●リプレイ本文
〜運命の三女神現れ、能力者達の出陣〜
今回は、北欧神話の『ノルン三姉妹』を模したキメラが現れたと報告があり、八名の能力者がキメラを退治する為に出発する事になった。
「忍者として清く正しく美しく勧善懲悪を遂行するです! どんな奴でも僕は全力で戦うです!」
忍者=正義と言う間違った知識を持つ霧隠・孤影(
ga0019)が何処か興奮気味に拳を強く握り締めながら叫ぶように能力者達に話しかける。
「おう、頑張ろうな。三姉妹の女神と言えば、うら若い美人さんを期待するよな〜‥‥だけど現実なんてこんなモンかよ、チクショ〜〜〜!」
九条・縁(
ga8248)が嘆くように叫ぶ。浪漫探求者の彼としては『若かった頃のノルン三姉妹』に会いたかったに違いない。
「まぁ‥‥それは置いておいて。3体いるのは分かっているが、それぞれがどうかは分からないと‥‥」
月村・心(
ga8293)は「面倒だな」と言葉を付け足しながらため息を吐く。敵の居場所も何体存在するかも分かっているというのに『どんな攻撃をするか分からない』為に、キメラと遭遇しても敵の分析から始めなければならないからだ。
分析をするという事は、誰かが囮になって動くという事。任務遂行の危険度が上がるから彼はため息を吐いているのだろう。
「そういえば、現代人にはビフレスト‥‥『虹の橋』って、動物が死んだ後に天国に行く為に渡る物ってイメージが強かったりするんですよね?」
櫻杜・眞耶(
ga8467)が他の能力者達に問いかけるように呟く。
「確か虹の橋が赤いのは巨人が入ってこられぬよう、赤々とした炎が燃えている為‥‥でしたか。たかだか、炎で焼かれるようならば、戦争では神々の力もさして当てになりませんねぇ」
早坂冬馬(
gb2313)が苦笑しながら呟くと「へぇ‥‥そうなんですか」と神無月 るな(
ga9580)が呟く。
「久しぶりだな。今日はよろしく頼む」
神無月の姿に気がついたディッツァー・ライ(
gb2224)が声をかけると「此方こそ、宜しくお願いしますね」と神無月は言葉を返した。
「運命を司る神様とはバグアも色んな意味で洒落たキメラを創るもんだね」
鳳覚羅(
gb3095)が「ふ」と苦笑しながら呟いた。
今回の『ノルン三姉妹』はキメラといえど三体存在するのは確かなので、能力者達は作戦相談の際に色々な考察を行っていた。
その中でもウルドは『運命の糸を作るもの』、ヴェルダンディは『運命の糸を紡ぐもの』、スクルドは『運命の糸を断ち切るもの』という二つ名を持っている。
だから、いくら模倣されたキメラといえど三体連携を行わないという確証はないので、三人のいずれかが周辺のものを拾おうとしたり、木片を剥がそうとしたら阻止する事を能力者達は考慮していた。
何故『木片』なのかというと、神話上でウルドは『木片を創る』という事が伝えられているのだ。バグアが忠実にそれらを模倣していれば『木片』で何かを行うかもしれないと能力者達は考えていた。
「さぁーて、美人のお姉さん‥‥じゃなくてしわくちゃの婆さん達に会いに行くか。ある意味凄く天国に近いキメラかもしれねぇな」
九条が冗談めかしながら呟き、能力者達は『ノルン三姉妹』が潜む場所へと向かい始めたのだった。
〜世界樹近く、ウルドの泉にて〜
今回の能力者達は、任務遂行とノルン三姉妹を滅する為に囮役を出す事にしていた。囮役がノルン三姉妹と戦っている間に、他の能力者達は待機をして、ノルン三姉妹のそれぞれが『どんな役割を持っているか』を見極める事になる。
恐らく、その見極めが成功するか、しないかで作戦全てに影響を及ぼす事になるのだろう。
「囮終了の合図は、何処からでも分かるように『相手と間合いを取って後方に下がる』です。
「はてさて、ラグナロクといきましょうか。現在と過去と未来――運命の女神にたてついて、偉大なる神々に黄昏を――とね」
早坂が呟き、囮班は先に出発を行う。そして前衛と後衛を担当する他の能力者達も囮班に近づきすぎず、離れすぎずの距離で後ろをついていく。
