●リプレイ本文
―― 惨殺事件・その影に潜む者は‥‥? ――
「観光客一団の惨殺体‥‥しかも人数が解らなくなるまでなんて――酷い」
春野・若葉(
gb4558)が本部に届けられた資料を見て、口元を押さえながら呟く。
「先日に引き続き‥‥か。偶然にしては出来すぎているな」
九条・命(
ga0148)もため息混じりに呟く、その頭の中には先日ユルギュップで会ったバグア派の二人の事が思い浮かべられていた。
「とりあえずは現地で調べて見なきゃ分からないですね」
ふむ、と斑鳩・眩(
ga1433)が呟くと「キメラ、でしょうか――それにしても随分と物騒ですけど‥‥」とリュドレイク(
ga8720)が言葉を返した。
「前回、もっと強固に警戒を要請すべきだったよ。観光客が多く無理かもだけど」
翡焔・東雲(
gb2615)が悔しそうな表情を浮かべて呟く。警戒を強めるように要請しておけば守れたかもしれない命だと思うと悔しいのだろう。
「目的の場所が見えてきたようです、少し赤い谷も見たかった所です」
鴉(
gb0616)が外を見ながら呟くと「どうせなら観光で来たかったですね‥‥」と天狼 スザク(
ga9707)が言葉を返した。
「ローズバレー‥‥か。夕日ではなくて、人の血で赤に染まるなんて、誰が想像出来た?」
サンディ(
gb4343)は拳を強く握り締めながら呟く。冷静そうに聞こえるが、必死で怒りを堪えている口調だった。
そして能力者達が高速艇を降りる前に春野は仕入れてきた情報を公開した。
「今回の観光客の中に能力者はいなかったみたいだね、赤い谷に来ている能力者はあたし達だけだって言われたから」
それと、と春野は呟き「戦闘になる可能性もあるから民間人が赤い谷に入らないように、そして周辺の規制を厳しくしてもらう事にしたから」と言葉を付け足した。
「あと、これを頭に入れておいた方がいいかも」
春野は人数分の地図を取り出して、一枚ずつ渡していく。その地図は赤い谷の事が書かれている地図なのだが、赤いペンで印が幾つも付けられている。
「この印は何ですか?」
リュドレイクが問いかけると「赤い谷内に点在している教会跡よ、林立した岩を利用して作られているみたい」と春野が言葉を返した。
「あと、夜には野犬が出るみたい。多い時は数十頭現れるみたいだから、調査は夜までに終わらせた方がいいかも」
「この赤線は?」
九条が問いかけると「迷わないようにルートを書いて貰ってるんだ、ガイド無しで行くと迷って出られなくなる事もあるみたいだから」と春野は言葉を返した。
「とりあえず行って見ますか、現地に話を聞けるような人がいればいいんだけど」
斑鳩が呟き、能力者達は赤い谷へと降り立ったのだった。
―― 調査、現れる哀れで愚かな者達 ――
赤い谷へ降り立つと、二人の男性が立っていた。服装は現地警官のようだが何があるかも分からない場所で『警官の服装をしている』からと言って相手を100%信用する訳には行かなかった。
「あぁ、貴方達が調査の為に派遣されてきた能力者ですか。調査の役に立てばと資料を預かっています」
警官の一人はそう言って茶封筒に入った資料を渡してきた、能力者達は警戒を解く事なく資料を受け取り、中身を見て漸く彼らを信用する事にした。
「現場は此処を真っ直ぐ行った所です、足場が悪いですから気をつけて下さいね」
警官はそれだけ言い残すと足早に赤い谷から去っていく。惨殺事件があった場所、しかも殺され方が尋常ではないから怯えるのも無理はないだろう。
「金髪ナルシストとジプシー姿の女の事を聞きたかったのに‥‥声をかける間もなく帰っていくってどうなのよ」
斑鳩が苦笑しながら呟くと「聞く必要はないみたいですよ」と天狼が言葉を返した。
「被害者のカメラからこの写真が出てます、恐らく斑鳩さんの言う二人じゃないですか?」
鴉が一枚の写真を見せながら言葉を返す。その写真は遠目にしか写っていないが、外見がハリーとビスタに酷似している。
「やはりこいつらか‥‥」
予想していた事だが、確証を得ると九条は大きなため息と共に呟く。
「‥‥許さない。私は許さないよ。こんな事をした犯人を、絶対に‥‥」
サンディは唇を『ぎり』と強く噛みながら呟く。
「この辺で一番希少価値の高い場所って何処なんだろう。今回の事件がハリーの仕業ならそこに向かう可能性が大だと思うし‥‥」
斑鳩が呟いた瞬間、澄み渡るようなフルートの音色が赤い谷に響き渡る。事件のせいで観光客もいないせいか、その音色はいつもより大きく響いて聞こえた。
「やれやれ‥‥また貴方達ですか――おや、初めましての方もいらっしゃいますね」
