タイトル:週刊記者と失われる物マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/16 23:11

●オープニング本文


そんなに長くないケド、この髪の長さはお兄ちゃんが『可愛い』って言ってくれた長さ。

あんまり誇れるものがない私にとって、唯一の自慢だったりする。

‥‥と、しんみるするのは止めて‥‥。

マリちゃんは性格も見た目も抜群に可愛いんだけどねーっ! ははははっ!

※※※

「ねぇ‥‥本当に一人で大丈夫なの? 能力者に来てもらった方が‥‥」

それはマリがトルコに行く日、大荷物を抱えながら編集室を出ようとするマリにチホが話しかけた。

「あのねぇ‥‥能力者だって忙しいの。たかだか旅行に行く為に『ついて来てv』なんて言えるわけないでしょ? 私の専属能力者ってワケじゃないんだから」

呆れたようにマリが言葉を返すと「そりゃそうなんだけど‥‥」とチホも口に何かが痞えたような言い方で言葉を返してきた。

「それに皆にはちゃんと『トルコに旅行行ってきます♪』ってメールは出してるし、心配ないって」

行ってきま〜す、マリは手を振りながらトルコへと出発して行ったのだった。

※※※

約13時間ほどの飛行機のゆれに耐え、トルコに到着したマリは最初にチェックインをする為に予約しているホテルへと向かった。

「皆で騒ぐ旅行も楽しいけど、たまにはゆっくりのんびり旅行もいいもんだね♪」

ホテルのチェックインを終えた後、マリは買い物へと出かける。彼女の一番の目的、それは『コンヤカザック』と呼ばれる絨毯を買うことだった。

幾何学模様、メダリオンが特徴的な柄の絨毯で暖かく落ち着いた雰囲気を持つ絨毯である。

「たまには贅沢品も買わなくちゃね♪ あとチャイの店も見に行きたいなー」

マリが楽しくショッピングをしている時だった、マーケット内に悲鳴が響き渡りキメラが襲ってきている姿が視界に入ってきた。

「‥‥またキメラかぁ‥‥私って本当にキメラひきつける匂いでも出てるのかな」

はぁ、とため息を交えながら呟き買ったばかりの絨毯を大事そうに抱えて、何処に逃げようかを考える。

「あんた、アレが怖くないの?」

周りを見渡しながら逃げ場所を考えていると一人の女性に話しかけられて「え? まぁ、そこそこ慣れてるから」と苦笑気味に言葉を返した。

「‥‥慣れてる?」

「うん、今日はオフなんだけど私って記者してるの。キメラとかバグアと戦う能力者をメインに取材してるんだけどね」

マリが呟くと「へぇ、じゃあ能力者の知り合いとかいるんだ?」と妖艶な笑みを浮かべながら問いかけてくる。

「ん? まぁ‥‥それなりに。それより逃げないとこの辺もヤバそ――‥‥」

マリが呟いた瞬間、背後からキメラが襲って来て、迫り来る衝撃に耐えるように咄嗟に目を閉じる。

しかし、いつまで待っても来るはずの痛みが来なく、マリはそぉっと目を開くと先ほどの女性がキメラを倒している姿が目に入る。

「の、能力者だったの? ありがとう。流石にちょっと怖かった」

えへ、とマリが言葉を投げかけると「いいえ、お礼を言うのは此方の方よ」と女性は笑顔で答える。しかしその笑顔が何処かマリに恐怖を与えた。

何故なら、表情は笑っているように見えるのだが目が全然笑っていないのだ。

「お礼‥‥って? 何かしたっけ、私‥‥?」

「えぇ、いい暇つぶしとストレス発散の場を与えてくれそうだもの♪ そうね、まずは能力者を呼ばなくちゃいけないのよね。どうしようかしら‥‥あたしが行ってもいいんだけど面倒なのよねぇ」

