●リプレイ本文
〜週刊記者、原点回帰する〜
「まったく‥‥この頃大人しいと思ったら‥‥これですか? ‥‥皆さん‥‥お仕置きの準備‥‥大丈夫ですよね?」
神無月 紫翠(
ga0243)が笑顔で今回一緒に行動する能力者達に問いかける。ちなみに笑顔と言っても安らぐようなものではなく、何処か悪寒の走る黒い笑顔だと言う事は言うまでもなかった。
「マリさんにも困ったモノね。何かあったら、報酬抜きで付き合うと前々から言って来ているのに‥‥帰ったらお仕置きね」
小鳥遊神楽(
ga3319)もため息を漏らしながら呟く。
今回、能力者が出動する羽目になった原因――それは週刊個人雑誌『クイーンズ』のお騒がせ記者である土浦 真里(gz0004)が雪山に一人でレッツゴーした事からだった。
元々の性格が破天荒だという事もあり、暫く大人しく(?)していた反動が一気に来たのだろう、高笑いをしながら編集室から出て行ったとチホから連絡があったのだ。
「相変わらずのマリだな‥‥しかし雪山に一人で‥‥てまたキメラでも見に行こうとでもしたのか」
苦笑しながら花柳 龍太(
ga3540)が呟くと「そのようだね、まったく‥‥」とキョーコ・クルック(
ga4770)も同じく苦笑しながら言葉を返した。
「ああ‥‥近頃大人しかっただけにその反動でしょうか‥‥? バネも抑えつけるとその分高く跳ねるから普段あまり行動を抑制させない方が‥‥しかし騒動に飛び込む回数が多いのも‥‥」
玖堂 鷹秀(
ga5346)がぶつぶつと考え込むように呟いている。きっとどっちにしても彼氏である玖堂の胃はきりきりと痛む日が続くに違いない。
「チホさん、申し訳ありませんがセロリをあるだけ買ってきて置いて下さい」
櫻杜・眞耶(
ga8467)は携帯電話でチホに電話を行い、そして切る。
「真里はん‥‥今回はセロリから逃げ切れると思いなや‥‥」
櫻杜は俯き、黒いオーラを背負いながら呟く。覚醒していないのに、何処かSっ子のようになっているのはマリへの怒りからなのだろう。
「まさか‥‥山にいるとはね‥‥さすがね真里ちゃん‥‥」
シュブニグラス(
ga9903)は呆れたように苦笑して、ため息を漏らしながら呟く。彼女はチホに彼氏がいるという事をクイーンズ記者から聞いて、マリに真相を聞く為に今回の任務に参加したのだとか‥‥。
「あの、僕は初対面なのでマリさんと言う人柄について教えてくれませんか?」
東雲・智弥(
gb2833)が他の能力者に問いかける。
「無謀」
「学習能力なし」
「後先考えない」
「人に迷惑かけても平気」
様々な言葉が東雲に返ってきて「‥‥困った人ですね。でも、楽しい人だ」
東雲は苦笑しながら言葉を返した。確かに『見て』いる分なら楽しいのかもしれないが『巻き込まれる』方としては堪らないものがあるのだろう。
「それじゃ‥‥出発しましょうか? ‥‥入り口辺りで迷ってくれていたら‥‥楽なんですけどね‥‥」
神無月が呟き、能力者達はマリが遭難している雪山へと向かったのだった‥‥。
〜キメラの情報を求めて〜
今回の能力者達は班を二つに分けて行動を行う事に決めていた。雪山で班を分けるのは危険かもしれないが、マリを探すという目的もある為に班を分けざるを得ないのだ。
最初に能力者達は麓の町でキメラ情報を聞く事にした。
「あの、この辺のキメラについて分かる事がありますか?」
雪かきをしている住人に東雲が問いかけると「きめらぁ? もしかして山におる雪女の事け」と言葉を返してきた。
「とりあえず中に入りな、外は寒いじゃろ」
老人は雪かきのスコップを納屋に放り投げて、能力者達に家の中に入るように促した。能力者達は互いに顔を見合わせながらも老人の好意を受ける事にして家の中へと足を進める。
