タイトル:【CAR】 氷の微笑マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/19 23:36

●オープニング本文


此処はハットゥシャから南に下った小さな町――ユルギュップ。

ギョレメ国立公園とカッパドキア岩窟群にほど近い位置にある。

町の中心に大きな岩山があり、岩山のテラスから見る景色はポプラと赤レンガの屋根が美しい。

町のあちこちにワイナリーや工房が点在しており、のどかな町並みに心癒される者も少なくないだろう。

だけど――のどかさに反した事件が起きる事など、この時点で誰も気づく者はいなかった。

※※※

「あ、美味し〜いっ」

町の中心にあるオトガル(長距離バスターミナル)の近くにあるレストランで彼女は食事をしていた。

シシ・ケバブを食べながら幸せそうな表情を見せるのはジプシー風の服装をした女性だった。

料理がずらりと並べられているテーブルの上にはトルコ土産として人気のある魔よけの守り『ナザール・ボンジュー』が幾つか置かれている。

「こんな所にいたんですか」

白いスーツに身を包んだ男性――ハリー・ジョルジオがテーブルの横に立つ。

「はぁい、ハリー♪ あんたも食べる?」

美味しいわよ、と女性――ビスタ・ボルニカはフォークに刺したシシ・ケバブをハリーに向ける。

「いりませんよ、それよりこんな所で何をしているんです? ヤズルカヤに向かって欲しいと言っていたハズですけど」

ハリーの言葉に「やぁね、観光と品定めをしているんじゃないの」とビスタは言葉を返してくる。

「品定め?」

「ふふ、心配しなくてもちゃ〜んとあたしはあたしで考えがあるわよ。心配しないで、ハリー坊や」

からかうようにビスタが呟くと、一人の男性が近寄ってくる。

「お前‥‥ビスタ、か?」

シシ・ケバブを食べながらビスタが視線を向けると、そこには記憶の中で見知った顔。

「ビスタ‥‥知り合いですか?」

ハリーの言葉に「えぇ、知り合いと言えば知り合いね」と意味深に言葉を返す。

「何で‥‥お前は死んだハズ、だろ‥‥?」

それに、と男性はちらりと視線ハリーにを移した。

その行動を見てビスタはため息混じりに席から立ち上がり「此処で別れましょ」とハリーに言葉を向ける。

ハリーはビスタの言葉に応える事なく踵を返して何処かへと去っていく。

「ま、待てっ!」

「別にいいじゃない、こっちはこっちで楽しくお話しましょ‥‥楽しく、ね」

ビスタの青い目が妖しく輝き、男性の手を強く握り締める。

その数時間後、ユルギュップの岩山展望テラスにて男性能力者が無残に殺されている姿が発見された。

※※

「あなた方にお願いしたいのは『調査』です」

今回、トルコ・ユルギュップに向かう能力者達を集めて女性少尉が今回の任務について説明をする。

「殺された男性能力者はレストランで若い男女と話している姿が見かけられています。その男の方が――先日大神殿破壊を行おうとしていたハリー・ジョルジオの可能性が高いそうです」

女性少尉の言葉に「可能性が高いって事は確実じゃないのか?」と能力者が言葉を返す。

「えぇ、白いスーツに金髪碧眼の男――としか情報がありません。本人と酷似した外見ですので、恐らくハリー・ジョルジオ本人だと思いますが‥‥」

それに、と女性少尉は言葉を続ける。

「ハリー・ジョルジオは今まで二回ほど姿を現しましたが、女と一緒だと言う報告はありませんでした」

「つまり、何が起こるかわからないから『調査』にしたんだよ」

女性少尉が説明をしていると、軍服を着た男性が話に入ってくる。女性少尉が敬礼をしているので、彼女より階級が高い人物なのだろう。

「ユルギュップは端から端まで歩いても30分程度の小さな町だが、人は暮らしている。確実とはいえない情報で『戦い』をさせるわけには行かないんだよ」

「無茶な戦いをすれば住人に被害が出ます、だから今回は『調査』でお願いしたいのです」

「でも調査って一体何を‥‥?」

能力者の一人が呟くと「消えた女です」と女性少尉が言葉を返してくる。

「男性能力者と岩山展望テラスに赴いた女の行方です。幸いにも町の外に出ている気配は無いようですので」

女性少尉が呟くと「だが」と男性が言葉を挟んでくる。

「その女が何かする気配がなければ、放っておいていい。下手に刺激すると何をするか分からんからな」

男性は能力者達に「健闘を祈る」と言葉を付け足して、能力者達がトルコに向かうのを見送ったのだった。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
シェリー・ローズ(ga3501
21歳・♀・HA
ヴァイオン(ga4174
13歳・♂・PN
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

