●リプレイ本文
〜譲の心を守る為に〜
「こんにちは、今回は宜しくお願いします」
任務に同行してくれる能力者達が待ち合わせ場所に到着すると、更紗が外で待っていて頭を下げながら挨拶をしてくる。
「お久しぶりですね? ‥‥仕事は、慣れてきましたか?」
神無月 紫翠(
ga0243)が更紗に話しかけると「はい、まだまだですけど少しは慣れてきました」と苦笑しながら言葉を返した。
「今回は探し物‥‥と、言っていいのか?」
レィアンス(
ga2662)が更紗に問いかける、今回の探し物であるぬいぐるみがある場所が分かっている分、メインはキメラとの戦闘になる事だろう。
「あれからどれだけ成長出来たか、見せてもらおう」
レィアンスは言葉を付け足すと「が、頑張ります」と更紗も言葉を返した。
「自分に出来る事を見つけられたみたいで良かったです、あたしも及ばずながら力を貸しちゃいますね」
乾 幸香(
ga8460)が更紗の肩に手を置きながら話しかけると「ありがとう」と更紗は言葉を返す。
「たった一つの思い出の品ですか‥‥何とか取り返してあげたいものですね?」
櫻杜・眞耶(
ga8467)が資料を見ながら呟くと、更紗も表情を曇らせる。
「その人形は譲君とお父さんとの絆なんです‥‥ボクは何としてもぬいぐるみをあの子の元に持ち帰ってあげたい‥‥」
「心を護るのも大切なお仕事ですからね。更紗さんが譲君の為にぬいぐるみを取りに行こうとする行為は大切な事だと思いますよ」
更紗の言葉を聞いて、乾が言葉を返す。
「‥‥問題はキメラね」
紅 アリカ(
ga8708)は資料を見ながら独り言のように呟く。
「遺品‥‥になるのよね。絶対に持ち帰ってこなきゃ」
エリアノーラ・カーゾン(
ga9802)がポツリと呟くと「荻城更紗です、今回は宜しくお願いします」と更紗が挨拶に来ていた。
「初めまして、私の事は『ネル』でいいわ。エリアノーラ、なんて長ったるいでしょ?」
「はい、ネルさんですね。ボクの事は更紗って呼んでください」
ぺこりと頭を下げながら更紗が話すと「OK、今回は紫翠と一緒に支援射撃、宜しく。頼りにしてる」とエリアノーラは言葉を返した。
「はい、頑張り――「更紗さん、お久しぶり〜〜!」――いたっ」
言葉の途中で九条・護(
gb2093)が後ろから更紗に勢いよく抱きつく。
「地道に階段上っているようで何より♪ 場数を踏めば度胸も付く、最初と今じゃ違っている所もあるから今回もマイペースで行こう〜〜」
勢いよく抱きつかれて痛さもあったけれど『最初と違う』と言われて、更紗には痛さより嬉しさの方が勝っていた。
「その譲という少年にとって父親とのたった一つの心支え、か‥‥必ず持ち帰るぞ」
ディッツァー・ライ(
gb2224)は自らを奮い立たせるように低い声で呟き、拳を強く握り締め、目的地へと出発したのだった。
〜ニュータウン到着〜
「ニュータウンというより、まるでゴーストタウンだな‥‥」
現場へ到着して、町の様子を見ると同時にディッツァーが小さな声で呟く。彼がそう思うのも無理はない。キメラが出現したせいで住人達は避難しており、人の気配も生活する気配も何も感じられないのだから‥‥。
「怖いのか?」
到着して震えながら武器を握り締める更紗を見て、レィアンスが問いかける。
「‥‥やっぱり、まだ戦いに慣れなくて」
苦笑しながら言葉を返す更紗に「‥‥大丈夫ですよ」と神無月が声をかける。
「‥‥今回は‥‥そばで‥‥手伝いますので‥‥覚醒すると‥‥性格変わりますけど‥‥驚かないで‥‥下さいね」
神無月の言葉に「大丈夫」と更紗は笑って言葉を返した。