「寒かったでしょう、温かいお茶でもどうぞ」
家の中に入ると、老女が能力者達に温かいお茶を勧めてきた。
「ありがとうございます。それで‥‥そのキメラのお話を聞かせていただけますか?」
玖堂が問いかけると「雪女じゃよ」と老人が小さく言葉を返してきた。
「山に入った若モンが二人いてね、そいつらが雪女を見たそうじゃ」
「‥‥雪女、ですか?」
神無月が問いかけると「あぁ、何でも鳥や獣を操っていたとも言っていた」と老人が言葉を返してくる。
「女、操る‥‥」
花柳も確認をするように呟く。
「その人に話を聞く事は出来る?」
小鳥遊が問いかけると「今は二人とも仕事の関係で他所におるから無理だなぁ」と老女が言葉を返してくる。
「それじゃ仕方ないか」
キョーコはため息混じりに呟き「そろそろ向かいましょうか」と櫻杜が言葉を返して能力者達はマリが遭難している雪山へと出発したのだった。
〜雪女と週刊記者〜
「それじゃ、ここから班での行動にしましょうか」
シュブニグラスが能力者達へと告げると、能力者達は首を縦に振って答えた。
A班・小鳥遊、シュブニグラス、キョーコ、東雲の四人。
B班・神無月、玖堂、花柳、櫻杜の四人。
これが雪山で行動する班分けとなる。
「それじゃ、無事にマリを見つけて温かい物でも食べに行こう」
キョーコが呟き、能力者達はそれぞれの班で行動を開始したのだった。
※A班※
「‥‥余り弓は使い慣れていないから、いつもよりは戦力が落ちると思って」
小鳥遊は『ダウンジャケット』に身を包みながら一緒に行動している能力者達に告げる。彼女は今回の戦闘場所が寒冷地と言う事もあり『コンポジットボウ』をメインの武器として使用する事にしていた。
「私は皆と違って打たれ弱いからはぐれないようにしないとね」
シュブニグラスも『コート』で寒さに耐えながら呟いた。
「まり〜、どこだ〜い」
キョーコは大きな声でマリの名を呼びながら叫ぶ。先ほどの老人から遭難している人間が避難しそうな場所を聞いていたので、能力者達はそこを目指していた。
「吹雪いてはいませんけど‥‥決して軽いとも言えない雪ですね」
東雲が周りを確認しながら呟く。確かに軽くはない状況で、雪山に上りなれていない人間だったら遭難するのも無理はないかもしれない。
「それにしても記者は色々なネタを追うのに必死なんだね。でもさ、一人で雪山なんて無謀すぎる!」
東雲は拳を強く握り締めながら呟く。
「まぁ‥‥それがマリなんだけどね〜。もう少し大人しくしてくれると嬉しいんだけど」
キョーコが苦笑しながら東雲に言葉を返し、マリ捜索を続行し始めたのだった。
※B班※
「流石に‥‥寒いし‥‥視界は‥‥悪い‥‥最悪ですね‥‥早めに‥‥見つけないと‥‥体力的に‥‥やばい気がします‥‥」
神無月が小さな声で呟く。確かに彼の言う通り、マリを早く見つけないと冗談では済まされない状況になる可能性もある。
「まったく久しぶりだなと思ったらこんな所で遭難して、いくら俺達に心配かけるんだか‥‥行くなら行くで護衛を頼めばいいものを‥‥依頼で断る奴なんていないってのにな」
花柳が呆れ半分と言った口調で呟くと「それが真里さんですからね‥‥」と同じく玖堂も呆れたように言葉を返した。
「山小屋や洞窟のようなものもありますし、そこで大人しく避難してくれていると助かるのですけど‥‥」
玖堂は山の地図を見ながら呟く。
「探すのを急いだ方が良さそうですね‥‥雪が強くなってきました」
櫻杜は『ゴーグル』を着用して、雪に反射する光で眼を傷めないように注意しながら歩いていく。
