●リプレイ本文
〜泣き声の森に赴く能力者達〜
「赤子の泣き声‥‥ですか。何だか怪しいですね」
鳴神 伊織(
ga0421)が資料を見ながらため息混じりに呟いた。
今回の任務はキメラが潜む森へと行き、住人達を無残な姿にしたキメラを退治する事、そして夜の間だけ赤子の泣き声が聞こえる為に、赤子を救出して欲しいというものだった。
「赤ん坊の泣き声‥‥罠、かしら」
ケイ・リヒャルト(
ga0598)も資料を見ながら呟く。
「‥‥というより、行った方々があんな事になっているのですから、黒としか思えないのですが」
一応確かめる必要がありますね、と鳴神が言葉を返す。
「目に見えるもの、聞こえるものが全てとは限らない‥‥さて、どうなる事やら」
サルファ(
ga9419)が呟くと「‥‥悪趣味な‥‥」とアセット・アナスタシア(
gb0694)が資料に添付されていた被害者の写真を見て小さくポツリと呟いた。
「ん? どうかした?」
サルファが問いかけると「あ、すみません。サルファさんじゃないです」とアセットは少し慌てたように言葉を返して「これです」と写真を見せる。
「キメラの悪趣味は姿かたちだけでなく、行為にも及ぶみたいだね――と思って」
アセットの言葉に「確かに」とサルファも言葉を返す。目を背けたくなる程までに痛めつけられた遺体はキメラの残忍さが見える。
「遺体の顔の皮を剥ぐとは何とも‥‥悪趣味もここに極まりけりですね‥‥しかし、顔に固執する何かがあるのでしょうか」
鹿嶋 悠(
gb1333)が口元に手を置きながら考え込むようにして呟く。
確かに写真の遺体の他に二人ほど犠牲者が出ているが、それらも同じように殺されていると書かれている為、顔に拘る何かがあると考えても無理はない。
「それに獣もいるみたいだし‥‥大きな獣かぁ‥‥キメラじゃないにしても、注意が必要ですね」
ファイナ(
gb1342)が資料に書かれている『大きな獣』の文字を見ながら小さく呟く。
「とりあえず、本部を仲介して地元警察まで連絡を頼んどくよ。検死解剖の報告書類を見せてもらえるようにさ、もしかしたら何か分かるかもしれないしな」
朔月(
gb1440)が呟くと、彼女は一時仲間達の所を離れて本部のオペレーターの所まで駆けていく。
「えと、現地到着したら聞き込みですよね? 僕も手伝うです! ‥‥同じ年くらいの人にだったら色々聞けると思うです」
ヨグ=ニグラス(
gb1949)が呟くと、能力者達は泣き声の森へと出発したのだった。
〜調査、潜むキメラを調べろ〜
昼を少し過ぎた頃、能力者達は問題の森が近くにある町へと到着していた。キメラや泣き声が聞こえるのは夜だと資料にはあったが、相手の事も全く分からない状況で戦闘に赴く事は出来ず、能力者達は昼の間に何かキメラや泣き声について調べる事が出来れば――と思い、早めの出発をしていた。
「それじゃ、ここからは班で行動ですねっ、お互い頑張るですよ」
ヨグが仲間の能力者達に向けて話しかける。
「僕たちは森の方を調べてみましょうか」
ファイナが鳴神とケイに話しかけると「そうね、キメラの誘導箇所も決めておかないとね」とケイが言葉を返した。
もちろん夜になるとキメラや赤子の泣き声が始まる為に、少し早めに森から町へと帰って来るように決めていた。
「俺達は地元警察まで行くか、本部からの連絡が入ってるだろうから書類を見せてもらえるだろうしね」
サルファが朔月に話しかけ「そうだな」と言葉を返し、二人は警察へと歩いていった。
「さて、それでは俺達も行きますか」
鹿嶋がアセットとヨグに話しかける。彼ら三人は主に住人の聞き込みを行うように決めていた。
