●リプレイ本文
―― 現れた英雄 ――
「今度は『英雄』か、バグアも色々と考えるなぁ‥‥」
感心するような、呆れたような口調でユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)が呟く。
「敵は攻防共に優れたキメラ。神話云々は、敢えて考える必要は御座いますまい」
ジェイ・ガーランド(
ga9899)が資料を見ながら呟く、彼はバグアが『英雄』を模しているだけと考え、神話上に描かれている厄介な能力や弱点などは視野に入れない方がいいと考えているようだった。
「まぁ‥‥能力などは置いておいても英雄と呼ばれる存在までキメラにするとは、バグアも節操がないと言うか、何と言うか‥‥」
遠倉 雨音(
gb0338)が苦笑気味に呟き「ただ」と言葉を付け足す。
「腐っても英雄の名を冠するだけの実力はある模様、油断は禁物ですね」
遠倉の言葉に「‥‥そうですね、重傷者などを出しているキメラなのですから‥‥」と紅 アリカ(
ga8708)が言葉を返した。
「シグルドねぇ。史上最強の浮気者退治って訳か」
さしずめ俺はグットルムだな、と煙草を吸いながら言葉を付けたすのは風見トウマ(
gb0908)だった。
「ふふ、自分の国では英雄扱い、相手の国では極悪人〜♪ 英雄も大変だよねー」
キメラだけど、と風花 澪(
gb1573)が可笑しそうに笑いながら呟く。
「でもさ」
風花はジェイが持つ資料を取り、シグルドとされたキメラが写っている写真を見ながら大げさなため息を吐く。
「いつも思うけどキメラには可愛さが足りない‥‥!」
「可愛さ、ですか?」
遠見 一夏(
gb1872)がきょとんとした表情で聞き返すと、風花は首を縦に振る。
「全く倒す方の身にもなって欲しいよね――って事で、倒す前に隙あらばくまさんシールを鎧に貼る! ぺたぺたと!」
風花はくまさんシールを見せながら気合の入った声で話す。
「そんなの貼られたら逆にシグルドがキレちまうんじゃねぇの?」
からかうように風見が言葉を返すと「そんな事ないよ〜」と風花は言葉を返した。
「何か羨ましいな‥‥私はやっぱりこれだけは、何度経験しても慣れないから緊張しちゃって‥‥」
遠見が呟くと「大丈夫だって」と猫屋敷 猫(
gb4526)が遠見の背中を軽く叩きながら話しかける。
「私も初めての任務で緊張してるし!」
ドキドキわくわくするけど頑張るぞ〜、と猫屋敷は言葉を付け足しながら呟く。
「それに巫女として今回のキメラには許せない事があるんですよね」
猫屋敷の言葉に「許せない事?」と遠見が首を傾げながら聞き返す。
「巫女として神社を荒らす輩にはキツ〜イお仕置きをしなければ! 私達が天誅を下すです!」
ぐ、と拳を強く握り締めながら猫屋敷は叫び、能力者達はシグルドが潜んでいると言う神社へと向かい始めたのだった‥‥。
―― 堕ちた英雄 ――
今回の戦闘場所は神社、しかも今後も使われる神社のために「壊さないで欲しい」と言う要望が住人から届けられていた。
そして、その要望を聞き届ける為に、能力者達は戦闘の場所を少し離そうと言う結論に至った。
しかし地図も何もない状況で、神社の状況も把握できていないので班を三つに分けて行動する事に決めていた。
囮班・紅、風花、風見の三人。
潜行狙撃班・ジェイ、遠倉の二人。
迎撃班・ユーリ、猫屋敷、遠見の三人。
作戦内容としては、先に潜行狙撃班が『隠密潜行』を使用して神社内に潜入して、囮班にシグルドをおびき寄せるポイントを探し、潜行狙撃班は隠れて囮班にポイントまでシグルドを誘導してもらい、奇襲攻撃を仕掛けると言う内容だ。
つまり、潜行狙撃班が誘導ポイントを見つけないと、この作戦は成功しないと言う事になる。
「それでは、行って来ます」
ジェイと遠倉が呟くと「‥‥ジェイさん、気をつけて‥‥」と紅が言葉をかける。
「アリカ、貴方も気をつけて」
ジェイは言葉を返すと、ポイントを探す為に遠倉と行動を開始したのだった。
「それなりに、大きな神社ですね」
遠倉が小さな声で呟く、キメラさえいなければ多少は賑わっていただろう場所も人の気配は全く感じられず、ひっそりとしていて逆に不気味ささえ窺える。
「神社の周りは木々で囲まれているんですね」
ジェイが見渡しながら呟く、広い境内に周りは小さな森のように木々で埋め尽くされていて戦うにはもってこいの場所だった。
「それにしても‥‥シグルドの姿が見えませんね」