「あれ――は‥‥」
花柳が目を細めながら遠くに立つ『それ』を見る。雪に紛れて見えづらいけれど白い着物を着て、着物と同じように真っ白な髪を靡かせる女性の姿があった。
「あれが雪女で間違いなさそうですね?」
櫻杜は呟き『トランシーバー』でA班に連絡をいれ、B班の能力者達は攻撃準備を始めたのだった。
〜能力者 VS 雪女――そして週刊記者〜
「あの雪女の向こう、洞穴があります。もしかしたら真里はんはそこに‥‥」
櫻杜は『【OR】月紅』と『【OR】月闇』を構えて、雪女キメラに攻撃を仕掛ける――けれど雪の上を滑らないように足に力を入れて動いているせいで、いつもと同じように動けず雪上戦の厳しさを思い知る。
「ちっ! 雪上戦じゃ、想像以上に体重の軽さが不利になりやがる」
櫻杜の呟きのあと、神無月が長弓『黒蝶』で攻撃を仕掛ける――が吹きすさぶ風のせいなのか、上手く雪女キメラに当たってくれない。
「こっちはお前の事はついでなんだよ、さっさと倒れてくれねぇか?」
花柳が『グレートソード』で雪女に攻撃を仕掛けながら呟くが、反撃として雪女の髪が花柳に突き刺さる。
「ぐ――」
花柳は襲い来る痛みに表情を歪め、後ろへと下がる。
「雪女――テメェがキメラとは割れてんだ、氷漬けに出来るもんならしてみろや!」
玖堂が『エネルギーガン』で攻撃を行おうと構えたのだが、見慣れた顔が雪女と能力者達との間に入って、玖堂は『エネルギーガン』の引き金を引く事が出来なかった。
彼らの前に姿を現したもの――それは捜索していた筈のマリだった。しかし表情は何処か虚ろでいつものような元気さは見られない。
「危ない!」
小鳥遊の声にはっとして玖堂は攻撃を仕掛けてくるマリを避ける。
「まさかマリが操られてるなんてね‥‥」
キョーコの呟きに「‥‥全く」とシュブニグラスも呆れたように呟く。そしてマリを操る何かが雪女キメラの能力だと判断した玖堂は『虚実空間』を使用して、相手が得ている特殊能力の無効化を試みる。
案の定、玖堂がスキルを使用したと同時にマリはその場に倒れ、一番俊敏な小鳥遊がマリを抱えて後ろに下がろうとしたのだが、雪女キメラの髪が彼女を追いかけるように襲い掛かる。
「そうは、させませんっ」
東雲が『超機械一号』で攻撃を仕掛け、小鳥遊が下がるまでの時間を稼ぎ、東雲の攻撃を受けて怯んだ所を花柳と櫻杜が攻撃を仕掛ける。
マリを救出した後、雪女キメラはキョーコを操ろうと能力を仕掛けてくるが、キョーコは自分の過去――父親をバグアに殺された事を思い出し『操作』に抵抗を行う。
そして黒刀『炎舞』で自分の正気を保つ為に腕を切りつけ「もうあたしの前で誰も傷つけさせない!」と叫ぶ。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
キョーコの腕から流れ落ちる鮮血が真っ白な雪を染めていく。
「これをマリさんに‥‥」
東雲は自分が着ていた『コート』をまだ意識を失っているマリに着させ、戦闘に戻る。
「あたしの親友を傷つけた、あなたが死ぬ理由はこれだけで十分よ」
小鳥遊は『コンポジットボウ』を構えて攻撃を行う。呟く彼女の表情には怒りが満ちているのが他の能力者達にも見て取れた。
「さて、皆に『練成強化』を使うから頑張ってトドメを刺してね」
シュブニグラスが花柳、キョーコ、櫻杜に『練成強化』を使用して、それぞれの武器の強化を行う。
そして神無月、玖堂、小鳥遊、東雲が前衛の能力者が戦いやすいように援護を行い、雪女キメラが前衛を傷つけないようにする。
「これで決める! 双龍刃!」