―― 殺された能力者と謎の女 ――

「殺された男に、ハリー・ジョルジオらしき人物とその関連者か。ただの殺人か、それとも何か関連性があったのか」
 九条・命(ga0148)はため息混じりに呟く。先ず問題のユルギュップに向かう前に能力者達は殺された男性能力者について調べる事から始めていた。
「ハリー・ジョルジオ‥‥あの人の顔は今でも覚えてる‥‥あの天使のような悪魔の微笑みをね」
 アセット・アナスタシア(gb0694)はハリーと出会った時の事を思い出して、拳を強く握り締めながら呟く。
「う〜ん、結構な数だなぁ‥‥」
 その時、斑鳩・眩(ga1433)は本部に設置してある端末のキーボードを叩きながらディスプレイに映し出された事件の数々を見て大げさにため息を吐く。
「どうしたの?」
 ナレイン・フェルド(ga0506)が問いかけると「殺された能力者、結構な数の任務をこなしていたみたい。だから調べるのがめんどい」と斑鳩は二度目のため息を吐く。
「あれ‥‥この事件って能力者が亡くなっているんですね」
 ヴァイオン(ga4174)がディスプレイに映し出された事件の一つを指差しながら呟き、斑鳩、ナレインもディスプレイに目を移す。
 確かに殺された能力者――ビルと言う男が今まで手がけた事件の中で一人だけ死亡者が出ている。
「ビスタ・ボルニカ(gz0202)‥‥か。今回の事と何か関係はあるのかな?」
 サンディ(gb4343)が首を傾げながら呟くと「‥‥これ、遺体は回収されてないんだな」と翡焔・東雲(gb2615)が呟く。
 確かにディスプレイには遺体も機体も回収されていない事が書かれている。
「とりあえず、現地へ行って見ましょうか。ナレイン、確り護るからね」
 シェリー・ローズ(ga3501)が呟き、能力者達は調べた情報をプリントアウトして高速艇へと乗り込んだのだった。


―― 岩山が聳える町 ユルギュップにて捜索 ――

 今回、能力者達はユルギュップ内を手分けして消えた女の行方を調べる事にしていた。
「バグア一味に変装するって、正直いい気分じゃないけど‥‥そんな事は言ってられないわね」
 ナレインは高速艇の中で着替えながらため息混じりに呟く。ナレインは今回、ハリーに変装して消えた女をおびき出すと言う囮役を行う事になっていた。
 そしてナレインの近くでシェリーとアセットは聞き込みを行い、ナレインに危険がある場合は直ぐに助けられるように行動を行う。
「僕は九条さんと一緒に事件のあったテラスから調査ですね。捜査の基本は足と地道な調査っと」
 ヴァイオンは刑事ドラマのような台詞を呟き、殺された能力者の資料に再び目を落とす。
「町は小さいんだよね? だったら顔見知りが多いはず‥‥バスターミナルも限られている筈だから地元の人間、バスの運転手に聞けば結構有力な情報が手に入るかも? あ、でも観光地だから観光客も含まれるか‥‥」
 うぅん、と斑鳩は唸りながら資料と睨めっこをしている。
「まぁ、調べてみない事には何も分からんな。とりあえず定期的に『トランシーバー』で連絡は行った方がいいな」
 九条は「電波状況から範囲外に出ると思しき時はその旨も連絡する事にしよう」と言葉を付け足すと「そうですね、何があるか分かりませんし‥‥」とアセットも言葉を返す。
「そういえば私はハリーと面識はないんだけど、どんな感じなのかしら?」
 ナレインが着替えを終えて能力者達の所へとやってくる。
「雰囲気は優しそうな感じだね、でも絶対に優しくないよ、あの人――それとどこかナルシストっぽい‥‥かな?」
 サンディがハリーの事を思い出しながら呟くと「自分大好きって感じかな?」と納得したような、していないような曖昧な言葉を返した。
「あたしは‥‥腹が立った。思わず殴りかかっちまうほど。刻の流れに融け、瓦礫となってさえ心を揺さぶる人類の遺産を壊そうとした事はもちろんだが‥‥あいつは命を物のように扱いやがった。例えそれがキメラでも、無造作に命を言い放つアイツに‥‥」
 腹が立った、翡焔は拳を強く握り締めながら呟いた。
「‥‥そういえば、殺された能力者は何でいたんだろう? 事件とかではなさそうだったし」
 サンディが呟く。確かに殺された能力者が事件などでユルギュップに向かったと言う記録は本部には残されていなかった。
 何か彼に理由があったのだろうが、それを知る者は居ない。彼は死んでいるのだから。
「そろそろユルギュップが見えてきたね‥‥皆、無理はしないように頑張ろう‥‥」
 アセットが呟き、能力者達は高速艇から降りて少し離れたユルギュップへと向かい始めたのだった。

