タイトル:眠り姫の墓標マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/10 03:15

●オープニング本文


彼女は眠り続けた。

その命が終わるその日まで、決して目覚める事はなかった。

※※※

「このキメラだったわね‥‥」

女性能力者が『女性型キメラ』の資料を見ながらため息混じりに呟く。

「え? 何が?」

男性能力者も自分の仕事を探しながら、女性能力者に聞き返すように言葉を返した。

「由良の事よ、昨日‥‥息を引き取ったと家族から連絡があったのよ」

女性能力者の言葉に「‥‥あの子のことか」と思い出したように小さく呟いた。

彼女が話す『由良』という人物は、能力者になったばかりのスナイパーでキメラ退治の任務の際に負傷して、意識不明の重体になったのだと言う。

「打ち所が悪かったのか、由良は最後まで目が覚める事はなかったわ」

女性能力者は『由良が意識不明になった』という任務に同行していて、あんな状態になったのは自分のせいだと事件があった日からずっと自分を責め続けていた。

「あのさ、気休めにもなんないかもしんないけどさ――別にお前のせいじゃないだろ。そんなに自分を責めるなよ‥‥言い方は悪いけど、防ぎようの無かった事故じゃないか」

男性能力者の言葉に「でも、何も出来なかったのも事実だわ」と女性能力者は言葉を返す。

「それに、責めるなって言われても‥‥私はあの子をあんな姿にしたキメラを知っているのに、戦おうともしないのよ――‥‥我が身可愛さと身を駆り立てる恐怖心のせいでね」

だから責め続けるくらいしか、あの子に詫びる方法を知らない。

女性能力者は俯きながら呟き、資料に涙をぽつぽつと落としたのだった。

●参加者一覧

藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
御剣 真一(ga7723
23歳・♂・BM
月村・心(ga8293
25歳・♂・DF
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
占部 鶯歌(gb2532
22歳・♀・DF
シァン・ツァイユン(gb3581
43歳・♂・GP
久蔵(gb3840
20歳・♂・FT
リヒト・ロメリア(gb3852
13歳・♀・CA