少し高い崖から能力者達を見下ろすように呟くのは真っ白なスーツを着たハリー・ジョルジオ(gz0170)だった。明らかに不審なハリーに鴉は『蝉時雨』を構える。
「戦う気ですか――もし私が善良な一般市民だったらどうするんです?」
笑いながら問いかけてくるハリーに対して「現地の方の雰囲気はありませんし‥‥不審ですよ」と鴉は言葉を返す。
「気をつけてください、その岩、そして更に三つ向こうの岩の陰に――何かがいます」
赤い谷に到着して直ぐ、リュドレイクは警戒を強める為に『探査の眼』を使用していた。最初は一般人かと思っていた彼だったがハリーが現れても慌てる様子を見せない気配に彼は不信感を抱いた。
「此処を少し真っ直ぐ行った所に血溜りがあります、綺麗でしたよ。人の血で染まった赤い谷は――もう一度、見せて頂きましょうか」
ハリーはそう呟くと再びフルートを奏でる。それと同時に隠れていた気配が能力者達に襲いかかってきた。
最初に襲い掛かってきたのは男性型で牽制の為にリュドレイクが銃を構えて攻撃を仕掛けるが、男性型キメラは怯む事なく構えていた剣を振り下ろして攻撃を仕掛ける。ざくりと鈍い音がした後、九条は『瞬天速』を使用して一気に距離を詰めて爪で攻撃を行う。
「大丈夫か!」
男性型の攻撃を受け止めながら九条がリュドレイクに問いかけると「は、はい‥‥」と痛みに表情を歪めながら呟く。
そして次の瞬間に九条の腕を狙って銃弾が飛んでくる。少し後ろで立ち止まった女性型の攻撃だった。
「‥‥いくよ、相棒。頼りにしてる」
春野は愛剣に向けて呟き、女性型へと攻撃を仕掛ける。そして鴉は『瞬天速』を使用して女性型へと近寄り攻撃に移る。
そして後ろへと下がった瞬間――「私が居る事を忘れてませんか?」とハリーがいつの間にかフルートから剣へと持ち替えて背中から攻撃を仕掛けた。
「背中からとは卑怯だなっ」
天狼は『スマッシュ』と『流し斬り』を使用してハリーの背中から攻撃を仕掛ける。ざくり、とハリーの体を傷つけた――と思ったが女性型がハリーと天狼の間に入ってハリー自体は攻撃を受けていない。
「貴方こそ卑怯ですね、お互い様ですが」
ハリーは女性型ごと剣で貫き、天狼へと攻撃を仕掛けた。攻撃された事によって女性型が地面へと倒れるが、ハリーはフルートへと持ち替えて音色を奏でる。
「ある意味、ゾンビだな‥‥」
九条は呟き『瞬即撃』を使用しながら女性型の腹へと攻撃を仕掛け、春野も『円閃』を使用して女性型へと攻撃を仕掛ける。
その隙に鴉は『瞬天速』使用して距離を詰め、攻撃を仕掛ける。
「油断は、しないよ」
春野は短く呟き、再び『円閃』で攻撃を仕掛け天狼も「逝っとけ!」と叫びながら彼女に合わせるように攻撃を仕掛けて首を刎ね、心臓部分を突き刺す。そして万が一にも動き出さないように両手両足も切断して「これで動いたらヤバイな‥‥」とハリーを見ながら呟く。
そして男性型を相手にしている能力者達は‥‥。
「撃っても斬っても反応がないのは怖いを通り越して不気味ですね」
リュドレイクは銃を構え、男性型へと牽制攻撃を仕掛けながら呟く。
「操っている奴がアレだからね、ねぇ? ハリー様?」
斑鳩は呟きながら『瞬天速』を使用して真横へと移動し疾風脚を付加した『急所突き』で男性型へと攻撃を行う。
だが相変わらず音色に操られている男性型は表情を変える事なく剣を振りかぶってくる。危ないと感じた彼女は『瞬天速』を使用して攻撃を避けた――その瞬間にガクリと男性型が崩れ落ち、背後から「お褒めの言葉ありがとうございます」と冷たさを含んだ笑みを浮かべながら斑鳩を突き刺す。
がきん、と剣にリュドレイクの銃弾が当たる音が響き、そのおかげで僅かに攻撃位置がズレて斑鳩の急所を避ける事になった。
「やれやれ、もう少し使い勝手の良いキメラはいないものですかね――立ち上がりなさい」
ハリーは呟くとフルートを奏で男性型を無理矢理起こして能力者達へと仕掛ける。
「なぜ罪の無い民間人を殺した!?」
サンディは男性型に攻撃を仕掛けながらハリーに向けて言葉を投げかける。その言葉にハリーは肩を竦めて「心外ですねぇ、私ではなくビスタですよ? 殺したのは」と言葉を返してきた。
「止めなかったんだろ? あの中にはお前の音楽を好きな人もいたのかもしれないのに!」
翡焔が怒りを露にした表情でハリーに叫ぶが「だから?」とさも関係ないかのように言葉を返してきた。
「今日は相方、いないのか?」
呟く声が聞こえたかと思うと天狼が背後からハリーに攻撃を仕掛けていた。
「こいつはこっちで時間を稼ぐ。その間にそいつを倒せ!」