※調査開始※

「案外大きい山に囲まれてるな、道路が塞がれば孤立するんじゃないか?」
 翡焔が町の様子を見ながら呟くと「確かに‥‥」と斑鳩も言葉を返す。
「この辺りは洞窟が多いし中にキメラでも送り込まれないよう警戒を要請だな。あいつがいたなら用心するに越した事はない」
 翡焔はハリーの事を思い出しながら呟き、斑鳩とサンディと共に最初に目撃されていたとされるレストランへと向かっていく。
「私はちょっとターミナルの方で聞き込みをしてくるよ、バスの運転手とかに話を聞いてくるから」
 レストランに到着する前、斑鳩はそう言ってオトガル――バスターミナルへと向かっていった。
 翡焔とサンディがレストランに入ると、店員が「いらっしゃいませ」と笑顔で話しかけてくる。
「あー‥‥最近起きた事件について調べているんだ、被害者が此処に居たって言うのを聞いたから話を聞きたくて」
 翡焔が話すと店員は「少しお待ちください」と言って奥へ引っ込み、数分が経過した頃に別の店員を連れてやってきた。
「この子が覚えているそうなので、控え室で話をどうぞ」
 二人は店員用の控え室へと案内され、当時の事を覚えている店員と話を始めた。
「一緒に居た女性は美人だったんですけど、何処か冷たい印象があって覚えているんです。おまけに大量の料理を頼んで食べていましたし‥‥」
「その女性の顔とか服装は覚えてますか?」
 サンディが問いかけると「はっきりとは覚えてませんけど‥‥」と店員は言葉を返してきた。
 そして翡焔は店員の話を聞きながらモンタージュを作成する。
「上手だね、これなら直ぐに手がかりが見つかりそうだよ」
 サンディはにっこりと笑って呟き、店員に礼を言ってレストランを後にしたのだった。

「蒼眼で濃色の長髪を一つに纏めたジプシー風女性らしい」
 レストランで聞き込みを終えた翡焔とサンディは他の能力者達に『トランシーバー』で連絡を行う。
「ジプシー風か‥‥ねぇ最近見た事もない人間と遭遇しなかった?」
 ジプシー風の女性とか、と斑鳩は言葉を付け足して問いかけると「あぁ‥‥そういえば」と運転手は思い出したように呟く。
「ほら、そっちにみやげ物屋とかがあるんだけどさ、事件のあった時に一人だけきゃあきゃあと騒いでる観光客がいたな」
 運転手の言葉に斑鳩が視線を向けると、そちらにはみやげ物屋やレストランなどが見える。その中にはサンディ達が調べに向かったレストランもあった。
「ふぅん‥‥道順としては合うわね。しかもかなり目立つ行動ばかり取っているみたいだから、意外と見つかるのは早いかもしれないわね」