森の中はキメラがいるという事で誰もいなく、能力者達は木々のざわめく森の中を進んでいく。十数分ほど歩いた頃だろうか、水音が聞こえ始め、待機班は足を止めて、囮班はノルン三姉妹の攻撃を引き出す為に行動に出た。
泉、大きくも小さくもない泉の近くでは情報通りで黒衣の老婆が此方を舐めるように見てくる。
そして霧隠は「ふぅ」と一度大きな深呼吸を行った後に『シルフィード』と『超機械剣α』を構えながらノルン三姉妹へと向かって走り出す。早坂も出遅れないように『瞬天速』で移動出来るぎりぎりまで忍び寄り『限界突破』を使用して『試作型機械刀』を振り上げる。
ノルン三姉妹の中で最初に動いたのはウルドと思われる老婆で持っていた糸玉を早坂に投げつける。そしてヴェルダンディと思われる老婆は早坂の近くまで移動して、糸玉の糸を一気に引き伸ばし、彼を拘束するために糸を巻きつけようとする。
「危ないっ」
スクルドと思われる老婆が早坂を狙って攻撃を行おうとしているのを霧隠が見つけて『シルフィード』で糸を斬る為に振り下ろすが――‥‥。
「くぅっ‥‥」
スクルドは攻撃の標的を変えて霧隠へと攻撃を行う。霧隠と早坂はそれぞれ『疾風脚』を使用して後ろへと素早く下がり、それを見た待機班が本格的に戦闘を始める為にノルン三姉妹の前へと姿を現したのだった‥‥。
「ふむ、どうやら考察は当たっていたようだね。ウルドが攻撃準備、ヴェルダンディが攻撃補助、そしてスクルドが攻撃――‥‥」
鳳が小さく呟きながら大鎌『ノトス』を構える。
しかし、ノルン三姉妹はそれぞれが攻撃役になる事も出来るようで、連携攻撃が効かないと分かると、それぞれが武器を取り出した。
そして老婆の一人がディッツァーに攻撃を仕掛けようとした所を櫻杜が『ショットガン20』で攻撃を行い、老婆の攻撃を邪魔する。
「お婆はんの姉妹なら大人しく、家の庭で茶でもシバていなっ!」
櫻杜は叫ぶと再び『ショットガン20』のトリガーを握る指に力をこめて攻撃を行う。
「やられる前にやるしかねぇ! 一か八か‥‥飛び込む!」
ディッツァーが『ウルド』に攻撃を仕掛ける為に走り出す。ウルドは櫻杜の攻撃を受けて、僅かだが行動が遅れていた。
ディッツァーは攻撃の際に『先手必勝』と『流し斬り』を使用して『蛍火』と『【OR】小太刀 厳雷』で攻撃を行った。
キメラに仲間意識があるのかどうかは定かではないが、ヴェルダンディとスクルドが攻撃を受けているウルドの方へ走り出そうとしたのだが「おおっと、行き止まりだ」と九条が割って入り込んだ――が、二人からの攻撃を受けて九条はガクリと膝をつく‥‥ように見せかけて膝立ちの状態から『クロムブレイド』で二人の老婆の足を斬る。
「くそ、婆さんの癖に力が強すぎだぜ、お前ら」
九条は『活性化』を行いながら忌々しげに呟く。彼の攻撃は相手にとって致命傷にはならなかったものの、先ほどまでのように素早く行動を出来なくさせるには十分なものだった。
「そして――この大鎌で君の命を刈り取ってあげるよ」
鳳は微笑しながら大鎌『ノトス』でスクルドに攻撃を行い、大鎌はスクルドの腹にぐさりと突き刺さる。
だが――倒れる間際にスクルドが鳳を大きく殴りつけて、鳳は少し離れた木に背中を強くぶつけてしまう。
その隙を逃さないようにヴェルダンディが痛むであろう足を引きずりながら鳳に攻撃を仕掛ける為に走り出す。
しかしヴェルダンディは鳳の所に行き着く事はなかった。物陰に隠れていた月村が『アサルトライフル』で鳳が攻撃を受ける前にヴェルダンディに射撃攻撃を行ったからだ。
そして『隠密潜行』を使用していた神無月がヴェルダンディの背後に立ち「貴方の能力はしっかりと見せてもらったわ」と小さく呟く。
最初、能力者達は『ウルドの投げた糸玉』を『ヴェルダンディが巻きつける』のかと思っていた。
だけど様子を見ていた神無月だけが『ヴェルダンディ自身が糸を持っている』という事実に気がついた。
