●リプレイ本文
〜四聖獣・玄武現る〜
「玄武――ですか。相手に不足ナシですね」
雪ノ下正和(
ga0219)は資料を見ながら小さく呟いた。
今回の能力者達が退治するのは四聖獣の一角である『玄武』を模倣したキメラだった。ご丁寧に玄武の特徴が全て揃っているキメラでもあった。
「所詮は鈍感で図体のデカイだけの亀‥‥どうってことないね‥‥ま、半端な気持ちでやろうなんて思っちゃいないけどさ」
こっちも頼まれてやってる事だしねぇ、と伊流奈(
ga3880)が言葉を付け足しながら呟いた。
そしてキメラ情報が纏められている資料を見ながら「‥‥我ながら、面倒なモノを選ぶな‥‥」とヴェイン(
ga4470)がため息混じりに呟く。初任務となる彼にとって相手が玄武という事に不安があるのだろうか?
「‥‥手足がジェットになって空飛んだり‥‥お腹の甲羅が開いて火球を飛ばしたりするのかしら‥‥」
林・蘭華(
ga4703)が何処か期待しているような口調で小さく呟いた。もしそのような事が出来れば、玄武が留まっている『町の損壊が激しい』という報告が加えられているだろう。今の所、そのような報告はないので彼女の言う機能を使用する可能性は低そうだ。
「‥‥でも‥‥防御が固いなら、こちらは全力でいけるわね」
紅 アリカ(
ga8708)がポツリと呟く。玄武の防御力は四聖獣の中で一番、と本には書かれている事が多い。そんな玄武を模倣しているのだから防御力が低いわけではないだろう。
つまり、生半可な攻撃では掠り傷程度しか与えられない可能性が高い。
「玄武‥‥つまりは亀、美味しくいただけますかね」
天狼 スザク(
ga9707)がポツリと呟いた言葉に「え」と能力者達が耳を疑う。最初の頃と比べて最近では『食べられるキメラ』も少なくはないことが知れ渡っている。元を正せば亀だし、栄養もあるだろう。
ただ、それが美味しいか不味いかは分からないけれど。
「食べるのは置いといて。玄武なんて初めて見るー! 楽しみーっ♪ やっぱり甲羅に篭ったりするのかな?」
風花 澪(
gb1573)は笑顔で出発準備を行っている。
「私も楽しみだな――食べるのが」
天狼が呟くと「お兄ちゃんは食べる事から離れて‥‥」と風花はため息混じりに言葉を返す。
「それにしても、天使だの聖獣だのが多いな‥‥神聖なものを真似れば手出し出来ないとでも思ってるならお門違いだ」
心を汚す奴を許せるわけないだろう? と翡焔・東雲(
gb2615)は資料を見ながら大きなため息を吐き出した後に呟いた。
「現地に到着したら、まずは玄武を捜索する事から始めないといけませんね。頑張りましょう」
雪ノ下が呟き、能力者達は玄武の出現によって人のいなくなった町へと出発したのだった‥‥。
〜現場到着・玄武捜索〜
今回は玄武が常に歩き回っている状態で、能力者達が町の中を走り回って探すしか方法がなかった。町の中に人がいないというのは戦闘を行う能力者達にとってありがたいものだったが『人』だけに気をつければいいというわけでもなかった。
戦闘が終わった後、町には人が戻り、玄武が現れる以前と同じ生活をしていくだろう。その為にも建物や道路などの損壊は最小限に抑える必要があるのだ。
「最初の被害現場は何処だっけかな」
伊流奈が資料と町の地図とを見比べながら呟く。玄武はゆっくりとした動作でしか動けないという報告がある上に、身体も小さいとは考えにくいので能力者達は最初の被害現場から散って捜索行動を行う事にしていた。
「‥‥二人一組になって捜索、だったな」
ヴェインが小さく呟く。
そう、能力者達は何処にいるか分からない玄武を捜索する為に二人一組の合計・四班に分かれて行動する事にしていた。