「マネー、マネー」
 ヴァイオンと九条はホテルに一週間程でチェックイン、もしくはチェックアウトした女性が居ないかを調べに来ていたのだが数名の子供達に囲まれて「金を頂戴」とせがまれている。中には勝手に写真を取って「マネー」と手を出してくる子供まで居た。
「この間の姉ちゃんは気前よく金くれたのにな」
 金を出し渋っている二人を見て子供達が大げさにため息を吐きながら呟く。
「‥‥姉ちゃん?」
 九条が眉間に皺を寄せて呟くと「うん、何日か前に写真撮った姉ちゃん」と一枚の写真を見せながら子供は言葉を返してくる。
 その写真の中には子供達と一緒に写真を撮ってピースをしている女性の姿があった。
「‥‥ジプシー風、蒼眼、濃色の髪‥‥条件に全て当てはまりますね」
 ヴァイオンが苦笑しながら「この写真を譲ってくれないか?」と子供達に1000Cを渡しながら問いかけると「いいよ!」と子供達はアッサリと写真を譲ってくれた。
 そして二人は聞き込みのため事件の有った岩山展望テラスへと移動し。展望テラスまで到着すると二人は周りの人間に話を聞き始める。
「数日前の事件で女と一緒に能力者がいた筈なんだが、何か知っている事はないか?」
「さぁ、毎日来ているわけじゃないからねぇ‥‥あの日は確か『立ち入り禁止』の看板が立てられていたのよね。後から悪戯って分かったんだけど」
 女性の言葉に「恐らく女の仕業でしょうね」とヴァイオンが呟く。犠牲者は能力者しか出ていない。つまり周りには一般人はいなかったという事が窺える。
「ただ大きな声を聞いた人がいたらしいわよ。何でお前がいるんだ、とか」
 女性の言葉に二人は『トランシーバー』で能力者達に連絡を行い、次の場所へと捜査に向かい始めた。

「彼の事だ、私達が嗅ぎまわっている事も直ぐに気づくかもしれない‥‥情報は早く見つけないとね」
 アセットは捜査を行いながら小さく独り言のように呟く。
「ねぇ、最近この辺りで白いスーツを着た男の人か、あとは女の人を見てないかな‥‥こっちに来て間もないみたいなんだけど‥‥」
 アセットの言葉に「あそこに居るよ」と男性が言葉を返し、アセットが勢いよく後ろを振り返るが、ハリーに扮したナレインだと知り「あの人以外で‥‥」と言葉を付け足した。「数日前になら見たけどな。凄い美人な女を連れていて、白いスーツなんて目立つから印象に残ってる」
(「やっぱり、ハリー・ジョルジオは誰か『女』と行動を共にしているんだ‥‥」)
 アセットは呟き、ハリーが女と一緒に行動していたという情報を他の能力者達に知らせる。
 その中、シェリーはストリートミュージシャンを装って町の中を探索していた。ストリートミュージシャンが珍しいのか分からないけれど、住人らしき人物、観光客らしき人物が集まって来るのが分かる。
 勿論、近くにいるナレインを護れる位置を保ちながら。
「ねぇ、貴方ハリーじゃないの? あたし‥‥あんたの事良く知っているのよ」
 にっこりと女性がナレインに話しかけているのをシェリーが視界に入った。
(「誰と喋っているのか人で見えないわね‥‥」)
 シェリーは歌いながらナレインを見るが、肝心の話している相手が人の山に隠れて見る事が出来ない。
「何か敵になったとか聞いたんだけど‥‥本当なの?」
 女性の問いかけに「現に此処にいるのですから、それは嘘ですね」とナレインはにっこりと笑顔で言葉を返す。
「ふぅん、ねぇ。ちょっとフルートを聞いてみたいわ。あっちに行きましょうよ」
 女性はナレインの返事を聞く事もなく、ナレインの腕を引っ張って人気のない場所へと誘っていく。
「あれは!!」
 路地裏に誘われていくナレインの姿を見て、アセットが「恐らく捜索対象です! 急がないとナレインさんが‥‥」と『トランシーバー』で全ての能力者達に連絡を行ったのだった。