「悠さん、アセットさん、行くですよ」
ヨグが小走りで駆けて行き、鹿嶋とアセットも追いかけるように聞き込みを開始したのだった。
※森・調査班※
「これはまた‥‥鬱蒼とした森ねえ。昼間でも薄暗いから不気味ささえ感じるわね」
ケイが森の中へ入り、樹木などを確認しながら呟く。
「確かに‥‥まだ昼だから方向とか大丈夫ですけど、真っ暗な夜となれば――少し厳しいかもしれないですね」
ファイナは木に損傷がないかを確認しながら言葉を返す。そして鳴神は森の中の地形を把握する為に特徴のある樹木がないか、他にも何か場所を覚えるのに良い特徴のあるものはないかを探していた。
三人で森の中を調べていた時に双眼鏡で調べていたケイが「あら」と小さく呟く。鳴神とファイナが何事かとケイの視線の方向を見る。
すると、少し開けた場所が三人の視界に入ってきた。開けた――とは言ってもそんなに自由に動き回れる程ではないのだが、戦闘をするには問題のない広さだった。
「ここに誘導出来れば、戦闘に問題はないかもしれませんね」
鳴神が呟き、誘導の際に場所が分からないという事がないように周りを見渡して地形の特徴を覚える。
「そろそろ戻りましょうか、夜に出現とは言っても危険な場所に変わりありませんから」
鳴神が呟き、三人は町へと戻っていった。
※書類調査班※
「あぁ、貴方達が要請されてやってきた能力者達ですか――まさか、お二人で?」
警察署へとやってきた二人を、男性警官がちらりと見ながら問いかけてくる。
「いえ、八人で来ましたが書類調べとかは俺達が行う事になったので」
サルファが言葉を返すと「そうでしたか」と言って男性警官は書類を纏めたファイルを差し出してきた。それを朔月が受け取って付箋のついた箇所を見る。
「三人分の解剖結果があります。持ち出しは出来ないので、ここで調べていってもらう事になりますが‥‥」
男性警官の言葉に「構いませんよ、隣の部屋をお借りしますね」とサルファが呟き、朔月と共に隣の部屋へと入っていった。
「‥‥遺体の写真を見て分かってたけどさ、酷いな、これ」
朔月がファイルをサルファに渡しながらため息混じりに呟く。頭部以外の四肢や身体は裂傷だらけで、皮だけで繋がっている部分もあったらしい。身体にキメラの物と分かるものは付着していない代わりに首の所に小さな圧迫痕が三人に残されている事が分かった。
「顔の皮がないんじゃエバーミングも出来ないじゃん」
朔月が呟き、持参してきていたメモに簡単に要点だけを書き記す。
「他の班も調査が終わってる頃だろうし、そろそろ行くか」
朔月が呟き、サルファが男性警官に「ありがとうございました」と礼を言いながらファイルを返し、二人は他の能力者達と合流する為に警察署を出たのだった。
※聞き込み調査班※
「この辺りで赤子がいなくなったりとか、行方不明者が出てるとか‥‥そういう話ありませんか?」
まずは赤子の泣き声の事を調べようとアセットが道行く人に問いかける。
「そんな話は聞かないわねぇ。そういう事があったら小さな町だからすぐに耳に入ってくると思うけど‥‥」
「どうやら赤子の誘拐事件とかはなさそうなので、もし赤子が『普通』ならば他の場所から連れられてきた、という事になりますね」
鹿嶋が住人の話を聞いた後に小さく呟く。
「あ、ついでに森の実情に詳しい人はいませんか?」
鹿嶋が住人に問いかけると「さぁ‥‥あんな事があって誰も近寄らなくなったからねぇ」と住人は言葉を返してきた。
確かにキメラが潜み、正体不明の赤子の声が響く森に近づく者など一般人では滅多にいないだろう。