●リプレイ本文

〜キメラ退治任務に赴く能力者達〜

「あの‥‥お願いします、あの子を殺したキメラを‥‥」
 本部に集まった能力者達に話しかけてくる女性能力者がいた。その女性能力者はこれから退治に向かうキメラの事件を手がけた事があり、仲間を失って帰ってきたのだとか。
「任務を受けない私が言うのは筋違いかもしれないけど――どうか由良の仇を‥‥」
 女性能力者が嗚咽交じりに呟くと「お前が依頼を受けない事にどうこう言うつもりはない」と藤村 瑠亥(ga3862)が短く呟いた。
「お前は此処で俺達が仇を討つのを待っていればいい」
 藤村は言葉を付け足して女性能力者に言葉を返した。
「華の女性がこんな姿になってしまうというのは実に残念だ‥‥」
 御剣 真一(ga7723)は資料を見て、小さな声で呟く。彼自身も過去に妻を亡くした経験があり、仲間の死を悼む女性能力者の気持ちが痛いほど分かるのだ。
「そういえば聞きたい事があるんだが、どういう状況で由良という能力者が昏睡状態に陥ったのかを聞きたい」
 月村・心(ga8293)は女性能力者に問いかける。資料には『打ち所が悪かったのか』と書かれているが、ただ打ち所が悪いだけで昏睡状態から死亡するというのもおかしな話だと考えたのだ。
「キメラの攻撃を受けて、由良は倉庫の器具に頭をぶつけてそれからずっと意識を失ったままだったわ‥‥特に戦闘中におかしな点は見受けられなかったけれど――どうして?」
 女性能力者の言葉に「‥‥ひょっとしたらここに何かのカラクリがあるかもしれないからな?」と月村は言葉を返した。
「腰までの黒髪を持つ女キメラ‥‥」
 遠倉 雨音(gb0338)が自分の髪を触りながらため息混じりに呟く。
「お前も今回の任務だったのか、久しぶりだな――って浮かない顔だがどうした?」
 藤村が挨拶をしながら問いかけると「お久しぶりです、藤村さん」と苦笑交じりに言葉を返し、再び髪を弄りながら「キメラですよ」と浮かない表情の原因を短く呟く。
「これから倒す相手と自分の容姿に共通点があると言うのは、何とも嫌な気分ですね」
 遠倉の言葉に「あぁ」と思い出したように藤村も資料に目を落とす、確かにキメラと遠倉には共通点があり、本人にしてみれば不愉快極まりない事だろう。
「それでも倒す事に遠慮はしませんけど」
 遠倉は呟き、髪をかきあげた。
「初依頼で‥‥不慮の‥‥とても‥‥悲しく‥‥辛い‥‥です」
 目を伏せながら占部 鶯歌(gb2532)がぽつり、ぽつりと呟く。
「ですが‥‥仕事に‥‥私情を挿むのは‥‥止めておきます‥‥ただ‥‥眼前に立ったそれを‥‥屠る事だけを‥‥目的と‥‥致します‥‥」
 占部は小さく呟く。感情に流され、私情を挿んで戦う事は冷静さを失わせるリスクが伴う。だからこそ占部は私情を挿むこと無く任務に就こうとしていた。
「人はいつか死ぬ、だけどその死を悼んでくれる人がいるならば――由良さんも幸せだったのでしょう」
 シァン・ツァイユン(gb3581)が女性能力者に微笑みながら呟く。
「――貴方、優しいのね」
 女性能力者はシァンに言葉を返すと「そうでもありませんよ」とやはり微笑を浮かべながら呟いた。
「そういえば所持している武器は刀だけか」
 久蔵(gb3840)が資料を見ながら呟くと「えぇ、少なくとも見える武器はそれだけだったわ」と女性能力者が言葉を返した。
「ボク達がキメラを倒す事で由良さんの弔いになればいいけれど‥‥」
 リヒト・ロメリア(gb3852)は帽子を被りなおしながら呟く。彼女と由良に面識は無い。だけど同じ傭兵という立場には変りがないから、弔いの戦いをしたいと思ったのだ。
「それで、救われるかは分からない‥‥今ボクに出来る事、それをやるだけ」
 リヒトは呟き、能力者達は女性型キメラが潜む倉庫へと向かい始めたのだった‥‥。


〜倉庫の中、奇襲のキメラ〜

「流石に暗いな‥‥」
 藤村が呟き、持参したランタンを灯すと倉庫内を照らす。使われなくなってから長いのか、倉庫内には埃が溜まっていて思わず咳き込んでしまうほどだった。
「それじゃ班で行動を開始しようか」
 御剣が呟く。勝手の分からない倉庫内で纏まって動く事は危険と感じたのか、能力者達は班を二つに分けて行動する事に決めていた。
 A班・藤村、遠倉、占部、久蔵の四人。
 B班・月村、御剣、シァン、リヒトの四人。
 捜索方法は無線で連絡を取り合いつつ、倉庫の外側から内側に向かって、範囲を狭めていきながらの索敵となる。
「なるべく、物音を立てないように移動ですね」
 リヒトが確認するように呟き、班での行動を開始した。

※A班※
「障害物が多いな‥‥さて、何処からくるか」
 藤村はランタンで辺りを照らしながら、ため息混じりに呟く。何か理由があって使われなくなったのだろう、倉庫内には大量に荷物がばら撒かれており、歩くのも一苦労するほどだ。
「元は食料品関係の場所だったのでしょうか、缶詰などが大量にありますね」
 遠倉が崩れたダンボール箱の中から缶詰を一つ取り、それを見ながら呟く。賞味期限まではあと少しの猶予があり、この倉庫が使われなくなった原因は突然来たものだと推測が出来た。
「こちら‥‥占部‥‥です‥‥応答を‥‥」
 占部は『トランシーバー』を使用してB班に状況を聞くが、B班側も荷物が散乱していて、まだ女性型キメラを見つける所ではないようだ。
「しかし、こんなに荷物が散乱って――前に此処にいた能力者達は派手にやらかしたみたいだな」
 久蔵は荷物の散乱振りを見て呟く、しかしある地点でぴたりと足を止めた。
「どうか‥‥しましたか‥‥?」
 占部が問いかけると、久蔵は無言でその地点を指差した。
「‥‥此処は‥‥」
 遠倉が表情を険しくしながら呟く。そして他の三人の能力者達も彼女と同じように表情を険しくした。
 その地点にあったモノ――それは生々しく残された血痕だった。血痕とは言っても乾ききって赤黒い色へと変色していた。恐らくこの場所は由良が攻撃を受けて倒れた場所なのだろう。資料を見ても由良や女性能力者達が赴いた際、こんな血痕が残るような傷を受けたのは由良だけだったのだから。
「此方‥‥占部‥‥キメラはまだですけど‥‥大量の血痕を‥‥見つけました‥‥恐らくは‥‥由良さんの‥‥」
 占部が『トランシーバー』でB班に連絡を入れ、再びキメラ捜索を続けたのだった。

