●リプレイ本文
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ‥‥らしいが恋人ごと殺しそうな娘っ子だな」
角田 彩弥子(
ga1774)が禁煙パイポを咥えながら小さく呟く。
「恋する乙女って恐ろしいのね‥‥あたしはした事ないから分からないけど‥‥話を聞く限り、物凄い爆弾娘のようだけど――まぁ‥‥深く気にしないで仕事しましょ」
江崎里香(
ga0315)が苦笑しながら呟く。
「仕方ねぇなぁ‥‥また助けてやるとするか」
盛大なため息を吐きながら呟くのは前回アルカを助けて被害を被った社 槙斗(
ga3086)だった。
「森から出られない――の前にすぐ見つかるんだろうな? 一応、森の何処にいるのか聞いておくか‥‥」
通信機でアルカに連絡を取り、現在の居場所を聞いているのは神無月 翡翠(
ga0238)だった。
「ふふ、でも恋する乙女のパワーって凄いわよね〜、応援したくなっちゃう!」
これ以上応援したら無敵になります、誰かが心の中でツッコミを入れるが気づいていないのはナレイン・フェルド(
ga0506)で俗に言う綺麗なお兄さんである。
「本当はアルカちゃんと一緒になって欲しいなと思うんだけど‥‥アルカちゃんの悲痛な叫びを聞いたし『今回は』逃走のお手伝いをするわね」
意味ありげなナレインの言葉にシェリル・シンクレア(
ga0749)も同じ意見らしく首を縦に振る。
「そうですね〜、でも特攻しちゃ駄目ですよねえ」
ふふ、と妖しく眼鏡を光らせながら呟く。もしかしたら何かを企んでいるのかもしれない。
●かかしさん、志保という名の化物を引き付けてください
「とりあえず、アルカに居場所を聞いといたぜ――入り口から真っ直ぐ進んだ先に三本松があるらしい、其処にいるらしいぜ」
神無月がアルカの居場所を聞いたのか、彼の居場所をメンバーに知らせる。
「けど、入り口付近に彼女がいるわね――」
江崎の言葉に、シェリルとナレインが入り口の志保を引き止める為に先に行く。彼女たちは志保と行動を共にし、アルカが見つかった際にあの手この手で引き止める重要な役割を任されている。
彼女たちが志保を引き止めている間に、神無月と江崎がアルカを護衛し、亜鈴(
ga2320)と内藤新(
ga3460)の二人で『かかしアルカ』を作り、アルカ達の逃走ルートとは正反対の場所に設置する――そして志保の気をかかしアルカに引きつけ、その間に脱出成功! という事だ。
「うん、上手くいくといいね」
内藤が亜鈴に話しかけると、亜鈴は返事の代わりに首を軽く振る。
「志保が移動した、この隙にアルカのところへ行くぞ」
神無月が呟き、護衛班・かかし班・そして偽カップル班のメンバーはアルカのいる三本松の所を目指して走って行った。
「お、遅いぞ! 何してたんだよ!」
激しい口調で話しかけてくるアルカに多少ムッとしたが、その顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
よほど恐ろしかったのだろう。
「とりあえず、無事のようだな? 怪我はあるか?」
神無月が問いかけると、アルカは首を横に振り、怪我がない事を示す。
「しっかし、災難だな。運がないと言うか‥‥しつこそうだよ〜」
神無月は言いながら通信機で志保引止め役に、アルカを発見したことを知らせる。
「一応着替えを持って来ているけど――相手は感がピキーン! と冴え渡ってそうだから誤魔化すのは大変かもね」
江崎の言葉にアルカがガタガタと大げさなくらい震え始める。
「本人が勇気を持って女装するなら用意している人もいるけど――どうする?」
「誰が?」
「ナレインよ、あっちを一時抜けてもらってこっちに来てもらう手はずになっているの」
「俺様も用意してきた、胸パッドとかな」
ふふふ、と角田が妖しく笑む。
「うん、俺も犠牲になるんだし――してみなよ‥‥って言うか‥‥しろ」
社がアルカの肩をポンと叩きながら爽やかにっこりスマイルで女装を勧める。
アルカは暫く考え込み、諦めたように首を縦に振った。
「ショウガナインダ、オ前ノタメダ、俺様ダッテツラインダゾ」
アルカ女装の為の準備をしながら、角田は笑いを堪えながら棒読みで呟く。
「とりあえず社と服を交換してもらってから、メイクを始めるか――‥‥っとナレインも来たようだ」
角田が視線を逸らすと、其方の方からナレインが歩いてくる。
「ふふ、私に任せて! 私メイク上手だから」
ウインクをしながらアルカに向けて話すナレインは楽しそうに笑った。
