タイトル:四葉のクローバー・誠実マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/07 00:00

●オープニング本文


四つの葉の一つの意味は‥‥誠実。

誠実の意味は『偽りがなく、真心が篭っている』事。

俺はその言葉に恥じない生き方をしているだろうか?

※※※

偽ることがなく、誰に対しても真心を込めて接する。

それは俺に『傭兵』としての生き方を教えてくれた人がいつも言っていた言葉だった。

今にして思えば『それ』を見つけたのも『言葉』を思い出したのも、何かの知らせだったのではないかと思う。

「あら、意外と少女趣味なのね。クローバーの栞を持っているなんて」

キメラ退治を行い本部に報告を終えた頃、俺がいつも大事に持ち歩いている栞を拾い上げながら女性能力者が話しかけてくる。

「あ、返してくれよ。それは俺の大事な誇りなんだから」

誇り? と女性能力者は栞を渡しながらら首を傾げる。

「俺が傭兵を始めた頃、諦めかけた時があってさ、その時の恩人に貰ったモンなんだよ」

「諦めかけたって‥‥アンタとはそれなりに長い付き合いだけど初耳だわよ」

傭兵を始めた頃、住人達から浴びせられる畏怖の目に耐えられず傭兵を辞めようと思った時期があった。

「その時さ、この栞をくれた人がいたんだよ」

『他人に対して疚しい事がなければ堂々としていろ、偽りなく誰に対しても真心を込めて接していればきっと分かってもらえる』

その言葉を聞いて「へぇ」と女性能力者はからかう事なく真剣な表情で言葉を返してきた。

「さて、次の仕事次の仕事――――え」

目にした依頼無内容に俺は言葉を失う。

「何見てるの? ‥‥あぁ、その任務は住人が数名と能力者も1人犠牲になってるわね」

「何でだ!」

任務内容、それは頭に入っていなかった。俺の目に入ってきたのは――犠牲になった能力者の名前。

「ど、どうしたの――‥‥よ‥‥」

拳をガツンと強く壁に打ちつけ、俺は小さな声で「‥‥死んだのは、俺の――恩人だ」と呟く。

「ちょっ、待ちなさい! 何処に行くのよ!」

「仇を取る」

本部から出ようとしたが、女性能力者によって腕を捕まれて止められてしまう。

「それなりにベテランの能力者が殺される程のキメラなのよ! あんた1人で何が出来るって言うの! 仇を討ちたいなら手伝ってくれる能力者を探すのが先でしょう! 感情で行動して死ぬつもりなの!?」

女性能力者は喚きたてながら必死に止めようとするが、俺はそれを振り払う。

「お前に何が分かる、お前に俺の気持ちはわからねぇよ!」

そう叫んで俺は本部から出て行き、父のようで兄のように尊敬していた傭兵の仇を討つべく現地へと向かったのだった。

●参加者一覧

九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
虎牙 こうき(ga8763
20歳・♂・HA
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
結城加依理(ga9556
22歳・♂・SN
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
吾妻・コウ(gb4331
19歳・♂・FC

●リプレイ本文

 ―― 誇る何か ――

「一人で行くなんて無茶するよな、後でたっぷりと叱らないとね」
 虎牙 こうき(ga8763)が少し肩を竦めながら呟く。今回の能力者達に課せられた任務、それは能力者と一般人を殺害したキメラを退治する事だった。
 しかし先に怒りで我を見失った能力者・リュオが向かっており、彼の友人である女性能力者から「出来る事なら‥‥彼を助けてやって欲しい」と頼まれた。
「仇を討ちたい、その気持ちはよく分かりますよ」
 吾妻・コウ(gb4331)が肌身離さず身に着けている黒いマフラーに触れながら呟く、彼自身も大切な人を失っているのでリュオの気持ちが痛いほど分かるのだろう。
「私も分かります‥‥ですが、彼のしている事は――自殺行為としか思えません」
 櫻杜・眞耶(ga8467)も俯きながら呟く。彼女もリュオや吾妻のように家族のように慕っていた者をバグアに殺害された過去を持つ。
「住人の避難も済んでいるようには思えませんし、急いで向かいましょう‥‥」
 結城加依理(ga9556)が呟くと「そうだな、これ以上死人が増えても辛い」とドッグ・ラブラード(gb2486)が言葉を返す。
 彼らと同じ意見なのかクラリア・レスタント(gb4258)も首を縦に振る。彼女は凄まじい過去のせいか『言葉』を失っていた。
『リュオさんを助けに、そしてキメラを倒す為に頑張りましょう』
 クラリアは『【OR】メモ帳&ペン』に書いた物を能力者達に見せてぺこりと頭を下げる。
「そうだね、先ずは急いで現地へ向かわなくちゃいけないね」
 サルファ(ga9419)が呟き「さて、頭に血が上った奴を引き戻し確実にしとめる為にもKOOL(COOLとは別物らしい)にいこうか」と九条・縁(ga8248)が言葉を返し、能力者達はリュオが向かった場所、そしてキメラが今も潜んでいる場所へと出発したのだった。