女性はぶつぶつと呟き「そうだ」と名案でも思いついたかのように手を叩きながらマリを見て、手を伸ばす。

「い、いたっ」

いきなり髪を掴まれて『じゃき』という音と共に頭が軽くなった気がした。

「あんたは能力者を呼び出す為の餌よ、同じ殺すにしても抵抗がない一般人より楽しめそうでしょ? ねぇ」

そして女性は近くで見ている一般人男性に「警察でも何処でも行きなさい、これを持ってね」と切ったマリの髪を男性へと渡す。

「あんたの名前は?」

「‥‥‥‥」

自分が悪い事に使われようとしているので、マリはぷいっと横を向きながら言葉を返さない。

その行動が女性の燗に触ったのか、ばしんと頬を強く叩かれる。

「一つ勘違いしているみたいね、あたしは別にあんたが生きていようと死んでいようと構わないの。自分に人質としての利用価値があると思わないで」

マリの胸倉を掴みながら女性は冷たい視線で睨みつけ、思わず「‥‥つちうら、まり」と短く言葉を返す。

「腕章‥‥本当に記者なのね。ねぇ、これも一緒に持っていって能力者に助けを呼びなさい。来なければ別にいいわ。この女を含めて町全員が真っ赤になるだけだから」

そう呟き、女性――ビスタはけらけらと笑って能力者達が来るのを待つことにしたのだった。

●参加者一覧

神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
シェリー・ローズ(ga3501
21歳・♀・HA
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD

●リプレイ本文

―― 人質になった記者と救助に向かう能力者 ――

 土浦 真里(gz0004)が旅行に赴いた先で人質となっている。
 それは彼女の友人や恋人を驚かせ、怒らせるには十分過ぎる程の理由だった。
「まったく‥‥お祓いと言う‥‥忠告は無駄でしたね? ‥‥毎度の事ながら‥‥厄介な事に‥‥なってますね‥‥」
 神無月 紫翠(ga0243)は「はぁ」とため息を吐きながら呟く。
「‥‥冗談でもマリさんは悪運がついてるなんて言わなければ良かったわ‥‥何としてでもマリさんは無事に救出してみせる」
 じゃないと親友を名乗るなんて余りにもおこがましいもの、小鳥遊神楽(ga3319)は拳を強く握り締めながら呟き、いつもの小鳥遊とは思えない雰囲気を纏っていた。
「先ずは人質だ、戦功なんて気にする奴はアタシがこの場で潰すよ!」
 シェリー・ローズ(ga3501)が一緒に行動する能力者達を見ながら大きめの声で叫ぶ。彼女はその口調などとは裏腹に『命を護る事が最優先』という考えを持つ心優しき女性だった。
「勿論、異論はありませんよ。それにしても噂に違わず‥‥よくよく、こういう事に縁のある方ですね」
 金城 エンタ(ga4154)が苦笑しながら呟く。
「あの、敵の顔を見た瞬間にキレそうなので、私は後ろに控えておきます。申し訳ありませんが交渉を宜しくお願いします」
 玖堂 鷹秀(ga5346)がぺこりと頭を下げながら能力者達に話しかける。穏やかな笑顔を浮かべてはいるが、彼の中には激しい怒りと殺意が渦巻いている。余談だが本部で任務を受ける際に周りが引く程の笑い声を上げた後、半覚醒状態で「‥‥コロ、す」と呟いている姿が多数の能力者達に見られていたらしい。
「このご時世、いつ何処で誰が死ぬかも分からない。そんな時代に特定の一人を優先して助ける事は出来ない。だからこそ‥‥他の住人と同様に真里を救出する」
 皆が真里の事だけを言っている姿を見て、アンジェリナ(ga6940)が他の能力者達に伝えると「そうですね、真里はんを含む一般人を救助しましょう」と櫻杜・眞耶(ga8467)が言葉を返した。
「トルコ旅行に行った土浦が攫われたと学園の掲示板を見た時は驚いたぞ」
 アレックス(gb3735)が呟き、能力者達は改めてマリの不運さを再認識するとトルコに向かう高速艇へと乗り込んだのだった。


―― 危険に曝されている者達を全て助ける為に ――

 現地へ到着すると、町は異様な雰囲気に包まれていた。キメラが上空を飛び回っている、そして得体の知れない女が人質を取っている――そんな事実が住人達の恐怖を駆り立てるだろう。
 今回の能力者達は二つの班に分けて行動する作戦を立てていた。相手の意図が分からない以上、少しのミスで被害が拡大されるのは間違いないだろうから。
 攻撃(交渉)班・神無月、シェリー、アンジェリナ、櫻杜、アレックスの5名。
 救助班・小鳥遊、金城、玖堂の3名。
「それじゃ‥‥作戦を開始しましょう」
 シェリーが呟き、他の能力者達もそれぞれの役割を果たす為に行動を開始したのだった。

