タイトル:限りなく近い闇の中をマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/30 13:13

●オープニング本文


何処で『正義』と『悪』に別れていくんだろう。

バグアと能力者は大抵が敵対するものだけれど‥‥。

果たして全ての能力者が『正義』の為に力を振るっているのだろうか?

※※※

俺はどこか異常なのかもしれない。

最近、任務をこなしていくうちに思うんだよな。


『何で戦えない奴らの為に、命をかけて戦わなくちゃいけないんだろう』


俺の運が悪かっただけなのかもしれない。

全ての人間がそうではないと心の中では思っているが、あいにく俺が出会った一般人は最低の奴らばっかりだった。

少し前にキメラに占領された町があり、俺を含めた数名の能力者が町へと赴いた。

しかしキメラの数は多くて、建物などに多少の損壊は覚悟しなければならないと話した時だった。

「冗談じゃないわよ! あんた達は倒したらすぐに出て行くんでしょうけどアタシらはここで生活していくのよ!? 生活に支障が出るから建物も地面も壊さずに倒しなさいよ、何のためにあんた達がいると思ってるの!」

太った中年女性が喚きたてながら能力者達に食って掛かってきた。

俺達は『無理だろ‥‥』と思いながらも住人達の要望通り、なるべく損壊を出さないように戦った――その結果は『失敗』だった。

壊さない事に気を取られすぎて、まともな戦闘なんて出来なかった。能力者も一人死に、住人にも重軽傷者が多数出た。

「何て役に立たない能力者達なの! アタシらはこんな結果の為に高い報酬払ってるんじゃないわよ!」

中年女性も怪我をしたらしく、能力者達に喚きたててくる。

他の能力者達はどうだったか知らないが、俺の耳には届かなかった。

何故なら『何でこんな奴らの為に怪我して、命かけなきゃならないんだ』という言葉がぐるぐると頭の中で廻っていたからだ。

「もう少し、もう少しだけ様子を見てみっかな――それで護るに値しない奴らと判断したら――俺はバグア側につかせてもらうよ」

ポツリと呟き、男性能力者・ウルフ ファレンスは冷たい笑みを浮かべる。

「さて、逃げるか護るかどっちにしても金がいるもんな。任務任務、と」


●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
高村・綺羅(ga2052
18歳・♀・GP
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
結城加依理(ga9556
22歳・♂・SN
朔月(gb1440
13歳・♀・BM
イレーヌ・キュヴィエ(gb2882
18歳・♀・ST
水門 亜夢(gb3758
22歳・♀・EL

●リプレイ本文

〜スライム退治に赴く能力者達〜

 今回の能力者達に課せられた任務は下水道に現れたスライム退治という仕事だった。
「必要ないかもしれませんけど‥‥一応、中の地図を借りておきました‥‥」
 神無月 紫翠(ga0243)が下水道内部の地図を広げながら呟く。地図を見ると、多少道が分かれたりしているが複雑なものではなく、下水道内部で迷う心配はなさそうだった。
「我が輩も本部に申請していたものがあったのだが‥‥予想通りだったよ〜」
 ドクター・ウェスト(ga0241)はガーゼマスクを能力者達に見せながらため息混じりに呟いた。
 ちなみに彼は最初から『ガーゼマスク』を申請していたのではなく『ガスマスク』を申請していたが、被害状況や現れたキメラなどを調べて本部が出した答えは『ガーゼマスク』だったのだ。
「まぁ、予想通りだったがね〜」
 ウェストは苦笑混じりに呟くと「ガスがあるってハッキリした情報があれば別かもしれないんだけどな〜」と今回一緒に任務を行う事になったウルフが言葉を返した。
「下水道内では何処から来るかにも気をつけないとならないわね」
 アズメリア・カンス(ga8233)が下水道内の地図を見ながら呟くと「スライムは水に紛れて襲ってくる事もあるからね〜」とウェストが言葉を返す。
 つまり、水に紛れて襲ってくるという特性を今回のスライムが持っているとすれば下水道という場所はキメラに有利になる場所だ。
「下水道な町中にあるんですよね‥‥町への被害を最小限に抑えないと‥‥」
 結城加依理(ga9556)がポツリと呟くと「‥‥被害、ねぇ」とウルフが嘲るように小さく言葉を返してきた。
(「‥‥やっぱり、あの事を――‥‥」)
 ウルフがそんな態度を取る理由、それはほとんどの能力者達が気づいていた。ウルフが以前に行った任務で仲間を亡くし、その上に住人達に罵倒されたという噂が結城の耳にも届いていたのだから。
(「‥‥アイツのあの目――」)
 朔月(gb1440)がウルフを訝しげに見る。だが任務を行う前から揉め事を起こすわけにも行かず、ウルフが任務の邪魔をしないうちは何も言わないでおこうと彼女は決めていた。
「あの、その地図を私にも見せてもらえる?」
 イレーヌ・キュヴィエ(gb2882)が神無月の借りてきた地図を指差しながら問いかけ「どうぞ」と神無月は地図を渡した。
「ありがとう、まずは現地の人に話を聞いた方が良さそうね。解決するには協力していただかないと♪ 土地の事も地元の方に訊かないと分からないしね」
 イレーヌが地図を見ながら呟くと「‥‥協力してくれたら、だろ」とウルフが舌打ちをしながら呟く。
「きっと協力してくれますよ、誰だって自分達の町にキメラがいるのは嫌ですものね」
 水門 亜夢(gb3758)がにっこりと笑ってウルフに言葉を返すと「‥‥そうだといいな」とウルフは表情を少しだけ歪めながら呟いた。
 そんな様子を見て、ウルフは何か考えている事があるのだろうと高村・綺羅(ga2052)は心の中で小さく呟く。
(「‥‥でもそれは彼の問題――綺羅は自分が生きる為に最低限、必要な事を行うだけ。バグアは人類を滅ぼそうとしている存在、それに抗う為に力を得た――のだから」)
 高村は瞳を伏せながら心の中で呟くと「そろそろ出発しよう」と他の能力者達に話しかけ、能力者達は本部を後にしたのだった。