ジェイが呟くと「そういえば‥‥」と遠倉も周りを見渡しながら言葉を返す。戦闘に適したポイントを探す事で神社はくまなく探したはずなのだが、肝心のシグルドの存在は見られなかった。
「外を探して見つからないと言う事は‥‥」
遠倉がある一点を見つめながら呟く、その事にジェイも気づいていたのか「恐らくそうでしょうね」と言葉を返した。
外にいないのなら中――つまり、社の中にいると言う事なのだろう。幸いにもジェイと遠倉の二人は『隠密潜行』を使用して気配を隠している。
だからシグルドにも見つかっていないのだろう。
「こちら潜行狙撃班、神社の境内が広くて神社本体に被害が及ばない場所と判断しました」
「境内と言う事で、気をつけなければならない部分が多いですが他に場所がありません」
二人は『トランシーバー』で囮班と迎撃班に連絡を行う。
「それでは三人とも、囮は危険が伴いますが、宜しくお願い致します。大丈夫かとは存じますが‥‥気をつけて」
ジェイが囮班に向けて呟き、狙撃班でもある彼らは二手に分かれて身を隠し、囮班が誘導してくるのをジッと静かに待つのだった。
「場所が境内となるとあんまり暴れられないのかな? とりあえず少しでも被害が少なくなるように引き離せる所まで引き離そ〜♪」
風花が『ペイント弾』を取りながら呟く。
「頭は50点、胴体は30点、手足は20点、盾は0点! 目指せ300点〜♪」
風花は『【OR】Scarlet【MF仕様】』に『ペイント弾』を装填しながら楽しげに呟く。
「‥‥シグルドは、社の中‥‥だったわよね」
紅も『真デヴァステイター』を構えながら小さな声で呟くと「浮気者には天罰ってね」と風見も軽い口調で呟き、囮班は動き出した。
三人はシグルドが気づくように、わざと大きな音を出しながら走り出す。
そして、社の前までやってきて扉を開けると同時にシグルドが攻撃を仕掛けてくる。
「っと‥‥いきなり斬りつけて来るのは反則なんじゃねーの?」
風見は攻撃されて少し血が滴る腕を見ながらため息混じりに呟く。そして続いてシグルドが風見に攻撃を仕掛けようと剣を大きく振り上げた――その時に風花が撃った『ペイント弾』がシグルドの頭に直撃する。
「やったね、まずは50点♪」
風花が嬉しそうに呟き、少しずつ誘導地点まで後退していく。
「‥‥さぁ、ついてきなさい。本当の戦いがしたいのならね‥‥」
紅は『真デヴァステイター』で牽制攻撃を仕掛けながら小さく呟く。風見も『コンユンクシオ』で攻撃を仕掛けるが、盾によって悉く防御されてしまう。
そして誘導地点までシグルドを誘導して、此処から本格的な戦闘が始まるのだった。
―― 虚構の英雄 VS 能力者という名の英雄 ――
「‥‥先手、必勝!」
誘導地点まで囮班がシグルドを誘導し終わると、潜んでいた狙撃班が奇襲攻撃を仕掛ける。予め『トランシーバー』でタイミング合わせをしていたジェイと遠倉が挟み撃ちで片方でも防御が出来ない状況を狙っていた。
彼らの狙い通りに片方は盾によって防御されてダメージを与えられていないが、逆サイドは銃撃を直接受けている。
「‥‥逃がさない。大きな被害が出る前に倒すぞ」
ユーリが冷たく呟き『三節棍』を構えて攻撃を仕掛ける。扱いが難しいとされている『三節棍』だったが、ユーリは慣れているのか自在に操っている。
剣や銃のように直線的な攻撃ではない為、シグルドが攻撃を盾で防いでも、ぐにゃりと連結された別の棒がシグルドの背中を攻撃する。
「続けていきます!」
遠見が叫び『真デヴァステイター』で攻撃を仕掛ける、なるべく間断なく攻撃が続くように彼女は心がけて攻撃を行っていた。
だが、銃撃によってシグルドの標的が彼女に定まったのだろう。素早くシグルドは移動してきて剣を振り上げて遠見に攻撃を仕掛ける。シグルドの攻撃が直撃する間際、彼女は『竜の鱗』を発動しており、重傷を負うまでは至らなかった。
「この程度でっ!」
再び『真デヴァステイター』で攻撃を仕掛けると「天ッ誅――――!」と叫びながら猫屋敷がシグルドに攻撃を仕掛けた。彼女は『スマッシュ』と『円閃』を駆使しながら戦い、シグルドを地面に沈める。
「神社と言う神聖な場所を荒らす輩に遠慮は無用ですよ」
猫屋敷が呟いた瞬間、シグルドがなぎ払うように攻撃を仕掛けてきて、彼女は遠く吹き飛ばされてしまう。
「危ない!」
ユーリが木に激突しかけた猫屋敷を抱え、猫屋敷は大ダメージを受けずに済んだ。
「ありがとうございます」