「そうですか‥‥あぁ、ついでにもう一つだけ。報告には大きな獣とあったのですが、今までに大きな獣とか出ていたんですか?」
鹿嶋の言葉に住人は少し考えながら「いやぁ、そんな話は聞かないねぇ」と言葉を返してくる。
「‥‥つまり『大きな獣』も今回の事件に関わっているんだね」
アセットが呟くと「そろそろ集合ですっ」とヨグが離れた場所から走ってきた。彼は同じ年くらいの子供に聞き込みを行っていたらしく『獣を見た』という少年から話を聞いていたらしい。
「えと、夜に見たらしいんですけど、猪くらいの大きさだったそうですよ」
鹿嶋とアセットも「そうなんだ」と言葉を返し、日が落ちてきたのを見て他の能力者達と合流したのだった。
〜夜の森の中へ〜
あれから合流した能力者達は、それぞれが調べた事を互いに話し、ここに到着するまでに決めていた班で行動を開始していた。
A班・鳴神、ケイ、鹿嶋、ヨグの四人。
B班・サルファ、アセット、ファイナ、朔月の四人。
「頼りにしてるわよ、ヨグ! 終わったら一緒にプリンを食べましょう」
微笑みながらケイが話しかけると「はいっ、頑張りましょう」とヨグは満面の笑みで言葉を返した。
その頃、別の班のファイナも「アセット、相手の正体が分からないから、無理しないでね」と恋人であるアセットに話しかけていた。
「はい、お互いに気をつけましょう」
アセットも言葉を返し、それぞれの班は赤子の声が聞こえる地点へと目指していく。
そして、泣き声というものがあるおかげか、能力者達は難なく赤子の声が聞こえる場所へとやってきた。
もちろん、ここに来るまでに警戒を怠る事はしない。
「あ! 赤ちゃん」
「あ、ちょっと待って!」
ヨグが森の中で泣き喚く赤ん坊を見つけて周りに何もないか警戒をしながら近づいていく。ケイが持ってきた『ゴムボール』を使って赤子が敵じゃないか確かめようとするが、ヨグは先に走っていってしまう。
その赤子は泣き続けていて、ヨグに抱っこされると涙を流してはいるものの泣き声を止めた。
そして――‥‥ヨグの首を囲むように手を置き、力をこめていく。
「うわああっ!」
ヨグの叫び声が聞こえ、別行動をしていた班も合流を行う。いまだ離れない赤子にケイが乱暴だとは思いつつも『フォルトゥナ・マヨールー』で足を狙って攻撃を行った。
すると赤子はヨグから離れ、身体を変形させるかのように大きくなり、猪程度の大きさの獣へと姿を変えた。
「これが大きな獣の正体、赤子の泣き声で餌を呼び寄せ、掛かったら正体を現してご飯、ですか」
苦笑しながら鹿嶋が呟き、武器を構える。
しかし、ここで戦うのは能力者達にとって不利でしかないので森調査班が見つけた開けた場所へとキメラを誘導していく。
そして、目的の場所に到着した時、誘導の為に背中を向けていた能力者達はキメラへと向き直り、本格的に戦闘を開始し始めたのだった。
最初に攻撃を仕掛けたのはケイで『二連射』と『影撃ち』を使用しながらキメラに牽制攻撃を仕掛ける。怯んだ隙に『鬼蛍』と『氷雨』を構えた鳴神と『【OR】天狼』を構えた朔月が攻撃を仕掛ける。
しかし離れる間際に鳴神はキメラのツノによって攻撃を受けてしまうが、重傷ではないので戦いはまだ続けられる。
「One Shot One Kill‥‥行くよ、コンユンクシオ‥‥!」
アセットは『コンユンクシオ』を構えながら呟き、間合いを取りながらキメラに攻撃を仕掛ける。
「さて‥‥貴方の趣味に合わせて解体ショーをやらせてもらいましょう‥‥」