〜町から能力者への不信感、そして募る嫌悪の心〜

「‥‥何か‥‥視線が突き刺さるような‥‥感じが‥‥」
 町へ到着して、住人達の視線に耐え切れないかのように神無月が小さく呟く。町の規模からして他所との交流をあまり取らない場所なのだろうか。
 余所者を歓迎しない雰囲気の中「とりあえず、依頼人の所に行きましょー」とイレーヌが呟き、依頼人の家へと足を運ぶ。

「あの‥‥何か? 必要な情報はお渡ししたと思ったのですが‥‥」
 依頼人の女性はドアを半分だけ開けて覗き見るように、ドアの外に立つ能力者達に向けて言葉を投げかけた。
「えーと‥‥情報だけじゃなくて現地の人にも話を聞きたいと思ってたんだけど」
 イレーヌが呟くと「他にお話しする事は無いですよ、早くキメラを退治して下さい」と投げ捨てるように言われ、ドアを無理矢理閉じられてしまった。
「全く‥‥何なのかね〜、少しくらいは愛想を振りまいても良いと思うのだがね〜」
 ウェストもため息を吐きながら閉じられた鉄の扉を見たのだった。
「‥‥はぁ」
 高村は小さくため息を吐く。住人の言葉に不快感は確かにあるが、高村は逆の立場で自分も言わないと言い切れる自信がなかった。
(「人は誰だって弱い存在‥‥綺羅だって1人じゃ戦えない。弱さが表面化する人だっているんじゃないかな‥‥」)
「ここまで毛嫌いする必要があるのか理解に苦しむわね」
 アズメリアはため息混じりに呟き、町の中を見渡す。キメラがいるせいなのか、通りには誰もいなく、その恐怖は自分達にも向けられているのではないかと感じてアズメリアは少しだけ不愉快になった。
「それでもお仕事ですものね、皆さん頑張りましょう」
 水門が呟き、能力者達はスライムが潜む下水道へと降りていったのだった。
 その中で1人だけ、露骨に表情を歪めている人物がいる事に能力者達の中には気づいている者もいたが、任務を優先した為に声をかける事はしなかった。
「‥‥すげぇな。あんな態度されても『一般人の為に』って頑張れるのか――俺には無理だわ」
 ウルフは呟いた後、先に行った能力者達を追いかけて下水道に降りたのだった。