※交渉・待機――救出※
 救助班以外の能力者達はビスタとマリを探す中、一般人達に屋内から決して出ないようにと声を掛けながら二人を探していた。
 てっきり、何処かひっそりとした場所に隠れているのかと思った能力者達だったが、ビスタは町の中心部にある噴水の前に座り、隣には肩まであった髪を切られたマリが仏頂面で座っていた。
「‥‥あらあら? 見知った顔はっけ〜ん」
 ビスタは近寄ってくるシェリーを見つけて冷たい笑みを浮かべながら楽しそうに呟く。
「おや、今日は笛吹きの坊やは一緒じゃないのねぇ」
 シェリーが笑みを零しながら問いかけると「えぇ、今日はあたしとあの子だけ♪」と上空を飛んでいるキメラを指差しながら言葉を返した。
 そしてシェリーがビスタの気を引いている間に小鳥遊は『隠密潜行』を使用しながら、ビスタの死角となる場所へと移動して交渉役のシェリーとビスタの行動を把握出来るようにしていた。
 小鳥遊の隣にはマリ救助の要となる金城も息を殺しながら、救出の瞬間をジッと堪えながら待つ。
「何をして遊ぼうかしら。能力者呼んだのはいいんだけど具体的に何をするかは決めてなかったわ」
「あたし達と戦うんでしょ?」
 シェリーが言葉を返すと「やっぱりそれしかないわね」とビスタもため息混じりに呟く。
「記者さん、アンタどっちが勝っても正しい記事を書くのよ」
 シェリーがマリに向けて話しかける。この言葉には『人質から立会人にする為の誘導』という目的があった。
「まさかアンタ、正確な報道が怖い‥‥なんて言わないわよねぇ?」
 不敵な笑みを浮かべながらシェリーが呟くと「‥‥この子ってあんた達にとって結構大きい存在だったりするわけ?」と能力者達に問いかけた。
「その人の知り合いはいないですよ。今回、任務に来た私達とも初対面ですし‥‥」
 櫻杜がシェリーの背後から能力者達に「ねぇ?」と同意を求めるように言葉を返す。勿論初対面というのは嘘なのだが、この嘘はマリの身の安全を考えての事だった。
 過去の報告書を見る限り、ビスタは何をするか分からない部分があり、能力者の知り合いだと言ったら、それこそ目の前で処刑させられかねないからだ。
「嘘でしょ」
 櫻杜の言葉にビスタはけらけらと笑いながら短く言葉を返す。
「私達が嘘を吐くメリットなどないと思うのだが?」
 アンジェリナが言葉を返すと「じゃあ、何でこんなに来るのが早かったのかしら」と不気味な笑みを浮かべてビスタは答える。
「この子、あんた達を見た時に嬉しそうにしたのよね、親しい人でも見た時みたいに」
 嘘を吐いた罰よ、ビスタが剣を振り上げてマリへと攻撃を仕掛けようとした――その時「目を閉じて!」と櫻杜が叫び『閃光手榴弾』を使用してビスタと上空を飛ぶキメラの視界を遮ろうと試みた。
「‥‥やるしか‥‥ありませんね‥‥」
 金城は呟き『限界突破』と『瞬天速』を使用してビスタとの距離を一気に詰めて隣に居るマリに手を伸ばす。
「甘いわね」
 ビスタは呟いてマリへと手を伸ばしたのだが‥‥閃光手榴弾の合図と共にアレックスが『竜の翼』を使用してビスタに攻撃を仕掛けていた。
 そして小鳥遊も援護するようにビスタの足元周辺を狙って牽制攻撃を行う。
「俺じゃ適わないのは分かってるが、時間稼ぎくらいはっ! 土浦を連れて行け!」
 アレックスが叫ぶと金城はマリを抱きかかえて『瞬天速』を再び使用して安全な場所まで離脱する。
「お怪我はございませんか?」
 金城が問いかけると「何とか生きてまーす‥‥」と元気のない笑みを浮かべてマリが言葉を返した。
「とりあえず言いたい事がありますが‥‥それはこの場を切り抜けてからにしましょう」
 玖堂がマリの頭を軽く撫でながら呟き、小鳥遊と神無月に『練成強化』を使用する。
「鳥乙女が弓を使うなんて無粋の極みだね!」
 櫻杜は叫びながら『ソニックブーム』をキメラへと仕掛けて、キメラを地上へ落とす。攻撃を受けたキメラは再び上空へと逃げようとしたが『鋭覚狙撃』と『影撃ち』を使用しながら神無月が攻撃を仕掛け、小鳥遊も『影撃ち』を使用して翼を撃ちぬき、空へ逃げる事が出来ないようにしたのだった。
 空を飛べなくなったキメラは持っていた弓で攻撃を仕掛け始める。アンジェリナはそれらを避け、また時には『氷雨』と『夏落』で叩き落しながら住宅の壁や窓の桟を利用して飛び上がり、空中から勢いをつけて『二段撃』を使用して攻撃を行う。
「さっさと倒させてもらうぜ――「余所見はいけないわよ」――ぐ」
 アレックスがキメラにトドメを刺そうとした時、背中からビスタが攻撃を仕掛けてきた。
「――あたしを無視するのはやめようよ。悲しくて悲しくて‥‥皆殺しにしたくなっちゃうじゃない」
 ビスタが呟き、再びアレックスに攻撃を仕掛けようと剣を振り上げる。しかし『ひゅん』と鋭い音が響いてビスタの腕を貫く。
