タイトル:桃霞―思い出の色マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/11 03:46

●オープニング本文


能力者たちはなにを思って戦うのだろう? それは能力者の数だけ答えがある――‥‥。

※※※

「あんたは何故戦う?」

UPC本部の椅子に一人の中年女性が腰掛けており、通り行く能力者に問いかけていた。

彼女は能力者ではない、ただの一般人なのだが――彼女の息子が能力者で最近キメラとの戦いで亡くなったのだと誰かが言っているのを聞いた。

「あたしの息子は――親孝行だといって戦いに行ったよ――そして‥‥親より先に死ぬという最大の親不孝をして物言わぬ体で帰ってきた」

馬鹿息子が、女性は涙を流しながら悔しそうに一枚の写真を握り締めている。

「頼みがあるんだ――あたしの息子を殺したキメラを‥‥倒して欲しい」

言いながら女性は彼女の息子が行った仕事の内容が詳しく記された紙を渡してきた。

「血まみれの姿で帰って来た時――これを握り締めていた」

渡された紙を見ると、彼が死に際に書いたのだろうか。

血で汚く汚れた紙の中には、彼が戦ったであろうキメラについて色々な事が書かれていた。

「お願いだよ‥‥どうかそいつを‥‥」

涙を流しながら呟く女性に、能力者たちは互いの顔を見合わせたのだった。


●参加者一覧

パワーマン(ga0391
25歳・♂・FT
時任 結香(ga0831
17歳・♀・FT
風巻 美澄(ga0932
27歳・♀・ST
五代 雄介(ga2514
25歳・♂・GP
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
アイリス(ga3942
18歳・♀・JG
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN

●リプレイ本文

「何故戦うのか‥‥ね」
 中年女性の言葉を思い出しながら呟くのは時任 結香(ga0831)だった。
「あたしは‥‥もうこれ以上キメラやバグアのせいで誰かが悲しまなくていいじゃない――‥‥そう思っていつも戦っているわ、そしてあいつらに悲しみや怒りを償わせる為に」
 時任は拳を強く握り締めながら呟く。
「アイリス(ga3942)が出来るのは敵討ちくらいですけど‥‥それでも頑張るです」
 アイリスも時任の言葉に頷きながら悲しそうに呟いた。
「そうね‥‥あたしは非情と言われることが多々あるけど――身内を失う痛みは理解できているつもり」
 葵 宙華(ga4067)も動機について語る。
「一応、彼女の息子と一緒にキメラ討伐に向かった奴から話を聞いている」
 威龍(ga3859)がメモのようなものを取り出しながら、聞いてきた話を話し始める。
「彼女の息子がどれほどの腕の持ち主だったのか知らないが、一人でキメラに向かっていったわけではないだろうと考え、探した所、案の定彼と一緒に行動して生き残った者がいた」
 そう、彼女の息子は四人でキメラ討伐に向かい、三人が生き残って帰ってきた。そして彼らはその時を語ってくれた。
 一匹だと余裕を持っていたのが悪かったのか、彼らはキメラに不意打ちを食らってしまい、それぞれが深い傷を負ってしまう。
 このままだと全滅してしまう、そう考えた彼はキメラの攻撃を自分に集中させ、残りの三人を逃がしたというのだ。
「なるほど――‥‥中々男気のある奴じゃねえか」
 パワーマン(ga0391)が不敵に笑みながら呟く。
「同じ能力者の無念を晴らすためという意味でも負けられない戦いだな」
 木場・純平(ga3277)が彼の最後の話を聞き、負けられない理由を語る。
「そうだな、一応首飾りを探す時用に金属探知機も持って来たよ」
 五代 雄介(ga2514)が金属探知機を見せながら呟く。
「さて――‥‥そろそろ目的の場所が見えてきたな――‥‥」
 パワーマンの言葉に能力者達の中に緊張が走り、キメラ退治と首飾り探しを達成する為に目的地に着くのを待っていた。