―― 獅子が潜む町、鳥の見下ろす町 ――

 高速艇に乗って、問題の町にやってくると何処か落ち着かない雰囲気を町中に感じた。
 キメラが闊歩する中、住人達の緊張と恐怖が限界に近づいているのだろう。
「それでは、此処からは分かれて行動しましょう」
 サルファが呟くと、能力者達は首を縦に振る。
 今回の能力者達は、避難、リュオの捜索、そしてキメラの捜索を行う為に班を三つに分けて行動する事にしていた。
 捜索A班・九条とドッグ。
 捜索B班・櫻杜&虎牙。
 避難誘導班・サルファ、結城、クラリア、吾妻。避難誘導班が一番数が多いが、これは一般人の被害を出さない為の作戦だった。
「それじゃ、いきましょう」
 吾妻が呟き、それぞれの班は自分たちの役割を果たす為に動き始めたのだった。

※避難誘導班※
「どうも‥‥落ち着いて聞いて下さい。この近くにキメラが出現しています」
 避難誘導班の能力者達は一般人を避難させる為に一軒一軒の家を訪問して説明を行っていた。
 既に犠牲者が出ているせいで住人達もキメラがいるのは分かっていた、しかし何処へ誰と避難すればいいのか分からなかった為に避難できなかったと言葉を返してくる一般人もいた。
「なるべく家屋に被害を出さないようにしますが、念のために避難をお願いします」
 サルファがガシャガシャと鎧の音を鳴らしながら一般人たちに話しかけていく。
「覚醒しないと重いんだよなぁ、この服や武器」
 苦笑しながらサルファは呟き、身体に重く圧し掛かってくる鎧などに耐えて避難誘導を続けていく。
 そしてそんな彼とは逆にクラリアは覚醒を行いながら避難誘導を行っていた。彼女は覚醒を行う事によって片言だけど話せるようになるからだ。
(「大丈夫‥‥喋れる。言葉を紡ぐ‥‥喋る。大丈夫‥‥大丈夫!」)
 クラリアは心の中で自分を奮い立たせるように呟き「怖い思いヲこれ以上広げさせちゃ駄メ。早く行きマしょう」と一般人の腕を引っ張りながら必死に避難を訴える。
 その時、クラリアの持つ『トランシーバー』に連絡が入る。
「其方はどうですか? 此方は後少しで避難が完了します」
「こっチももう少シで終わりマす」
 クラリアの言葉を聞いて安心したように「もうじき避難が終わります」と目の前の家で準備をしている一般人に話しかける。

「皆さん、キメラが来る前に逃げてください。出来るだけ、早く。速やかに」
 吾妻の言葉に一般人たちは恐怖からか表情を強張らせて避難を始めたのだった。

 避難誘導班が行動を開始してから20分近く経過した頃に避難を終え、捜索班へと連絡を入れた。
「避難の途中でも聞こえていたキメラらしき声‥‥戦闘が始まっているんでしょうか」
 避難誘導班は捜索班と合流する為に町の中を走り回り、能力者達を探す。しかし走れど被害が出ている場所がない所を見ればまだ戦闘は開始していないのだろう。