「滅びなさいっ‥‥世界にキメラの作った運命など不要よっ!」
神無月は『強弾撃』を使用しながら『アサルトライフル』で攻撃を行い、まずは一体目のキメラ『ヴェルダンディ』を撃破した。
そして『ウルド』を担当していたディッツァーも、月村が『ゲイルナイフ』と『アーミーナイフ』に武器を持ち替えて接近攻撃へと来た事によって、ウルドとは有利な戦いを行っていた。
月村が連続で突きや斬り攻撃を行った後に、ディッツァーが攻撃を行い、櫻杜が再び月村が攻撃しやすいように射撃攻撃を行う――上手い具合に連携攻撃が出来ており、ウルドは反撃の隙を見つける事が出来なかった。
そして回復を終えた九条も戦闘に入り、ますますウルドに勝ち目のない戦いへと進んでいく。
「さて、何時もの如く叫ばせてもらうぞ! テメエら! 全員纏めて俺の経験値になれェェェェェ!!」
九条が『両断剣』を使用しながらウルドに攻撃を行い、ディッツァーも下ろしたての武器・機械剣『莫邪宝剣』へと持ち替えて攻撃を行い、ウルドを倒したのだった。
そして残る最後の老婆・スクルドの退治に取り掛かる能力者達だったが、鳳の与えたダメージで既にスクルドはふらふらと瀕死の状態だった。
そんなスクルドの様子を見て早坂は薄く笑み「いい加減、堕ちろ」と早坂は独り言のように呟き『試作型機械刀』で攻撃を行う。彼の攻撃に合わせるように霧隠が攻撃態勢を取る。
「疾風突き! シルフィードスラッシュです!」
霧隠は『疾風脚』と『急所突き』を使用しながら『シルフィード』で攻撃を行い、能力者達は無事に『ノルン三姉妹』を退治する事が出来たのだった‥‥。
〜女神去りし、泉の穏やかさは〜
ノルン三姉妹を退治した後、能力者達は帰還する前に少し休憩を行っていた。無事に倒せたとはいえ、三体ものキメラと対峙していたのだから極度の疲労感と緊張感が能力者達を襲っていた。
「伊達で死神の称号を貰っているわけじゃないんだよ」
鳳は息絶えた三人の老婆を見ながら小さな声で呟く。
「ふふん、忍者として正義の味方を貫いたのです!」
霧隠が得意気に大きな声で叫ぶと、森中に響き渡る。
「次はせめて美人、こう‥‥ボン! キュ! ボン! の美女で現れてくれ」
マジで頼むから、と九条は手を合わせてお祈りをするようにぶつぶつと呟く。
「今回のはノルンを模倣されたキメラなんだよな? 老婆の三姉妹となると、アトロポス、ラケシス、クロトのモイライ三姉妹の方が近いような気もするんだがな?」
情報不足か? と月村が首を傾げながら老婆を見下ろして呟いた。
「同じ老女神でも、ゴガはんなら少しは可愛げもあったんでしょうけど‥‥」
櫻杜が苦笑しながら呟く。しかし彼女には一つだけ心配事があった。以前も現れた神話系キメラのシギュンの時と同様にノルンを倒した連鎖によって世界樹――つまりはオーディンの出現があるのではないかと‥‥。確証も何もないので仲間達にも伝える事はしなかった。
「‥‥気にしすぎならいいのですけどね」
櫻杜がポツリと呟くと「どうかしましたか?」と神無月が話しかけてくる。
「あ、いえ。運命の女神なのに自分の運命は分からなかったんだなぁって思いまして」
櫻杜が誤魔化すように呟くと「私は、運命なんて信じません」と神無月が言葉を返す。
「‥‥人は自分の明日を自分で変えていけると信じていますから」
神無月の言葉に「そう、ですね」と櫻杜は言葉を返した。
「神々と人間の運命を司る三姉妹、か。勝手に運命を決められるのは勘弁して欲しいもんだぜ」
ディッツァーが二人の会話を聞いていたらしく、ノルン三姉妹を見ながら呟く。
「そうですね、運命――その一言で全てが決められてしまったら面白くないですし、人生も楽しくないですよ」
早坂の言葉に「その通りだな」とディッツァーが笑って言葉を返す。
「それじゃあ、そろそろ本部へ帰還しましょうか」
鳳が呟き、能力者達は被害者の家へ『キメラを退治した報告』を行い、その報告を本部にも行う為に帰還していったのだった。
END