今回は戦闘時に班を二つに分けて行動する事と能力者達は作戦で決めていた。
正面班・レィアンス、神無月、ディッツァー、エリアノーラ、そして更紗。
強襲班・乾、櫻杜、紅、九条。
正面班がキメラの気をひきつけている間に強襲班が別方向から接近して、一気に攻撃を仕掛ける――という作戦だった。
先に正面班が動き出し、エリアノーラが『探査の眼』を使用してキメラの待ち伏せやトラップに引っかからぬように警戒を強める。
「『探査の眼』は便利よね、ぬいぐるみの中も覗けるかしら?」
エリアノーラは進みながら呟いた――のだが「足元!」と突然大きな声で叫び、レィアンス、神無月、ディッツァー、更紗は横に飛び、飛ぶと同時に髪の毛が鋭く纏められたものが地面を割って現れた。
「ちっ‥‥」
それぞれの能力者を狙い、髪は四方に散って鋭い刃のような先がレィアンスの腕を掠めた。
「だ、大丈夫ですか?」
慌てて更紗が駆け寄ると「気を抜くな」と短く彼は言葉を返す。
そう、髪の毛が動きを見せたという事は操る本体が近くにいると言う事、それに気づいてレィアンスは更紗に厳しい態度を取ったのだろう。
「ディッツァー! 家の壁から離れて!」
エリアノーラが大きな声で叫び、それと同時に家の壁が崩れてディッツァーの腕を髪で刺して笑う女性型キメラの姿が砂煙と共に能力者達の視界に映った。
「壁を壊して此方にくる、まさに最高の近道だわね」
エリアノーラは苦笑気味に呟き『月詠』を構える。
「更紗さん‥‥更紗さん‥‥まず落ち着いて」
神無月が更紗に話しかけるが、突然攻撃された事により多少気が動転しているのだろう、更紗は弓を持ったまま震えていた。
「‥‥よく見てください‥‥こういう時は‥‥敵を引き付ける感じで‥‥」
神無月が長弓『黒蝶』で更紗に教えるように攻撃を仕掛ける、だが更紗は動きを見せない。
「‥‥あの子に‥‥ぬいぐるみを‥‥持ち帰ってあげるのでしょう‥‥?」
神無月がポツリと呟くと、更紗はハッとしたように目を見開き神無月の顔を見る。
「だったら‥‥こんな所で‥‥怖がっている場合ではありませんよ‥‥?」
更紗は神無月の言葉を聞いて、唇をかみ締め首を縦に振り、持っていた弓を構える。
「そう‥‥牽制ですので‥‥時間稼ぎですよ‥‥?」
戦いの仕方を教えるように神無月も長弓『黒蝶』で牽制攻撃を仕掛ける。
(「大丈夫だな――さて、踊るとしよう」)
レィアンスも動き始めた更紗を見て『蛍火』と『【OR】柄無』を構えて正面から突貫を行う。女性型キメラの髪の毛が襲い掛かってくるが、彼は『蛍火』で斬り落とし、途中で攻撃を行い『守りに入っている』という事を女性型キメラに気づかせないように行動を行っていた。
そしてエリアノーラは神無月と更紗の前に立ち、襲い来る髪を『月詠』で斬り落とす。彼女は二人の護衛を行う中でも、常に死角などから襲われる事を考え、警戒を強めていた。
「ぐっ‥‥」
女性型キメラは四方にて髪を操る事が出来るのか、ディッツァーを拘束して別の髪が彼を狙っている。
「こんなもので、俺の刃を止められると思うなッ!」
ディッツァーは拘束された体ごと自分の方に引き寄せて、女性型キメラを引っ張りだす。その際に女性型キメラは地面へと叩きつけられてディッツァーを拘束する髪が緩み、その隙を狙ってレィアンスが拘束する髪を斬り落とす。
その時に強襲班が女性型キメラのに攻撃を仕掛ける為に姿を見せた。
「行きます‥‥集中攻撃ですので‥‥敵の急所を狙うように‥‥援護しますよ‥‥」
神無月は呟きながら『鋭覚狙撃』と『急所突き』を使用して女性型キメラへと攻撃を仕掛ける。
「幸せだった筈の家族達を追い出して‥‥居座る貴方を許すわけには行かないわ!」