※B班※
 B班は御剣とシァンが先行して歩き、月村とリヒトが後ろを歩くという形を取っていた。
「あまりバラけるなよ? 不測の事態の時にバックアップが出来んと困るからな」
 月村が呟くと「うん、分かってるよ」とリヒトが言葉を返した。
「コレも缶詰‥‥もったいないですねぇ、いずれ誰かが取りに来るのでしょうか」
 シァンがダンボール箱の中に入っている缶詰を見ながら呟く。
「‥‥金目の物があったら少し頂きたいものだ」
 月村が呟くと「「「え?」」」と三人の能力者達から一斉に視線が集中され「‥‥冗談だ」と月村は言葉を付け足す。
「それにしても物音一つしませんね、何処から狙ってくる気でしょうか」
 シァンが呟き、頭上を見る。
「どうかしたんですか?」
 御剣がシァンに問いかけると「いえ」と彼は短く言葉を返す。
「死角に気をつけていたんですよ、最も死角となる場所は頭上です」
 頭上注意ですよ、シァンが言葉を付け足しながら呟くとリヒトも上を警戒するように首をあげる。
 その時だった――積み重ねられているダンボール箱の中から刃が突き出てきて、ふいを突かれた御剣は刃の切っ先で腕に鮮血が走る。
「まさか――そんな王道的手段で来るとはね」
 斬られた場所を見ながら御剣が呟き「キメラを発見しました」と『トランシーバー』でA班に連絡をいれて『ロエティシア』を構えて攻撃態勢を取る。
 そしてシァンも烈拳『テンペスト』を装備して、女性型キメラとの戦闘に備えたのだった。


〜戦闘開始 VS 女性型キメラ〜

 女性型キメラが現れてから数分後にA班も合流して、女性型キメラを囲むような陣形で戦闘を開始した。
 最初に攻撃を仕掛けたのは藤村だったが、紙一重とはいえ彼の攻撃を女性型キメラは避けた。
「なるほど‥‥素早さには自信があるようだな――だったら、それを発揮させないで終わってもらう」
 藤村は低く呟き二刀小太刀『花鳥風月』で女性型キメラの腹部を狙って攻撃を行う。そして藤村の攻撃に続くように御剣も『瞬速縮地』で一気に距離を詰めて『ロエティシア』で攻撃を行い、再び『瞬速縮地』で距離を取る。俗に言うヒット&アウェイ方式で戦闘を行っていた。
「周りの状況と相手の素早さを考えると長期戦は不利ですね」
 遠倉は小さく呟くと『真デヴァステイター』で攻撃を行う、女性型キメラは攻撃を受けながら自らも攻撃に転じようとしたが、それを月村が止める。
「攻撃させてやるつもりは無いんだよ。たとえどんな能力を持っていようとな!」
 月村は言い終わると『ゲイルナイフ』と『アーミーナイフ』の二刀流で女性型キメラが刀を持つ手を中心に攻撃を仕掛けた。
 しかし女性型キメラは流れるような黒髪を触手のように使い、能力者達を傷つける。
「これがもう一つの能力――しかし、汝が成した業、この槍でその身に思い知らせてやろう!」
 占部が呟き、武器『カデンサ』を離してしまいそうになるが、グッと堪えて『流し斬り』を使用して女性型キメラに攻撃を仕掛けた。
「あぁ、何て事だぁ。今回はおじさん好みの美少年がいないじゃないかぁ」
 キメラの観察をやめてようやく覚醒したシァンは、いきなり心底残念そうに呟き「お前のせいだぁ」と烈拳『テンペスト』で攻撃を仕掛けながら言葉を続ける。
「お前に魅力が足りないからだぁ。お前のせいだぁ。お前には死んでもらうぞぉ」
 シァンは『疾風脚』と『急所突き』を使用しながら女性型キメラに攻撃を仕掛ける。
「さっさと終わらせるか」
 久蔵は『刀』を二つ構えながら女性型キメラに攻撃を仕掛ける。途中で女性型キメラの髪が襲ってきたが、所詮は髪の毛、刀で斬りながら一歩、また一歩と女性型キメラに近づいていく。
 しかし足元から近づいていた髪の毛に久蔵は気づく事がなく、もう少しで久蔵に刺さる――という所でリヒトが『ハンドガン』で女性型キメラに攻撃を仕掛ける。本体を攻撃されたせいか、髪は一時的に動きを止め、その間に久蔵が迫ってきていた髪の毛を切る。
「これは罪過の報い。悔やんでも、もう遅い」
 リヒトは小さく呟き『強弾撃』と『影撃ち』を使用して女性型キメラに攻撃を仕掛ける。そして彼女の攻撃で怯んだ所を『瞬速縮地』を使用して御剣が距離を詰めて、攻撃を行う。
 その後、能力者達の総攻撃で女性型キメラは倒れ、能力者達は任務を達成したのだった。


