けてきていて、中々能力者達もキメラの動きを止める事が出来なかった。
その中で斑鳩がわざと攻撃を受けるように目立つ場所に立って、キメラからの攻撃を待つ。そして彼女の思惑通りにキメラが攻撃を行ってきたところを、斑鳩は武器となっているものを掴み『メタルナックル』で顔面に攻撃を仕掛けた。
「一撃で落とせば文句はないんでしょーよ?」
流石に素早いキメラでも捕まれて動けなくされれば、逃げる事も叶わない。
斑鳩が捕まえたおかげで見る事が出来たキメラの姿、それは全身が真っ黒の男性型キメラだった。恐らくは薄暗い森の中で相手から見つかりにくいように小細工されたキメラなのだろう。
「へえ、仕掛けが分かると意外とつまらないものね――でも、状況くらいよまないと‥‥足元すくわれますよ?」
斑鳩が不敵に呟いた後、すぐに後ろへと下がり、斑鳩と入れ替わりで千光寺が『ヴィア』と小太刀『無花果』で攻撃を仕掛けた。
「坂田流剣術‥‥斬鉄‥‥!」
千光寺は武器を振り、男性型キメラの足を目掛けて『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用しながら攻撃を行う。素早さに特化したキメラならば、その素早さの元となる足を奪えばいいのだから。
足を傷つけられながらも後ろへ逃げようとする男性型キメラに愛輝は「簡単に逃げられると思うな」と低く呟き『ルベウス』で攻撃を仕掛けた。
「お前が今まで住人達を追い掛け回して恐怖を与えた分、今日は俺たちがお前に恐怖を与えてやる」
愛輝は二撃目の攻撃を行うと、後ろへと下がる。それと同時に加賀が小銃『S−01』で男性型キメラに牽制攻撃を行い、桐生が『拳銃』で加賀と同じく牽制攻撃、そして援護射撃を行う。
しかし男性型キメラは桐生へと素早く歩み寄って持っていた細長い剣のような武器で攻撃を仕掛けようとする。
「ダメダメ、こんな攻撃じゃうちは倒せへんで」
桐生は『自身障壁』を使用して防御力を少し上昇させ、カウンターとして『イアリス』に武器を持ち替えて男性型キメラに攻撃を仕掛ける。
「攻撃ってのは‥‥こうやるんや!」
桐生が叫び、ブラストが『アサルトライフル』で男性型キメラを攻撃する。彼女は男性型キメラから攻撃を受けた場合の事を考えていて『竜の血』を発動していた。
「チマチマしたのは性に合わないが、逃げられたら厄介なんでな‥‥突きぃっ!」
ディッツァーは『先手必勝』を使用して、男性型キメラに『急所突き』を使用して攻撃を行う。
「スピードに特化したキメラとの事ですが、速さだけでは僕達は倒せませんよ」
不敵に笑みながら美環が小銃『S−01』で攻撃を行い、その間に間合いに入ったディッツァーが『流し斬り』を使用して男性型キメラに攻撃を仕掛けた。
能力者達の攻撃を受けて、男性型キメラは瀕死に陥り、自慢の素早さすらも見る影もなく、その後の能力者達の総攻撃によって男性型キメラは激しく唸りながら絶命していったのだった‥‥。
〜キメラ倒し、森に戻りし平穏〜
「紅葉を楽しめれば‥‥と思ったのですが、紅葉がないですねえ」
千光寺が苦笑しながら森の中を見渡す。
「まぁ、無事にキメラも倒せたしいいんじゃない?」
斑鳩が呟くと「そうですね」と千光寺も言葉を返した。
「俺も変わった、か」
ポツリと呟くのは愛輝だった。彼は今回の任務で能力者になって一年という時間が過ぎた事に気づき、今までの自分を振り返っていた。
恐らく誰もがだと思うけれど、最初は緊張の連続だった自分が、いつしか戦う事に慣れて武器も手足のように馴染んでいる事に気づく。
「光ある場所に、必ず影は存在する。影の存在、それは光がある証拠‥‥俺たちはこの世界に光がある事を忘れてはいけないのだろう‥‥」
小さく呟く愛輝の言葉は他の能力者に知られる事はなかった。影がバグアやキメラだとすれば、光は能力者という事になるのだろうか。
「これでこの森にも平和が戻ったって事やね、いやぁ、何よりやわ」
桐生が森を見上げながら気持ち良さそうに呟く。
「‥‥辻斬りなんざ、腐った奴のする事だぜ」
今はもう物言わぬ遺体となった男性型キメラに向けてディッツァーが小さく呟いた。
「そうですね‥‥でも――汝の魂に幸いあれ‥‥」
美環が小さく呟く。それは彼の優しさが言わさせることなのだろう。
町の住人達にキメラを倒したという事を知らせ、能力者達は本部に報告をする為に帰還していったのだった。
END