乾は『バスタードソード』を振り上げて『流し斬り』を使用して女性型キメラに攻撃を仕掛けた。
背後から攻撃を仕掛けた乾とは違って、櫻杜は側面からの攻撃を試みる。
「他人の生活に焼餅を焼くのは負け犬の証拠だよ!」
櫻杜は『両断剣』を使用しながら女性型キメラに『【OR】月紅』と『【OR】月闇』で攻撃を仕掛ける。
だが、髪の毛は斬ってもすぐに伸びて、すぐさま能力者達に牙を向ける。
「‥‥髪は女の命よ。それを粗末に扱う貴方には、お仕置きが必要のようね‥‥」
紅は覚醒を行い、蒼い炎を纏いながら『真デヴァステイター』を構え、女性型キメラに近づきながら女性型キメラの足を狙って牽制攻撃を行い、ある程度まで近づいたら武器を『ガラティーン』に持ち替えて『流し斬り』を使用して攻撃を行う。
最初は頭部を狙っていたのだが、女性型キメラは上体を逸らして紅の攻撃は肩で受ける事となり、ざっくりと肩を斬られてしまう。
「いい加減、倒れて欲しいよねっ!」
九条は『竜の翼』で女性型キメラとの距離を一気に詰めた後『竜の爪』を使用して小銃『ブラッディローズ』で攻撃を仕掛ける。
しかし――女性型キメラは髪を散らして能力者達に攻撃を仕掛ける。だけど、その攻撃には先ほどまでの鋭さはなく『最後の悪あがき』のようなものが覗えた。
「きゃあっ」
突然、更紗は足を引っ張られる感覚に陥り、視線を足元に移すと足首に絡まる女性型キメラの髪があり、それと同時に地面から幾束もの髪が湧き上がり、更紗を狙う。
「きゃああっ」
死を覚悟した瞬間――ディッツァーとレィアンスが更紗を庇って攻撃を受け、エリアノーラ、紅、櫻杜が髪を斬り、九条と神無月は女性型キメラ本体に攻撃を仕掛けていた。
「頑丈さには自信がある方でな。この程度で倒せると思うな!」
ディッツァーは自らの身体を刺す髪を斬りおとしながら『豪力発現』を使用して女性型キメラを地面へと押さえつける。
「悪いが、こっちの土俵で戦ってもらうぞ‥‥絶対に逃がさん!」
ディッツァーに押さえつけられて女性型キメラは逃げようとするが、力の差があり動く事は出来なかった。
「終わらせるぞ」
レィアンスは呟き『流し斬り』と『紅蓮衝撃』を使用して攻撃を仕掛け、紅は『二段撃』を使用して攻撃に向かう、そして更紗も援護をする為に弓で女性型キメラに攻撃を仕掛ける。
女性型キメラにヒットする間際にディッツァーは自分も巻き込まれぬように避け、傷つきながらも能力者達は女性型キメラを退治したのだった。
〜ピンクのうさぎ、父との最初で最後の絆〜
「‥‥大丈夫でしたか?」
紅は更紗の足に巻きついている髪を切りながら問いかける。
「あ、はい‥‥ごめんなさい」
最初、更紗は自分で髪を取ろうとしていたのだが余計に巻きついてしまい、見かねた紅が『エマージェンシーキット』の中に入っている万能ナイフで髪を切ってくれていた。
「残る任務はぬいぐるみだな、大切なぬいぐるみだからな。頼むから無傷で見つかってくれよ‥‥」
祈るようにディッツァーが小さな声で呟き、譲の自宅である赤い屋根の家へと入っていった。
「‥‥酷い‥‥」
家の中に入ると、中のものは散乱しており、綺麗だったはずだろう家の面影は微塵もない。
「すぐ‥‥見つかると‥‥良いんですが‥‥自分の部屋でしょうか‥‥?」
神無月も倒れている食器棚などを避けながら二階へと足を進める。
「やれやれ、メインは楽だと思ったんだがな、ここまで荷物が散乱していると逆に探しにくいな」
レィアンスもため息混じりに呟き、無残な姿になったソファの隙間などを探し始める。
「‥‥そこ、気をつけてね。コップやお皿の破片が散らばっていたから」