A班・伊流奈と紅。
B班・雪ノ下とヴェイン。
C班・天狼と風花。
D班・林と翡焔。
玄武と鉢合わせた時、合流した時の役割もそれぞれの班にあり、見つけた班が『照明銃』を使うか『トランシーバー』で連絡を入れるという事になっている。
「それでは、早く見つけて退治してしまいましょう」
林が呟き、能力者達はそれぞれ別行動を開始したのだった。
※A班※
「それじゃ、お手柔らかに‥‥アリカ」
班行動を開始した後、伊流奈が紅に挨拶をすると「‥‥此方こそ宜しく」と言葉を返す。
「大通りはこっちか‥‥」
伊流奈が地図を見ながら呟く。伊流奈と紅は大通りを重点的に探る事にして、人気のない大通りを歩いていた。
「‥‥人がいれば活気がある場所でしょうね」
紅がシャッターの閉まっている店を見渡しながらため息混じりに呟く。
しかし、道路などを見る限り、何かが通った形跡は微塵も感じられなかった。
「どうやら、ここはハズレのようだな」
伊流奈が呟くと「‥‥そのようですね」と地面を見ながら紅が言葉を返す。地面には砂が散っており、その砂の上には伊流奈と紅の足跡しか残っていない。
つまり、二人の前に誰も通っていないという事になる。
「‥‥こちらA班、私達が調べている所はキメラが通った形跡はなかったわ‥‥」
紅が『トランシーバー』で他のB・C・D班に連絡をいれ、二人は別の場所へと捜索範囲を広げていった。
※B班※
「ふ〜む、この辺もいないですねぇ‥‥A班からの連絡で大通りにもいなかったみたいですし」
雪ノ下が周りを見渡しながらため息混じりに呟く。
「確かに‥‥通った形跡も見当たらないな‥‥せめて人がいればもう少し早く見つかるのかもしれないが‥‥」
ヴェインが同じくため息を漏らしながら呟く。確かに彼の言う通り、人が避難していなければキメラそのものはもう少し早く見つかったかもしれない。
だが、それは同時に一般人への被害が広がるだけかもしれないと考え「いや、一般人の事を考えると避難していて良かったのか」とヴェインは呟いた。
「仲間全員で手分けして探してるんだし、見つかりますよ。他の班はどうでしょうね。連絡してみましょうか」
雪ノ下が『トランシーバー』で他の班に連絡を入れるが、B班同様にまだキメラを発見出来ないでいた。
「狭い町だし‥‥そのうち見つかるだろう」
ヴェインが呟き、B班も捜索範囲を広げて行動を続けたのだった。
※C班※
「迷子の迷子の子亀ちゃん〜♪ あなたのおうちはあの世ですぅ〜♪」
ノリノリで歌を歌いながら風花はキメラの捜索を行っていた。
「楽しそうだね‥‥澪ちゃん」
歌う風花を見て天狼は苦笑しながら話しかける。
「だって玄武なんて初めて見るもん♪ どんな風に殺っちゃおうかなぁ〜」
風花はリィセスと自身で呼ぶ大鎌『ノトス』を勢いよく振りながら楽しげに言葉を返す。彼女が大鎌を振るう度に「ひゅん」と風を切る音がした。
「あれ――‥‥」
風花が楽しそうに風を切る中、天狼がちょっとした違和感を覚えて地面を見た。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
風花が問いかけると「何か引きずったような跡がある」と天狼は言葉を返した。風花もしゃがみ込んで地面を見るが、足跡のように穴の空いた地面、そして何かを引きずったように地面がひび割れている。
「方向は――こっち‥‥って、お兄ちゃんお兄ちゃん」
ちょいちょいと視線を動かさずに手招きをして天狼を呼び「何?」と天狼が顔を上げた瞬間、それはそこにいた。
「うわぁ、硬そうな甲羅〜♪ とりあえず皆に報告だね」