それから、十分程度で角田とナレイン二人掛りでアルカを立派な『女性』に仕立て上げた。
「うぅ‥‥いくら逃げるためとは言え‥‥男を捨てる羽目になるとは‥‥」
がっくりと肩を竦めながら涙交じりの声で呟く。
「あとは‥‥これを持っていってください」
内藤が無線機をアルカに渡す。かかしアルカに付けた受信機からアルカの声を流し、志保を引き付けようという作戦だ。
もちろんかかしとは言っても使うのはマネキンにコートとかつらを被せ、コート内側の胸ポケットに受信機を仕込んでいる。
「此方の準備は完了。後はアルカさんが何を喋るかが問題ですね」
「じゃあ、あたし達は護衛しながら森からの脱出をするね」
そう言って江崎&神無月はアルカを連れて遠回りしながら森の入り口に向かい始めた。
「じゃあ、私もシェリルちゃんのところに戻るわね♪ シェリルちゃんに限って志保ちゃんからの攻撃を受けるとは思わないけど‥‥かかしに引き付ける為に人数は多いほうがいいでしょうし」
そう言ってナレインは志保とシェリルのところへと戻って行った。
アルカ達がこの場所を離れてから暫く経ったころ――‥‥亜鈴と内藤は志保たちの姿を確認したのだった。
●かかし撃破――恐るべし恋する☆乙女パワー
「キメラが現れる所に一人で来るなんて駄目駄目ですよ〜」
シェリルは志保の額を指でツンと突きながらにっこりと笑う。
「ごめんなさい‥‥どうしてもアルカさまにこの思い特攻したくて‥‥」
照れながら呟く志保だったが、その手には対キメラ用のつもりなのかファングのようなものが装着されている。
こんな物を持った状態でアルカに特攻したらどうなるのか、彼女は分かっているのだろうか?
「初めまして、志保ちゃん♪ 私、貴方の恋を応援しに来たわ!」
ナレインがにっこりと笑って挨拶をする。
「そうそう、今回一緒に志保さんを護衛するナレインさんは男性なんですよ?」
シェリルの言葉に志保は目を瞬かせて、ナレインとシェリルを交互に見比べる。
「え――だ、男性ですの? 私はてっきり女性かと‥‥」
本気で驚いているのか志保は目を丸く見開いている。
「ふふ、ありがとう♪」
ナレインはウインクをしながら礼を言う。
「そういえばアルカさんは好きな方はいるのでしょうか‥‥もしくは志保さんのようにアルカさんを好きな方がいるかもしれませんね」
シェリルの言葉にバキッと何かを殴るような音が響く。何事かと志保に視線を向けると、木に殴りかかっている志保の姿があった。
「そ、そんなの‥‥許せませんわ――私以外の方を選ばれたら、私ショックで‥‥アルカ様を殺しちゃいますわ」
暗い笑顔で呟く志保の言葉は、どうやら本気なようだ。
「その前にまず、女を磨かれたらどうですか? 来月は12月、クリスマスというビッグイベントも来ますし、手作りのプレゼントなど喜ばれますよ、ね?」
ナレインに同意を求めるように話を振ると、ナレインはにっこりと賛同を示す。
「クリスマスパーティの後に疲れた男を労う――そしてそのままベッドに――」
「シェリルちゃん、シェリルちゃん、話が飛びすぎよ」
ナレインがシェリルの妄想を止める。
「は、そうですね。アルカさん探しに行きましょうか」
そう言って二人は志保をかかしアルカの方に誘導しながら歩いていく。
「あ! アルカ様‥‥?」
志保が遠くに見えるかかしアルカを見ながら瞳を輝かせて呟く。それを遠くから見ていた内藤が「‥‥来ました」とメンバーに通信で知らせる。
「ちょ――」
物凄い速さでかかしアルカに向かって走り出す志保をシェリルとナレインは止める事ができなかった。
「ちょっと待ってくれ、少し照れるからそこで止まってくれ」
かかしアルカにつけておいた受信機からアルカの声が流れる。その言葉に志保はピタリと足を止める。
「そ、そんな事言わないで、志保のラブパワー受け取ってくださいまし!」
どかーん、とタックルを食らわせながら志保は照れたように叫ぶ。
「な、何ですの! これは! マネキンじゃないですか‥‥酷い、私とアルカ様を引き離す為に何処ぞの馬の骨がしやがりましたのね――許せませんわ!」
叫びながら志保はかかしアルカに攻撃をくわらし、マネキンは原型を留めることがなかった。
「こ、此処にはいないようね、つ、次にいきましょうか」
哀れなマネキンを見て、ぞっとしながら次の作戦『偽カップル編』へと進むのだった。志保たちが姿を消してから、内藤はマネキンを見て、生身の人間でなくてと良かったと安堵のため息を吐くのだった。
●私にはアルカ様がいらっしゃいますの!
