●リプレイ本文
〜任地へ赴く前に〜
「今回は日常物資の輸送船護衛か」
威龍(
ga3859)は資料を見ながら小さく呟く。
「武器弾薬も大切だが、日常物資の搬入が途絶えたら、日々の生活に支障を来たすからな。任務に軽重がある訳ではないが、これも物凄く大事な任務である事には間違いない」
しきりに「大丈夫かなぁ、俺大丈夫かなぁ」と鬱陶しい程にぶつぶつと呟いている大石・圭吾(gz0158)に威龍が言葉を投げかける。
「いや、それでも俺は初めてのKV任務だし――やっぱり不安なんだよなぁ」
「私は初陣の名古屋戦で撃墜されましたけど、今はピンピンしてますわ。ど〜んといきましょ、大石さん」
キャル・キャニオン(
ga4952)が物凄く説得力のある言葉を大石に投げかけ「お、おう、頑張るぜ」と大石は言葉を返した。
「あ、あたしも挨拶しておこう♪ 初めまして大石さん♪ あたしはリー‥‥キャァァァっ! 褌〜!」
リーゼロッテ・御剣(
ga5669)は大石に挨拶をしかけけて、彼の姿を見て思わず叫んでしまう。彼女が叫んでしまうのも無理はない。一緒に任務をこなす仲間が褌一丁ならば誰だって叫びたくなるだろうから。
「んん? どうかしたか?」
大石が首を傾げながら問いかけると「‥‥叫んでごめんなさい‥‥その‥‥いい褌ですね?」とリーゼロッテは言葉を返した。
「おおおっ! この褌の良さが分かるか! キミとは良い褌友になれそうだよ!」
大石が暑苦しく叫ぶと、リーゼロッテは苦笑しながら「そ、そうですね」と一歩引きながら言葉を返した。
「はぁい、あたしはマリオン・コーダンテ(
ga8411)。ディスタンで参加するわね」
マリオンが能力者達に軽く挨拶をした後「あたしの機体は足が遅いから護衛に回らせてもらうわね」と言葉を付け足した。
「フムン。大体のトコロは把握してきたけど、やはり特殊能力か、これはどっかで試しておかないとだね。ぶっつけ本番でやるには消耗が高いし――というわけで私はイビルアイズでの参戦ね」
壬影(
ga8457)は軽く手を振りながら能力者達に挨拶をする。
そしてもう一人『イビルアイズ』での参戦者がいた。
「さぁ、俺達の初仕事だ‥‥頼りにしてるぜ、魔眼!」
暁 古鉄(
gb0355)は自分を奮い立たせるように呟き「宜しくな!」と能力者達に挨拶を行った。
「ふんど師匠! KVでの初陣ですね。おめでとうございます! 力及ばずながら、ふんど弟子の僕も協力します。頑張りましょう!」
現在、大石が弟子と認める唯一の能力者である千祭・刃(
gb1900)が大石に話しかける。
「おおぅ、宜しく頼むぞ、ふんど弟子!」
何処かの青春ドラマを連想させるようなやり取りをする二人を見た後「あの〜」と寒河江 菜摘(
gb2536)が欠伸をかみ殺しながら話しかけてきた。
「KV戦‥‥私も初めてですけど‥‥みなさんよろしくおねがいします‥‥ホントにどーでもいい事ですけど‥‥私は‥‥機械が空を飛ぶって‥‥未だにどーなっているかわからないんですよね‥‥」
寒河江の言葉に「大丈夫だ! 俺もよく分からん!」と大石が自信たっぷりに答え、一緒に任務を行う仲間達の心に不安という感情が過ぎったのだとか‥‥。
「まぁ‥‥そんなことより‥‥いざ‥‥敵さん倒しに‥‥れっつごー‥‥」
今にも眠ってしまいそうな表情と口調で寒河江は呟き、能力者達は任地へと向かい始めたのだった。
〜護衛任務開始・輸送船を護れ〜
護衛班として威龍、マリオン、千祭、寒河江、大石の五人が輸送船の護衛を受け持ち、その中でも威龍だけは『テンタクルス』に搭乗して水中からの護衛を行う役割を受けていた。
その他の護衛役を受けている能力者達は空からの護衛を主として、キメラが輸送船に近づくようであったら、攻撃を仕掛けるという作戦を立てていた。
そして迎撃班としてリーゼロッテ、壬影、暁、キャルの四人が直接キメラとの戦闘を受け持つ事になっていた。
「はぁ〜い。此方はUPCの依頼を受けてきた傭兵で〜す。うるさい虫はあたし達で追っ払っちゃうから安心してね♪」
輸送船に荷物を運び終わり、最終確認を行っている作業員達にマリオンが話しかけ、その中の一人、恐らくは作業員達を纏める人間なのだろう、男性が能力者達に近寄って頭を丁寧に下げた。
「あんたらが護衛を引き受けてくれた人達かい、宜しく頼むよ」