「そっちこそ‥‥能力者が数名いる事を忘れないようにな?」
 神無月が『魔創の弓』を構えたまま問いかける。
「別に忘れてないわよ?」
 ビスタが神無月と話している間に負傷したアレックス、アンジェリナ、櫻杜は先にキメラを潰す為に攻撃を仕掛けていた。ビスタが連れてきたキメラは一体、つまりハーピィを倒せば彼女一人しかいなくなるのだ。
「今は焼き鳥って気分じゃねぇんでな! 消し炭にしてやんよ!」
 玖堂は『エネルギーガン』でキメラを攻撃しながら叫ぶ。マリの恋人である彼にとって、マリを傷つけられた事が余程頭に来ているのだろう。
「あ〜ぁ、折角連れてきたモノを殺してくれちゃって‥‥」
 ビスタはため息混じりに腕に刺さった矢を抜きながら呟く。
「マリさんに手を出した事、万死に値するわね。がたがた震えて命乞いしてももう手遅れね」
 ここでボロクズのようになるのがあんたにはお似合いよ、小鳥遊は小銃『S−01』を構えて『影撃ち』を使用しながらビスタに向けて攻撃を行う。
 小鳥遊の攻撃はビスタの剣を持つ手に命中してガランと剣が地面へと落ちる。
「誰が真里の髪を切って良いっつった!? さっきも言ってたがてめぇは万死に値するぜ!」
 玖堂も『エネルギーガン』で攻撃をするが、ビスタは避ける素振を見せない。
「さっきも思ったけど‥‥銃を使うのね――――嫌いだわ、死んで」
 ビスタは呟くと、先ほど抜いた矢を玖堂に向かって投げつける。彼が矢を避けた僅かな隙を突いてビスタが攻撃を仕掛ける。剣を落としているので斬撃ではなかったが腹部を殴られてガクリと膝をつく。
「ハリー坊やを倒せないあんた達にあたしが殺せると思ってるの?」
「どんな状況でも油断や慢心は破滅に繋がる」
 アンジェリナは『先手必勝』を使用して『氷雨』と『夏落』を振り下ろして攻撃を仕掛ける。ビスタはアンジェリナの攻撃を避けたが、彼女の中では想定内だった。
「アホぅ‥‥人間の憎悪を舐めてかかるなや?」
 避けた後、直ぐに櫻杜が距離を詰めて地面からビスタの腹部と胸を狙って双槍『連翹』で攻撃を仕掛ける。
「くっ‥‥」
 ビスタは避ける動作を取ったが、完全には避け切れなかったらしく腹部から胸へと掛けて一つの線のような傷がつく。
「お気に入りの服だったの――にっ!」
 ビスタは言葉を返しながら櫻杜の腹部を膝で蹴り上げて、手を地面に着いて足払いをする。
「さっきの攻撃が効いてるのかしら? 随分と動きが鈍くなったみたいだけど?」
 シェリーは呟きながら『イアリス』を構えて『豪破斬撃』と『急所突き』を使用して攻撃を仕掛ける。
 ビスタはしゃがみ込んで、それを避けた所であるモノが視界に入ってきた。
「あたしの今日の運勢って良かったのかしらね」
 ビスタは呟きながら『あるもの』――子供の襟首を掴んで能力者達に目掛けて投げつける。
「!!」
 ビスタに全力で投げられた子供、このまま壁に激突すれば怪我だけでは済まない可能性が高く、アンジェリナは武器をその場に落として子供を助けるべく走り出す。彼女の方が位置が近かったせいもあり子供が壁に激突する前に抱きかかえる事が出来たのだが「うあっ」とアンジェリナは苦痛に表情を歪めた。
「そんな子供、見捨てれば余計な傷なんて負わなくて済むのに」
 アンジェリナが落とした武器をビスタが拾い、そのままアンジェリナの肩を貫く。
「‥‥『練成超強化』を掛けるから、頼んだぞ」
 玖堂がポツリと呟き『練成超強化』を使用する。
「出来れば‥‥早々にお帰り願いたかったんですけどね」
 金城は呟いてビスタの背後から『氷雨』で攻撃を仕掛けるが、彼女はアンジェリナの『氷雨』でそれを受け止める。
 そのままじりじりとビスタは後退していき、こつん、とキメラの死体に足が当たる。
「手前ぇらの遊びに付き合うのはもう終わりだ! 『エクスプロード』――イグニッション!」
 アレックスはランス『エクスプロード』を振り上げながら攻撃を仕掛け、ビスタにダメージを与えたのだった。
「うふふ‥‥そろそろ次の仕事があるからお暇させて貰おうかしら」
 傷口を押さえながらビスタが呟く。
「逃げるのか」
 アレックスが呟くと「安い挑発ならいらないわよ、このまま行かせてくれるなら何もしないわよ?」とビスタが壁際に隠れている子供数名を指差しながら言葉を返した。
「それに――あんた達の顔は確りと覚えたから、結構軽く見られがちだけど根に持つタイプなのよね」
 くす、とビスタは呟き「マリちゃん、また会いましょうね」と言葉を残して、足を庇うようにしながら町から去っていったのだった。
「アタシはシェリー、全てのバグアに葬送歌を歌う地獄の歌姫と覚えておきなさい」
 見えなくなったビスタに向け、シェリーは小さく呟いたのだった。