猫屋敷は礼を言うと「いや」とユーリが短く言葉を返す。
「一発必中、一撃必殺‥‥食らえ!」
ジェイが叫びながら『急所突き』を使用しながら攻撃を仕掛けるが盾によって弾道を変えられてしまい、シグルドの肩に攻撃が当たる。
そして僅かな隙を突いて風見が攻撃を仕掛けるが、シグルドの剣によって受け止められてしまう。
「んぎぎぎぎ‥‥やるじゃねぇの」
風見は剣を『コンユンクシオ』で受け止めながら呟くが「でも残念でした♪」と言葉を付けたして『コンユンクシオ』を自分の方へと引く。力一杯押していたのに、突然バランスを崩されてシグルドはよろけてしまう。
「鬼さんこちら♪ 手の鳴る方へー♪」
風花が手を叩きながら歌い、シグルドが彼女の方へと視線を移す。
「っていうかよそ見なんてしてると死ぬよ?」
風花がぺろりと舌を出しておどけたように言葉を返し、正面から走ってシグルドに攻撃を仕掛ける。
風見がバランスを崩したおかげで、風花の攻撃に対する防御が僅かに遅れる。
「先ずはこれ貼らせてもらうよ!」
風花は宣言通りにくまさんシールを貼った後に『紅蓮衝撃』『豪破斬撃』『急所突き』のフルコンボでシグルドに攻撃を仕掛ける――が、案の定シグルドは盾によって防御をしてくる。彼女がシールを貼ったおかげで防御が間に合った‥‥のだけど。
ばき、と音を立ててシグルドの盾が割れていく。シグルド自身も盾が破壊された事に驚いているのか粉々になった盾の破片を見ている。
「――――穿ち、貫く‥‥止めてみなさい」
紅が背後から『ガラティーン』で攻撃を仕掛け、心臓部を狙って貫くのだが――胸部の鎧に阻まれてカキンという金属音が鳴るだけだった。
「油断は禁物だ」
すかさずユーリが『三節棍』で攻撃を仕掛け、鎧のない部分――腹部を狙って攻撃を行う。
「貴方の出番は終わっています、速やかにご退場を願います」
遠倉が呟きながら『フォルトゥナ・マヨールー』を構え『影撃ち』を使用して攻撃を仕掛けた。
流石に自分が不利だと感じたのか、それとも『死にたくない』という生への執着のせいか、シグルドが逃げようと踵を返す。
「‥‥逃がしは、しません」
遠見が『竜の翼』を使用してシグルドが逃走する方向に先回りをして『真デヴァステイター』で攻撃を仕掛ける。
そして猫屋敷が『円閃』と『スマッシュ』を使用して攻撃を行う。
倒れこんだシグルドの前に紅が立ち、静かに『ガラティーン』を構える。
「この距離での一撃‥‥確実に決めるわ。一発必中一撃必殺‥‥ってね!!」
紅が呟き終わり、勢いよく『ガラティーン』をシグルドの首へと突き刺す。
「必殺っ! ブリュンヒルトアタァァック!」
風見は『流し斬り』『紅蓮衝撃』『急所突き』と全てのスキルを駆使してシグルドに攻撃を仕掛け、シグルドを見事撃破したのだった。
「ばいばい鎧の騎士! またいつか遊ぼーね♪」
絶命したシグルドに風花が手を振りながら呟いた。
―― 英雄を打ち倒した者達 ――
「結局『ペイント弾』を三つ使って100点だった〜‥‥僕の腕も鈍ったのかな」
風花はペイント弾の結果が納得いかないのかむすっとした様子で呟いている。
「‥‥怪我は大丈夫?」
紅がジェイに話しかけると「大丈夫だよ、アリカこそ怪我しているけど」とジェイも言葉を返す。
今回のシグルド戦、全員が無傷と言うわけには行かなかった。重傷者や重体者は出なかったものの、全員が怪我をしている。
「それにしても、神話を基にしたとは言え、人類の英雄を模すとは‥‥我々人類をなめるにも程がある」
ジェイがシグルドの死体を見ながら忌々し気に呟く。
「人の心に付け込もうとしているのでしょうね‥‥愚かな」
ユーリもため息混じりに呟くと、お参りをしている遠倉の姿を見かける。
「お参りですか?」
ユーリが問いかけると「はい」と彼女は首を縦に振る。
「時期的に今更な感も強いですが、初詣代わりということで。今年は忙しさにかまけて結局行けず仕舞だったものですから‥‥」
遠倉が苦笑気味に言葉を返す。
「ハッハッハッハ! 見たか! 神話の神々が味方に居るであろう俺達は負けないんだぜ!」
風見は煙草をシグルドに向けながら不敵に笑む。
「聖域を侵す者は地獄で説教されやがれです!!」
猫屋敷も大きな声で叫ぶが「‥‥‥‥緊張したよ〜〜」と涙目で言葉を付け足して近くにいた遠見に抱きついた。
その後、能力者達は『シグルドを無事に退治した』と報告を行う為に本部へと帰還していったのだった‥‥。
END