風花は呟きながら『照明銃』を使用して、ばらばらになって行動している能力者達に『キメラを見つけた』という合図を送ったのだった。
※D班※
「玄武‥‥一言に言いますけど、実際に何処まで模倣されているのでしょうね」
キメラの捜索を行いながら、林が同じ班の翡焔に話しかける。
「そうだね、バグアがどんな文献を参考したかにもよるだろうね。神や天使、悪魔、今回の四聖獣もだけど、本によっては全く違う事も書いてあったりするからね」
翡焔の言葉に「‥‥確かにそうですね」と林が言葉を返してくる。
「蛇と亀の交接獣――本の中には玄武の蛇の部分には毒を含んでいるという事もあったかな」
翡焔が呟いた後、風花の撃ちあげた『照明銃』が少し離れたところから視界に入る。
「キメラを見つけたみたいだね、行こう」
翡焔が呟き、林も首を縦に振って『照明銃』が撃ちあげられた場所へと向かい始めたのだった。
〜戦闘開始・知と防の化身を打ち倒せ〜
A・B・Dの班がC班の場所に到着すると、二人は既に戦闘を行っていた。合図として『照明銃』を撃ちあげた事で玄武に二人の存在が気付かれてしまったからだろう。
そして全班が揃った事で、それぞれの班が役割ごとに動き出していく。
A班の二人は亀を牽制して、BとC班が蛇頭を攻撃する。そしてD班が蛇尻尾部分を攻撃していくというものだった。
「さぁ、精々楽しませてくれよ‥‥こっちも好きで狩ってるんだからさ‥‥」
伊流奈が呟くと同時に長弓『黒蝶』を構えて攻撃を行う。
しかし『玄武』と言う名前は伊達ではないらしく、伊流奈が放った矢はキンという音をたてて地面へと落ちていく。
「‥‥流石に甲羅部分に突き刺すのは無理、か」
伊流奈は「ま、こっちに気を引ければ今はいいんだけどな」と呟きながら攻撃を続ける。伊流奈と同じように牽制の役割を受けている紅も『真デヴァステイター』で攻撃を仕掛ける。
牽制班の二人が亀部分を引き付けている間に雪ノ下とヴェイン、そして天狼と風花が蛇頭部分へと攻撃を仕掛ける。
「晩飯発見、お持ち帰り決定だ!」
天狼は『ゼルク』を左手に持って蛇頭に攻撃を仕掛ける、蛇は牙をむき出しにして攻撃を仕掛けてくるが『ヴァジュラ』を構えて攻撃を仕掛けた雪ノ下のおかげで掠る程度で済んだ。
「お兄ちゃん大丈夫?」
風花が大鎌『ノトス』で蛇を攻撃しながら天狼に問いかけると「問題ねぇよ」と短く言葉を返したが、次の瞬間に風花を突き飛ばす。何故なら蛇が風花を狙っていたからだ。
蛇の本来の標的は風花だったが、天狼が突き飛ばした事で攻撃は天狼へと向かう。
しかし――‥‥蛇の攻撃が天狼に当たる事はなかった。ヴェインの『スコーピオン』の銃弾が蛇の身体を貫き、痛みによって蛇が攻撃を中断したからだ。攻撃を受けてぐったりとした蛇は身体を亀の上に乗せた――のだが、隠れていた数匹の蛇がヴェインへと向けて攻撃を仕掛けていく。
「‥‥さて、捌ききれるか‥‥」
小銃『S−01』で狙いを定めようとするが、此方に向かって動いているので狙いが上手く定まらず、射撃を行うことになった。
「くそっ‥‥」
ヴェインの攻撃は一匹の蛇には当たったのだが、残る二匹は攻撃をすり抜けてヴェインへと向かう。
だが「残念〜♪」と大鎌『ノトス』を振り回しながら風花が攻撃を行い、蛇は頭を斬られてボトリと地面へと落ち、BとC班が担当した蛇頭の退治は終わり、四人の能力者は亀退治へと行動を移した。
そして‥‥蛇尻尾を引き受けた林と翡焔はと言うと‥‥。
「‥‥見た感じからして‥‥スッポンじゃないわよね‥‥」
林は『ロエティシア』で攻撃を行いながら小さく呟く。
「‥‥中国には亀ゼリーがあって肌に良いのよね‥‥」
林の言葉に「デカい分、効果も大きいかもしれないよ」と翡焔が言葉を返しながら二刀小太刀『疾風迅雷』で攻撃を仕掛ける。