●戦う理由、死ねない理由

 目的の場所に辿り着くと、グラップラー三人組で囮チームを編成する。
「‥‥意外とキメラは悪食なのね――」
 葵が呟くと同時に感じるキメラの気配、そして唸るような声。
「囮班でスナイパーが攻撃しやすいようにキメラを引き付ける」
 そう言って囮班はそれぞれキメラに向かって走り出す。
 そして、ファイターも近づく攻撃に備えて準備を始める。
「あたし達が接近戦タイプのあなた達がキメラを囲んで攻撃出来るようにするわ―‥‥その後で照明銃を使うから合図したら適当に目を瞑ってね」
 葵の言葉に能力者達は言葉にした返事はしなかったが、それぞれが『分かった』の意味を込めて頷く。
「この先は行き止まりになっています、そこにキメラを追い込めばどうでしょうか」
 アイリスが威龍の集めた資料を基に追い込める場所を頭に叩き込んでいた。そのうちの一つがこの先にあるのだ。
「じゃあ、俺達の出番は追い込んでから後――だな」
 パワーマンが呟き、時任に視線を移す。彼女はグラップラーが危なくなったらいつでも駆け寄れるように、グラップラーのすぐ近くにスタンバイしている。
「横に飛んでください!」
 アイリスが叫び、グラップラーたちは指示通り横に飛ぶ。それと同時に撃ち込まれる銃弾、スナイパー達はキメラの機動力を削ぐ為に足だけを集中して射撃している。
「今から照明銃を使うわ! 目を閉じていないと巻き添えくらうわよ!」
 葵が叫ぶと同時に照明銃を使う。周りが眩しく光り、能力者たちは目を閉じていたおかげで目が眩む事はなかったが、キメラは防ぐことなく、照明銃の光を真っ向から見てしまう。
「あたし達に出来るのはここまでよ、倒すのは――あなたたちよ」
 葵がゴミとなった照明銃を見ながら呟く。
「キメラを倒してアイリスたちで頑張って首飾りを見つけるのですよ〜」
 アイリスも小銃・スコーピオンを直しながら、接近戦を行う者達の邪魔にならぬように葵と共に後退する。
「キメラは目が使い物にならなくなったはずだ! このまま一気に倒すぞ!」
 パワーマンの叫ぶ声に接近戦で戦う者達は首を縦に振る。
「こんな奴らの為に――もう誰かの涙は見たくないんだっ!」
 五代が叫びながらキメラに攻撃を仕掛ける。キメラも攻撃を受けるとすぐに反撃をするが、目が見えていないため、攻撃が五代に当たる事はなかった。
「肉親を‥‥息子を亡くした母親の悲しみ、償わせてやる!」
 時任は叫び、キメラの右側――正面にいるパワーマンから見て左の位置におり、豪破斬撃を繰り出す。
「おらぁっ! どんとこいやぁっ」
 パワーマンが力任せにキメラを殴りつける。彼は覚醒してから攻撃を繰り出そうとしたのだが、目を失ったキメラ相手にそこまでする必要はないと判断し、覚醒をせずに攻撃を始めたのだった。
「おらぁっ!」
 パワーマンは叫びながら、力の限り槍を叩き込む。
 しかし、真正面にいるせいかパワーマンは致命傷すらないものの攻撃を受けやすくなっていた。
 キメラの爪がパワーマンの体を裂こうとしたとき――五代がキメラの腕に攻撃をして、パワーマンへの攻撃をキャンセルさせる。
「悪ぃな、助かった」
 パワーマンが五代に呟くと「いえいえ」と言葉を返し、再び戦闘に戻る。
「ヒット&アウェイではキリがないな」
 威龍は先ほどからヒット&アウェイでキメラに攻撃を仕掛けているのだが、素早さのあるキメラのせいか、中々急所に当てることは出来なかった。
「少し避けてくれ!」
 木場が叫ぶと、キメラの周りにいた能力者達は一斉に避ける。そして彼はレスリング技を使い、キメラの機動力を削いだ。
 確かに目を失ってキメラの動きは緩慢になったのだが、元から持っている素早さが違うためか此方の攻撃が致命傷になる事はない。
 そこで木場がレスリング技で押さえ込み、その隙にファイター、グラップラーの皆にしとめてもらおうという作戦を実行したのだ。
「動かないでね、少しでも動いたら――純平も一緒に斬っちゃうかもだから」
 時任がツーハンドソードを構えながら呟く。
 そして――‥‥接近戦の皆がキメラに攻撃を仕掛けて、一つ目の任務『キメラ退治』を終えたのだった。
「あたし達は死ねない――‥‥あたし達に息子の無念を晴らしてくれって頼んできたあの人のためにも‥‥あんた如きに殺られるわけにはいかないのよ」
 時任はツーハンドソードを引き抜き、キメラの血を振り払いながら呟いたのだった。