※A班※
「そっちは行き止まりだぞ」
 キメラを探している途中、ドッグが建物の間にある細道を通り抜けるために曲がろうとした所を九条が話しかける。
「え?」
 呟きながらドッグは細道を覗き込んだが、奥には高いフェンスがあって九条の言う通り、抜けられそうにない。
「え、この町に来た事あるんですか?」
 ドッグが問いかけると「移動中に地図を頭に叩き込んだ」と九条は短く言葉を返す。
 ドッグは「へぇ」と少し驚いたように呟くと、キメラ、そしてリュオの捜索を続ける。
「だけど何処にいるんだろう‥‥気配は感じるけど姿が――‥‥」
 ドッグが呟いた瞬間、上空から耳を劈く奇声が響き渡る。バッと勢いよく二人が上を見上げると獅子と鳥を組み合わせたようなキメラ・グリフォンが二人を見下ろしていた。
「その位置なら、被害は出ない‥‥」
 ドッグは小さく呟き『弾頭矢』を使用しながら洋弓『ダンデライオン』で攻撃を仕掛ける。その攻撃が終わった後、ドッグは『照明銃』を打ち上げてキメラを発見した事を他の能力者に知らせたのだった。

※B班※
 A班がキメラを発見する少し前に時は遡り、櫻杜と虎牙もキメラとリュオを探して町の中を捜索していた。
「‥‥キメラは無傷なんでしょうか?」
 ポツリと捜索を行いながら櫻杜が呟き「ん?」と虎牙が聞き返す。
「いえ、熟練の能力者が何もせずに倒されたとは思いにくいので‥‥もしかしたらキメラは多少なりともダメージを受けている可能性がありますね」
 櫻杜の呟きに「‥‥確かに。でもその前にリュオがどうなっているか‥‥」と虎牙が呟いた所でぴたりと足を止める。
「どうかしましたか?」
 虎牙が足を止めた事で櫻杜もぴたりと止まり、虎牙の方を振り返る。すると虎牙が細い道の中を見ている。
「‥‥ここでも犠牲者が出た、のかな? 血痕があるんだ、しかも新しい」
 虎牙が指差した場所を見ると、確かに真新しい血痕が落ちている。二人は互いに顔を見合わせた後、路地の中へと入っていくと‥‥血まみれの男性を見つけて慌てて駆け寄る。
「‥‥う‥‥だ、誰だよ‥‥」
 その顔は見知った顔だった、本部から出発する際に女性能力者に頼まれた男性能力者・リュオだったのだから。
「あなた‥‥リュオはん?」
 傷を見ると、血は大量に出ているが決して命に関わる傷ではなかった。
「待ってろ、すぐに治療するから‥‥」
 虎牙は『練成治療』を使用してリュオの傷を治療していく。
「まったく、君一人で行くなんて無茶したもんだな、仲間にどれだけ心配かけるのか分かっての行動なのか? 何故こんな事をした」
 虎牙が話しかけると「‥‥恩人を殺されたんだ。俺の大事な、恩人だった‥‥」と拳を震わせながら言葉を返してきた。
「‥‥だけど、貴方が無茶をする理由にはなりません。仇を討ちたいのなら、確りと仲間を集めて作戦を立てるべきだったんです」
 櫻杜が話しかけるとリュオは何も言わず、俯くだけだった。
 その時、A班・ドッグの打ち上げた照明銃の音が響き渡り「‥‥キメラを見つけたんだ」と虎牙が呟く。
「‥‥俺はアイツをゆるさねぇ‥‥刺し違えても殺してやる!」
 リュオは叫ぶと、痛むであろう体を堪えて照明銃が打ち上げられた場所を目指して走り出したのだった‥‥。