紅が能力者達に指差しながら危ない箇所を教え、彼女はリビングを捜索する。
「うわ‥‥」
九条は寝室に入って表情を歪める、そこは血の海になっていたであろう程の血痕が赤黒く変色して残されていた。襲われた場所は此処だったのだろう、九条は当時の状況を思い出し、こみ上げてくる気持ち悪さを堪えながらぬいぐるみ探しを再開する。
「どうだ、見つかったか?」
ディッツァーが更紗に話しかけると「いえ、まだ――」と呟いた所で手を止める、彼女と神無月、ディッツァーは二階の子供部屋を探していた。
「‥‥多分、これだと思います」
更紗が呟きながらベッドの隅に落ちていたぬいぐるみを引っ張り出す。更紗が見つけたぬいぐるみを見て神無月とディッツァーは「う」と言葉を詰まらせる。
恐らく譲はキメラに襲われた時もぬいぐるみを手放さなかったのだろう、ピンクだったぬいぐるみは血で汚れており、それも黒く変色している。僅かに残った耳部分のピンクと背中にあるチャックが『譲の探していたピンクのぬいぐるみ』なのだと言う事を知らせていた。
「‥‥しかも‥‥耳が‥‥千切れかけていますね‥‥」
神無月の言葉を聞いて耳に視線を向けると確かに今にも千切れてしまいそうなほどだった。
「私がソーイングセットを持っているので直しますよ」
櫻杜が二階へと上がってきて話を聞いていたのか、手を差し出しながら話しかけてきた。
「あ、じゃあ‥‥宜しくお願いします」
更紗は櫻杜にぬいぐるみを渡して、彼女がぬいぐるみを直す間、能力者達は外で待つことにした。
それから数十分後、耳を直した櫻杜が家の中から出てきて「これが背中の中に入っていました」と一枚の写真と時計を渡してきた。
その写真は小さな赤子と若い女性が写った写真と、男の子が好みそうなキャラクターの絵が描かれたデジタル時計だった。
「これは‥‥」
更紗は写真の裏に書かれている文字を見て涙が出そうになる。
『譲へ、今まで放っておいてごめん。またお父さんは戻らなければならないけれど、今度はすぐに帰ってこれるから。その時はお前の望む事を何でもしてあげるよ、良いお父さんになれるように努力する、だからもう少しだけ待っててくれな』
「‥‥早く届けてあげると‥‥良いですよ‥‥待っているでしょうから‥‥」
神無月の言葉に能力者、更紗は首を縦に振り、譲の待つ病院へと向かい始めたのだった。
「自分の行動に自信を持つのは依頼主の信頼に応える事でもあるんですよ?」
病室に入る前に心配している更紗に対して櫻杜が話しかけ、更紗は首を縦に振って病室の扉を開ける。
「これ、ここにいる皆が手伝ってくれたんだよ」
更紗が能力者たちを紹介しながらぬいぐるみを渡し「ありがとう」と譲は汚れたぬいぐるみを受け取りながらお礼を言う。
「‥‥今度はこのぬいぐるみを、どこかに置いてったりなくしたりしたら駄目よ?」
紅の言葉に譲はぬいぐるみ、写真と時計を大事そうに抱きしめながら「‥‥絶対になくしたりしない」と言葉を返す。
まだ譲は幼い、心の傷が癒えるのはもう少し時間が掛かる事だろう。だけどいつか立ち直ってくれると信じながら病室を後にしたのだった。
「今回は‥‥頑張ったと思いますよ」
神無月が更紗に話しかけ「ありがとうございます」と言葉を返す。
「更紗‥‥まだ、戦い続ける気があるか?」
レィアンスが問いかけ、更紗は「もちろん」と言葉を返す。
「そうか‥‥」
レィアンスはその後、更紗を訓練所まで連行して彼女を鍛える事にした。
「次の依頼までに、せめて俺程度の相手は対応出来るようになってもらおう」
呟く彼の言葉に更紗は危機感を感じ、時間は短かったが地獄の特訓が始まったのだった。
END