「かかしアルカ作戦が失敗したようだぞ、次は偽カップル作戦――囮だな」
角田がふー、と煙草を吸いながら呟く。
「能力者として、傭兵として――いや! 男として、男の意地見せてやる!」
そう言って社は志保護衛班に誘導して此方に連れてくるようにと指示を出す。
「とりあえず――生きて帰ろうぜ?」
神無月が社の肩をポンと叩き、江崎と共にアルカを森の入り口まで連れて行く。
「しっかし‥‥俺様にとっても羞恥プレイだよ、これは」
そう言って角田は録音テープを見ながらため息を吐く。その録音テープの中にはアルカが角田に向けた告白や恋バナなどを録音したもの、それを志保が現れた所で再生し、アルカに変装した社といちゃつく‥‥という作戦だ。
もし、志保に捕まったりすれば社はもちろん、角田の命さえも危うそうなスリル感たっぷりの囮作戦だ。
「来たぞ―――‥‥」
角田が呟き、録音テープを再生して社といちゃつき始めたのだった。
「アルカ様!」
角田たちから少し離れた場所で志保がアルカ(に変装した社)を発見する。
「まずは様子を見ましょう?」
ナレインが飛び出そうとする志保を抑えて、様子を見るようにと呟く。
「でも――‥‥」
「ダメよ! 折角綺麗にしているのに、化粧が崩れちゃうわ! そんなみっともない顔でアルカちゃんの前に出てもいいの?」
ナレインが少し厳しく問いかけると、志保は首を横に振った。
「押してダメなら引いてみろって言うでしょ? 恋の駆け引きをもう少し上手く活用しなくちゃ! 貴方ならできるわ、頑張って」
にっこり笑ってナレインが言うと、志保も納得したように首を縦に振り、気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をした――のだが、その時彼女は見てはならないものを見てしまった。
「あの方は―――‥‥この間の」
志保は呟くと、物凄い速さで社の所まで走る。
「げっ!」
「貴方‥‥アルカ様にふしだらな想いを秘めている方ですわね――アルカ様をお守りする為に私は――鬼になりますわ」
そう言ってファング(のようなもの)を振り被って社に攻撃を仕掛けようとする。
「おおおおおっ! 待て待て待て!」
「待ちませんわ! むしろ貴方がお待ちなさい!」
逃げ回る社を追いかけながら志保が叫ぶ。
「ちょ――これには深い理由が――」
流石に社を哀れだと思ったのか、角田が助けようとすると‥‥。
「貴方もアルカ様に好意を抱いていますのね! 天敵成敗!」
どかーん、と突き飛ばし角田は木に背中を強くぶつけてしまう。
「あれは‥‥人間じゃねぇ、ヒトの形をした何かだ――‥‥気をつけ――」
がく、と項垂れながら角田が呟く。
「これは止めようがないわねえ‥‥」
「そうですね――でもアルカさんはもう森から出ているころでしょう」
ナレインとシェリルがほのぼのと話している間、社の叫び声が森の中に響き渡っていた。
●無事に脱出、そして死して屍拾う者なし――?
「これでOKね。他の皆が引き付けている間に森から出られて良かったわね」
江崎が森の外で晴れ晴れとした表情をするアルカに問いかける。
「まあ、そのおかげで結構他の皆は最悪な状況になっているだろうがな」
神無月はため息を吐きながら、他の皆の惨状を思い浮かべつつ苦笑した。
「ところで貴方にとって志保って子は迷惑なのかな? それならそれではっきり言えばいいのに‥‥手紙とか」
江崎の提案にアルカはため息を吐いた。
「何と言うか‥‥自分にとって都合の悪いことは認めないんだよ」
アルカの言葉に、何となく納得出来る二人なのだった。
「はー、終わったな」
アルカを見送りながら神無月が伸びをして呟く。
「あ〜〜る〜〜か〜〜さあ〜まあ〜〜!」
神無月が仲間の屍――もとい誘導で倒れた仲間たちの回収に向かおうと森の中へ足を踏み入れたとき――‥‥まるで修羅の如く走ってくる志保の姿があった。
「うぉっ!」
江崎はそれを危機一髪で避け、神無月も避けようとしたとき、ばちこーんと殴られる。
「貴方もアルカ様を狙ってますの!? 許しませんわ!」
裏拳で再び神無月を殴り、去っていったアルカを追いかけて志保は走っていった。
「あらあら、今度こそアルカさんは志保さんにしとめ――ごほん、射止められちゃうかもしれませんね〜」
シェリルの楽しそうな声に誰もが『洒落にならない』と思ったのだとか‥‥。
END