―― 戦闘開始! グリフォン VS 能力者達 ――

「動くな、痛むだけだ」
 ひゅん、と音を鳴らしながらドッグの放った矢がキメラの翼に突き刺さる。そしてグラリとキメラが傾いた所を屋根の上から飛び降りるように九条が『両断剣』を使用しながら攻撃を仕掛ける。
「おっと、そっちには避難した住人がいるんでね、そっちに行ってもらっちゃ困るんだよ」
 九条によって叩き落され、ずるりと体を引きずり再び飛行を始めようとしたキメラに向けてサルファが呟き『流し斬り』を使用しながら攻撃を行う。
「これで住人に被害を出したとあっちゃあ、守護剣聖の称号が廃るってモンよ!」
 再び攻撃を仕掛けながらサルファが叫ぶ。
「‥‥もう逃ゲない! 怯えて、震えるだけだっタあの頃とは‥‥もう違ウ!」
 クラリアは大きく叫び、キメラの脇に入って『シルフィード』を構えて『円閃』と『二連撃』を使用しながら攻撃を仕掛ける。その攻撃のお陰でキメラの翼は片側が剥がれ落ち、キメラは空へ逃げる事は出来なくなった。
「隙を作ります! 続けてください!」
 吾妻が叫び『スコーピオン』で牽制攻撃を仕掛け、攻撃を次へと繋ぐ。動いたのは結城で『【OR】回転拳銃 エレファント』を構えて『狙撃眼』と『二連射』で攻撃を仕掛けた。
「リミッターオフ、俺がサイエンティストだからって舐めんなよ、心はいつでもダークファイターだぜ!」
 捜索B班が現地へ到着して、虎牙が叫びながら『【OR】機械戟 虎牙』を構え『電波増幅』を使用して攻撃を仕掛ける。
「‥‥あそこは‥‥」
 キメラの背中には血が乾いている傷口があった。恐らくはリュオの恩人という能力者がつけた傷なのだろう。
 その傷のせいでキメラの動きが更に鈍くなっていた。
「敵には一矢報いてたってわけか‥‥流石は、いい仕事するねぇ」
 櫻杜は呟き『両断剣』と『スマッシュ』を使用して『【OR】月闇』と『【OR】月紅』で攻撃を仕掛ける、背中の血が乾いた傷口に向かって。
「何で‥‥何で俺の恩人を殺したっ! 何で‥‥っ」
 リュオが叫び、キメラの標的がリュオへと変わる。数名の能力者達はリュオを庇おうと動き、残りの能力者はいきなり飛び出したリュオに目を取られ、全くの無防備状態となる。
 それを狙っていたかのように‥‥全身から針のようなトゲを放ち、能力者達に攻撃を仕掛けてきた。無防備状態で受けたため、予想以上にダメージが大きい。
「‥‥君が行け」
 虎牙がポツリと呟き『練成強化』をリュオに施す。
「恩人の仇を討つんでしょう? 行ってください」
 吾妻が呟き、リュオは剣を手に持ってキメラへと駆け向かう。既に能力者達の攻撃によって瀕死の状態であり、リュオの一撃でトドメを刺す事が出来るだろう。
「おおおおおおっ!!」
 リュオは剣を振り上げ、今回の能力者達のおかげで恩人の仇を討つ事が出来たのだった。


―― 誠実に生きるため ――

「最後に言っておくぞ、恩師の仇を討つ、その心意気は好し! 感情で行動するのも、まぁ良いだろう」
 キメラを退治した後、九条がリュオに向けて低い声で呟き「だが、それでお前も後を追う事になったら如何する!?」と声を荒げて言葉を続けた。
「その四葉に込められた意味を考えろ」
 九条の言葉にリュオの胸ポケットの中でくしゃくしゃになった四葉の栞を見る。
「誰だって後悔しない事はないんですよ。だからこそ、私達は後悔を繰り返さない為に藻掻きながらでも生きていくしかないんです」
 櫻杜の言葉にリュオの瞳から涙が零れ落ちる。
「まぁさ、仇を討ちたいって気持ちは分かるけどさ‥‥それで君が死んだら意味ないだろ? 君が心配かけた事は褒められる事じゃないし、恩人の人も心配すると思う」
 虎牙の話す言葉をサルファもじっと聞いている。
「無茶をして死んでも決してあなたの恩人は喜びませんよ。ですから、共に無念を晴らしてちゃんと弔ってあげましょう」
 吾妻の言葉にリュオは静かに頷く。
「俺はさ、この戦い自体おかしいと思ってる。キメラだって生きてる、心だってあるはずだ、だから俺は俺のやり方で戦い抜く。それが俺の誇りであって生き方さ」
 君も自分の誇りはいつまでも大切にね? 虎牙は呟きながらリュオの肩に手を置く。
『これを‥‥』
 クラリアは文字を書いたメモと一緒に折鶴をリュオに渡した。その折鶴には中に何か書いてあるらしく、敗れないように解いていくと『折鶴は、願いを託す意味もあります。貴方の願いは?』と書かれていた。
「‥‥俺の願いは無駄に生きない、自分の命を粗末に扱わない‥‥いつかあの人みたいになれるまで‥‥」
 ぐ、と拳を強く握り締めながらリュオは呟き、能力者達と一緒に本部へ帰還する為に高速艇へと乗り込む。
 高速艇に乗り込む前、虎牙が足を止めて『せめて、貴方に安らかな眠りが訪れますように』と小さく呟いたのだった。


END