鹿嶋が低く呟くと『【OR】零式装甲剥離鋏』を構えて攻撃を仕掛ける。鹿嶋が攻撃を仕掛けた後、援護射撃を行うようにケイが射撃を行い、キメラに隙を作る。
「‥‥キメラ‥‥人を殺めた罪‥‥死をもって償わせます‥‥」
覚醒を行ったファイナは『プロテクトシールド』と『エネルギーガン』を構えて牽制攻撃を行う。
「んと、赤ちゃんに化けて待ち伏せは卑怯なのです!」
ヨグも首を押さえながら怒ったように呟き『竜の爪』を使用しながら『イアリス』を振り上げて攻撃を行う。
「ふふ‥‥鬼さん此方、よ」
ケイが加虐的な笑みを浮かべながら『急所突き』を使用して攻撃を行う、ケイの攻撃を受けて背中を見せた所をサルファが『【OR】GUNBLADE『ラグナ・ヴェルデ』に『両断剣』を使用してから攻撃を行った。
「貴方が手に掛けた人たちの分だ‥‥!」
アセットも『両断剣』を使用しながら攻撃を仕掛けて、犠牲者達の弔いになるように前へと突っ込んでいく。
しかしキメラも攻撃を狙っていて、攻撃の標的がアセットだと分かるとファイナが『プロテクトシールド』を持って彼女の前に立ちはだかり、キメラの攻撃から護る。
「さぁ、咆哮を聞かせてもらおうか! それとも演技じゃなくて本気で泣いてみるか!?」
朔月は攻撃を仕掛けながらキメラへと言葉を投げかける。もちろんキメラが言葉を理解しているなど考えはしない。
流石に能力者達の攻撃を受けてふらふらになったキメラを見て「‥‥連携と牽制重視‥‥いきます!」とファイナが呟き『エネルギーガン』で攻撃を仕掛ける。
そして隙の出来たキメラを鹿嶋が『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して攻撃を行い、ヨグは『竜の爪』を使用して攻撃を行う。
彼らに続くようにサルファも攻撃を仕掛けて、最後にファイナが『機械剣α』を構える。
「‥‥これで決めます‥‥エネルギーソード、一閃!」
ファイナが攻撃を行い、同時に鳴神も攻撃を行って、キメラは先ほどの赤子のような鳴き声を出しながら地面へと沈んでいったのだった。
〜キメラの去った森、知能化するキメラたち〜
「やっぱり赤子の鳴き声は罠だったんですね」
全てが終わり、無傷ではすまなかった能力者達は応急処置を行っている時に鳴神がポツリと呟いた。
「そうね、ヨグったら突っ込んで行っちゃうんだもの。びっくりしたわよ」
ケイが苦笑混じりに呟くと「まさか赤ちゃん本体がキメラだとは思わなかったです」としゅんとしながら言葉を返した。
確かにヨグは周りには警戒を行っていた、しかしそれは赤子そのものがキメラだった事を考えなかったのだろう。
「でも無事に退治できたから良かったよ、これで犠牲者達も浮かばれるだろう」
サルファの言葉に「そうですね‥‥」とアセットが言葉を返す。
「仇を討つくらいしか私には出来ないけど、これで少しでも死んでいった人たちが楽になるのなら‥‥」
アセットの言葉に「きっと、犠牲になった人たちも『ありがとう』って言ってるよ」とファイナが言葉を返した。
「キメラも少しは殺された人たちの苦痛を味わえましたかね」
鹿嶋が今はもう物言わぬ遺体となったキメラに言葉を向ける。
「全く‥‥バグアも折角なら、せめてもうちょい趣味のいいキメラを作れよな?」
朔月がため息を吐きながら呟くと「キメラは全部趣味悪いのです」とヨグが言葉を返す。
「ケイ姉様っ、早く帰ってプリン食べるです」
急かすようにヨグはケイの服を引っ張りながら帰還を促す。
その後、町の住人達にキメラを退治した事、赤子の泣き声はもうしないという事を伝え、その報告を本部にも行う為に、能力者達は帰還していったのだった。
―END