九条も攻撃を仕掛けながら男性型を担当する能力者達に向けて叫ぶ。
「そうさせてもらいましょ」
斑鳩は呟きながら『急所突き』を使用して男性型に攻撃を仕掛ける、リュドレイクも逃げられぬように銃で完全に男性型の足を潰した。
そして翡焔が全力で攻撃を仕掛け、彼女の攻撃のよって出来た隙を突くようにサンディも『スマッシュ』と『二連撃』を使用して攻撃を行い、男性型を倒したのだった。
―― 音を紡ぐ者とそれを止める者達の戦い ――
「あんたの演奏、気に入っていただけに残念だ」
天狼が呟きながら攻撃を仕掛けるとハリーは剣が振り下ろされる瞬間に後ろへと上体をそらし、ダメージを最小限に抑えた。
しかし、その避け方を読んでいたのか九条は『先手必勝』と『瞬天速』を使用して距離を詰め、ハリーの腹部を狙って銃撃を行う――ように見せるが彼の本命は銃撃ではなく顔面へ叩き込む『瞬即撃』だった。
「しまっ――‥‥」
銃撃の方に気を取られ、ハリーは九条の攻撃をマトモに受けてしまう。
「‥‥私は、白い色を赤以外で染められるのは嫌いなんですよね――ほら、泥で真っ黒。結構‥‥高かったんだけどな‥‥これ」
ふらりと立ち上がりながらハリーは呟き、先ほどまでとは違う表情を見せる。先ほどまでは手抜きだった――と言うわけではないだろう。手抜きで出し抜けるほど弱い能力者達ではないのだから。
何処か異様な空気に動けずにいた能力者達だったが、斑鳩が動いた事によって他の能力者達もハッと我に返る。
斑鳩の攻撃を避け、剣でカウンターを仕掛けようとしたがリュドレイクの銃によってそれは止められる。
「お前はフルートの音色でキメラを操る‥‥自分の音楽を自分自身で貶めているんだぞ!」
翡焔が攻撃を仕掛けながら叫ぶと「私の音楽が――お前らに分かるとは微塵も思ってない」と冷笑を浮かべながら剣を翡焔に突き刺す。
「人の命など私の音楽の為に犠牲であればいい、それ以上でもそれ以下でもない」
「人の生命は、世界よりも重い。それを踏み躙る者を、私は許さない!」
サンディは叫びながら『二連撃』を使用して攻撃を仕掛ける。頭を狙うと見せかけて足を狙い、減速を試みる。確かに彼女の攻撃はハリーの足を切り落とす事は出来なかったがダメージを確実に与えた。
「あああっ!」
それと同時にサンディの腹に食い込む剣。自分を刺す者を見ると、先ほど倒した筈の男性型だった。
「女性の方は首を落とされ、両手両足切断されたので使えませんが――此方はまだ動ける。私さえいればね」
ハリーは笑み、崖ぎりぎりの所に立つ。
「何で‥‥あんな無残な殺し方を?」
鴉が問いかけると「何故だと思います?」と疑問に疑問で言葉を返した。そのやり取りに少しだけ鴉が眉間に皺を寄せると「あんな惨殺体にしてどんなメリットがあるかを考えて見なさい」と呟き、そのまま下へと落ちていく。
「――――――あっ!!」
慌てて能力者達が下を見ると、崩れかけた教会の屋根部分を伝って降りていくハリーの姿が見えた。
最後は逃げられてしまったが、どんな結果でもハリーを追い詰め、そして撃退した事には変わりはない。
「とりあえず此処から出て休もう、流石に怪我が多すぎるよ‥‥」
春野が呟くと「賛成、私も少しキツイ」とサンディが言葉を返す。
「‥‥仮面を剥がしかけたと思ったんだがな」
九条はハリーの顔面にお見舞いした手を見ながらため息混じりに呟き、高速艇へと向かって歩き出したのだった。
―― 任務終了・帰還・そして浮かぶ新たな疑惑 ――
「あんな殺し方をしてどんなメリットがあるか‥‥ですか」
斑鳩が口元に手を当てながら呟く。
「そもそも殺し方にメリットなんてあるんでしょうか?」
リュドレイクが呟くと「自分を強いと思わせたい‥‥とかですかね」と鴉が言葉を返す。
「あれだけ自信満々なんだから、今更強さを誇示すると思えませんね。それに、今回は噂の女がいなかった」と天狼が言葉を返す。
「‥‥区別がつかなくなる事、とか」
ポツリと翡焔が呟き「あ、別に思いついただけだから」と慌てて手を振る。
「確か『何人殺されたか分からない程』に惨殺されてたよね? 憶測でしかないけど、シノノメの言葉、間違ってるとも思えない」
サンディが呟き「まさか、な」と九条が言葉を返し、惨殺事件があった場所を見る。
すると春野が花束を置き、犠牲となった人々が安らかに眠れるように祈りを捧げていた。
「でも‥‥確実にアイツは何かを企んでる‥‥そんな気がする」
翡焔の言葉に、能力者達も無言で首を縦に振る。少なからず他の能力者達も感じていたのだろう。
そして能力者達は傷ついた体を休める為、今回の事を報告する為に本部へと帰還したのだった。
END