●桃霞――新たな思い出の色

「さて‥‥あの人の為にも首飾りを見つけないとね――だけど夫と息子、二つの意味を持つ形見になっちゃったのかぁ‥‥」
 時任が首飾り捜索を始めた時に呟いた。
「壊れてなければいいけど」
「例え壊れていても――どんなささやかな遺品でも彼女の為に持って帰りたい」
 時任の言葉に木場が言葉を返す。
「ふぅん、そんなものなのかな。形見を持ってないあたしは――‥‥どうともいえないけど」
 葵が呟く。
「息子さんの遺体って‥‥この辺だったんですよね?」
 アイリスが資料を見ながら呟く。
「恐らくキメラとの戦闘で無くしたのだろう、だったら戦闘現場近くに落ちているのが普通だが」
 パワーマンが呟き、五代の持っている金属探知機に反応が出た。
「この辺か?」
 木場が草根を掻き分けながら探すと、其処には血がべっとりとついた首飾りが落ちていた。
「‥‥血が固まっている、ピンクの石がついているし‥‥これだろうか」
 木場が首飾りを見つめながら呟く。
「あれ? それ――開くようになってませんか?」
 アイリスが首飾りを指差しながら問いかける。
 確かに首飾りはロケット式になっていて、開く仕組みになっているようだ。
「開く?」
 葵が問いかけ、木場が開けようとする。血が固まっているせいか中々開けづらかったが、何とか開く事が出来た。
「‥‥これは、写真?」
 威龍が呟く。血で塗り固められたロケットの中には親子三人で撮ったと思える写真が入っていた。
「これだけでも‥‥持って帰ってやれば、依頼人の気持ちも少しは和らげられるのかな」
 写真の中で幸せそうに笑う三人を見て、威龍は少し悲しい気持ちになりながら呟いた。
「もうすぐ日が暮れますけど、見つかって良かったですよ〜」
 アイリスも心の底から『良かった』と思っているのか、泥だらけになった顔で笑っている。
「早速持っていってあげるですよ」


●きっと、それは彼女の心に残る

「まぁ‥‥この首飾りは――」
 キメラを倒した事を報告し、能力者達は依頼人の中年女性に形見の品である首飾りを渡した。
「あなたの息子は馬鹿息子じゃあないみたいよ?」
 女性に対して、葵がポツリと呟く。
「人間なら切羽詰った状況で『死にたくない』と思い、また残してきた者への想いを書き綴る――けれどあなたの息子はそれをしなかった」
 葵は一度言葉を止め、大きく息を吸い込んでから再び口を開く。
「自分の代わりに――キメラを倒す後継者の為にキメラの特徴を書き綴った。自分が死んでも、誰かが自分の遺志を継いでいくように。もちろんその中にはあなたも含まれている――愛されている」
 葵の言葉を聞きながら女性はぼろぼろと涙を零し始めた。
「あたしは遺志を継ぐ気なんてないけど、あなただけは彼の気持ちを継いで生き続けてちょうだいね」
 葵はそれだけ言い残すと「それじゃ、さよなら」と言って本部を後にした。
 遺された能力者達も葵と同じ気持ちだったのか、泣き崩れる女性を少し微笑みながら見ていたのだった――‥‥。


END