―― ビスタとハリー ――

(「どうしよう、吹いた方がいいのよね‥‥」)
 ナレインは躊躇いながらフルートを吹き、演奏を始めると「あんた、本当にハリー?」と女性が問いかけてくる。
「え?」
「ハリーなワケないものね。だって‥‥ハリー坊やはあそこに居るもの」
 捨てられた木箱の上に座り、女性は空を仰ぐ。すると屋根の上から見下ろすハリー本人の姿がナレインの視界に入ってくる。
「貴方が目立つ行動取るから能力者が来るんですよ――分かっているんですか、ビスタ」
 ハリーが降りながらビスタと呼ぶ女性に話しかける。
「いいじゃない、邪魔になりそうな奴は皆殺しにすれば」
 ねぇ、とビスタはナレインに視線を向け腰に差した剣をゆっくりとした動作で構えてナレインに攻撃を仕掛ける。
 ナレインが銃を懐から出して攻撃をしようとしたが、ビスタの方が先に行動した為、間に合わなくて攻撃を受ける。
「さよ〜なら、美人のお姉さん」
 ビスタが再び剣を構えて攻撃を仕掛けた時、九条が『瞬天速』で間合いを詰め『疾風脚』で踏み込んだ後に『瞬即撃』でビスタに攻撃を仕掛ける。
「痛ぁい!」
「大丈夫?」
 斑鳩はナレインに話しかけ「はい色男さん、おひさー?」とハリーに言葉を投げかける。
「お前はハリーの仲間なのか?」
 翡焔がビスタに問いかけると「そうねぇ‥‥仲間じゃなきゃ一緒にいないでしょ?」と嘲笑うように言葉を返す。
「何故能力者を殺した!」
 サンディが叫ぶと「さぁ? 教えてあげない」とけらけらと笑い、まるで能力者達をからかっているような行動を取る。
「とりあえず名前くらいは教えてくれてもいいんじゃないか?」
 九条が呟くと「イイ男ね、いいわ教えてあげる」と偉そうに言葉を返し「ビスタ・ボルニカよ」と言葉を付け足した。
 ビスタ・ボルニカという名前に能力者達は聞き覚えがあり、驚いたような表情でビスタを見ていた。
「何が目的だ?」
 九条が呟くと「えぇ〜質問だらけじゃない」とため息混じりに呟く。
「別にいいでしょ、教えてくれても」
 斑鳩の言葉に「そうね、観光と品定め」とビスタはニッと笑って言葉を返す。
「品定め‥‥? 目的が何なのかよく分からないけど‥‥何もしないなら見逃す‥‥ただ住人や観光客に危害を加えるというのなら‥‥」
 アセットは拳銃『ラグエル』を構えながら冷たい視線でビスタを見据える。
「そんなもの、あたしに向けないで!」
 今まで笑みを浮かべていたビスタの表情が一変すると、近くに居た九条を剣で斬りつけ、続いて翡焔を斬りつける。
「!!」
 ナレインが庇おうと動くが、ハリーがレイピアのように鋭い剣をニ刀振りかざして攻撃を仕掛ける。
「何もしませんよ。彼女も言ったでしょう、今日は観光と品定めだと」
 剣の切っ先を向けながら、ハリーは能力者達の横を通り過ぎていく。
「ビスタ、行きますよ」
「あぁ、もう! 何だってのよ! 癇に障る!」
 ビスタは何かが癇に障ったらしくヴァイオン、斑鳩、シェリー、翡焔、サンディ――つまり全員を攻撃していく。
「やーねぇ、変な感じ」
 斑鳩は斬られた場所を押さえながら呟く「その口、掻っ捌いて上げましょうか」と切っ先を向けながら呟く。
「ビスタ。貴方は気が短すぎる。もしこのまま攻撃態勢を取ったら私達も無事ではすみませんよ」
「煩いよ」
 ビスタは短く呟き、能力者達に背中を見せながらユルギュップから出て行く。
「今は無理でも‥‥必ずお前達を止める!」
 翡焔は地面を強く殴りながら姿の見えなくなった二人に向けて呟いたのだった。

 その後、能力者達は本部に帰還して死んだとされていた『ビスタ・ボルニカ』がハリーと行動を共にしている事を報告したのだった。


END