〜下水道内・スライムとの戦闘〜

「暗いですね‥‥『ランタン』を持ってきてて良かった」
 結城は『ランタン』を灯して下水道内を見渡す。通路は狭く、油断していると下水部分に足を突っ込んでしまいそうな程だった。
「そうね、私も『【OR】ウォーキングライト』を持ってきていてよかったわ」
 アズメリアはベルト部分に装着したクリップ型のライトを見ながら呟く。
「とりあえず‥‥もう敵の陣地だから警戒していかないとな」
 朔月は『ランタン』で足元を照らしながら呟く、彼女は足元と同時にウルフの様子も見ていた。
「‥‥ま、いっけどね」
 朔月は呟き、再び警戒を続ける。
「‥‥それにしても――くさーいっ」
 イレーヌは『バンダナ』で鼻と口を覆いながら表情を歪めて呟く。確かに下水道という場所なのだから臭いは仕方がないのだが、理解と納得は別物である。
「あれ? 梯子は残していくんですか?」
 水門がウェストに問いかけると「無事に出られるようにね〜」とウェストは言葉を返す。あの住人の様子を見ていると、もし万が一スライム退治に失敗して下水道から出なくてはならなくなった場合、梯子を下ろしてくれるか心配になったのかもしれない。
「そうですね。でも何かこの下水道‥‥あんまり暴れまわると結構損傷が酷くなりそうですね」
 水門が呟くと「下水の損傷よりキメラが外に溢れる方が余程危険ではないか‥‥」と言葉を返した。
 確かに彼の言う通りなのだろう――『普通』ならば。だけど今回のような住人の場合、それを『普通』と取ってくれるかが分からない。
「さて――どうやらおいでなすったようだな」
 ウルフが呟き、能力者達もそれぞれ武器を構える。
 ズズズズ、と聞いていて気持ちの良い音ではなく、不気味な音が遠くから段々と近くなり、肉眼で確認出来るくらいに近寄ってきたもの――それは不気味に蠢く緑色の物体だった。
「さて――地球に敵対する奴を排除するとするかね〜」
 ウェストは呟き『電波増幅』を使用して、後衛に陣取って『エネルギーガン』で攻撃を行う。
「‥‥小さい奴ばかりだな? やはりデカい奴がボスか?」
 神無月は呟きながら長弓『黒蝶』でスライムに攻撃を行う。しかし相手はゲル状の生物な為にあまり効果は期待出来そうにない。
「援護してやるが、威力は見ての通り当てにするなよ?」
 神無月は矢を放ちながら呟き、後ろへと下がる。
「綺羅は前衛に入るね。後衛からの援護宜しく」
 高村は呟きながら『機械剣』でスライムに攻撃を行う。その際にウェストは『練成強化』で高村の武器を強化する。
「無駄な鉄砲数撃ちゃ‥‥って所かしらね。でも所詮無駄なものね」
 アズメリアは『月詠』で小型のスライムを『流し斬り』と『両断剣』を使用しながら攻撃を行う。
「‥‥後ろ!」
 ウルフが叫ぶと同時に結城の近くの下水から襲いかかろうとしているスライムに攻撃を行う。
「水の中を移動‥‥前の敵にばかり目が行って注意を怠ってました‥‥ありがとうございます」
 結城はウルフに礼を言うと「礼は終わってからにしな。まだ来るみたいだからよ」と言葉を返した。
 その時、結城の視界に後衛のウェストや神無月に攻撃を仕掛けようとしているスライムが入り、『【OR】回転拳銃 エレファント』で攻撃を行う。
「やらせる訳には‥‥いかない」
 呟きながら再びスライムに攻撃を行う。しかし決定打にならないため、スライムは僅かずつ結城達に向けて前進を始める。
「昔あったなぁ‥‥あんな玩具♪」
 朔月は呟くと『急所突き』を使用しながら『【OR】天狼』で攻撃を仕掛けた。
「流石にこんな場所とか早くバイバイしたいから、とっとと倒れてね」
 イレーヌは呟くと『スパークマシンα』で攻撃を仕掛けた。
「これで‥‥小型のスライムは全部ですかね」
 水門は『フロスティア』を構えながら周りに警戒しながら呟く、すると足を何かに掴まれたかと思うと『ふわり』とした浮遊感が彼女を襲い「きゃあっ!」と叫ぶ。
 後衛を狙った小型スライム同様に大型スライムも下水を移動しながら能力者達に近づいていたのだ。
「‥‥仲間を帰してもらうね」
 高村は呟くと『エネルギーガン』で水門の足を掴んでいるスライムの少し下を狙って攻撃を行う。ゲル状なので『びちゃ』という音がしたかと思うと、まるで氷柱のように自身の身体を変えて能力者達に襲いかかってくる。
 ウェスト、神無月、朔月の援護射撃を受けて高村は『瞬天速』を使用してスライムに近づき『機械剣』で攻撃を行う。
 そしてスライムから解放された水門も『フロスティア』で攻撃を行い、連携攻撃を行うようにアズメリアが『流し斬り』と『両断剣』を使用してスライムに攻撃を行った。
「何があるか分からないからね」
 イレーヌは呟き『虚実空間』を使用する。
「‥‥遅いわね。意外とノロマなのね」
 アズメリアはスライムの攻撃をバックステップで振り払い、一気に距離を詰めて『月詠』で攻撃を行う。
「‥‥お前も動けよっ!」
 能力者達の戦いを傍観するかのように突っ立ったままのウルフに朔月は頭突きをしながら叫ぶ。
「いってぇ‥‥ったくオンナノコだろ、もう少し淑やかにしとけよな」
 ため息混じりにウルフは呟き、スライムに攻撃を仕掛ける。
 その後、前衛は後衛の援護を受け、後衛は前衛の為に動き、スライムを退治する事に成功したのだった。