被っていた帽子を取り、もう一度頭を下げて男性は船へと乗り込んだ。
「甘いもの食べたし♪ イシュタルもご機嫌みたいだし♪ 今日も思いっきり飛ぶわよ〜♪」
リーゼロッテは機嫌よく呟き、彼女自身が『イシュタル』と名づけている搭乗機体『ディアブロ』に乗り込む。彼女に続くように他の能力者達も搭乗機体へと乗り込み、護衛任務を開始し始めたのだった。
護衛を開始して十数分が経過したが、まだキメラが現れる気配は見られない。
「まだ護衛を始めたばかりだしな‥‥油断は出来ない、か」
威龍は呟きながら輸送船の近くに付き、警戒を強める。彼は水中機体の特性を生かして水中からキメラが来ないかを確認している。
もし水中から来たのならば、彼が水上へとキメラを引きずり出してから戦えば良い事。
「まだキメラは現れねぇみたいだなぁ」
暁もイビルアイズに搭乗して輸送船の近くを哨戒飛行しながら呟く。そして周辺を護衛する大石のミカガミを見て「褌一丁にヘルメットか‥‥色々な意味で凄いな」と小さく呟く。暁は大石を最初に見た時『男の中の漢』という言葉が頭に浮かんだらしい。
(「機会があればじっくりと話してみたいな」)
暁が心の中で呟くと「全然凄くないですよ、あれがふんど師匠の『普通』なんですから」と千祭が言葉を返してくる。
あの状態を普通と言えるのだから、千祭はもう立派な『ふんどしドラグーン』と呼んでもいいだろう。
「まぁ、俺は人の趣向に口を出す気はないからな。自分が納得しているのならば俺は気にしないが」
威龍も呟く、ある意味偏見を持たない素晴らしい性格の持ち主なのかもしれない。
「もしかして‥‥アレでしょうか」
キャルは上空をジグザグに哨戒しており、飛行する物体を発見すると同時に能力者達に連絡を行う。そしてその物体に急接近して念のために警告を行った。
「相すみませんがこの空域は軍の管轄ですの。速やかにお引取りくださいませね」
キャルがその物体に向けて話しかけるが、物体は引き返す所か此方に威嚇を行ってくる。
「‥‥外見からして大人しく言う事を聞いてくれそうにはないですけれどね」
キャルはため息混じりに呟き「捻れ褌キリリと締めていきましょう」と言葉を付け足したのだった。
「竜退治か‥‥ありきたりだが燃えるシチュエーションだぜッ!」
暁は何処か楽しげに叫びながら、主兵装として装備している試作型『スラスターライフル』で竜型キメラに攻撃を行う。
「弾丸の嵐‥‥とくと味わえッ!」
暁の攻撃が終わると、壬影が「フフン。やるからには全力だ」と呟きながら主兵装として装備している『ガトリング砲』で攻撃を行う。
壬影が攻撃を行っている間にリーゼロッテが竜型キメラへと近寄り『ソードウィング』で攻撃を行い、再び後ろに下がる。
しかし攻撃を受けた竜型キメラは空中でのバランスを崩して、そのまま下へと降下していく――いや、降下というより落下と言った方が近いかもしれない。
そのまま海に落ちてくれれば問題ないのだが、災難な事に竜型キメラの落下地点は船の上だ。
「はいは〜い、こんな所に落ちてきたら迷惑でしょ。落ちるんならアッチでどーぞ!」
マリオンが搭乗している機体『ディスタン』が『ガトリング砲』で竜型キメラを攻撃しながら、落下地点をズラしていく。
「輸送船は襲わせません!」
千祭は輸送船に被害が行かぬように守り、マリオンの攻撃を見ている。そして途中から寒河江の搭乗する『ナイトフォーゲルS−01』の主兵装である『スナイパーライフル』も竜型キメラへと攻撃を仕掛け、落下地点は船の上から海へと変わり、輸送船に被害はなくなった。
そして海へと落ちた竜型キメラに、水中で待機していた威龍が搭乗する機体『テンタクルス』の主兵装である『水中用ディフェンダー』で攻撃を仕掛け、竜型キメラは『ディスタン』から逃げるように浮上していく。
「イイ子だ坊や、思いっきりやってみようか」
壬影は呟くと副兵装として装備していた『H12ミサイルポッド』で竜型キメラに攻撃を仕掛ける。出会い頭の攻撃だった為に竜型キメラは避ける事が出来ずに、直撃で受けてしまった。
「チャ〜ンス到来♪ いっくよ〜イシュタル♪ いっけぇぇぇっ!」