―― セロリ迫る ――

「はぁ‥‥いつもより‥‥疲れましたよ‥‥皆さん‥‥ボロボロですね‥‥」
 町のホテルを提供してもらって傷ついた体を休めながら神無月が苦笑気味に呟く。確かに能力者達はそれなりに傷を負っており、軽傷とは言えないものだった。
「えぇ〜と、今回はありがとね? まっさかあんな怖いオバサンがいるとは思わなかったしさ〜。まぁ、髪だけで済んだのはラッキーだったかなー」
 あはは、とマリが髪を触りながら明るく振舞うが、無理をしているであろう事は誰が見ても一目瞭然だった。
「何度も言うようだけど、あたしにとって自分の目の届かない所でマリさんが危険な目に逢うのが一番辛いわ。だから、どんな些細な用事でも良いから声を掛けてね?」
 余程の事がない限り同行するから、約束よ? と言葉を付け足す小鳥遊に「その約束は出来ない」とマリは言葉を返した。
「私専属の能力者じゃないでしょ? 私についてきたばかりに助けられた命を助けられなくなった――とかなるのが嫌。取材には着いてきてもらうけど‥‥私用では約束できない」
 それはいつもの冗談めいた口調ではなく、真剣な口調だった。
「専属能力者なら此処にいるじゃないですか? 本当に首輪つけちゃいますよ?」
 玖堂が苦笑しながら言うと「鷹秀は私だけの鷹秀の前に、皆を助ける『能力者』だもん」と言葉を返した。
「‥‥だがあんまり無茶をしてやるな。本当に心配してたんだから」
 アンジェリナがマリに話しかけると「うん、今回は普通に旅行だったんだけどなぁ」と苦笑交じりに言葉を返してくる。
「‥‥髪は女の命と言うらしいけど、命あっての物種だろう?」
 アレックスが短くなったマリの髪を見ながら呟くと「うん」とマリも少し困ったように言葉を返す。
「さて、帰りましょう」
 櫻杜がにっこりと笑顔で帰還を促す。その表情に首を傾げながらマリも首を縦に振るが、彼女の笑顔の裏には大量のセロリが待ち構えている事に帰還した後に気づき、クイーンズ編集室からマリの叫ぶ声が数日響く事になるのだった‥‥。


END