最初に花柳と櫻杜がそれぞれ攻撃を行い、雪女キメラの動きを止める。その後、ガクリと膝をついた雪女キメラに向かってキョーコが『二段撃』と『ソニックブーム』を使用して攻撃を行い、雪女キメラを見事、退治したのだった‥‥。
〜週刊記者を保護!〜
「あはは、この洞穴で雪が止むのを待ってたんだけど‥‥そこをキメラに見つかっちゃったみたいで‥‥」
マリは申し訳なさそうに呟き「でも助けてくれてありがと」と言葉を付け足した。
「むぅ、でも流石にちょっとやばかったなぁ。キメラだけじゃなくて雪も怖かったし。本当に助か――」
へらへらとして笑うマリだったが、洞穴内に響き渡るような乾いた音に言葉は中断させられた。音と共に頬を奔る痛みにマリはきょとんとしている。
「今までもそうでしたが結果的に無事だった、というだけで、紙一重の状況も少なくなかったでしょう。いつまでも『間に合ってよかった』と行くとは思わないで下さい!」
マリの頬を叩いたのは玖堂で、他の能力者達も驚いているのか言葉を挟む事が出来なかった。
「前にも言ったでしょう? まず話して欲しいと、そうすればきっと皆さん協力してくれる筈ですから、ね? 叩いてゴメンナサイ」
玖堂はマリの頬を撫でながら言葉を投げかけ、マリは首を縦に振る事しか出来ずに、何度も首を縦に振っている。
「マリさんにとって、あたしって何? 言った筈よね? あたしの目の届かない所でマリさんが危険な目に遭う事があたしにとって一番辛い事だって‥‥お願いだから、これ以上あたし達に心配をかけないで‥‥」
小鳥遊は今にも泣きそうな眼でマリを見る。
「マリさん‥‥貴方は能力者を‥‥信用してないのですか‥‥?」
神無月がマリに問いかけると「そんな事はない!」と言葉を返す。
「それなら‥‥まずは皆さんに‥‥相談するのがいいかと‥‥本当に信用しているのならば‥‥ね?」
神無月の言葉の後に「そうそう、別に断る奴なんていないんだから」と花柳がマリの頭に手を置きながら言葉を投げかける。
「ほら、これを飲んで身体を温めて?」
キョーコが『水筒』の中に入れておいたココアをマリに渡し、マリは「ありがとう」と礼を述べた後にそれを飲み始める。
「それと、チホの事だけどマリの事を考えて連絡をくれたんだからちゃんとお休みをあげないとダメだよ?」
マリが「う〜‥‥」と唸りながら首を縦に振った。
「‥‥マリさん、無茶はこれからもダメです。大事な人が悲しみます」
東雲は何処か怒りを交えた口調でマリに話しかけ「こ、今後は気をつける」と言葉を返した。
「気をつけるではなく、しない、と言ってください」
東雲の言葉に「うぅー、分かったよぅ」とマリも諦めたように無茶をしない事を約束したのだった。
「ふふふ‥‥これで終わったと思ったら大間違いですよ。お仕置きと思って一度だけセロリ料理を我慢するのがいいか、延々とセロリを出されるのがいいかは好きに選んでくださいな」
櫻杜は笑顔だけれど黒い表情でマリに問いかけ「きゃー‥‥」とマリの小さな悲鳴が洞穴内に響き渡った。
「さて、詳しく聞かせてもらいましょうか?」
シュブニグラスがマリの前に座り、咳払いをしながら問いかける。
「え? 何が?」
「チホちゃんに彼氏がいるって本当なのかしら?」
シュブニグラスの問いかけに「うん、いるよ。三年くらい付き合ってるんじゃない?」と言葉を返し「なるほど、わかったわ」とシュブニグラスはメモを取りながら「ありがと」と言葉を付け足した。
その後、能力者達はマリが回復するのを待ってから報告を行う為に本部へと帰還していったのだった。
そして余談だが、シュブニグラスが今まで書き溜めたメモを見ながら「ドキュメンタリーとして使えるかしら」と編集室へ向かう姿が見受けられていた。
END