リーゼロッテは『3.2cm高分子レーザー砲』で牽制攻撃を行い、機体依存特殊能力である『アグレッシブ・フォース』を使用して距離を詰め『ソードウィング』で攻撃を行う。リーゼロッテの攻撃を受け、再び海中へと沈められた竜型キメラだったが、浮上してくる寸前を狙って千祭が機体依存特殊能力である『幻霧発生装置』を使用して一時的な効果とは思いつつも目くらましとして能力を使用した。
そして周りに影響がないのを確認すると同時に『3.2cm高分子レーザー砲』で攻撃を行った。
「キメラの分際で、日本男児を甘く見ないでほしいね。ふんど師匠もね‥‥」
千祭は呟くが、彼はきっと気づいていない。彼が師匠と敬う(?)大石が戦いで何もしていない事を‥‥。
もちろん大石も戦闘に参加する気は十二分にあった。しかし戦闘に参加するタイミングを失い、参加しようとする時ほど自分が邪魔にしかならないという状況だったのだ。
(「‥‥お、俺の初KV‥‥何もせずに終わるような気がする‥‥」)
がっくりと隅でうな垂れているミカガミの事は誰も気にせずに竜型キメラの退治、そして輸送船に攻撃が行かない事に能力者達は専念していた。
「う〜ん‥‥眠い‥‥すないぱーらいふる‥‥ポチっとな」
寒河江は呟くと同時に『スナイパーライフル』で攻撃を行い、竜型キメラに直撃する。
しかし、まだ竜型キメラは攻撃する手を残しており、残る力を振り絞って壬影の『イビルアイズ』に突進攻撃を仕掛けてきた――のだが。
「さて、どんなもんだかね。キャンセラーいってみよう」
壬影は呟くと同時に機体依存特殊能力『試作型対バグアロックオンキャンセラー』を使用した。これは重力波の微弱な流れを発生させるもので、相手の命中率を下げるというものだった。その効果が現れたのか、はたまたダメージを負いすぎてまともに戦えない身体だったのか、竜型キメラの攻撃が壬影に当たる事はなかった。
その後、竜型キメラは海へと落ち、水中で待機していた威龍が『試作型水中用ガウスガン』で攻撃を仕掛けた。
「すまんが、この船には大切な食料なんかが積まれているもんで、沈ませる訳には行かねぇんだよ。とっととくたばってもらえるか?」
威龍が呟き、輸送船に張り付こうとした竜型キメラを見て『水中用ディフェンダー』で攻撃を行い、竜型キメラは絶命して海の底へと沈んでいったのだった‥‥。
〜護衛任務終了・だけど彼は結局何もしなかった〜
竜型キメラとの戦闘を終えた能力者達だったが、油断することは出来ないと最後までKVに搭乗して警戒を緩める事はなかった。
「ありがとう、あんた達がいなかったら今頃海の藻屑になっていたなぁ」
男性が能力者達に笑いながら礼を言い、荷物を運び始めた。
「ふぅ〜、何とか片付いたか‥‥思ったよりハードだったな」
暁はため息混じりに地面に足をつけ、大きく伸びをする。
「あら、どうしましたか? 大石さん。勝って褌の紐締めよですね? 分かります」
キャルが何処か落ち込んだ様子の大石に話しかける「‥‥俺はっ、何て役に立たない褌男なんだああ!」といきなり泣き喚きだした。はっきり言って気持ち悪い。
「ど、どうしたんですか? 褌でも汚れましたか?」
リーゼロッテが驚きながら問いかけると「違う! 俺の褌はいつでも純白だ!」と意味の分からない言葉を返してくる。
「それじゃ、どうしたって言うの」
マリオンがため息混じりに問いかけると「俺だけ何もしていないんだ!」と大石は言葉を返してきた。
そして能力者達は戦闘を振り返って、よく考えてみる。
「‥‥確かにしてないわね、何か隅っこでうろうろしてたのは視界に入ってきたけれど」
「あ、私も見た」
マリオンの言葉に賛同するように壬影も軽く手を挙げながら答える。
「うぅん‥‥むしろ‥‥いなくても勝てたよね‥‥」
寒河江の言葉に「褌ショーーック」と大石は大げさなジェスチャーでガクリと膝をつく。
そして最後に本部にやってきた千祭が「ふんど師匠、ご無事でしたか!」と抱きつきながら大きな声で叫ぶ。
「‥‥千祭君、何か変な目で見られそうだから、それは止めた方がいいんじゃないかな」
リーゼロッテが苦笑気味に呟くと「な、何を言っているんですか」と慌てて反論する。
「これは『師弟愛』なんです! 『同姓愛』とは違いますからね!」
そしてその言葉を聞いて「弟子よおおおっ!」と大石の鬱陶しい泣き声と叫び声が本部内に響き渡り、二人はもちろん、一緒にいた能力者達もオペレーターから注意を受けたのだった‥‥。
END