〜任務達成と彼の決断〜

「ふむ、今回の戦闘データを元にまた研究をしなくちゃだね〜」
 ウェストは研究の為にスライムの細胞サンプルを採取しながら呟く。
「そういえば‥‥初任務といい、二度目の今回といい、スライムに縁がありますねぇ‥‥」
 水門は苦笑しながら呟く。彼女は二度連続でスライム退治という任務を受けていたようだ。
「お前ら、すげぇよな。何であんな護るに値しない奴らのために命を賭けれるんだ」
 ウルフがポツリと呟くと「護るのには値しない、ですか?」と神無月が意味ありげな笑みを浮かべながら呟く。
「傭兵全てが‥‥善意で‥‥戦ってると‥‥思ったら‥‥大間違いですよ‥‥フフフ」
「何の為に自分は力を得たか、戦うと決めたのか‥‥思い出して欲しい」
 高村の言葉に「‥‥思い出す、ね。それは出来ないんだよ」とウルフは自嘲気味に呟く。
「俺は何で能力者やってるのか全くわからないんだわ、前に頭に怪我した事あってな、そん時の打ち所が悪かったのか、記憶がすっぱり抜けてるんだわ」
 ウルフの言葉に能力者達は少し驚いた表情を見せる。
「データとか見れば、何で自分が能力者やってるのかとか分かるんだろうケド、自分で思い出さなくちゃ意味がねぇだろ――自分で見て確かめて思った、今の人間は護るに値しないってな。まだバグア側にいた方がいいような気がしてきたんだよな」
 ウルフの言葉に「バカヤロウ!」と朔月が大きな声で叫ぶ。
「自慢じゃないが‥‥俺は馬鹿な人間なら嫌という程見てきてるんだよ――それにお前の名前の本来の意味は『森の守護』って意味だ。それが自然を壊す大馬鹿に憧れてどうするよ!」
 朔月の言葉に「でも、お前は俺とは違う」と短く言葉を返す。
「いくら馬鹿な人間見てきても、我慢の出来ない俺とは違う。俺はあんな連中の為に自分の命を投げ捨てれるほど慈善家じゃない」
 ウルフの言葉に「人の死は虚しいし、キメラに寄生されたりとか、許し難い事がある」とイレーヌがポツリと呟く。
「人として生き抜くために、自分の信念は捨てちゃ駄目」
 小さな声だったけれど、確かにその言葉はウルフに届いていた。
「ウルフ君、選びたまえ」
 それまで黙っていたウェストが低い声でウルフに問いかける。
「『地球』の為に戦えない、そして裏切るというなら今ココで選べ。自ら命を絶つか、我が輩に討たれるか。君の選択肢に『返り討ち』はない、もちろん『逃亡』も許可しない」
 ウェストの厳しい表情に「やれやれ」と呟き、素早く梯子の所まで行き、下水道から出て、梯子を蹴り「どっちもゴメンだね」と言葉を残す。
「あとで住人の誰かに頼んどくから、安心しな。ただ俺がバイバイするまでは其処にいてもらうけどな」
 ウルフは茶化すように手を振りながら能力者達の前から姿を消した。
 それから数十分が経過した頃に、ウルフが言った通り住人が梯子をかけに来てくれた。

 その後、能力者達はウルフの件も含めて報告するために本部へと帰還していく。
 帰りの高速艇の中では、息苦しい雰囲気があり、本部に到着するまで言葉を発した者はいなかった。


END