〜任務終了〜

「やはり別の能力を隠し持っていたんだな」
 藤村は受けた傷の痛みに表情を歪めながらため息混じりに呟く。
 女性型キメラから受けた傷、重傷ではないものの能力者達はそれぞれ傷を負ってしまった。
「これは‥‥持っていっても構わないですよね」
 遠倉は女性型キメラが使用していた刀を手に取りながら、他の能力者達に問いかける。
「構わんと思うが――まさかそれを使うのか?」
 月村の言葉に「まさか」と遠倉は苦笑して言葉を返した。
「だったら‥‥何故‥‥?」
 占部の言葉に「本部にいた女性能力者に渡したいんです」と遠倉は言葉を返す。
「仇は取ったと、由良さんに伝えて欲しいですから」
 遠倉の呟きに「それは喜ばれるんじゃないでしょうか」とシァンが言葉を返した。
「来世でまた会えたらお茶をしよう‥‥それまで安らかに眠っていて欲しいものだね」
 御剣は空を仰ぎながら小さく呟く。
「命を落とすのは‥‥怖いかもしれない。だけど、出来るかもしれない事をやらずに、後悔しながら生きるのは‥‥もっと怖い」
 リヒトは俯きながら呟く。傭兵だから『命は惜しくない』という考えは無い。
 きっと半数以上が死への恐怖を持っている筈、だけど自ら戦いの場に投じているのは『自分達が出来る事』をやろうとしているからなのではないだろうか。
「そろそろ報告に向かおう。それも渡すんだろ」
 久蔵は遠倉の持つ刀を指差しながら呟き、報告をする為に本部へと向かう。

「お帰りなさい‥‥あの、どうだった?」
 本部に帰還すると、由良と一緒にキメラ退治に赴いた女性能力者が能力者達を迎えた。
「キメラは無事に倒したよ」
 御剣の言葉に「ありがとう‥‥」と女性能力者はその場に座り込みながら、何度も礼の言葉を述べる。
「――由良さん、でしたか。彼女の墓前に供えてあげてください。仇は取った、と」
 遠倉が刀を渡しながら女性能力者に話しかけると「ありがとう、これであの子も‥‥」と涙を流しながら言葉を返してきた。
「どんな死も忘れてしまっては悲しいものだ。せめて彼女のフルネームを聞いておこう」
 御剣の言葉に「あの子は由良――最上 由良よ」と女性能力者は目を伏せながら呟く。
「‥‥どんな女性も‥‥幸せな人生を歩んでもらいたいものだね」
 御剣は亡くした妻を思いながら小さく呟き、他の能力者たちと一緒に報告へと向かったのだった‥‥。


END