「‥‥でもね‥‥」
林はちらりと玄武を見ながらため息を吐く。外見からして『美容効果』があるとは思えない。
「‥‥退治した後に料理されるみたいだし、食べてからのお楽しみよね」
林は呟き、翡焔と連携を取りながら蛇尻尾を退治して残るは亀部分のみとなった。
「さて、とりあえず亀の目を潰させてもらうよ。そっちの方が動きやすそうだからね」
伊流奈が呟き『弾頭矢』を使用しながら攻撃を行い、玄武の両目を潰す。潰されたと同時に玄武は耳を塞ぎたくなるような叫び声を挙げて、思わず能力者達は耳へと手を当てた。
能力者達が耳に手を当てた次の瞬間、玄武は甲羅の中へと首を引っ込めて防御態勢に取り掛かった。
「亀さんを皆でフルボッコタ〜イム☆ 何か浦島太郎でも出てきそうな展開?」
風花が笑みを浮かべながら攻撃を行うが、防御に入った玄武に効果はなかった。
「やれやれ、コレを使うしかないか」
天狼が『貫通弾』を装填して玄武へと攻撃を行う。彼の攻撃を受けて大きな打撃を受けた瞬間を狙って、翡焔が武器を梃子に玄武をひっくり返そうと試みる――が、流石に自分達より何倍も大きな生物、そして重さもある為にひっくり返す事は出来ず『貫通弾』の攻撃によって再び首を見せた玄武へと攻撃が集中する。
「喰らえ! 必殺・気合斬りぃぃぃっ!」
雪ノ下は『豪破斬撃』『急所突き』『流し斬り』のコンボで甲羅に護られていない首を狙って攻撃を行う。
だが攻撃の後に亀の牙が雪ノ下を襲おうとした時にヴェインの『スコーピオン』が攻撃を行い、玄武の攻撃を邪魔する。
「はぁぁぁっ‥‥‥‥ふんっ!」
林は『獣突』を使用してひっくり返す事を試みるが、玄武は弾き飛ばされはしたけれひっくり返る事はなかった。その後、追撃のように林は『急所突き』を使用して攻撃を行い、続いて『紅蓮衝撃』を使用して次の能力者へと攻撃を繋いだ。
「‥‥外側の攻撃には耐えられても、護られていない場所はどうかしら」
紅は攻撃を行いながら小さく呟く。
「世の中は弱肉強食、だから俺はお前を喰う!」
天狼は持てる全てのスキルを使用して『蛍火』で攻撃を行い、次に風花が攻撃を行う為に武器を振り上げる。
「心配しなくても美味しく食べてあげるからね! ‥‥お兄ちゃんが」
風花も天狼と同じように全てのスキルを使用しながら攻撃を行い、ちらりと天狼を見ながら呟いたのだった。
そして翡焔がトドメを刺すために『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して、玄武へと攻撃を仕掛け、見事『玄武』を撃破したのだった。
〜戦いの後はお食事タイム〜
玄武を倒した後、能力者達は血抜きや毒がないかを調べて毒抜きを行い、天狼が楽しげに料理していく。
その様子を風花は『フルーツ牛乳』を飲みながらジーッと見ていた。彼女はいくら美味しそうでも蛇と亀は食べないと言って見ているだけに決めた。
そして料理が出来て、能力者達に配られていく。
「澪ちゃんいらないの!? 食べていい!?」
食べない風花に天狼が話しかけ、風花は無言で皿を渡す。
「‥‥うまいのか、これ」
ヴェインが心配そうに自分の分の皿を見る。
「‥‥私は遠慮するわね。美味しいかもしれないけど、キメラを食べようとは思わないわね‥‥」
紅も天狼に皿を返しながら呟く。
そして――食べる能力者はそれぞれ口に玄武の肉を運んだ‥‥。
「ぐ、ぉ‥‥こ、ここまできたら味は関係ない!」
渋い顔をしながら天狼は三人分の料理を食べていく。
その後、玄武を口にした能力者達は物凄い腹痛に苛まされて、三人分食した天狼は三倍の痛みを味わうハメになったのだとか‥‥。
END